別冊 03-03 ユーザー評価実施結果 ~血液吸引器~ 平成26年12月 一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ ◆ 目次 ◆ I. 評価方法 ......................................................................... 1 1. 評価対象 .............................................................................. 1 2. 評価協力者 ............................................................................ 1 II. 評価結果 ........................................................................ 2 1. 評価協力者別にみた評価コメント ........................................................ 2 1-1. 呼吸器外科医師 ..................................................................... 2 1-2. 心臓外科医師 ....................................................................... 2 1-3. 消化器外科医師 ..................................................................... 3 2. 回答傾向にみた評価コメント ............................................................ 4 2-1. 肯定的な評価コメント ............................................................... 4 2-2. 否定的な評価コメント ............................................................... 5 2-3. 中立等の評価コメント ............................................................... 6 III. ユーザー評価のまとめ ........................................................... 7 1. 機能 .................................................................................. 7 2. 素材 .................................................................................. 7 3. 形状・構造 ............................................................................ 7 4. ユーザビリティ ........................................................................ 7 5. デザイン .............................................................................. 7 6. 価格等 ................................................................................ 7 - i - I.評価方法 1.評価対象 評価対象の血液吸引器について、公開されている情報がなかったため、写真は残さなかった。 表 1.評価対象 (公開情報なし) 2.評価協力者 血液吸引器のユーザー評価をするにあたり、臨床現場の最前線にいる経験が豊富な医師6名(呼吸器 外科医師1名、心臓外科医師4名、消化器外科医師1名)にヒアリングをおこなった。 - 1 - II.評価結果 ヒアリングで得られた評価コメントを、評価協力者別、回答傾向別に整理した。回答傾向は、肯定的、 否定的、中立等の3つに分類した。 1.評価協力者別にみた評価コメント 1-1. 呼吸器外科医師 以下の評価コメントが得られた。 表 2.呼吸器外科医師の評価コメント ・呼吸器外科で使っている吸引器は、20 年くらい変わっていない。音もうるさく、振動する。現在では 2大メーカーの製品がよく使われている。 ・剥離と吸引を同時に行うことが多く、指で押さえて吸引している。 ・吸引器の部品が脱落した話は聞いたことがない。 ・バルブの開閉の具合は、段階式にしてくれるほうが、使いやすい。 ・脱落防止のためのカバーを付けていることが、何が新しいのかが不明。 ・金属製の吸引器は、洗浄して使うが、洗浄しやすい構造がよい。ねじで留めるのではなく、リベットの ような脱落しない仕組みがよいかもしれない。 ・ディスポの製品は、やや細い。一気に吸引したいときがあるが、ディスポでは抜けきれない。30から 40秒かかる。手術中にそんなに待てない。 ・従来販売されている製品との差別化が不明である。 1-2. 心臓外科医師 国立病院に勤務している、心臓外科部長1名、心臓外科中堅医師3名にヒアリングしたところ、以下 の評価コメントが得られた。 表 3.心臓外科医師の評価コメント ・それぞれの外科医が慣れている吸引器を使う場合が多い。中堅の医師は、自分が使い慣れている吸引器 を病院に持参して、手術の際には、持参した吸引器を使っている。 ・心臓外科では、金属の吸引器が主流。それは吸引と同時に剥離に使うからである。プラスチックよりも、 金属のほうが剥離に使いやすい。 ・ねじが外れる経験がなかった。むしろ部品の数が増えると、洗浄しにくくなるので、シンプルなデザイ ンがよい。 ・プラスチックは、微妙に弱い。吸引の力が伝わりにくい。さらに指の力が先端に伝わらない。 ・吸引器で、一番問題になるのは洗浄である。 ・今後、低侵襲手術への応用を考えると、深いものが必要。長さや曲がり具合などを変えることで、色々 な状況で使用可能となる。 ・ドクターの希望によるオーダーメイドができるとよい。 ・吸引力が強いことは必要。 ・心臓外科領域では、従来型のデバイスが多い。開心術では、ほぼ決まっている。新たな領域は、低侵襲 手術である。 ・慣れているのを使い回す。最も大事な部分で、慣れている吸引器を使うことが大事。 ・カバーは不要。関節のついた吸引器が必要では。 ・外筒の小さな孔の大きさ、形、配列が重要。組織を引きずり込まないような孔にすべき。その辺で新た な応用の可能性があるのではないか。 ・金属では、支持力があるので、剥離と吸引が同時にできる。場合によっては、長いほうがよい。 ・洗浄がかなり重要で、複雑なパーツにすることで、人件費がかかる。 ・この試作品は、質感がよいと思う。 - 2 - 1-3. 消化器外科医師 以下の評価コメントが得られた。 表 4.消化器外科医師の評価コメント ・カバーは不要。血糊がつくので洗浄が困難。構造が複雑になる。 ・カバーが付いているために、カバーが脱落する可能性もある。 ・吸引力を調整のための弁の軸にOリングが使われている。このOリングのゴムは、致命的にまずい。高 圧滅菌で材質が劣化する。 ・通常、吸引調整用のネジがバカになりやすい。脱落しないネジの工夫が必要。 ・孔の大きさ、数が重要。臓器が吸い付いて、吸引が止まる。生食で腹腔を洗浄するときは、それを吸引 するときに、臓器が吸い付く。 ・類似品が多い。多くの診療科で使う。 ・胃の下にある大網が吸い込まれてしまう。自分は、ガーゼを付けて使うことが多い。ガーゼを付ければ、 問題無く吸引できる。 ・孔の大きさなどは、既製品を参考にして決めてもよいのでは。 ・もっとシンプルなデザインが望まれる。 ・弁の耐久性が必要。 ・吸引器は古くからあるので、事業化がうまくいくのか不明。 ・ディスポかどうかは、コストの問題。洗浄するための人件費のコストとの比較。 ・金属製の他の多くのデバイスと一緒に滅菌するので、滅菌がネックでないかもしれない。 ・ピンポイントで使うときは金属がよい。吸い取りながら剥離をする。剥離は最近超音波切開器があるが、 一度購入したら、余り壊れないので、多くは売れないのではないか。すたれることはないが(大きなリ スクはないが)、大きく売れるわけではない。 - 3 - 2.回答傾向にみた評価コメント 呼吸器外科、心臓外科、消化器外科の医師6名から得られた評価コメントを「1.肯定的な評価」、 「2.否定的な評価」、「3.中立等の評価」の3つに分類し、整理した。 2-1. 肯定的な評価コメント 肯定的な評価コメントとして、心臓外科医師、消化器外科医師から「孔の大きさ、形、配列が重要で、 新たな応用の可能性があるかもしれない」といったコメントがあった。孔の大きさについては、消化器 外科医師から「既製品を参考にして決めてもよいのでは」とコメントがあった。 試作品の質感は、心臓外科医師から、肯定的なコメントがあった。 表 5.肯定的な評価コメント 呼吸器外科医師 ・バルブの開閉の具合は、段階式にしてくれるほうが、使いやすい。 心臓外科医師 ・今後、低侵襲手術への応用を考えると、深いものが必要。長さや曲がり具合などを変えることで、 色々な状況で使用可能となる。 ・ドクターの希望によるオーダーメイドができるとよい。 ・外筒の小さな孔の大きさ、形、配列が重要。組織を引きずり込まないような孔にすべき。 その辺で新たな応用の可能性があるのではないか。 ・金属では、支持力があるので、剥離と吸引が同時にできる。場合によっては、長いほうがよい。 ・この試作品は、質感がよいと思う。 消化器外科医師 ・孔の大きさ、数が重要。 ・孔の大きさなどは、既製品を参考にして決めてもよいのでは。 ・金属製の他の多くのデバイスと一緒に滅菌するので、滅菌がネックでないかもしれない。 - 4 - 2-2. 否定的な評価コメント 脱落防止のためのカバーについて、呼吸器外科医師、心臓外科医師、消化器外科医師それぞれから「不 要である」と否定的な評価であった。その理由として、医師の経験上「部品が脱落したことはない」、 「構 造が複雑になり洗浄が困難」というコメントがあった。 また、弁の軸に使用しているOリングのゴムについて、消化器外科医師から「高圧滅菌で材質が劣化 するため、致命的にまずい」といった否定的な評価であった。 プラスチック素材のディスポーザブル製品については、吸引力の低下などデメリットを懸念するコメ ントが、呼吸器外科医師、心臓外科医師からあった。 表 6.否定的な評価コメント 呼吸器外科医師 ・吸引器の部品が脱落した話は聞いたことがない。 ・脱落防止のためのカバーを付けていることが、何が新しいのかが不明。 ・従来販売されている製品との差別化が不明である。 ・ディスポの製品は、やや細い。一気に吸引したいときがあるが、ディスポでは抜けきれない。 ・30から40秒かかる。手術中にそんなに待てない。 心臓外科医師 ・ねじが外れる経験がなかった。 ・むしろ部品の数が増えると、洗浄しにくくなるので、シンプルなデザインがよい。 ・カバーは不要。関節のついた吸引器が必要では。 ・プラスチックは、微妙に弱い。吸引の力が伝わりにくい。さらに指の力が先端に伝わらない。 ・吸引力が強いことは必要。 消化器外科医師 ・カバーは不要。血糊がつくので洗浄が困難。構造が複雑になる。 ・カバーが付いているために、カバーが脱落する可能性もある。 ・通常、吸引調整用のネジがバカになりやすい。脱落しないネジの工夫が必要。 ・胃の下にある大網が吸い込まれてしまう。自分は、ガーゼを付けて使うことが多い。 ガーゼを付ければ、問題無く吸引できる。 ・吸引力を調整のための弁の軸にOリングが使われている。このOリングのゴムは、致命的に まずい。高圧滅菌で材質が劣化する。 ・弁の耐久性が必要。 ・もっとシンプルなデザインが望まれる。 ・吸引器は古くからあるので、事業化がうまくいくのか不明。 - 5 - 2-3. 中立等の評価コメント プラスチックの素材について、呼吸器外科医師、心臓外科医師、消化器外科医師それぞれから「臨床 では吸引と剥離を同時に行うことが多い」といったコメントがあった。「プラスチック製より金属製の 吸引機のほうが剥離しやすい」といったコメントもあった。 また、吸引機は洗浄が重要であることから「洗浄しやすい構造」や「洗浄のための人件費に勝るコス トメリットがあるか」といった点が、臨床現場の評価につながるとのことであった。 ユーザビリティについて、呼吸器外科医師から「呼吸器は 20 年くらい変わっておらず」、心臓外科 医師から「それぞれの医師が使い慣れている吸引器を持参して使用している」といったコメントがあっ た。 表 7.中立等の評価コメント 呼吸器外科医師 ・剥離と吸引を同時に行うことが多く、指で押さえて吸引している。 ・金属製の吸引器は、洗浄して使うが、洗浄しやすい構造がよい。ねじで留めるのではなく、 リベットのような脱落しない仕組みがよいかもしれない。 ・呼吸器外科で使っている吸引器は、20 年くらい変わっていない。音もうるさく、振動する。 ・現在では2大メーカーの製品がよく使われている。 心臓外科医師 ・心臓外科では、金属の吸引器が主流。それは吸引と同時に剥離に使うからである。 ・プラスチックよりも、金属のほうが剥離に使いやすい。 ・吸引器で、一番問題になるのは洗浄である。 ・洗浄がかなり重要で、複雑なパーツにすることで、人件費がかかる。 ・心臓外科領域では、従来型のデバイスが多い。開心術では、ほぼ決まっている。新たな領域は、 低侵襲手術である。 ・それぞれの外科医が慣れている吸引器を使う場合が多い。中堅の医師は、自分が使い慣れている 吸引器を病院に持参して、手術の際には、持参した吸引器を使っている。 ・慣れているのを使い回す。最も大事な部分で、慣れている吸引器を使うことが大事。 消化器外科医師 ・ピンポイントで使うときは、金属がよい。吸い取りながら剥離をする。 ・剥離は、最近超音波切開器がある。 ・ディスポかどうかは、コストの問題。洗浄するための人件費のコストとの比較。 ・臓器が吸い付いて、吸引が止まる。生食で腹腔を洗浄するときは、それを吸引するときに、臓器 が吸い付く。 ・類似品が多い。多くの診療科で使う。 ・一度購入したら、余り壊れないので、多くは売れないのではないか。 ・すたれることはないが(大きなリスクはないが)、大きく売れるわけではない。 - 6 - III.ユーザー評価のまとめ ユーザー評価のまとめとして、回答傾向別に整理した肯定的な評価コメント、否定的な評価コメント、 中立等の評価コメントを「1.機能」 、 「2.素材」、「3.形状・構造」、「4.ユーザビリティ」、「5. デザイン」 、 「6.価格等」という6つの観点で再整理し、評価結果を分析した。 1.機能 血液吸引器の機能について、 「吸引力」が十分に強いことと「剥離」にも使えることが求められてい る。現在、金属製が主流であるが、金属製は、組織を剥離しやすいと評価されている。 2.素材 素材については、弁の軸に使用されているOリングのゴムについて否定的な評価であった。「高圧滅 菌で材質が劣化する」ことがその理由である。また「ディスポ製品はやや細い」、 「プラスチックは微妙 に弱い」といったコメントもあった。 3.形状・構造 形状については「外筒の小さな孔の大きさ、形、配列が重要」で「組織を引きずり込まないような孔 にすべき」といったコメントがあった。脱落防止カバーについては、すべての評価協力医師(呼吸器、 心臓外科、消化器)から「不要である」と否定的な評価であった。その理由として、医師の経験上「部 品が脱落したことはない」 、 「構造が複雑になり洗浄が困難」というコメントがあった。 洗浄しやすさが意識され「シンプルなデザインがよい」とシンプルな構造を求めるコメントがあった。 4.ユーザビリティ ユーザビリティについては「長さや曲がり具合などを変え」さまざまな臨床シーンで使用できるよう にすることや「医師の希望によりオーダーメイドできるとよい」といったコメントがあった。血液吸引 器は「20 年くらい変わっておらず」また「従来型のデバイス」や「類似品」が多い。 「持参して使用し ている医師もいる」ほどで「慣れている吸引器を使う」傾向にある。 5.デザイン デザインについては、 「質感」について肯定的なコメントがあった。一方で「シンプルなデザインが よい」という否定的なコメントもあった。洗浄しやすくするためにシンプルな構造であることを求めて いるようである(単にデザインの否定というわけではない) 。 6.価格等 価格については、ディスポーザブル化の問題点はコストであり「洗浄するための人件費」と比べ、コ スト面で優位性があるか、といった点が懸念された。また、売上規模について「余り壊れず多くは売れ ない」 、 「すたれることはないが、大きく売れるわけではない」 、 「事業化がうまく行くのか不明」といっ たコメントもあった。 - 7 - 以上、評価結果をまとめると、医師からは、前提として「吸引力が強いこと」が求められ、そのうえ で「剥離できること」も求められている。現在、金属製が主流であるが、金属製は、組織を剥離しやす いと評価されている。また「洗浄しやすさ」も求められており、プラスチック製の場合、洗浄は不要に なることから、金属製でもシンプルで洗浄しやすい構造が望まれる。 血液吸引器は、慣れたものが使われる傾向にあり、類似品が多く 20 年くらい変わっていない。この ため、臨床現場のニーズに即して改良できる余地は残されている。 試作品の改良すべき点として、素材面でOリングのゴム、形状・構造面で脱落防止カバーなどがある。 表 8.ユーザー評価のまとめ 肯定的 機能 素材 形状・ 構造 否定的 ・吸引力が強いことは必要 ・プラスチックは微妙に弱い ・吸引の力が伝わりにくい ・弁の耐久性が必要 ・胃の下の大網が吸い込まれる (ガーゼを付ければ問題ない) ・吸引と剥離を同時に行う ・剥離では金属の吸引機が主流 ・金属は支持力がある ・一番問題になるのは洗浄 ・臓器が吸い付いて吸引が止まる ― ・Oリングのゴムは、高圧滅菌で 材質が劣化するため、致命的 ・ディスポ製品はやや細い ・プラスチックは、微妙に弱い ・剥離はプラスチック製よりも金 属製吸引機のほうが使いやすい ・外筒の小さな孔の大きさ、形、 配列が重要 ・組織を引きずり込まないような 孔にすべき ・孔の大きさなどは、既製品を参 考にして決めてもよい ・脱落防止カバーは不要 (部品が脱落したことはない) (構造が複雑になり洗浄が困難) ・カバーが脱落する可能性もある ・脱落しない吸引調整用ネジの工 夫が必要 ・ねじ留めでなくリベットのよう な脱落しない仕組みがよい ・金属製の吸引器は、洗浄して使 うが、洗浄しやすい構造がよい ・滅菌がネックでないかもしれな い(金属製の他の多くのデバイ スと一緒に滅菌するため) ・バルブ開閉は段階式がよい ・低侵襲手術への応用を考えると、 深いものが必要 ・30秒~40秒かかる。 ユーザ ・長さや曲がり具合などを変えれ (手術中にそんなに待てない) ビリティ ばいろいろな状況で使用可能 ・指の力が先端に伝わらない ・医師の希望によりオーダーメイ ドできるとよい デザイン 価格等 中立等 ・この試作品は質感がよい ― ・シンプルなデザインがよい ・吸引器は古くからあるので、 事業化がうまくいくのか不明 - 8 - ・20 年くらい変わっていない ・2大メーカーの製品が主流 ・従来型デバイス、類似品が多い ・開心術では、ほぼ決まっている ・新領域は、低侵襲手術 ・使い慣れている吸引器を使う (病院に持参する医師もいる) ― ・ディスポ化は、コストの問題、 (洗浄するための人件費のコスト との比較) ・余り壊れず多くは売れない ・すたれることはないが、大きく 売れるわけではない
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