米国マーケットの最前線 -経済動向から日本への影響までフィナンシャル・インテリジェンス部 2015/4/6 益嶋 裕 見出しほど悪くはないが、6 月利上げの可能性を低めた雇用統計 非農業部門雇用者数 3月 +12.6万人 市場予想 +24.5万人 前月 +26.4万人(下方修正) 失業率 3月 5.5% 市場予想 5.5% 前月 5.5% ■非農業部門雇用者数はネガティブ・サプライズ 3日に発表された米国雇用統計のヘッドラインは一言で 非農業部門雇用者数と失業率 (千人) 言うと、「ネガティブ・サプライズ」だった。最も注目を集め 600 る非農業部門雇用者数は前月差12.6万人増と市場予想 500 (24.5万人増)の半分程度の増加にとどまった。また、2 (%) 11 非農業部門雇用者数(前月差・左軸) 失業率(右軸) 10 400 9 300 月分が29.5万人→26.4万人、1月分が23.9万人→20.1万 200 人と計6.9万人下方修正された。また、合わせて発表され 100 た失業率は5.5%と前月から横ばいだった(グラフ参照)。 さらに労働参加率は62.7%と前月から0.1ポイント低下し 8 7 0 2010 2011 2012 2013 2014 ‐100 2015 6 5 ‐200 た。 (出所)マネックス証券作成 雇用統計は非農業部門雇用者数を見れば明らかなように、良い内容ではなかった。ただ、ヘッドラインほど のネガティブな内容ばかりかというと、そうではなく、労働市場の質的改善が見られた点もあった。また、非農 業部門雇用者数についても悪天候がやや労働市場の減速を過大に見せた可能性もある。順にご紹介して いこう。 時間あたり賃金の推移 (ドル) ■上昇率が加速した平均時給・大きく減少した長 25.0 期失業者数 24.5 時間あたり賃金(左軸) 前年同月比(右軸) 2011年以降の伸びの平均 2.3% 2.2% 2.1% 労働者の時間あたり賃金は24.86ドルと前月比0.3%の増 2.0% 24.0 加、前年同月比2.14%の増加で市場予想を上回った(グ ラフ参照)。前年同月比の伸び率は2011年以降の平均 である2.01%を上回っており、著しいとは言えないまでも 1.9% 23.5 1.8% 1.7% 23.0 1.6% 労働市場の質的改善を見て取ることができた(グラフ参 22.5 1.5% 2011 -1– 2012 (出所)マネックス証券作成 Copyright (C) 2014 Monex, Inc. All rights reserved. 2013 2014 2015 米国マーケットの最前線 照)。 また、イエレンFRB議長が重視するとされる通称「ダッシュボード」と呼ばれる労働関連指標の一部にもポジ ティブな変化が見られた。まず、「本来は正社員としての職を希望しているにもかかわらず、経済的事情でや むを得ずパートタイマーとして働いている人」を失業者 としてカウントする、最も広い意味での失業率「U-6失業 U-6失業率と長期失業者数 (%) (千人) 7,000 17 長期失業者数(左軸) U‐6失業率(右軸) 率」が、10.9%と前月の11.0%から0.1ポイント改善し、金 6,000 融危機発生後の最低を更新した。 5,000 15 4,000 14 さらに、失業者のうち失業期間が27週を超えている「長 3,000 13 期失業者数」が256万3000人と、前月から14万6000人 2,000 12 1,000 11 減少した。この減少幅は昨年8月に前月から20万人減 16 0 少して以来の大きな減少幅である(グラフ参照)。 10 2011 2012 2013 2014 2015 (出所)マネックス証券作成 このように、非農業部門雇用者数のヘッドラインだけを見れば米国労働市場に異変が起こった日のように思 われるが、実は詳細を見ていくと、ポジティブな指標も散見される。さらに、非農業部門雇用者数の伸びの鈍 化も一定部分は天候要因で説明できる。 米国労働省統計局(BLS)は悪天候によって就業不能となった人数を毎月発表している。3月分は18万2000 人と、2005年から2014年の10年間の2月の平均15万人より、3万人ほど多い。もちろん天候要因だけで、非 農業部門雇用者数の鈍化の全てを説明できるわけではないが、労働市場の実態よりもやや悪く出すぎてい る可能性を指摘できるということだ。 ■6月利上げの可能性は低下したと考えるのが妥当 これまでご説明してきたように、非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想をはるかに下回るものだっただ けに、米国の労働市場に劇的な異変が起きたように伝わっているが、実態としては「確かに非常に良いわけ ではないものの、一方で強烈に悪い内容であるわけでもない」といったことが指摘できる。ただ、一歩ひいて 俯瞰的に考えてみると、FOMC(連邦公開市場委員会)が6月の利上げを決断する可能性は低下したと言っ て良いだろう。 これまでイエレンFRB議長は利上げの決定について、事あるごとに「経済指標次第であり、あらかじめ決まっ たスケジュールはない」と強調してきた。そしてそのイエレン議長がもっとも重視する労働市場の経済指標が -2– Copyright (C) 2014 Monex, Inc. All rights reserved. 米国マーケットの最前線 悪化したのである。さらに、以前から当レポートでお伝えしているように、小売売上高など個人消費関連、 ISM製造業景況感指数、中古住宅販売件数などここへきて発表された重要な経済指標は冴えない内容が目 立つ。もちろんここから急回復する可能性もあるが、6月に利上げを決定するには4月・5月の経済指標を見 て決めるということになるため、それまでに指標が急回復する蓋然性は高いとはいえない。 筆者はこれまで労働市場の強さを理由に6月の利上げが最も有力であるとの考えをお示ししてきたが、労働 市場やその他の指標の悪化を受け考えを変更し、早くても利上げは9月ではないかと考えている。 ■用語解説 雇用統計(米国) 米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める 失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやす い。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。 利益相反に関する開示事項 マネックス証券株式会社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対す る対価を契約先会社より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているもの ではありません。レポート対象企業の選定はマネックス証券が独自の判断に基づき行っているもの であり、契約先会社を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、並びにマ ネックス証券と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。 ・当社は、本レポートの内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するも のではございません。 ・記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推 奨し、勧誘するものではございません。 ・過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。 ・提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございま す。 ・当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではござい ません。 ・投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。 ・本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なし に転用・複製・配布することはできません。 マネックス証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第165号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人 日本投資顧問業協会 -3– Copyright (C) 2014 Monex, Inc. All rights reserved.
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