上 部 尿 路 機 能 小児泌尿器科 ③ 水腎症 / 膀胱尿管逆流 上部尿路 :腎杯、腎盂、尿管により構成さる。 北海道立こども総合医療センター 小児泌尿器科 西中一幸 機能 :尿搬送を円滑に行うことである。 1 2 尿細管における 内圧の勾配 上 部 尿 路 の 解 剖 ① ボーマン嚢 50cmH20 ⑤腎杯 4-5cmH20 3 腎盂の収縮 4 尿の運搬-腎盂から尿管へ 5 6 1 尿路通過障害の分類 上部尿路通過障害の原因 1.部位による分類 ・上部尿路-片側性、両側性 ・下部尿路 2.原因による分類 ・先天性 ・後天性 3.時間的経過による分類 ・急性 ・慢性 先天性: 腎盂尿管移行部通過障害 筋層の形成・発育不全(内因性閉塞) 異常血管(外因性閉塞) 後天性 腎盂尿管移行部通過障害(外因性狭窄) 腎盂癌・尿管癌、尿管ポリープ 尿管の非腫瘍性疾患(結石・炎症など) 下部尿路の機能的・器質的疾患 (神経因性膀胱、前立腺肥大症など) 7 先天性腎盂尿管移行部通過障害 先天性腎盂尿管移行部通過障害 排泄性尿路造影 8 逆行性腎盂造影 CT 9 10 腎盂尿管移行部通過障害の機序 水腎症の程度の評価 超音波断層法 排泄性尿路造影 11 12 (New 泌尿器科学 2000:133) 2 腎盂尿管移行部通過障害の機能的評価 腎盂尿管移行部通過障害の機能的評価 -レノグラム(利尿負荷)- -レノグラム(利尿負荷)- 99mTc-DTPA 99mTc-MAG3 (diethylenetriamine pentaacetic acid):GFRの指標(糸球体濾過) (mercaptoacetyl gycyl-glycyl-glycine):RPFの指標(尿細管分泌) 利尿薬 投与 T-half (1/2減少時間 15分以上:閉塞) 閉塞あり 境界 閉塞なし 正常 13 (New 泌尿器科学 2000:74) 14 (New 泌尿器科学 2000:134) 先天性腎盂尿管移行部閉塞 手術治療-腎盂形成術 上部尿路通過障害の治療 原因の除去 腎盂尿管移行部通過障害(外因性狭窄) 腎盂癌・尿管癌、尿管ポリープ 尿管の非腫瘍性疾患(結石・炎症など) 後腹膜腫瘍性疾患(浸潤・転移) 下部尿路の機能的・器質的疾患 (神経因性膀胱、前立腺肥大症など) 尿管ステント挿入/経皮的腎瘻造設 Dismembered pyeloplasty 1.開放手術 2.鏡視下手術 16 15 (ベッドサイド泌尿器科学 手術編 2000:179) 尿管ステント挿入 経皮的腎瘻造設 W-J カテーテル 使用 17 18 (Urologic Surgery シリーズ No 1 2000:9) 3 膀胱尿管逆流症 (vesicoureteral reflux: VUR) 膀胱尿管逆流症例の 発見契機 (典型例) 症例:3歳、男子、 主訴:排尿痛、発熱 既往歴:特記すべきとこなし ただし、これまでに数回原因不明の発熱 (>38ºC) あり 抗菌薬投与により2-3日で症状消失 現病歴:3-4日前より排尿痛出現 2日前より発熱 (>38ºC) も出現 呼吸器症状はない. 19 20 逆流あり 排尿時膀胱尿道造影(逆流なし) 21 22 VUR の頻度 膀胱尿管逆流症 (vesicoureteral reflux: VUR) ・ ・ ・ ・ ・ ・ 小児の尿路奇形として最も重要 尿路感染症(膀胱炎、腎盂腎炎)のある小児では この疾患の存在を必ず念頭におく 男児では尿路奇形がなければ尿路感染症は出現しない 女児でも複数回の尿路感染症のエピソードがある場合は 要注意 小児の原因不明の発熱(特に上気道感染症の兆候がない) →尿路感染症・尿路奇形 (VUR) 多くの場合、手術により治癒する 腎機能低下を示す前に治療する 23 ・ ・ ・ ・ ・ 本邦では小学生の 0.05%に認められる. 自然消失例も含めると発生頻度はもっと高い. 急性腎盂腎炎に罹患した小児の 22-70% に VUR あり(5歳以下:40-50%、1歳以下:50-70%) 家族内発生あり: VUR の患児の同胞の 33% にVURが認められる 親子間の発生率のほうが高い? 男女比-小児全体 1:1 1歳以下 8-9:1 6歳以上 女児にやや多い 24 4 年齢別のVUR の頻度 尿管膀胱接合部の解剖と機能(1) ワルダイヤー鞘 浅三角部 深三角部 25 (新図解泌尿器科学講座5 1999:139) 26 (Smith’s General Urology, 2004:189) 尿管膀胱接合部の解剖と機能(2) 尿管膀胱接合部の解剖と機能(3) ・Wolffian duct由来の中胚葉組織:交感神経支配 尿管・表三角部 (superficial trigone)、 尿管鞘 (Waldeyer’s sheath)・深三角部 (deep trigone) ・尿生殖洞(内胚葉組織由来):副交感神経支配 膀胱排尿筋-内縦走筋、中輪状筋、外縦走筋 27 28 (新図解泌尿器科学講座5 1999:139) 膀胱尿管接合部の解剖と逆流の可能性 膀胱尿管接合部の逆流防止機構 1.正常な膀胱平滑筋に尿管が囲まれ、尿管底部が強固な 膀胱壁に裏打ちされている. 2.両側尿管の縦走筋が三角部で合流し、三角部から 後部尿道にかけて平滑筋の複合体を形成する. 3.尿管の筋層が十分発達している. 4.尿管が膀胱壁および粘膜下を 十分な長さにわたり斜行する. (粘膜下尿管の長さと尿管内径の比:5:1. 粘膜下尿管の長さは成長により延長するー 逆流の自然消失). 29 30 (新図解泌尿器科学講座5 1999:139) 5 膀胱尿管逆流の程度:国際分類 膀胱尿管逆流の原因 Grade I: 尿管のみの逆流 Grade II: 腎盂・腎杯に達する逆流 腎杯・腎盂・尿管の拡張なし Grade III:腎盂・腎杯に達する逆流 軽度-中等度の尿管・腎盂の拡張 腎杯は正常あるいは軽度拡張 Grade IV:腎盂・腎杯に達する逆流 中等度の腎盂・腎杯、尿管の拡張 尿管の屈曲あり Grade V:腎盂・腎杯に達する逆流 腎盂・腎杯、尿管の拡張は著明 尿管の屈曲も高度. 腎杯は鈍円化 1.原発性 (primary reflux) :膀胱尿管接合部の先天的な形成不全. 粘膜下尿管の長さの短縮、膀胱三角部の形成不全、 尿管口の開口位置の異常(側方への偏位)を ともなうことが多い. 2.続発性(二次性、secondary reflux) 尿管の先天異常:完全重複尿管、尿管異所開口、尿管瘤 膀胱の異常:炎症、神経因性膀胱 医原性:手術 31 32 臨床症状(所見) 膀胱尿管逆流の程度-国際分類 ・ 尿路感染症の原因検索で発見されることが多い ・ 男児:基礎疾患(尿路奇形)のない尿路感染症はない 一度でも尿路感染症を起こした場合には、精査必要 ・ 女児:男子よりは基礎疾患のない尿路感染症の頻度は高い 繰り返す場合には要注意、特に急性腎盂腎炎. ・ 時に、無症候性である(膿尿・細菌尿のみ). ・ 高血圧、腎不全で発見されることあり(逆流性腎症). Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 Grade 5 34 33 (新図解泌尿器科学講座5 1999:141) 膀胱尿管逆流の診断・病態評価に 必要な臨床検査 膀胱尿管逆流の症状・所見 逆流に関連した症状・所見 1.急性腎盂腎炎(70-80%) 2.慢性腎盂腎炎(膿尿・細菌尿) 3.膀胱炎様症状 4.排尿時の側腹部痛 5.高血圧 6.腎機能低下 基礎疾患に関連した症状 ・ 尿路感染症の診断 尿沈渣・尿中細菌数定量・尿培養 (膿尿の存在、起炎菌は大腸菌を中心とする グラム陰性菌) ・ 逆流および関連所見の診断 排尿時膀胱尿道造影 (VCUG) 排泄性尿路造影 (excretory urography) 腎シンチグラム: 99mTc dimercaptosuccinic acid (DMSA) ・基礎疾患の検索 尿道・膀胱鏡、膀胱内圧測定 35 36 6 膀胱尿管逆流に対する検査の意義 膀胱尿管逆流の治療(1) ・ 排尿時膀胱尿道造影 VCUG: voiding cystourethrogram VURの存在、その程度 (grade) の評価 下部尿路通過障害(後部尿道弁、神経因性膀胱など)の除外 ・ 排泄性尿路造影 (excretory urography) intravenous pyelography (IVP) drip-infusion pyelography (DIP) 腎・尿管の形態学的変化を評価 腎盂・腎杯の拡張が一定以上であれば 腹部超音波断層法でも評価可能 ・ 腎シンチグラム 99mTc DMSA 腎瘢痕(腎皮質の萎縮)の存在、分腎機能の評価 1. 保存的治療が可能な理由 ・ 小児における逆流の自然消失 (5年間) ・ 膀胱三角部、膀胱尿管接合部の成熟 粘膜下尿管の長さの延長 Grade I, II: >80%、Grade III, IV: 20-40%, Grade V: <2-3% 膀胱内(壁内)尿管の長さ(平均) 未熟児(7か月):0.1cm、 未熟児(8.5か月):0.35cm、 出産時:0.5cm、1歳:0.7cm、2歳:0.55cm、 6歳:0.85cm、10歳:1.15cm、12歳:1.0cm、 19歳:1.45cm、21歳以上:1.3cm 37 膀胱尿管逆流の治療(2) 38 膀胱尿管逆流の治療(3) 4.外科治療 適応:① Grade V ② 抗菌薬予防投与に抗する尿路感染症 あるいは逆流の存続 ③ 腎瘢痕の出現 ④ 思春期以降の逆流 2.保存的治療とその適応 抗菌剤の予防投与:尿路感染症の予防 <1歳:逆流消失まで、≧1歳:6-12か月 適応:Grade I、II、Grade III, IV(年齢、腎機能による) 3.規則的な排尿習慣 2時間ごとの排尿、2段階排尿(残尿の除去)、便秘の防止 手術方法 粘膜下トンネル法: Polotano-Leadbetter法、Cohen法、Paquin法 (いずれも粘膜下・壁内尿管の長さの延長が目的) 39 40 Cohen法 膀胱内からのアプローチ Politano -Leadbetter 法 膀胱内からのアプローチ Lich-Gregoir法 膀胱外からのアプローチ 鏡視下手術に有用 41 (新図解泌尿器科学講座5 1999:147) 42 (新図解泌尿器科学講座5 1999:149) 7 症 例 逆流性腎症 (reflux nephropathy) ・逆流による 腎の瘢痕、萎縮(腎杯の鈍化、棍棒化) 腎実質の菲薄化・陥凹 (排泄性尿路造影、99mTc-DMSA-腎シンチグラム) ・5-10%が逆流性腎症(高血圧、腎不全)を発症 (外科治療-逆流防止術は逆流性腎症を防止できない) ・5歳、男児 ・主訴:全身の浮腫 ・尿検査所見:尿蛋白(3+)、3.8g/day ・尿沈渣所見:RBC 5-6/hpf、WBC 10-15/hpf 桿菌(+)、尿培養:E.coli 1,000,000/ml ・血液生化学:総蛋白 5.7g/dl、 血清アルブミン 2.9g/dl 総コレステロール 220mg/dl ・診断は? ネフローゼ症候群? 原因? 99mTc-DMSA-腎シンチグラム 右 43 44 (標準泌尿器科学 2010:368) 腎瘢痕の発生機序 腎瘢痕の発生時期、VURの程度、 新生と進行 1.細菌尿による腎実質の感染 ・ 腎瘢痕の発生は胎児期、新生児期、乳児期: VURの症例の30-50%は初診時に腎瘢痕あり 2・逆流の水力学的作用 逆流単独 (water-hammer effect) 細菌尿 尿中Tamm-Horsfall protein) ・ 腎瘢痕の程度 vs. VURのgrade:平行する grade I, II: <1%、grade III: 18%、grade IV: 48%、 grade V: 35% 3.随伴する先天性腎疾患 腎の異形成・低形成 ・ 通常、新生・進行は少ない しかし、尿路感染症は進行を助長する 45 腎瘢痕の合併症 46 巨大尿管症 ・ 腎性高血圧 腎瘢痕の大きさと程度には無関係 危険因子は不明 巨大尿管症とは? 原発性、続発性、先天性の種々の疾患を 原因とする著しい尿管拡張をともなう すべての病態を含んだ症候名である. ・ 腎不全(糸球体障害) Hyperfiltration? 免疫複合体の沈着? Proliferative glumerulonephritisの随伴? 47 48 8 巨大尿管症の分類 巨大尿管:megaureter 巨大尿管 逆流性 原発性 逆流性 巨大尿管 (プルン・ ベリー 症候群に 合併しやすい) 49 非逆流性 非閉塞性 閉塞性 続発性 原発性 続発性 尿管下端の 内因性閉塞 下部尿路 閉塞 (神経因性 膀胱) 原発性 続発性 新生児 巨大尿管 下部尿路 閉塞 (神経因性 膀胱) 多飲、多尿 50 逆流性巨大尿管症 (grade Vの逆流) 巨大尿管症 ・ 逆流性巨大尿管: 病態の上では、高度(grade V)の膀胱尿管逆流とほぼ同一 ・ 閉塞性巨大尿管(原発性): 尿管下端の”adynamic segment”が原因 ・ 非逆流性・非閉塞性(原発性) 新生児巨大尿管-胎児期・新生児期に発見 無症状に経過.腎機能の悪化なし 自然軽快が多い 51 52 閉塞性・原発性巨大尿管症 尿管下端の紡錘形の 拡張(蠕動あり) 膀胱 Adynamic segment (蠕動欠如) 53 9
© Copyright 2024 ExpyDoc