注目の学部・学科(第29回 心理学) - Kei-Net

注目 の
Contents
◆概説
学部・学科
(京都女子大学 箱田裕司教授)
������� p59
・心の動きやメカニズムを科学的に調べる学問
・さまざまな角度から人を見て、総合的に理解
◆入試情報 ���������������� p62
◆認知心理学
第29 回
心理学
心理学は、心とは何か、どのようなはたらきをしてい
るのかを探究する学問だ。実験や調査を行い、客観的な
データを示すことで、心について科学的に説明しようと
する点が特徴だ。
もうひとつの特徴として、分野の幅広さが挙げられる。
心理学には、
「記憶」
「思考」など人間の知的な活動につ
いて調べる認知心理学、心に問題を抱えた人の支援をめ
ざす臨床心理学など、さまざまな分野があり、それぞれ
に研究が行われている。
しかし一般的には心理学というと、心理テストなどの
一部の技法や、スクールカウンセラーの仕事などが注目
され、心理学全体の成り立ちや特徴が見えにくくなって
いる現状もある。
そこで今回は、まず概説で心理学成立の経緯や主だっ
た分野、今後の心理学研究の方向性などについて概観し
た後、認知心理学、発達心理学、社会心理学、臨床心理
学という心理学の代表的な4分野について、研究の内容
や方法を見ていく。さらにすべての分野の基礎になる、実
験や調査、統計処理といった心理学研究のための技法を
身につける学部での教育について紹介する。
(広島大学 宮谷真人教授・中尾敬准教授)
�� p64
・
「記憶」
「思考」など人間の知的な活動を調べる
・実験による研究が多く、医学・生物学との連携も
(例)回答のある問いとない問いで脳の働きに違い
◆発達心理学
(青山学院大学 坂上裕子准教授)
������ p66
・子どもから老人までの心の変化を調べる
・対象に合わせて、観察や実験、調査などを工夫
(例)2歳児の反抗期が希薄化、体力が低下
◆社会心理学
(追手門学院大学 浦光博教授)
������� p68
・社会との関わりが心にどう影響するかを調べる
・調査で多くのデータを集めて統計的に分析
(例)社会的排斥を受けると自分を制御する力が低下
◆臨床心理学
(東京大学 下山晴彦教授)
��������� p70
・心の問題を抱えた人を支援する
・科学的な根拠に基づいた治療・研究が重要に
(例)強迫性障害の治療法研究、ウェブ上で自己診断
◆教育
(筑波大学 綾部早穂教授)
��������� p72
・実験・調査や、統計処理について実践的に学ぶ
◆卒業後の進路 �������������� p74
・学部卒業後は幅広い分野へ進出
・臨床心理士は大学院進学が必須
58 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
概説
心理学
京都女子大学 発達教育学部
箱田 裕司
教授
普遍性、多様性、可変性を持つ
人の心を事実に基づいて
探究する科学
概説
ながっていきます。このほか人格や知能の違いなどに着
目したゴールトンの個人差心理学、子どもの知的能力の
把握に努めたビネーの発達心理学などの分野が混ざり合
が扱うような深層心理などを思い浮かべる人が多いので
ら、哲学や生理学、物理学、生物学などの周辺諸科学の
はないだろうか。しかし、心理学が扱っている分野は
影響を受け、今日でも医学(脳科学)や文化人類学、情
もっと広範だ。例えば、臨床心理学の分野では心に困難
報科学などと相互に影響を与えています。学際性に富ん
を抱える人の治療を行っている。また、感覚・知覚心理
でいることも心理学の大きな特徴です」
(箱田教授)
学の分野では「錯視」などについて研究されている。錯
視とは目の錯覚で、例えば同じ長さの線分に内向きの矢
羽、外向きの矢羽をつけると違った長さに見えたりする
実験を通して法則化をめざす研究法と
心の個別性を観察する研究法に二分
日本学術会議「心理学分野の参照基準検討分科会」の
な分野には、認知心理学、発達心理学、教育心理学、社
副委員長である箱田裕司教授(京都女子大学)は「人は
会心理学、臨床心理学などがある<表>。
知覚に加え、記憶や学習、感情、欲求といったさまざまな
心理学のいずれの分野も、それぞれの発展過程で固有
心のはたらきを通して、周囲の環境や、自分の内面、自
の研究方法を確立させている。研究法は大きく、
「法則定
分と環境との関係を理解しています。こうした多様な心
立的な研究法」と「個性記述的な研究法」に分けること
のはたらきを根拠に基づいて説明しようとするのが心理
ができる。
「法則定立的な研究法」では、実験を行ったり、
学という学問です」と語る。
調査・観察などの結果に対して統計処理を行い、数理的
心理学が扱う心のはたらきが多岐にわたるのは、心理
に分析したりして、対象とする心についての一般法則を
学の成り立ちと無縁ではない。心とはどういうもので、ど
得ようとする。これに対して「個性記述的な研究法」は、
んなはたらきをするのかという問いはギリシャ・ローマ時
面接や観察などを通して、特定の人の心の動きを詳しく
代からあり、哲学者や宗教家がそれぞれに自分の考えを
知ろうとする。臨床心理学や発達心理学などの分野で用
展開してきたが、近代になって心理学という学問になっ
いられる。ただし、これらの分野においても、
「法則定立
た。近代にはニュートンの物理学など、物質を客観的に
的な研究法」も行われており、すべて「個性記述的な研
観察し、背景にある法則を発見する自然科学が急速に発
究法」というわけではない。
展した。その中で、観察する主体(心)も観察の対象に
しようという試みが始まり、それが現代の心理学につな
がっていった。
「心理学の源流の1つは、1879 年にヴン
脳科学との連携に注目
諸科学が持つ人間に関わる知見の分析にも期待
トがライプチヒ大学に開設した心理学実験室です。ここ
近年注目されているのは、脳科学との連携だ。fMRI(注)
から心に関する科学的な探究が始まり、世界に広まって
などの脳波を観測する技術が進展した結果、ある心理状
いきます。もう1つは、ヴントとほぼ同じ頃にフロイト
態になると脳の特定部位の活動が盛んになるなどの現象
によって始められた精神分析で、これが臨床心理学につ
が観察できるようになり、脳のはたらきと心のはたらき
(注)fMRI(functional magnetic resonance imaging)…核磁気共鳴現象を利用して体内を3次元画像で見ることのできるMRIを利用し、脳や脊髄の血流動態
反応を視覚化する方法。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 59
卒業後の進路
ており、それぞれ専門に分かれて発展してきた。代表的
教育
り、メカニズムが解明されていないものも多い。
臨床心理学
このように、心理学は人の心の多様な側面を対象にし
社会心理学
現象(ミュラー・リヤー錯視)だ。さまざまな種類があ
発達心理学
いながら心理学は発展していきました。また誕生当初か
認知心理学
心理学と聞くと、喜怒哀楽などの感情や、心理ゲーム
入試情報
近代化による科学の発展に伴い
人の心も科学的な研究の対象に
注目の学部・学科
の関連を研究することが可能になってきたからだ。
「例え
今後の心理学には、このように心のはたらきをより深
ば脳科学で、自閉症の人の脳のはたらきを調査した研究
く理解することに加え、人文社会科学における、人の心
があり、自閉症の人はそうでない人と同じ心理状態の時
に関するさまざまな知見を整理・分析する役割も期待さ
でも脳の異なる領域が活性化することがあるとわかりま
れている。
「文学や哲学、経済学など多くの人文社会科
した。こうした研究成果は人の認知の仕組みについて考
学では、それぞれに人間の心や行動などについての知見
える認知心理学にとっても有益です」
(箱田教授)
を積み重ねています。心理学の手法でそうした知見を検
また、遺伝や環境と、心の関係を調べる研究も注目さ
証したり、整理し直すことで、それぞれの分野に新たな
れている。人のさまざまな行動や人格に対し、遺伝や環
気づきをもたらすことができます。法律や社会制度も心
境がどれだけ影響を与えているかを明らかにしようとい
理学の立場から捉え直すことで、よりよいものにするこ
うものだ。例えば、一卵性双生児と二卵性双生児を対象
とができるでしょう。心理学は諸科学が持つ、人間に関
に、外向的か内向的か、神経質か否か、協調性があるか
わる知見を束ねる要としての機能も求められているので
ないかといった個人の人格や、空間的知能、言語的知能
す」(箱田教授)
などの違いを比較する研究がある。一卵性双生児で違い
が少なく、二卵性双生児で違いが大きく出れば、その人
格や知的能力は、遺伝による決定率が高いということに
一般的なイメージによる心から
科学的探究の対象としての心へ
なる。双生児研究自体は以前から行われているが、近年
では、心理学の教育はどのように行われているのだろ
ゲノム解析が進んだことなどから、改めて遺伝が人の行
うか。多くの大学では、教養科目として心理学を設置し
動に与える影響が注目されている。
ている。教養科目として心理学を学ぶ最大の目的は、人
<表>学部の心理学教育で学ぶ代表的な分野
感覚・知覚心理学
感覚器官を経由して入ってくる外界からの情報や身体内部の情報を処理する過程を研究する学問。五感のすべての感
覚機能を問題とするだけでなく、感覚間の相互影響についても研究する。最近では、錯視、運動視、音声知覚などの
伝統的テーマだけでなく、バーチャルリアリティ研究、脳画像を用いた研究など新たな技術を用いた研究も進展して
おり、これらについて学ぶ。
学習心理学
人間や動物のさまざまな行動が経験を通して習得されることを学習という。学習を可能にしている原理、学習を規定
する諸要因などが研究され、行動療法のように、得られた成果の臨床場面への応用がなされている。新たな行動の習得、
変容に関わる心理学の領域である。
注意、記憶、思考、推論、問題解決など人間の高次の認知機能を主な研究対象とし、情報処理システムとして人間を
認知心理学
発達心理学
捉える立場から研究する学問。この立場に立った研究は、下記の発達心理学、教育心理学、社会心理学の分野でもな
されており、相互の関係は深い。最近では、感情や感性なども研究対象となっている。
受胎から老年期に至るまでに生じる身体的、精神的、行動的変化の一般的な特徴、その法則性、その変化に影響する
要因について研究する。特に人は生涯を通して成長を続けるという立場では、生涯発達心理学ということばが使用さ
れる。多くの大学で授業科目として設置されている。
教育についての心理学的事実や法則性を明らかにし教育場面で起こる諸問題を心理学の知見を用いて明らかにする学
教育心理学
問。理論的側面の研究と実践的側面の研究があり、理論的側面としては、人と環境の相互作用という視点から、人間
形成の過程を研究する。実践的側面としては、教育現場に現れるさまざまな問題を心理学の知見をもとに理解し、説
明し、改善しようと試みる。
個人と個人、個人と社会との間の相互影響について心理学的方法を用いて明らかにする学問。人に対してどのように
社会心理学
臨床心理学
して魅力を感じるかといった対人魅力、他人に対する援助行動、同調行動、行動の原因をどのように帰属させるかと
いう原因帰属、コミュニケーションの問題、リーダーシップなど、人と人、社会と人との相互の影響に関して学ぶ。
心理学の知見を適用して、個人が抱えるストレスや不適応、精神疾患など、心理面、感情面、行動面の障害の研究、
診断と援助、予防を行う心理学の領域。また、これらを通じて、新たな理論や方法の開発も行う領域である。
パーソナリティ心理学
人の行動の時間的・空間的一貫性についてそれが形成される過程、それらに影響する要因を研究する心理学の領域。パー
ソナリティ ( 人格 ) についての理論、パーソナリティの形成過程、測定方法などについて学ぶ。
法心理学・犯罪心理学
法心理学は、法システムに関わる人々の心理や行動を研究の対象とするもの。目撃証言や供述の信憑性などについて
心理学の知見を用いて明らかにする。一方、犯罪心理学は、犯罪に関わる諸問題について心理学の知見から解明しよ
うというもの。これら二つの心理学は重なる部分が多い。このいずれかの授業科目を設置する大学が徐々に増えている。
(箱田先生提供)
60 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
心理学
なため、さまざまな条件設定や工夫を行うことで、対象
心を科学的に学んだことがある人はごく一部です。その
としている心のはたらきを正確に測定する必要がある。
ため、一般に信じられていることと心理学が明らかにし
こうした力を身につけるため、心理学の教育では実
てきた心の実態が乖離していることは多々あります。心
験・実習を重視する。実験装置の製作、実験計画の立案、
理学の教育では、まずこの乖離を埋めることを目的とし
質問用紙の作成、自ら検査や調査を受けることなどを通
ています」
(箱田教授)
して、心のはたらきを捉える方法を訓練する。なお、実
例えば、凶器を持った犯人を見ても犯人の顔を覚えて
験や観察データは適切な統計処理を行う必要があるため、
いない心のはたらきを「凶器注目効果」というが、研究
分散分析や多変量解析などの統計手法も並行して学ぶ。
者の間でも、凶器を凝視して顔に注意が向かなかったた
心理学の理論や測定方法を学んだ後には、自分で問い
めだと考えられてきた。ところが最新の研究で、凶器に
を立て、検討の成果をまとめる卒業論文に取り組む。
「卒
注目したからではなく、有効視野が狭くなったためであ
業論文執筆までには、心理学の多くの領域を学び、さま
るとわかった。緊急時に素早く適切な情報処理をするた
ざまな理論や技法に触れているはずです。卒業論文は
めに、無意識に処理範囲を狭くした結果だと考えると合
テーマを設定し、過去の文献を調べ、研究方法や実験方
理的に説明できる。このように、根拠のない思い込みで
法を決め、データをとって、それを処理するという順序
はなく、心を「科学的な知見」に基づいて捉える姿勢を
で進めますが、その過程を通して、それまで学んだ知識
学ぶ。
を応用、統合するという意味があります。ですから、心
その上で、人の心と行動には「普遍性」
「多様性」
「可変
理学の教育では卒業論文は特に重要だと考えています」
る心理現象や行動パターンで、多様性とは、パーソナリ
ティや認知能力などが人によって異なることだ。可変性
は、経験、訓練そして治療によって心のはたらきが変わ
(箱田教授)
人間を総合的に理解できる力がつき
新発見も可能な学問
さらに、心理学の社会的な役割についても学ぶ。犯罪
うか。最も大きいのは、人間を総合的に理解する力とい
防止や矯正、消費行動、リスクマネジメント、人事労務
えるだろう。心は環境や経験など多様な要素の影響を受
管理、学習法や教授法、人間工学、災害心理、交通心理、
けており、また発達や疾患などさまざまな視点から見る
カウンセリングなど多くの応用例を通して、心理学が社
ことができる。こうした多様性を学ぶことで、人間を一
会にどのように貢献しているかを理解していく。
面的ではなく、多面的・複眼的に見て、理解することが
できるようになるからだ。
「心理学を学ぶと人の心が読め
るようになる」などと単純に考えている高校生も多いが、
それは上記のように、人の振る舞いなどを見た時に、ど
んな心の状態か、その原因は何かということを推測する
より学術的に心について理解するため、これらに加えて
選択肢を増やすことができるという意味であることを補
さらに2つのことを学ぶ。
足しておきたい。
1つは「心を生み出す仕組み(機構)と心理学の諸理
また、科学的な探究を通じて、批判的・実証的態度や、
論」だ。心理現象の基盤になっている生物学的・認知
問題発見・解決力、情報収集・処理能力、コミュニケー
的・社会的なメカニズムや、心理学の主要領域に関する
ション能力なども養うことができる。これらの力は、研
一般法則や理論、学説、研究法などを理解する。
究・臨床活動を続ける場合はもちろん、企業などで働く
もう1つは、
「心理学的測定法と心理アセスメント」
場合においても役立つスキルだ。
だ。心のはたらきは目に見えないため、心理学では、心
箱田教授は心理学の魅力について次のように語る。
「人
のはたらきによって起こる行動や身体的な反応などを測
間の心は複雑であるにも関わらず、心理学の歴史は 100
定して、心のはたらきを理解しようとする。そこで実験
年ほどしかなく、まだわかっていない部分がたくさんあ
や観察などの測定方法について学ぶ。なかでも臨床心理
ります。研究手法も次々と開発されていますから、これ
学の分野で患者に対して面談や質問紙調査などの測定を
から大発見ができる可能性は非常に高いといえます。今
行い、診断する一連の過程をアセスメントといい、こう
後も大きな発展が期待できる学問分野だと考えています」
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 61
卒業後の進路
心理学部など心理学を専門的に学ぶ学部・学科では、
教育
実験・実習でさまざまな研究法を学び
卒業論文を通してそれらの知識を統合する
臨床心理学
心理学を学ぶことによってどんな力が身につくのだろ
社会心理学
ることであり、臨床心理学はこの可変性に立脚している。
発達心理学
性」があることを学ぶ。普遍性とは、全ての人に共通す
認知心理学
うにすることだ。
「誰にとっても心は身近なものですが、
入試情報
した手法についてもあわせて学ぶ。心のはたらきは複雑
概説
の心のはたらきを科学的探究の対象として考えられるよ
注目の学部・学科
ここでは、心理学が学べる大学の入試について見ていく。河合塾の学部系統分類で心理学が学
べる大学(注)は、国公立大が40 大学 46 学部 47 学科、私立大が165大学171学部190 学科である。
入試情報
学べる学部系統は幅広い
国公立大はコースでの設置が多い
国公立大の2次試験は
教科試験の他、小論文や面接も多い
<表1>は心理学が学べる主な学科を学部系統別にま
<表2>は、国公立大のセンター試験の教科・科目パ
とめたものだ。文・人文系の心理学科をはじめ、主に教
ターンを日程別に集計したものである。5(6)教科7
育、社会・国際、総合・環境・人間・情報系の人文系学
科目を課すところが多く、前期日程では7割を超える。
科、心理系学科、人間科学系学科で学ぶことができる。
前期・後期日程ともにこのうち半数以上は文型だが、教
国公立大では、文・人文系が半数、次いで教育系が4
育系では選択型の割合が高い。科目負担の最も少ないパ
割、その他の系統が残りの1割弱を占める。文学部や人
ターンは3教科3科目で、横浜市立大(国際総合科学-
文学部などの学科の中にコースとして設置されており、
国際教養学系B方式-前)が【英】(数、国、地公→2)
、
入学後や進級時に選択する場合が多い。教育系に分類さ
金沢大(人間社会-人文-後)、高知大(人文-人間文化
れるのは、主に教育学部の教員養成課程に設置されてい
-前・後)、北九州市立大(文-人間関係-前・後)が
る教育心理学、発達心理学のコースだ。入試傾向がその
【英、国】(数、理、地公→1)、鹿児島大(法文-人文-
他の系統とやや異なるため、国公立大の分析では教育系
後)が【英、国】(数、地公→1)で受験できる。
を区別して見ていく。
<表3>は、2次試験の教科パターンを日程別に集計
私立大では、文・人文系が8割と圧倒的に多い。国公
したものである。前期日程では2科目を課すパターンが
立大と比べて教育系の割合は4%と小さく、経済・経営・
最も多く、そのうち【英、国】の割合が高い。教育系で
商や農といった系統にもある。心理学全般を扱う学科に
は1~2科目の教科試験、または小論文を課すところが
加えて、こども心理学、社会心理学、経営心理学など、大
多く、教科試験と組み合わせる場合も含めると4割で小
学によっては特定の領域を専門とする学科もある。
論文が必須である。
<表 1>学部系統別 心理学が学べる主な学科
系統
主な学科
こども心理
人文
教科・科目
パターン
芸術・スポーツ
科学
総合・環境・
人間・情報
1
4科目
【英、数、国、地】
2
【英、数、国】
4
【英、国】
(数、地→1)
4
(4)
9
(6)
6教科6科目
1
(1)
1
(1)
5(6)教科6科目
3
(1)
3
(1)
心理コミュニケーション
5教科6科目
2
人間心理
4~6教科6科目
臨床心理
4(5)教科5科目
1
学校-学校心理
5教科5科目
2
3教科3、4科目
1
3教科3科目
3
学校-発達心理
心理-幼児心理教育
農
【英、数、国、地2】
13
合計
社会心理
福祉心理
50
1
4
(18)
36
<表4>国公立大 センター試験ボーダー得点率
健康・スポーツ心理
85 ~ 89
1
1
心身健康
80 ~ 84
2
3
心理情報
75 ~ 79
11
11
人間科学
70 ~ 74
12
(1)
9
(6)
人間環境
65 ~ 69
14
(10)
9
(7)
60 ~ 64
8
(5)
2
62 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
2科目
(14)
5
(4)
【英】
(数、国、理、地公→1)
2
【英】
(数、国→1)
1
【英】
(数、国、理→1)
1
教育
1
(1)
(6)
1
【英、小】
3
(1)
1
【英】
2
(1)
1
(英、数、国→1)
2
(2)
1
(1)
【小】
(英、数、国→1)
1
(1)
8
(5)
3
(1)
【小】
6
(4)
17
(3)
【小、面、調】
1
(1)
1
(1)
1
(1)
10
(7)
【小、面、調、他】
59 ~ 55
2
(2)
1
(1)
合計
50
(18)
36
(14)
※ボーダー得点率は 2015 年3月現在
1
21
計
後期日程
教育
(1)
(英、数、国→2)
計
1科目
教育
8
11
【数、国】
募集区分数
社会園芸
※教育系は国公立大の教育、私立大の
文・人文(教育)を対象とする
※学科はコース・専攻の場合も含む
(2)
4
前期日程
人間関係
計
1
ボーダー
得点率
(%)
経営心理
3科目
【英、国】
(1)
後期日程
教育
5科目
(5)
心理カウンセリング
前期日程
教育
(10)
心理-児童心理教育
経済・経営・商
教育
12
5
(6)教科
7科目
募集区分数
教科パターン
後期日程
25
学校-教育心理
社会・国際
前期日程
<表3>国公立大 2次試験教科パターン
科目数
選択型
心理・行動科学
教育
募集区分数
文型
心理
文・人文
<表2>国公立大 センター試験教科・科目パターン
教科試験
【面】
なし
【面、実、調】
【総】
(1)
1
(1)
1
計
2次
課さない
1
2
10
(7)
31
1
(1)
50
(18)
36
(14)
-
合 計
※表2〜3は 2015 年度入試科目で集計
※表2〜5の( )内は教育系で内数
(12)
第29 回
<表5>国公立大 2次試験ボーダー偏差値
ボーダー
偏差値
科目数
募集区分数
前期日程
後期日程
教育
67.5 ~ 69.9
2
65.0 ~ 67.4
1
62.5 ~ 64.9
<表6>私立大 一般方式教科パターン
教育
1
1
57.5 ~ 59.9
6
1
【英、国】
(数、地公→1)
57
ボーダー偏差値
【英、国、地公】
12
65.0 ~ 67.4
4
【英、国】
(数、地→1)
55.0 ~ 57.4
5
(2)
52.5 ~ 54.9
10
(6)
14
62.5 ~ 64.9
4
9
60.0 ~ 62.4
8
【英、国】
(数、理、地→1)
10
50.0 ~ 52.4
6
(3)
47.5 ~ 49.9
1
ランクなし
(教科試験なし)
10
2科目
(7)
(18)
(12)
1
(1)
36
(14)
※ボーダー偏差値は 2015 年 3 月現在
ターンが8割を超える。小論文や面
接を課す入試が中心だ。教科試験を
文-人間文化)が【英】
、岐阜大(教
52.5 ~ 54.9
19
50.0 ~ 52.4
19
52
47.5 ~ 49.9
25
(英、数、国→2)
14
45.0 ~ 47.4
16
(英、数、国、理、地→2)
14
42.5 ~ 44.9
24
【英】
(数、国→1)
10
40.0 ~ 42.4
32
37.5 ~ 39.9
34
50.8%
20.7%
29.9%
(英、数、国、地公→2)
6
【国】
(英、数→1)
5
35.0 ~ 37.4
58
他(38 パターン)
64
BF
52
165
ランクなし
(教科試験なし)
1
合計
325
計
6
他(10 パターン)
15
計
21
教科試験 【小】
なし
計
1
1
合 計
6.5%
0.3%
325
※ 2015 年度入試科目で一期入試を対象に集計
※教科パターンが5つ以上ある場合は、該当募集区分
5件未満を「他」として集計
育-学校-心理学)が(英、数、国
→1)
、神戸大(文-人文)が【英、
教育系では面接を課す入試が主流で、調査書を重視する
大学もある。
7科目
2
0.7%
6科目
3
1.1%
5科目
11
3.9%
4科目
13
4.6%
3科目
112
39.4%
2科目
123
43.3%
1科目
20
7.0%
ボーダー得点率
(%)
募集区分数
90 以上
2
85 ~ 89
9
80 ~ 84
17
75 ~ 79
28
70 ~ 74
40
65 ~ 69
40
60 ~ 64
25
55 ~ 59
40
50 ~ 54
38
45 ~ 49
18
40 ~ 44
27
0.7%
9.2%
23.9%
22.9%
27.5%
15.8%
※ボーダー得点率は 2015 年 3 月現在
課すのは前述の4大学のみで、前期日程では主に偏差値
理)、畿央大(教育-現代教育-中期3科目)を除き、そ
教育
募集区分数
<表9>私立大 センター方式ボーダー得点率
臨床心理学
入試難易度を見ると、センター試験のボーダー得点率
科目数
※ボーダー偏差値は 2015 年 3 月現在
社会心理学
小】
、奈良女子大(文)が【英、国】となっている。なお、
<表7>私立大 センター方式科目数
44.4%
発達心理学
課すのは4大学のみで、山形大(人
18
29
認知心理学
後期日程では教科試験なしのパ
11
55.0 ~ 57.4
138
(英、国→1)
1科目
57.5 ~ 59.9
7
4.9%
入試情報
2次課さない
31
42.5%
【英、国】
計
1
募集区分数
【英、国】
(数、理、地公→1)
他(20 パターン)
(1)
<表8>私立大 一般方式ボーダー偏差値
概説
8
50
募集区分数
【英、国、地】
60.0 ~ 62.4
合計
3科目
1
教科パターン
心理学
50.0 ~ 62.4 近辺で分散しており、教育系は偏差値 50.0
の他では文系科目のみで受験可能である。
~ 57.4 に集まっている<表5>。
センター利用方式は、福島学院大、聖学院大、学習院
は、前期・後期日程ともに 60 ~ 79%がボリュームゾー
ンとなっており、このうち教育系は前期日程が 65 ~
69%、後期日程が 65 ~ 74%に集中している<表4>。
合計
284
※ 2015 年度入試科目で
一期入試を対象に集計
合計
284
2次試験のボーダー偏差値は、後期日程では教科試験を
大、慶應義塾大、上智大、聖心女子大、京都文教大、梅
花女子大、甲子園大を除く 156 大学が実施しており、2
~3科目を課す募集区分が多い<表7>。そのうち個別
私立大の一般方式では、2科目で受験できる募集区分
試験との併用方式は 36 大学が実施しており、こちらも
が約半数を占め、次いで3科目が4割を占める<表6>。
センター試験・個別試験で合わせて2~3科目を課す入
教科パターンが非常に多いが、2科目では【英、国】、3
試が主流である。センター試験で4科目以上を課す場合
科目では【英、国】
(数、地公→1)を課す募集区分が大
を除き、文系科目を中心とした入試科目となっている。
半である。理系科目が必須となる募集区分はごく一部で、
入試難易度は、一般方式では、教科試験を課す募集区
桜美林大(リベラルアーツ-英数型・英理型・英数理型)、
分の7割以上が偏差値 49.9 以下に集まっており、比較的
東海学院大(人間関係-心理-ⅠⅡ期)
、金沢工業大(情
易しいところが多い<表8>。一方で、センター利用方
報フロンティア-心理情報-中後期)
、同志社大(心理-
式は主に 50 ~ 74%の範囲で幅広く分散しており、募集
心理-全学部日程理系)
、関西国際大(人間科学-人間心
区分によって難易度の差が大きい<表9>。
(注)河合塾の学部系統コードの分野コードが「心理」の学科と、学科名に「心」を含む教員養成系学科の合計。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 63
卒業後の進路
私立大は、一般方式、センター利用方式とも
2~3科目を課すパターンが中心
注目の学部・学科
認知心理学
広島大学大学院 教育学研究科 心理学講座
宮谷 真人
中尾 敬
准教授
人は周りの環境を認識し、記憶したり、考えたりしながら生活している。
例えば視覚情報は視神経を通じて脳に伝達されるが、
その物体があると認識したり、
それをどう使うかを判断したりする過程には心のはたらきが関わっている。
このように、知覚した情報をもとに判断や思考といった
高いレベルの情報処理を行う仕組みについて、
科学的なアプローチで分析しようとするのが認知心理学だ。
他の心理学領域や脳科学などとも連携しながら、
主に実験的手法によって研究が進められている。
教授
「記憶」
「意思決定」
「注意」などの
人間の知的な心のはたらきを
実験を通して解明する
のかは、直接的にはわからないこと
も多 いのです。「 刺 激 」 や「反応」
します。心に特定の働きかけを行い、
が、研究対象としている心の機能と
その際の心の動きに伴う行動などを
どう関連しているのか、実験条件や
記録することで心のはたらきを調べ
実験の種類を何度も変えながら探っ
認知心理学は、人の心のはたらき
ようとします。行動を誘発するもの
ていき、少しずつ心の機能の解明を
の中でも認知、すなわち「知覚」
「注
を「刺激」、刺激に誘発された行動
めざします。
意」
「記憶」
「言語」
「思考」
「意思決
を「反応」と言い、どんな状況でど
定」といった人間の知的な活動につ
んな「刺激」を与えたらどんな「反
いて、特徴やメカニズムを調べる分
応」をするかを探ります。そのため
野です。知的な心のはたらきは、人
には、
「刺激」以外はできるだけ同じ
間のほとんどの活動で発揮されてい
条件になるよう環境を整え、特定の
認知心理学の研究では、近年、医
るため、他の心理学領域の中で扱わ
「刺激」に対する「反応」だけを取
学や生物学との連携が目立っていま
れることも少なくありません。発達
り出さなくてはなりません。ですか
す。特に脳科学や神経科学に関連し
心理学では言語や思考の能力の発達
ら、認知心理学では、実験方法の開
た研究が増加しています。脳を計測
を扱いますし、社会心理学にも社会
発も重要になってきます。
する技術や解析法が発達した結果、
や他者をどう知覚しているかといっ
「反応」は客観的に観察できるも
脳のどの部位にどれだけの神経伝達
たテーマがあります。臨床心理学で
のであれば、言語や身体行動はもち
物質が含まれているかまで測定でき
も記憶の障害など、心の知的な側面
ろん、脳波や脳血流の変化でもかま
るようになったため、脳内の化学的
「刺激」と「反応」を調整し
人間の行動を詳細に観察
(注)
脳科学や遺伝子科学と連携
学校で役立つ
ワーキングメモリの研究も話題
を研究することがあります。ただ、
いません。脳波計や fMRI
を使え
な「反応」を取り出すことも可能に
認知心理学が認知機能自体の仕組み
ば、 その人 自 身 が気 づいていない
なりました。脳の「反応」を指標に
の解明に焦点を当てるのに対して、
「反応」も取り出せます。ただし、
することで、 記 憶 や注 意、 感 情 と
他の心理学領域では、例えば言語の
「刺激」に対する「反応」が取り出
いった認知機能の解明をめざしてい
発達が心の他の側面の発達にどう影
せたとしても、それですぐ特定の心
ます。脳科学や神経科学は脳の仕組
響し影響されるかを見るなど、研究
のはたらきがわかるわけではありま
みそのものの理解をめざしている点
の関心や方向性は異なります。
せん。脳波や脳血流の変化がわかっ
で認知心理学とは方向性が異なりま
認知心理学の研究では実験を重視
ても、それがどう心と関わっている
すが、互いの知見を活用して研究が
(注)fMRI…P.59下の注記を参照
64 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
心理学
<図>職業選択といった正解のない課題
時に活動する脳部位(前頭葉の内
側部が活動している)
1つは、プレテスト効果
遺伝子を扱う心理学も登場してい
に関する研究です。テスト
ます。人の認知機能には、例えば物
は評価に用いるだけでなく、
事を全体的に捉える、詳細な部分に
記憶を定着させる効果があ
目が向くといった人によって異なる
りますが、従来は正答でき
傾向があり、そうした認知の傾向を、
た場合のみ効果があるとさ
人格を形成する要素と考え、遺伝子
れていました。誤答の場合
と人格の関係を探ろうとしています。
は正答の記憶と混ざって混
また、認知心理学を学校で応用し
乱を起こし、記憶の定着に
ようとする研究も増加傾向にありま
はあまり結びつかないため、
す。子どもの能力を伸ばすために認
誤答の経験を少なくするス
知心理学の知見を活用したり、学校
モールステップでの指導が
で起こっている課題から新しい認知
有 効 だと言 う研 究 者 も多
心理学のテーマを発掘したりといっ
かったのです。
ません。そこで、2つの職業を単語
た双方向の研究活動が増えています。
しかし近年になって、誤答の場合
として提示し、好きな方を選ぶ課題
特に注目されているのが、
「ワーキ
にも正答の学習促進の効果があるこ
(正解がない)と、世の中で使用頻度
ングメモリ」の研究です。
「ワーキ
と、すなわち「プレテスト効果」が
の高い単語を選ぶ課題(正解がある)
ングメモリ」は、単純な記憶ではな
あることがわかってきました。具体
を比べたところ、正解がある課題で
く、情報の蓄積と同時にその情報を
的には、まず「悪魔-地獄」などの
活発になる脳の部位と、正解がない
別の作業に活用できる能力に深く関
単語の組み合わせを 60 種類用意し
課題で活発になる脳の部位が異なる
与しているとされる、新たな記憶の
ます。悪魔に対しては、ほとんどの
ことがわかってきました<図>。し
概念です。例えば「5、8、4」と
人が天使を想起することがわかって
かも正解がない課題で活発になる部
聞いて、そのまま繰り返すのは単純
いるため、あえて異なる語を対にし
位は、
「自分がどんな人間か」を考え
記憶の力ですが、それを小さい順に
ました。そしてある群にはプレテス
ている時に活発になる部位と重なっ
答えたり、計算して答えたりする場
トとして悪魔から天使を想起しても
ているのです。
合には、記憶と同時にある種の作業
らい、実は地獄が正解であるという
このことから、高校までの教科学
が必要になってきます。そこに関わ
「間違う」経験をしてもらった後に、
習で求められることの多い正解のあ
るのが「ワーキングメモリ」なので
正しい単語を記憶させます。もう1
る課題を解く能力と、職業選択や社
す。これまでの研究で、
「ワーキング
つの群には、最初から正しい組み合
会で発揮される実践力のような正解
メモリ」の容量は、知的な能力と関
わせを記憶させます。その後、しば
のない課題を解決する能力では、必
係が深いことが知られています。そ
らくしてから組み合わせを思い出さ
要とされる脳の部位が異なる可能性
のため、学習についていけない子ど
せると、プレテストで間違った経験
があることがわかってきたのです。
もや、学校に適応しづらい子どもな
をした群の方が、成績が良いことが
これらの研究成果は、すぐに学習
どに、
「ワーキングメモリ」の容量
わかりました。間違う経験も記憶を
や教育活動に応用できるものではあ
に応じた教育方法を提案するなど、
促進することが確認できたのです。
りません。しかし、記憶や意思決定
認知心理学的なアプローチに期待が
もう1つは、脳科学と連携した意
という心の機能に関わる細かな過程
集まりつつあります。
思決定の研究です。正解がある課題
や脳活動を一つ一つ明らかにすれば、
における意思決定については、既に
将来的には、どういう条件の時に、
多くの研究成果がありますが、正解の
人間の知的能力が向上しうるのかわ
ない課題、すなわちランチメニュー
かってくるはずです。認知心理学は
の選択や、職業選択などにおける意
こうした人間の知的能力を解明する
思決定の研究はほとんど行われてい
ための研究を積み重ねています。
(中尾先生提供)
発達心理学
社会心理学
臨床心理学
教育
卒業後の進路
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 65
認知心理学
具体的な研究例を2つ紹介します。
入試情報
正解のある課題と
正解のない課題では
脳活動のネットワークが異なる
概説
進められています。
注目の学部・学科
発達心理学
青山学院大学 教育人間科学部 心理学科
坂上 裕子
准教授
加齢に伴う心の変化を分析し
そのメカニズムの解明をめざす
発達心理学は、加齢に伴い、人の心のはたらきが
どのように変化していくのかを明らかにしていく学問だ。
ただし発達心理学における発達とは、
単に子どもから大人へと成長する過程を意味しているわけではない。
人の心は死ぬまで変化し続けるという考え方に立ち、
受胎から死までの心の変化を時間軸に即して捉えようとしている。
そのため対象年齢や研究領域は幅広く、行動観察やインタビュー、実験など、
問題意識に合わせた多様な手法を用いて研究が行われている。
まれてから死ぬまでの心の変化を発
雑な問題に対応する知恵が獲得され
達として捉えるようになったのです。
ていきます。
ここでいう発達には、何かを獲得
このような加齢に伴う複雑な心の
発達心理学は、生涯という時間軸
するプラスの側面だけでなく、何か
変化を明らかにしようとするのが発
に沿って人の心のはたらきの変化を
を喪失するマイナスの側面も含みま
達心理学なのです。
捉えようとする心理学の一領域です。
す。誕生直後は獲得の割合が多く、
発達と聞くと、一般的には生まれて
高齢になるにつれて喪失の割合が増
から大人になるまでの、さまざまな
えていくと考えるのです<図>。例
力を獲得していく過程を思い浮かべ
えば、新生児は頬に触れられるとそ
る人が多いと思います。かつての発
ちらに頭を向けたり、口に触れたも
発達心理学の研究は、方向性に着
達心理学も発達をそのように捉えて
のを吸う動作を示したりします。こ
目すると大きく3つに分けることが
いました。しかし、人間の寿命が伸
れらは「原始反射」と呼ばれ、栄養
できます。第1は時間の経過に伴う
び、高齢期の人の心や行動について
摂取のために胎児期から既に獲得さ
心の変化を知ろうとする研究、第2
の研究が進むにつれ、
「生涯発達」と
れている機能ですが、生後3~4カ
は発達の個人差を明らかにしようと
いう概念が現れました。つまり、生
月頃には見られなくなります。また、
する研究、第3は心の変化や個人差
生後6カ月の乳児はヒツジやチンパ
がなぜ生じるのかメカニズムを解明
ンジーの顔を見分けることができま
しようとする研究です。
すが、9カ月になるとその能力を喪
研究対象は人間の生涯すべての時
失します。つまり、発達の過程では、
期であり、しかも心のはたらきは複
自分の意志で動けるようになるに従
雑かつ多様であるため、研究テーマ
い反射的な行動が出なくなったり、
は多岐にわたります。そのため研究
ヒトという特定の種の個体を細かく
者の多くが、専門とする「時期」と
認識する力をつける一方で多くの種
「領域」を持っています。時期とは、
の個体を見分ける力が失われたりと
乳児期や児童期、青年期、成人期、
いう、獲得と喪失が起きているので
高齢期などであり、領域とは、知的
す。
能力の発達や、社会性の発達などで
高齢期になると、体力や運動機能、
す。多くの研究者は、例えば「乳幼
認知機能などは徐々に喪失されてい
児期における社会性の発達」など、
きますが、経験や知識を統合して複
時期と領域を組み合わせた専門分野
発達は獲得と喪失からなる
生涯にわたる心の変化
<図>適応能力における獲得と
喪失の割合
獲得
相対量
喪失
誕生
年齢
高齢
(坂上裕子他「問いからはじめる発達心理学 生涯
にわたる育ちの科学」
(2014、有斐閣)
より作成)
66 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
加齢に伴う心のはたらきの
変化と個人差を分析し
そのメカニズムを考える
第29 回
心理学
げたりするなどして、強い反抗や自
研究方法には、実験、行動観察、
己主張をします。一方、親は応えら
質問紙やインタビュー調査など多様
れる子どもの要求には応じながらも、
な方法があります。例えば認知機能
してもよいことといけないことを子
の発達を調べる研究では実験を多く
どもに伝え、子どもをしつけていく
用います。また対象が言葉をまだ話
ことが求められます。
せない乳児などの時は、心拍数や唾
こうした親子の関わりやその変化
液の成分などの生理的な指標や、何
を捉えるため、特定の親子の生活を
気付きました。親子で一緒に遊んだ
をじっと見るかを調べる選好注視法
1週間に1度、1年間継続して観察し
後、
「片づけをしてね」と親に言われ
などの行動観察を用います。小学生
ました。親子の間で葛藤や衝突が起
た子どもは、以前であれば駄々をこ
以上になれば、質問紙やインタビュー
こった時に、その場面がどう展開し
ねたり泣いたりするなどして反抗す
による調査も行います。このように
ていくのかをビデオで記録し、親子の
ることが多かったのですが、現在で
研究対象とする領域や時期に合わせ
やりとりの様子を分析しました。あ
は多くの子どもが親の言うことにす
て、適切な研究方法を選んで研究を
わせて、この時期の子どもにどう接
ぐに従うようになっています。ビデ
進めていきます。
したかを何人もの親にインタビュー
オで録画した子どもの行動を数量的
研究を進める上では、小学校の協
し、その内容も分析しました。
に比較しても、反抗する子どもの数
力を得る必要があるため児童期の研
その結果、親子の葛藤場面におい
は明 らかに減 っ ています。 指 示 に
究は協力者を見つけることが難しい、
て、親の側が、子どもの変化や成長
従って行動することは一見よいこと
高齢者は身体機能も認知機能も個人
に伴って対応の仕方や考え方を変え
のようにも見えますが、子どもが大
差が非常に大きくなるためデータの
ていく様子を捉えることができまし
好きな人に逆らってでも通したい自
とり方に工夫が必要になるなど、専
た。子どもの側の物事や言葉の理解
分というものを持っていないとも見
門分野それぞれの難しさがあります。
が進み、また、言葉での表現が巧み
ることができます。中学生・高校生
また、発達心理学の研究は時間がか
になるに伴い、親の側も子どもへの
が親に反抗する第二次反抗期が希薄
かります。発達は基本的には時間の
物事の伝え方を変えたり、子どもの
になっているという指摘があります
経過と共に進むため、時間の経過に
視点に立って物事を捉えたりするよ
が、幼児期の第一次反抗期でも同じ
伴う変化を捉えようとすると、その
うになる、という変化が見られたの
ような現象が起こっているように思
分の時間が必要になるからです。
です。このように、親子はコミュニ
います。
ケーションを通して共に発達する、
同時に、身体能力の低下も気にな
「共発達」の関係にあることを示す
ります。走る、跳ぶ、投げるといっ
この時期は子どもに自分の意志が生
次に紹介するのは、現在も継続し
足などが原因と推測していますが、
まれてくる頃で、いろいろなことを
ている2歳児の行動の変化に関する
体が動かないことは新しい体験への
意欲的にやりたがるのですが、何が
研究です。
意欲がわかなかったり、行動範囲が
してもよいことで何はしてもいけな
13 年ほど前からある子育て支援施
狭まったりすることにもつながり、
いことなのかがわからなかったり、
設で2歳児親子を対象に親子遊びや
大きな問題だと感じています。今後
言葉をまだ巧みに話せなかったりす
保育活動の実践に携わってきました
は実態の解明や改善のための方法な
るため、自分の意に沿わないことが
が、10 年前と比べて、反抗や自己主
どについて、検討していきたいと考
あった時には、泣き叫んだり物を投
張の仕方が変化してきていることに
えています。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 67
卒業後の進路
ます。便利な生活や基本的な運動不
教育
たと指摘する保育関係者も増えてい
臨床心理学
子の「共発達」に関する研究です。
で転んだり、歩ける距離が短くなっ
社会心理学
のは、1、2歳児の時期における親
らかに低下しています。少しの段差
発達心理学
研究を紹介します。最初に紹介する
2歳児の行動に変化
反抗する子どもが減り
身体能力も低下
た基本的な身体能力が、以前より明
認知心理学
発達心理学研究の例として、私の
ことができたのです。
入試情報
親と子どもが共に変化する
「共発達」
概説
を持っています。
注目の学部・学科
社会心理学
追手門学院大学 心理学部 心理学科
教授
人の心は、周囲の人々や組織、文化など、
外部の環境から大きな影響を受ける。
社会心理学は、心理学が扱う心のはたらきの中でも、
対人関係、組織と個人の関わりなど、
特定の社会的状況の中に置かれた人の心のはたらきや、
人と社会との関係などを研究する。
研究テーマも恋愛、消費行動、経済格差、文化的差異など多岐にわたる。
近年は脳科学との連携も進みつつあり、文系・理系の枠を超えて、
人の心と社会との関係を追究する学問分野として発展している。
浦 光博
恋愛関係から消費行動、
文化による行動の違いまで
あらゆる人間活動を
人と社会の関係に着目して分析
価値観と、その集団内部の人々の行
動の関係を捉えようとする社会的ア
イデンティティの研究などが一例で
す。
「社会」の研究では、人々と社会
の関係を考えます。例えば、投票行
動や消費行動がどのように社会を変
えたのか、あるいは社会の影響で投
票行動や消費行動がどう変わったの
かなどを分析します。
「文化」の研究
では、例えば西欧と東アジアなど文
人の存在によって変化することがわ
化的背景の違いが、人々の心の動き
かってきたことから、社会心理学が
にどのような違いを生み出している
誕生しました。1897 年、1人で作業
のかを追究します。
するときと、他人と一緒に作業する
社会心理学も他の心理学の分野と
社会心理学は、社会学と心理学の
ときでは、パフォーマンスが明らか
同様、実験が中心的な手法ですが、
境界に位置しており、かつては、社
に異なることを示す実験が行われま
質問紙などを使った調査的な手法も
会 を人 の心 が反 映 されたものとし
したが、これが社会心理学で最初の
よく用います。ただし人の行動は個
て捉え、その社会の状況を描写す
実験とされています。
人差が大きく、その影響を相殺して
る「社会学的社会心理学」と、社会
社会心理学は、人と社会の関わり
一般的な傾向を知るためには、調査
の在り方が個人の心にどのような影
方によって、主に「自己」「対人関
対象者数を多くする必要があります。
響を与えるのかを記述する「心理学
係」
「集団力学」
「社会」
「文化」の5
そのため、社会心理学の研究では、
的社会心理学」に分かれていました。
つの研究分野に分かれています。
膨大なデータを処理するのに高度な
しかし、人と社会は常に双方向的に
「自己」の研究では、自分と自分
統計手法が要求されます。ただ、現
影響を及ぼし合うため、現在では両
の関係、すなわち人は自己をどのよ
在はさまざまな分析用のソフトウェ
者の区別はほとんどなくなり、
「人と
うに捉えて、それが心や行動にどん
アが揃っているため、その使い方さ
人」
「人と集団」
「集団と集団」など
な影響を与えるかを追究します。例
え熟知すれば、数学が苦手な人でも
の関係を心理学的に分析し、
「特定
えば「自尊心」の研究であれば、自
研究は可能です。
の社会的状況における人の行動」や
尊心の高い(低い)人の特徴や、自
「人々が特定の行動をとるときの社
尊心の高さ(低さ)の行動への影響
会の様相」を科学的に説明する学問
などを解明しようとします。「対人
として展開されています。
関係」は、個人と個人の関係を扱い
当初の心理学は、ものの見え方や
ます。例えば恋愛に伴う心のはたら
私は、社会的排斥の研究を 10 年
聞こえ方、感情の動きなど、主に個
きを記述しようとします。「集団力
近く続けてきました。社会的排斥と
人の心の振る舞いに焦点を当ててい
学」は、集団と個人の関係を扱いま
は、所属する社会集団から仲間外れ
ました。しかし、心の振る舞いは他
す。自分が属している集団に対する
や除け者にされたり、無視などの拒
人間と社会との
双方向の影響過程を
実験や調査で明らかにする
68 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
実験や質問紙調査から
孤立や排斥の経験は
自己制御力を低下させると判明
第29 回
心理学
<図>経済的豊かさ-貧しさが自己制御力を介してダークサイドに堕ちる傾向
に影響する
.20**
絶を受けたりすることです。社会的
自己制御力
-.27**
排斥が人の心にどんな影響を及ぼす
経済的豊かさ
(世帯年収)
のかを調べるために、さまざまな実
験や調査を行いました。
「説得納得ゲーム」を用いた実験
もそうした研究の一つです。20 人く
苦境に立ったときダーク
サイドの人と手を結ぶか
(注)
数値はパス係数と呼ばれるもので、値が大きいほど影響が大きいことを意味する。プラスの値は一
方が高まると他方も高まることを、
マイナスの値は一方が高まると他方が低くなることを意味する。
たりしている人は、自己制御力が下
社会の不安定さを増大させる可能性
は聞いてくれる人を見つけ、うまく
がっているため、衝動を満足させる
があることもわかってきました。経
説得できると次の相手を探して同じ
ために甘い物に手を出しやすい傾向
済格差が大きい地域と小さい地域を
ように説得します。
があります。
比較すると、格差の大きい地域ほど
このようなゲームでは、最初に説
人は、短期的な衝動や欲求を満た
互いの排斥傾向は強まります。格差
得される方のグループの中に、多く
すか、それと相反する長期的な利益
が大きいと、貧しい層は豊かな層に
の人から説得を受ける人もいれば、
を優先するかの選択を常に迫られな
行くことを諦め、豊かな層に不合理
あまり相手にされない人もいるとい
がら生きています。その選択にかか
な憎しみを抱きます。加えて、貧し
う状況になります。すると、前半で
わる自己制御力に、社会的排斥の経
い層の人同士で少しでも優位に立と
説得側から相手にされた程度によっ
験がかなり大きな影響を及ぼすこと
うとして争いが起こります。ヘイト
て、後半に説得する側に回ったとき
が研究からわかってきたのです。
スピーチ(注)はまさにそうした例な
の行動に違いが出ます。前半であま
のです。
り相手にされなかった人の方がより
積極的にゲームに加わるようになっ
このように社会心理学は、若者に
身近な現象である恋愛から、経済格
差や政治、文化といった問題まで、
ら十分な関心を向けられなかった場
自己制御力と経済的な豊かさの関
非常に幅広いテーマを扱うことがで
合、そのことによって生じる心の苦
係についても研究を進めています。
きます。その幅広さは、フロイトが
しさから逃れるため、積極的に他者
例えば 20 ~ 50 歳 代 の社 会 人 約
「心理学はすべて社会心理学である」
との相互作用を求めるようになるこ
1,600 名を対象にした質問紙調査で、
「人生最大の苦境に陥ったときに、明
と述べているほどです。つまり、社
会心理学は人の心という切り口から、
らかにダークサイドにいる人間だが
社会のあらゆる現象に切り込んでい
を受けた経験の有無と行動傾向に関
必ず助けてくれる人と手を結ぶか」
くことができる学問だともいえます。
する質問紙調査や実験などを行った
という質問を投げかけると、世帯収
今後の展望としては、脳科学との
ところ、社会的排斥の経験は、人に
入が低い人の方が「手を結ぶ」と回答
連携が深まることが予想されます。
「どうせ自分なんか」という自棄や
する割合が高いという結果が出まし
例えば私の研究では、社会的排斥を
怒り、抑うつ的な気持ちを起こさせ
た。長期的な利益を考えるとこうし
受けたときには身体的な痛みを受け
ること、その結果、目的を意識して
た人とは手を結ばない方が得策です。
たときと同じ脳の部位が反応してい
自分の行動をコントロールする「自
にもかかわらず「手を結ぶ」と回答
ることなどがわかっていますが、こ
己制御力」を低下させることがわ
した人は自己制御力が低いことを示
のほかにも属している文化によって
かってきました。例えばダイエット
しています。つまり経済的な豊かさ
特定の場面での脳の反応の仕方が違
をする時、仲間に囲まれ、周りから
も、自己制御力と相関があることが
うか、といったことなども研究され
期待されている人は、自己制御力が
明らかになってきたのです<図>。
ていくのではないかと考えています。
働くので甘い物を出されても我慢で
また、大きすぎる経済格差は、貧
(注)ヘイトスピーチ…国籍や人種、宗教など特定の属性を持つ集団への暴力や差別をあおったり、侮辱したりする行為。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 69
卒業後の進路
こうした実験に加え、社会的排斥
教育
とを示しています。
臨床心理学
たのです。この結果は、人が他者か
自己制御力は
経済的な豊かさとも相関
今後は脳科学との連携も
社会心理学
で立場を入れ替えます。説得する側
発達心理学
しい人たちの心の自己制御力を奪い、
認知心理学
きます。一方で孤立したり拒絶され
入試情報
る側とされる側に分け、前半と後半
概説
(浦先生提供)
らいの被験者のグループを、説得す
注目の学部・学科
臨床心理学
東京大学大学院 教育学研究科 臨床心理学コース
下山 晴彦
臨床心理学は、心の問題を抱える人に対して、
その原因を探り、改善を図ることを目的としている。
人の心のはたらきに関する一般的な法則を見出そうとする心理学の中でも、
それらの法則を利用して問題行動の改善を行うという実践を
重視している点に大きな特色がある。
近年は、幅広い治療法の中から
有効性が実証されたものを選択して実践したり、
治療の評価・検討をしたりできる科学的視点を持った
専門家が求められている。
教授
問題行動を起こす原因や
メカニズムを探り
効果的な方法を適用して
改善を図る
集合体として認識されています。
しかし欧米では、こうした状況を
既に脱し、医療的治療が必要な精神
疾患も含めた多様な問題行動につい
て治療結果を積み重ね、問題行動ご
とに、どの治療法が効果があるかに
ついての研究が進んでいます。その
知見を踏まえて、優先的に各問題行
基づく洞察と、科学的考察という、
動に効果の高い治療法を適用する
2つの全く異なるアプローチを源流
「科学的な臨床心理学」として再構
に持ち、それらが混ざり合いながら
成されつつあり、日本の臨床心理学
発展していきました。その後もさま
もその方向をめざすことが望ましい
臨床心理学は心の問題で支援を必
ざまな理論や治療法ができました。
でしょう。
要としている人に対する実践活動を
例えば、人の問題行動は学習だけで
さらに「科学的な臨床心理学」は
基本としています。そのため、通常
なく考え方(認知)の偏りによるも
効果が高い治療法を適用するだけで
の健康な人の心ではなく、問題行動
のだとして、 考 え方 の転 換 を促 す
なく、治療で得られた結果を科学者
を起こしている人の心を主な研究対
「認知行動療法」
、人の心には無意識
としての視点から客観的に評価した
象としています。問題を抱えた心に
の部分だけではなく、個人の価値観
り、他の患者に応用したりして発展
向き合い、その改善を助ける実践的
なども強く影響していると考え、患
させていきます。このように実践だ
な学問が臨床心理学なのです。
者(クライエント)の主体性を尊重
けでなく科 学 的 検 討 を行 うことも
臨床心理学には2つの起源があり
することで解決をめざす「クライエ
「科学的な臨床心理学」の大きな特
ます。1つは精神分析、もう1つは
ント中心療法」
、心の問題は家族内
徴です。
行動主義・行動療法と呼ばれる考え
でのト ラ ブ ル に問 題 があるとする
こうした治療や科学的検討を行う
方です。精神分析はフロイトによっ
「家族療法」
、家族よりむしろ地域の
には、有効性が実証された技法・療
て提案された、人の心に関する理論
抱える問題に端を発していると考え
法の実践的技術や心理学の研究手法
と治療技法の体系です。ノイローゼ
る「コミュニティ心理学」などがあ
など、幅広い力を身につけなくては
患者などの実際の治療の過程から心
ります。
なりません。そのため、海外の多く
問題を抱えた心に向き合い
その改善を助ける
実践的な学問
の機能を捉えようとしました。行動
主義・行動療法は科学的な心理学を
基礎とした考え方です。実験を通し
て心の法則を見つけ、それを応用し
さまざまな治療法の集合体から
科学的な知見を元に
治療法を選択、実践する学問へ
の国では、臨床心理学の専門家とし
て認定されるには博士課程修了が義
務づけられています。日本では指定
大学院の修士課程等(注)を修了すれ
て問題行動を解決しようとします。
日本の臨床心理学は、このような
ば臨床心理士の受験資格が得られま
このように臨床心理学は、経験に
専門分化した多くの理論や治療法の
すが、臨床心理学の専門家としては、
(注)日本では日本臨床心理士養成大学院協議会が認証している指定大学院、もしくは国から認証を受けた臨床心理士養成のための大学院専門職学位課程を
修了すると臨床心理士資格審査を受験することができる。
70 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
心理学
<表>学問としてのカウンセリング、心理療法、臨床心理学の違い
自分の実践を科学的に評価する姿勢
カウンセリング
心理療法
臨床心理学
対象
健康な側面の成長促進
心理的苦悩の改善や
パーソナリティ変化
さまざまな問題(精神
的、情緒的、行動的、
身体的)の解決
特徴
共感とガイダンスによ
る単純な介入
セラピストとクライエ
ントの関係を重視した
介入
アセスメント、介入、
コンサルテーションか
ら成る方法を適用
人間的成長を重視
学派によって理論が異
なる
心理学の研究方法が基
盤
と能 力 を身 につける必 要 があるで
しょう。
なお、
「科学的な臨床心理学」は
カウンセリングやさまざまな心理療
法を技法のひとつとして用いますが、
独自性
(下山晴彦「臨床心理学をまなぶ1 これからの臨床心理学」
(2010、東京大学出版会)より)
概説
海外ではこれらは心理学とは別の分
ばく ろ ほう
具体的な研究例として、以前、私
究成果があったため、2000 年頃から
進させることを目的とします。教育
が大学の学生相談所に勤めていた頃
治療に取り入れました。高い効果が
学など、心理学以外の幅広い知見も
に取り組んだスチューデント・アパ
実証できましたが、発達障害に由来
利用した総合的な人間援助を行うも
シー(学生の無気力症)を紹介しま
するこだわり傾向が強い人には効果
ので、カウンセラーの専門性よりも
しょう。スチューデント・アパシー
が少ないこともわかってきました。
人間性を重視する傾向があります。
とは無気力になって勉強する気がな
そこで、この数年は発達障害のこだ
心理療法は、幅広い治療法から選択
くなる症状で、どんな療法も効果が
わりと、強迫性障害の強迫行為を見
して治療をするのではなく、専門と
ありませんでした。分析の結果、無
分ける方法や、曝露法に代わる有効
する特定の療法の理論に基づいた技
気力ではなく、
「悩めない」ことが問
な方法の研究に取り組んでいます。
法だけを適用して、心理的苦悩など
題だとわかってきました。臨床心理
さらに、このような臨床経験を踏
を持つ患者を治療することが目的で
学の方法の多くは、悩んで自分を見
まえて認知行動療法を多くの方に幅
す。心理療法を行うセラピストは技
つめることで行動を変えることを促
広く活用していただくウェブサービ
法が適用できるかの検討は行います
すものなので、悩めない学生には効
ス開発のために「
『心いき』東大プロ
が、科学的な研究はあまり行いませ
果がなかったのです。調べると、幼
ジェクト」を立ち上げました(http://
ん。またその理論や技法も心理学に
い頃から「良い子」として育った学
kokoroiki-todai.com/)。 認 知 行 動
依拠している必要はありません。
生が多いことに気づきました。失敗
療法はセルフヘルプ(患者が自分で
つまり、カウンセリングや特定の
の経験が少ないため、悩んだ経験も
問題を解決すること)が可能なので、
心理療法を学ぶだけでは「科学的な
希薄です。そのため「良い子」でい
心の問題で悩んだ時にウェブ上でセ
臨床心理学」を身につけたとはいえ
られなくなった時にどうしたらいい
ルフチェック、セルフヘルプを試し、
ません。科学的な態度で有効な技法
かわからず、現実から逃げるしかな
うまくいかなければ専門家を訪ねる
を見極め、使いこなす姿勢が必要で
かったのです。原因がわかったので、
という仕組みを作り、有効な治療を
す。日本ではいずれも臨床心理学部
少しずつ悩む経験をしてもらうため
簡単に受けられるシステムを構築し
(学科)で学べますが、それぞれの関
に、家族療法やコミュニティ心理学
ています。
係性を理解し、自分が何を学ぼうと
などの方法を使いながら、安心して
臨床心理学の魅力は、実践のプロ
しているのかをよく理解した上で進
失敗し悩むことができる場を作って
セスや研究を通して、人間の本質に
学・学修することが望ましいでしょ
いきました。
触れることができる点です。患者の
う。
近年は認知行動療法を用いた治療
問題行動が改善されるのは、治療時
にも取り組んでいます。忘れ物や鍵
に予想した原因や行動のメカニズム
のかけ忘 れ、 菌 による汚 染 などの
が真実だったからで、それは人間の
「強迫観念」にかられ、何度も鞄の中
本質に通じるものです。患者と一緒
身や戸締まりを確認し、手洗いを繰
に人間の本質に少しずつ触れられる
臨床心理学の研究は、問題行動が
り返すといった「強迫行動」を起こ
ことに大きな喜びを感じています。
起きている原因を探り、どうしたら
す「強迫性障害」には、認知行動療
認知行動療法を
広く浸透させるための
ウェブサービスを開始
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 71
卒業後の進路
比較的健康な患者の人間的成長を促
教育
る方法)が有効だという海外での研
臨床心理学
ることで問題解決をめざします。
社会心理学
ウンセリングは面接などを通じて、
発達心理学
法による曝露法(不安な状態に耐え
認知心理学
改善できるかを考え、それを実践す
入試情報
野として区別しています<表>。カ
注目の学部・学科
教 育
筑波大学 人間学群 心理学類
綾部 早穂
教授
調査・実験や統計処理など
心を科学的に探究する方法を
修得する
心理学は心の動きを科学的に検証することをめざしている。
そのため心理学の研究では、実験や調査を行って
客観的な根拠を集めたり、得られたデータの信頼性を高めるために
統計処理を行ったりすることが欠かせない。
心理学部・学科の教育でも、理論や知識を学ぶことに加え、
こうした実験や調査、統計処理等について学ぶことが重視されている。
ここでは筑波大学人間学群心理学類のカリキュラムを例に、
大学における心理学の学びを紹介する。
る普遍的な法則を導くことを目的と
していますが、世界中の人全員に実
験・調査をするのは不可能です。そ
こで一部の人にだけ実験をし、そこ
で得られたデータから誤差や偏りを
取り除く操作をして、普遍的な法則
が各領域について交代で講義を行う。
を推定しようとします。この操作が
一部には臨床心理学など特定の分野
統計処理で、心理学の研究では極め
しか知らない学生など、心理学に対
て重要です。実際、統計処理のされ
筑波大学人間学群心理学類では4
する偏ったイメージや誤解を持った
ていない卒業論文はありません」
年次に研究を行い、卒業論文を書く
まま進学してくる学生もいるため、
「心理学方法論」は、心理学の研
ことを目標に、心理学研究のための
それを正すことにもつながっている。
究方法を学ぶ科目だ。実験計画の立
知識や技術を段階的に身につけられ
平行して研究に必要な技法も学ぶ。
て方、質問紙調査の調査項目の作り
1年次は心理学の幅広さや
統計の重要さについて学ぶ
「心理統計Ⅰ・Ⅱ、心理統計実習Ⅰ・
方など、心理学研究には多様な技法
<図>。
Ⅱ」は、実験や調査で得たデータの信
があることやその内容について理解
まず1年次には、心理学の主だっ
頼性を高めるために、統計的に処理
するのが目的だ。
た分野の概観をつかむことを狙いと
する方法を学ぶもので、講義と実習
「心理学体験実習」では、先輩た
して、
「心理学Ⅰ・Ⅱ」を開講してい
を週に各2コマ履修する。講義では
ちの卒業論文や修士論文で実施され
る。心理学の代表的な教科書である
統計の理論を学び、実習では大学院
る実験・調査に参加する。
「ヒルガードの心理学」
(英語版)を
生による指導のもと、グループごと
「質問紙調査に回答するなど学生
使い、実験心理学、教育心理学、発
に実際に統計処理を行う。統計を学
自身が調査の協力者になったり、実
達心理学、社会心理学、臨床心理学
ぶ意義を綾部教授は次のように語る。
験参加者になることで 0.5 単位を認
の、心理学の主要研究5領域の教員
「心理学は人間の心や行動に関す
定しています。単位数はわずかです
るようカリキュラムを設計している
<図>筑波大学 人間学群心理学類のカリキュラム
知識の獲得
1年
2年
3年
発表と討論
研究技法の習得
心理統計Ⅰ・Ⅱ
心理統計実習Ⅰ・Ⅱ
心理学Ⅰ・Ⅱ
実践・実習
心理学方法論
心理学体験実習
○○心理学
講義
心理学英語
セミナー
心理学基礎実験
心理学研究法Ⅰ
○○心理学
特講
○○心理学
演習
心理データ解析
心理学研究法Ⅱ
卒業研究セミナー
4年
卒業研究
(筑波大学ホームページより作成)
72 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
心理学
最初から決めている学生であっても、
研究を行う上での作法を具体的に体
結果をまとめる方法も学びます。実
他の分野を全く知らないで研究する
験することができます。そのため1
験の目的、方法、結果、分析、考察と
のと他の分野を知った上で研究する
年次での履修を強く薦めています」
いった要素を踏まえてレポートをま
のとでは、 研 究 の質 や発 展性が異
とめるのは、初めて実験を行う学生
なってくるはずです。多様な分野に
にとってかなり難しいことです。し
触れるうちに関心のある分野が変わ
かも、同時期に開講される、学術雑誌
る学生も多くいます。本学では心理
に掲載された英語の研究論文を読む
学を幅広く学ぶことに大きな意義が
2年次には「心理学基礎実験」を
『心理学英語セミナー』でも課題が出
あると考えています」(綾部教授)
履修する。8種類の代表的な実験を
ますから、2年次の学習は相当ハー
3年次にはこのほか、外部の著名
毎週実施し、次週までにレポートに
ドです。しかし、これらを乗り越え
な研究者に集中授業を依頼して開講
まとめて提出する。例えば実験心理
ることで、卒業論文をまとめる基本
する「心理学特講」(犯罪心理学な
学の実験としては、3文字の単語を
的な力が身につくため、教員も力を
ど)や、多変量解析など高度な統計
20 個、1秒おきにスクリーンに投影
入れて指導しています」(綾部教授)
処理を扱う「心理データ解析」が開
し、何番目の単語をよく覚えている
「心理学研究法」は2年次秋学期
講される。学生は自分の興味・関心
かを測定する「系列位置効果」の実
にⅠ、3年次春学期にⅡを履修する。
に応じて履修する。
験を行っている。全員のデータを集
研究室に入って大学院生や教員の研
4年次は1年間かけて「卒業研究」
めて分散分析の統計処理を行い、最
究の一端を担うもので、
「心理学体験
に取り組む。指導教員は3年次の
初の単語と最後の単語が記憶に残り
実習」と異なり、教員や大学院生の
11 月に決定し、1~2月の「卒業
やすいという「初頭効果」と「新近
指導を受けながら、実験や調査活動
研究セミナー」で卒業論文のテーマ
効果」を確認する。このほか、精神
の一部を責任を持って担当する。研
を決める。大半の学生は、3年次ま
物理学的測定法として、同じ長さの
究テーマは大きく実験系と調査系に
でに卒業論文以外の単位を全て取得
線分に内向き・外向きの矢羽をつ
分かれるが、ⅠとⅡで必ず異なる系
しているため、「卒業研究セミナー」
けると長 さが違 っ て見 える「 ミ ュ
統の研究テーマを選択することに
以降は、3年次までに身につけた研
ラー・リヤー錯視」や、一般的に暗
なっている。卒業論文に向けた準備
究方法や知識を生かして、研究を進
い場所を好むマウスを明室と暗室が
の意味もあり、修了後はレポート提
めていく。
つながった箱に入れ、明室から暗室
出と 10 分間のプレゼンテーション
「心理学を学びたい高校生の皆さ
に移動すると電気刺激を受ける経験
を課している。
んには、高校では教科の偏りなく学
(綾部教授)
2年次には実験・調査と
統計処理を体験
をさせるとその後は暗室へ移動しな
くなる「受動的回避学習」の動物実
験などを体験する。また性格検査や
知能検査などの検査法や質問紙調査
幅広い分野や
研究方法について学んだ上で
卒業論文に着手
んでほしいと思います。筑波大学で
は今年度から入試科目に国語も選択
できるようになりました。また、数
年前に理科を選択できるようにした
なども行う。
2・3年次には、専門科目として、
ことから、近年は理系出身の学生が
「この授業では、実験・調査から統
心理学の各領域ごとに講義と演習が
多くなりました。心を科学的に分析
計処理までの一連の流れを体験しま
開講されている。講義は5領域、演
するためには実験・調査や統計も必
す。心理学類での実験・調査は理論
習は3領域から最低でも1科目ずつ
要ですから、それらに苦手意識がな
に関する学びを深めるという意味で
履修する。
い方がよいでしょう。また、何より
も、自分が研究する際に必要な技術
「幅広い分野の講義や演習、また
人の行動や心のはたらきに対して不
を身につけるという意味でも、とて
実験系と調査系の両方の研究に参加
思議に思う気持ちを持っていてほし
も重要です。実験後には、どんな統
させるのは、心理学を学ぶ以上は心
いと思います」(綾部教授)
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 73
卒業後の進路
う場にもなっています。また、実験
教育
の方法や注意点、実験後の挨拶など、
臨床心理学
思いがあるからです。自分の専門を
社会心理学
年生で学んだ統計の知識を実際に使
発達心理学
みならず、実験・調査への協力依頼
認知心理学
理学の全体像を把握してほしいとの
入試情報
計処理が必要か学生に考えさせ、1
概説
が、実際の研究内容に触れることの
注目の学部・学科
卒業後の進路
専門性を生かす職業には大学院進学が必要
学部卒業者は幅広い分野に進出
心理学を生かした職業といえば、病院で働く臨床心理士や、
学校で心の相談に乗るスクールカウンセラーなどがまず思い浮かぶだろう。
心理系の進路を見ると、これらの仕事に必要な臨床心理士資格取得のため、
文系の他系統に比べて、大学院に進学する割合が高い。
ただし、心理学に関わる就職をする卒業生はごく一部で、大半は学部卒業後に民間企業に就職する。
心理学の学びを通して身につけた、コミュニケーション力や問題解決力、
データを扱う力などを生かして幅広い分野で活躍している。
れほど大きな違いはなく、幅広い分野に進出している。
大学院進学率が高く
情報系、医療・福祉系にも進出
例えば、産業別に見ると、他系統と同様に、
「卸売業・小
売業」(24.6%)、「金融業・保険業」(11.3%)などが多
心理学は、心理学部以外にも、文学部や教育学部の心
い<図表2>。「医療業・保健衛生、社会福祉等」が
理学科など幅広い学部・学科で学ぶことができる。そこ
7.3%(文系全体 4.5%)とやや高いのは、心理学科が、例
で、ここでは、文系の幅広い系統の学部を擁する 10 大学
えば現代福祉学部など福祉に関連する学部に設置されて
を抽出した上で、名称に「心理」が含まれる学部・学科
いることがあり、精神障がい者の相談・援助などを行う
(以下、心理系)と、それ以外の系統を比較し、心理系出
精神保健福祉士などとして就職する学生がいるためと考
(注1)
身者の進路の特徴を見ていく
。
えられる。
状況別に見ると、大学院等への進学率は、文系全体で
職業別に見ても、他系統と大きな差はなく、
「事務従事
5%であるのに対して、心理系は 12%と高い<図表1>。
者」
(40.1%)
、
「販売従事者」
(37.4%)として就職する割
後述の臨床心理士資格取得に大学院修了が必須であるこ
合が高い<図表3>。そのほかでは「情報処理・通信技
となどが要因と考えられる。
術者」にも進出している。心理学の研究では実験や調査
学部卒業者の就職先については、他の文系の系統とそ
を行い、得られたデータを統計処理する。そのため、心理
系出身者は研究を通して、大量のデータを集めたり、集め
<図表1>学士課程卒業後の進路(状況別)
文系全体
79%
心理
67%
文・人文
75%
社会・国際
83%
法・政治
76%
経済・経営・商
83%
0
20
40
たデータを読み取る力を身につけている。こうした力や
5% 16%
12%
20%
6% 19%
経験を生かした就職をしている学生もいると考えられる。
■就職者
■進学者
とはいえ、一般的には「心理学は文系の学問」という
■その他
イメージが強く、心理系の学生がこうした力を身につけ
4% 13%
ていることはあまり知られていない。そこで日本心理学
5% 19%
会では学会認定資格「心理調査士」の創設を検討してい
3% 14%
60
80
る。心理学の知識をもとに、実験、アンケート、インタ
(%)
100
ビュー、フィールドワークの調査
<図表2>就職者の産業別割合
医療業・
情報通信業 保健衛生、
社会福祉等
卸売業・
小売業
金融業・
保険業
製造業
文系全体
19.6%
15.4%
11.7%
7.6%
心理
24.6%
11.3%
8.3%
文・人文
20.4%
10.8%
10.6%
社会・国際
17.0%
13.3%
法・政治
15.8%
経済・経営・商
21.7%
ができることを証明する資格だ。
企 業 での商 品 開 発 などではアン
公務
その他
4.5%
6.2%
34.9%
8.1%
7.3%
4.8%
35.5%
ることが重要であるため、資格の
7.0%
3.6%
3.8%
43.8%
11.9%
7.8%
11.2%
5.2%
33.6%
創設により、心理系の学生がこう
17.0%
11.1%
7.2%
1.8%
16.1%
31.1%
した調査の実施・分析の場面で活
20.3%
13.4%
8.2%
1.9%
4.5%
30.1%
躍できることをより広く知ってほ
ケート調査などで人々の嗜好を知
(注1)数値は朝日新聞社・河合塾共同調査「ひらく 日本の大学」(2014)による。系統別比較の対象としたのは駒澤大、東海大、法政大、立教大、立正大、
中京大、南山大、龍谷大、追手門学院大、関西学院大。
74 Kawaijuku Guideline 2015.4・5
第29 回
心理学
<図表3>就職者の職業別割合
専門的・技術的職業従事者
管理的職業
サービス職業
事務従事者 販売従事者
従事者
従事者
その他
研究者
情報処理・
通信技術者
その他の
技術者
教員
医療・保健
その他
文系全体
0.0%
2.8%
0.4%
2.3%
0.4%
4.3%
0.1%
43.3%
36.0%
3.4%
6.9%
心理
0.1%
3.8%
0.7%
0.5%
0.7%
4.2%
0.0%
40.1%
37.4%
5.4%
7.3%
文・人文
0.0%
2.7%
0.6%
6.3%
0.2%
6.6%
0.1%
39.7%
32.6%
4.2%
7.1%
社会・国際
0.0%
1.9%
0.2%
1.7%
1.2%
7.6%
0.2%
38.7%
37.8%
4.7%
6.0%
法・政治
0.0%
2.7%
0.7%
0.6%
0.1%
2.1%
0.1%
51.4%
30.5%
1.4%
10.4%
経済・経営・商
0.0%
3.4%
0.4%
0.4%
0.1%
1.4%
0.1%
46.0%
40.0%
2.6%
5.7%
(図表1〜3は 2014 年度「ひらく 日本の大学」調査による)
しい考えだ。
臨床心理士になるには、指定大学院への進学が必要
臨床心理士の資格を取得せず、学部卒業時点で心理学
の非行などの家庭裁判所が扱う事件の調停に必要な各種
として広く認知され、病院等で心理相談に応じる心理職
調査とその報告が主な業務だ。例えば非行をした少年の
や、スクールカウンセラーなどになるためには必須と
生育歴や動機、生活環境などを、面談や心理テスト、家
いっていい。
庭や学校への訪問を通して調べたりする。裁判所職員採
臨床心理士になるには、臨床心理士資格審査に合格す
用総合職試験に合格することが必要で、2014 年度の合格
る必要がある。同協会の指定する大学院修了が受験資格
率は大卒程度試験で7%、院卒者試験で 11%となってい
で、筆記試験(多肢選択方式・論文記述)と面接試験が
る。採用後に2年間の養成研修を経て任命される。
課される。合格率は例年6割前後だ。大学院には第1種
法務省専門職員も心理学の知識を生かせる。法務省専
指定大学院、第2種指定大学院、専門職大学院の3種類
門職員は、矯正心理専門職、法務教官、保護観察官の各
がある。第 1 種指定大学院と専門職大学院は修了後すぐ
区分で採用された職員のことで、法務省専門職員(人間
に受験資格が得られるが、第2種指定大学院は、修了後
科学)採用試験で採用される。矯正心理専門職は、少年
1年以上の実務経験が必要だ。合格後は5年ごとに再認
鑑別所や刑務所などで、心理学の知識を生かして非行や
定を受けることが義務づけられている。
犯罪の原因の分析や、立ち直りに向けたプログラムを行
臨床心理士の仕事は、主に「臨床心理査定」
「臨床心理
い、法務教官は、少年院や少年鑑別所などに勤務し、性
面接」
「臨床心理的地域援助」および「それらに関する調
犯罪・薬物依存などの指導や、社会復帰のための就労支
査・研究」の4種類だ。
「臨床心理査定」は心理テストや
援や教科指導等を行う。また、保護観察官は、犯罪者や
面接などを通して心にどんな問題を抱えているかを明ら
非行少年が自立できるよう、心理学や教育学、社会学等
かにすることであり、
「臨床心理面接」はさまざまな臨床
の知識に基づき、観察など再犯・再非行の防止と、住居
心理学的技法を用いて患者を支援する臨床心理士の中心
や就職先の調整など社会復帰のための指導や援助を行う。
的業務だ。
「臨床心理的地域援助」は、心に問題を抱えた
いずれも合格率は 10 ~ 20%ほどだ。
子どもを担当する教員へのアドバイスといった間接的支
このほかにも、警察庁の科学警察研究所で犯罪の捜査・
援など、学校や職場、地域で心の問題が起きにくい体制
鑑定に関わる心理学研究を行ったり、地方公務員として
作りに関わることを指す。
児童相談所で心理検査やカウンセリングを行うなどの進
臨床心理士の活動領域は、病院の精神科・心療内科、リ
路もある。だがいずれも採用数は少なく、募集がない年
ハビリテーションセンターなど「医療・保健」が31%、学
もあるので、早めに各機関のホームページなどで確認し
校や教育センターなどの「教育」が 26% と多い。このほ
たい。
か「大学・研究所」が 19%、児童相談所などの「福祉」
心理系出身者は、心理学の知識や技能に加え、人を多
が 13%、少年鑑別所など「司法・法務・警察」が4%と
面的に見る姿勢やコミュニケーション力、研究を通じた
なっている。また、非常勤として勤務する割合が高いこ
問題解決力などを身につけている。それらを生かして幅
とも知っておきたい
。
広い分野で活躍しているといえそうだ。
(注2)活動領域、就業形態とも、日本臨床心理士会「第5回 臨床心理士の動向ならびに意識調査」報告書(2009)による。就業形態について「常勤の
み」は 32%、
「常勤+非常勤」は 16%、「非常勤のみ」は 46%。
Kawaijuku Guideline 2015.4・5 75
卒業後の進路
士」は、心の問題を抱えた人の支援を行う専門家の資格
教育
例えば家庭裁判所調査官は、家庭内の争いや、未成年
臨床心理学
人日本臨床心理士資格認定協会が認定する「臨床心理
社会心理学
系の国家公務員・地方公務員がこれにあたる。
発達心理学
団体が認定する資格が多数ある。なかでも、公益財団法
認知心理学
の知識や技法を生かせる職業に就職する道もある。心理
入試情報
心理学に関する資格は、国家資格はないものの、民間
(注2)
概説
学部卒で専門を生かせる心理系公務員への道