徹底分析

特集
介護報酬 改定
徹底分析
過去最大級の厳しいマイナス改定となった2015年度介護報酬改定。基本報酬
は大幅に引き下げられ、中重度者や認知症対応を評価する加算などをいかに算定
するかが今後の経営を左右する。サービス別の改定内容を徹底解説するとともに、
事業者への影響度を分析した。
(永井 学、黒原 由紀)
NIKKEI Healthcare April 2015
基本報酬は大幅ダウン
加算で機能強化を促す
20
基本報酬は5%超のマイナスが続出
加算算定できなければ大幅減収も
全体動向
22
インタビュー
25
厚生労働省老健局老人保健課長・迫井正深氏
居宅サービス
26
通所介護 小規模型は基本報酬が約10%ダウン
35
訪問介護/訪問入浴介護 「見た目増収」でも収益性は低下
31
36
37
38
40
介護保険のリハビリテーションは “原点回帰”へ
通所リハビリテーション 生活支えるリハビリの提供促す報酬に
訪問看護 看護体制強化加算の算定で増収も
訪問リハビリテーション 社会参加支援加算で
「卒業」評価
短期入所生活介護 地域区分の見直しで都市部に配慮
特定施設入居者生活介護 ショートステイの算定要件を緩和
居宅介護支援
42
居宅介護支援 特定事業所集中減算への対策が重要
地域密着型サービス
43
認知症対応型共同生活介護 基本報酬ダウンへの対抗策乏しく
46
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 通所サービス利用の減算緩和で恩恵
50
看護小規模多機能型居宅介護 訪問看護の提供が少なければ減算に
44 認知症対応型通所介護 新オレンジプランで
「共用型」推進へ
48
施設サービス
小規模多機能型居宅介護 経営改善図る新設加算が続々
51
介護老人福祉施設 軽度者の基本報酬は6%超マイナスも
56
介護療養型医療施設 「療養機能強化型 A・B」を新設
55
介護老人保健施設 在宅復帰支援を引き続き促す内容に
April 2015 NIKKEI Healthcare
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特集 徹底分析 2015年度介護報酬改定
全体動向
基本報酬は5%超のマイナスが続出
加算算定できなければ大幅減収も
指針には、
リハビリは心身機能の維持・
サービス事業者)
といった声もある。こ
向上だけでなく、ADL・IADL向上によ
うした意見をけん制するように、介護職
る日常生活動作の維持・改善といった
員処遇改善加算の取得後に経営悪化
「活動」や、社会生活への「参加」など
などの理由で賃金水準を下げざるを得
図3◉介護職員処遇改善加算のサービス別加算率
サービス
加算(I)
算などの形で導入された。通所介護で
リでは生活機能の向上を促す加算が新
期間にわたり収支が赤字に陥ったり、資
による財源不足を背景に、全体の改定
は中重度者ケア体制加算や認知症加
設された。背景には漫然としたリハビリ
金繰りに支障が生じるなどの状況にあ
率はマイナス2.27%で決着した2015年
算、訪問看護では看護体制強化加算と
の継続による介護保険給付の増大を抑
ること、
(2)
(1)の状況が改善した場合
度介護報酬改定。適正化の名目で基
いった加算が新設。認知症対応型共同
制したい狙いもあるとみられ、次期改定
は、賃金水準を引き下げ前の水準に戻
本報酬を中心に4.48%引き下げる一方、
生活介護(グループホーム)では新オレ
以降の「介護保険リハビリ再編」の始ま
す予定があること─である。
中重度者や認知症高齢者への対応と
ンジプランの後押しもあり、共用型認知
りを告げるものといってよい。
また届け出に際して労使の合意を得
いった重点項目を加算で評価するなど
症デイの推進策が示された。
ていなかった場合や、届出書が未提出
(IV)は(II)の80%を算定。
※(III)は(II)の90%、
メリハリを付けた(図1)
。各サービスの
「地域包括ケアシステムの構築に向
基本報酬を見ると、実際には5%を超え
けて、介護提供体制の進化が求められ
慢性的な介護人材不足の解消を目
かかわらず賃金水準を引き下げ前の水
る引き下げも多く、非常に厳しい内容だ。
る中、介護事業者は中重度者や認知症
的に、介護職員処遇改善加算が拡充さ
準に戻しておらず、悪質と認められる場
3 億8600万円を加えても約1.0%減、約
かの集合住宅の場合も20人以上にサー
高齢者への対応をより充実させてほし
れたのも今改定の注目点。介護職員1
合は、改定後に得た介護職員処遇改善
1億7300万円の減収という厳しさだ。
ビスを提供する場合は同様に10%減算
いという観点から見直した」
(厚労省老
人当たり平均で月額1万2000円相当の
加算の返還を求めることとした。事業
「このまま何も手を打たなければ赤字
とした(24ページ図4)
。
今改定の基本方針は、地域包括ケア
健局老人保健課)
。
給与アップになるように加算率が引き
者はマイナス改定で減収危機に直面す
に転落する」と代表取締役社長の髙橋
小濱介護経営事務所の小濱道博氏
システムの構築に向けた「中重度者や
また厚労省が強く打ち出したのが、
上げられた(図3)
。
る中で、介護職員の処遇改善は確実に
行憲氏は危機感をあらわにする。同社
は「高齢者住宅に併設した訪問介護事
認知症高齢者への対応強化」
「介護人
介護保険におけるリハビリテーションに
ただし事業者の中には「基本報酬が
実施しなければならない。
の収入の内訳は35%がグループホーム、
業所などが、単純にサービス提供回数
材確保対策の推進」
「サービス評価の適
対する問題提起。
「活動と社会参加に
これだけ大幅に引き下げられたら、経
35%が有老ホーム、10%が通所介護、
を増やすことで収入を確保しようとして
正化と提供体制の効率化」の3点に集
焦点を当てたリハビリの推進」が掲げら
営状況は当然悪化する。介護職員の賃
残りがその他のサービスだ。
「新設の加
も、ケアプラン点検などで不必要なサー
約されている(図2)
。
れ、訪問リハビリや通所リハビリの基本
金改善どころの話ではない」
(ある居宅
基本報酬の大幅な引き下げは、多く
算の算定も難しく、入居率や稼働率を
ビス提供とみなされるリスクがある。地
の事業者の経営に深刻な影響を与えそ
高め、コスト削減や業務効率化を徹底
域内で新規利用者を獲得し、集合住宅
うだ。東京・埼玉・神奈川県でグループ
するしか方策がない」
と髙橋氏は話す。
へのサービス提供の割合を下げる営業
ホームや介護付き有料老人ホーム、通
さらに今改定では適正化の観点から、
努力が必要になる」
と指摘する。
所介護などを計 242カ所で展開する
各サービス共通で集合住宅などの居住
(株)ウイズネット(さいたま市大宮区)
者に提供する際の減算が見直された。
は、2015 年 3 月期の売上高を約176 億
訪問系サービスでは、事業所併設の「同
このほか、今改定では地域区分が1
介護人材確保対策の推進
円、経常利益を2億円前後と見込む。
一建物」
となる集合住宅(養護老人ホー
〜 7 級地とその他の8 段階に見直され
しかし、改定後の報酬で試算すると、
ム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、
た。国家公務員の地域手当の区分変更
サービス評価の適正化と提供体制の効率化
介護職員処遇改善加算の増収分を除
サービス付き高齢者向け住宅)や隣接
に伴う措置だ。介護報酬では1単位10
くと約 3.2%減の約 5 億 5900 万円の減
する敷地内の集合住宅にサービスを提
円を基本に、都市部と地方の人件費な
収になった。処遇改善加算の増収分約
供する際は1人から減算の対象とし、ほ
ど地域差の解消を目的に、地域区分を
を、いかに加算で取り戻すかが課題となる。加算の算定が難しい場合は減収は必至。
人員配置の見直しやコスト削減など、厳しい経営改革への着手を迫られる。
中重度者シフト促し、
リハビリも再編
ない場合の取り扱いが追加された。
なければならない旨が規定された。
具体的には、次の2 点について記述
その第一歩として、あらゆる取り組み
した届出書を都道府県などに提出する
の土台となるリハビリテーションマネジ
必要がある。
(1)サービス利用者の大幅
メントが再構築され、
さらに通所リハビ
な減少などにより経営が悪化し、一定
賃金引き下げれば加算返還も
中重度者や認知症高齢者への対応
の強化という点では、数々の施策が加
図2◉2015年度介護報酬改定の三つの基本方針
1
図1◉2015年度介護報酬改定の内訳
・改定率
・介護職員処遇改善加算の拡充
(1人当たりプラス月1万 2000 円相当)
−2.27%
(在宅 −1.42%)
(施設 −0.85%)
+1.65%
・中重度者や認知症高齢者に対して良好なサービスを提供す
+0.56%
る事業所や地域に密着した小規模な事業所に対する加算
・収支状況などを反映した適正化など
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NIKKEI Healthcare April 2015
−4.48%
中重度者や認知症高齢者への対応強化
・地域包括ケアシステムの構築に向けた対応
・活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの重視
・看取り期における対応の充実
・口腔・栄養管理に関連する取り組みの充実
2
・介護職員処遇改善加算を拡充し、採用と定着を促進
3
・基本報酬などを引き下げて適正化を図るとともに、サービス
提供体制の強化を評価
だった場合、経営悪化から脱したにも
無策なら赤字転落の危機
4.8%
1.9%
2.2%
1.9%
3.3%
1.5%
1.1%
3.4%
3.3%
1.5%
1.1%
4.8%
4.8%
3.8%
4.2%
4.6%
3.4%
3.3%
4.2%
改定前の加算(I)
消費税率10%への引き上げの先送り
重点化と効率化がテーマになった今改定。介護事業者にとっては基本報酬の引き下げ
の生活機能の維持・向上を図るもので
8.6%
3.4%
4.0%
3.4%
5.9%
2.7%
2.0%
6.1%
5.9%
2.7%
2.0%
8.6%
8.6%
6.8%
7.6%
8.3%
6.1%
5.9%
7.6%
加算(II)
(介護予防)訪問介護
(介護予防)訪問入浴介護
(介護予防)通所介護
(介護予防)通所リハビリテーション
(介護予防)短期入所生活介護
(介護予防)短期入所療養介護(老健施設)
(介護予防)短期入所療養介護(病院など)
(介護予防)特定施設入居者生活介護
介護老人福祉施設
介護老人保健施設
介護療養型医療施設
定期巡回・随時対応型訪問介護看護
夜間対応型訪問介護
(介護予防)認知症対応型通所介護
(介護予防)小規模多機能型居宅介護
(介護予防)認知症対応型共同生活介護
地域密着型特定施設入居者生活介護
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)
4.0%
1.8%
1.9%
1.7%
2.5%
1.5%
1.1%
3.0%
2.5%
1.5%
1.1%
4.0%
4.0%
2.9%
4.2%
3.9%
3.0%
2.5%
4.2%
(介護予防)訪問看護、
(介護予防)訪問リハビリテーション、
(介護予防)居宅療養管理指導、
(介護予防)福祉
用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売、居宅介護支援、介護予防支援については加算算定対象外
地域区分は7区分から8区分に
April 2015 NIKKEI Healthcare
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