SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) Citation Issue Date URL Version IB-1 乾燥地を生きる知恵としてのイスラーム (『人間と 地球環境』研究報告 : 環境変動と生態系・人間(生活)への 影響) 嶋田, 義仁 静岡大学学内特別研究報告. 2, p. 16-17 2000-03 http://doi.org/10.14945/00008223 publisher Rights This document is downloaded at: 2015-04-20T15:39:52Z IB-1 乾 燥 地 を 生 き る 知 恵 と して の イ ス ラ ー ム 人文学部 嶋田義仁 1国 際 的 な 都 市 文 明 を生 き る 知 恵 あ り、 それぞれ個人が何 を信 じようと他 人 に関係 イス ラー ムは 7世 紀前半 にア ラ ビア半島 の 砂 な い。そ こに信教 の 自由が成立する余地が あるが、 漠 の中の町 メッカで うまれた 砂漠 の宗 教である。 他面、 信仰 中心 の宗教 は個 人 の実際 の行動 の指針 イ ン ドネ シアやバ ングラデ シュのよ うな湿潤 地 にな りに くく、社会的な行動規範 も与えな い。 域 にもイ ス ラームは広がって い ることか ら、イ ス 「行」を重んず るイス ラー ムは個人に画 一 的な ラー ムを砂 漠 の宗 教 とみ る ことに反対す る人 も 行動 を求 める集団 主 義 に陥 りやす く個 人 の 自由 い る。しか しわた しは二つの理 由でイス ラー ムは を無視 して いるかの 印象 を与 えて いる。しか しそ やは り砂漠 の宗教だ と考えて い る。まず、イ ス ラ れは他面イ ス ラー ムは、明快な社会的行 動規範 を ー ムが形 成 されは じめに広 が って い った地域 と 複雑な都市社会 を生き 有 した倫理的宗教であ り、 い うのは、ア ラビア半島を中心 として東西 にひろ る人 々に とっては生活 の導 きとな りやす い宗 教 が る乾燥地であった こと。次 に、「砂漠」とは必 だとい う こ とでもある。 イ ス ラ ー ムにお いて六信 五行 の次 に重 要 な の ず しもその 自然でな く、 乾燥地特有 の生活様式 を がシャー リアと呼ばれ る法であ り、イ ス ラー ムで 意味すると考 えればよ いか らで ある。 ではイ ス ラー ムが立脚 した乾燥地 特有 の生 活 聖職者 に当たるのは、シ ャー リアを知悉 した法学 それは長距離交易によって 様式は何か といえば、 者 である。イ ス ラー ム社会は明文化 された憲法 と ・ワー クの 広範囲にわたって結 ばれた交易 ネッ ト 法体 系 を もつ法治社 会だ とい ってもよ い。明文化 うえに成立す る都市 的な生活様式 である。これ に された 法体 系 は、 様 々な民族や文化が入 り交 じる アラビア湾 ベルシ ャ湾な ど の沿岸海 洋交易 が 加 都市的な 文明社会 にお いて は じめて必要 とされ わってイ ス ラー ム世界 の下 部構造 を形成 して き る。イ ス ラー ムの成立 した 中東世界 は 7世 紀 の時 た。イ ン ドネシアな どもイ ンン ド洋横断 の海洋交 点 にお い てすでに都市的文 明世界 とな って い た 易 によって 中東イ ス ラー ム 世界 と結 び付 くこ と のである。 になった。 したが ってイス ラー ムの 知恵 とは、交易ネ ッ ト・ワー クの うえに成立す る都市生活 を生きる知 それ は乾燥地 を生きる知 恵 とい うべ きであるが、 恵 と無関係ではな い。ここでは こうした知恵がイ スラーム的知恵 のどこに反映 されて いるか を、 イ ス ラー ムの五 行 の思想を中心 にみてみた い。 3 五 行 の 精神 さて五行とは①信仰告白② l日 5回 の礼拝③ 喜捨④断食⑤巡礼である。 ①信仰告白というのはイスラーム教徒である それは②の礼拝の際 ことを明言することであり、 にはかならず行われれる。ここにおいてイスラー ム教徒はまず、 信仰を個人の内面のものとせず他 2 者 にも認知 させる。これはその人が いか な る行動 明文 化 され た法 と倫 理 の 体 系 の 存 在 イ スラームの教えは六信 五 行 、なかんず く五行 原理 に したがって振 る舞 うかを明確 かす る も の の教義 に集約 されて いる。六信 とは 6つ の信仰 で で、 相手 が何者かわか らな い複雑な都市社会 にお あるが、イス ラームでは信仰よ りも行為が重要で いては、人間関係 の 円滑化 にきわめて重要 で ある。 ある。 何を信ず るか とい うことよ りも何 を実際 に お互 いに 名刺 を交 換 しあいそれぞれ が 何者 で あ 行 うか とい うことが重要で ある。信仰 とは心 の問 るかを認 知 しあう ことによ って信頼 関係 をつ く 題であ り、 心 の問題 とい うの はきわめて個 人的で りあげる の と同 じである。 ―-16-― ② の 1日 5回 の 礼拝 は現 代生活 に 相応 しくな と い うほどの ものではない。 いいか に も狂信的 な ドグマ のよ うに みえるが 決 ⑤ 巡礼 は、イ ス ラーム教徒 に対す るメッカ巡礼 してそ い うではな い。まずそれは、1日 の 生活 を のすすめである。この教えはイス ラームが まさに 実 に合理的に区切って い るか らである。1回 目の ・ワー ク に 支 え られた都 広域 にわたる交易ネ ッ ト 礼拝は早朝 にはじま り、これ を合図 に人は起 きる。 市文化 を 背景 に成 立 した宗 教で あ る ことの認 識 そ して昼 まで礼拝がな い。なぜな ら比較的涼 しい な しには理解 できな い。巡礼のすすめによって、 昼 までの時間 は労働 の 時 間だか らである。そ して こ う した地域間流動性は一層促進 され る。喜捨 は 昼 にな って昼 食をとった り昼寝 した りして、午後 この教えとも連動 している。なぜ な ら、メッカ巡 の休憩が終わる頃第 3の 礼拝がや って くる。そ し 礼者 は喜捨 の重 要な対象だか らで ある。 巡礼者は て第 4の 日没 の礼拝 とともに仕事は終 わ る。第 5 こ うして 苦 しい長 旅 と人々の好意 を 同時 に経 験 の礼拝 は就寝 の合図 で あ る。 しなが ら、巡礼 の旅 を成 し遂げ、世 界 を広 く知 る 1日 5回 の礼拝で さ らに特徴的なのは、 各礼拝 に至 るのである。巡礼 を通 じて人は、部族 や 民族 毎 に手足 顔頭 の洗 浄が ともなって い ることで あ 特定文化 をこえた地理空 間 を 自由 に 交流す る知 る。イス ラー ムは清潔 を尊ぶ宗教である。砂 にま 識 や技術 を獲得す るとともに、 宗教倫理的 にもこ みれやす く水が少 な い乾燥 地 にお い て常 に清 潔 れ を支え る知恵 の 存在 を確 認す るに至 るので あ で い る ことは難 しいが、身体洗浄 を宗教的行 とセ る。 ッ トす る ことによって、イ ス ラームは この 困難 を 克服 しているので ある。イ ス ラー ム社会 は 日本 と 研 究 プ ロジ ェク ト関 連 著作 な らんで 風呂文化が発達 した社会 である。 1999「 西アフ リカ の地域 構造 と世 界」 『<地 域 ③喜捨 は貧 しい者 や 身体 障害者 、孤児、旅人へ 間研 究 >の 試 み 一 世 界 の 中 で 地 域 を と らえ る の施 しである。しか しこれ は恵 まれな い人 々 を救 うべ しというのではな い 、 施 しを通 じて施す人が (上 )』 高谷好 一編著 、京都大学出版会 . 救われ るという教えで ある。したがって施 しは喜 1999「 人間生活 の観点か らみた砂漠化 と千 ばつ の 防止策」『平成 10年 度砂漠化防止対策推進支 んです べ き喜捨 とな る。都市生活 とい うのは必ず 援調査業務報告書』 (財 )地 球 。人間環境 フ ォー 賞富 の差 をうむ。イス ラー ムの背景 に商業文化 の ラム . 興隆が あるとすると、イ ス ラー ムの教えには功利 1998『 優雅な アフ リカ ー ー夫多妻 の超多部族 イ 主 義的な 経済中心 主義が反 映されて い るかの よ ス ラー ム王国を生きる 一』明石書店 . うにお もわれるかもしれ な いが、 事実は逆である。 1997 Djenn6 morte‐ Le delta interieurdu Niger イス ラー ムは都市文化 や 商 業経済 の 行 き過 ぎが et もた らす諸悪 に対す る是正 機能 を有 して い る。1 Pubhcation No.28, 日に 5回 も礼拝す るの は効 率的でな いか らイ ス Regional Geography,Hitroshima University. ラー ムは 近代生活 にあわ な い とい う のはむ しろ 1997「 ア フ リカ にお け る イス ラー ム 的 回心 を め 逆で、5回 の礼拝は喜捨 とな らんでむ しろ こ うし ぐる 3理 論」 『宗 教 哲 学研 究』 No,14. た効率 一 辺到の経済主義 の 歯止めな のである。 1997「 トランス・サハ ラ交渉史」 「イスラー ム ④ 断食 は 1年 に 1回 断食 月に 1月 間お こな わ れ る。富者 もこの間断 食 の 苦 しみ を味わ う。同時 prOblё mes de sedheresse‐ ,Spedal Resealtt Center for 神権国家の戦 い」『新書アフリカ史』宮本正興・ 松田素二編著 、講談社. に貧者や 障害者に対す る喜 捨が頻繁 にお こな わ れ るの もこの月である。ただ し断食 は 1日 の第 les 1 回 目の 礼拝以後 日没 にまで 限 られ るので、日没後 の食事 は他 の月よ りか えって豊かで、断食は苦行 ―-17-―
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