「大学教育再生加速プログラム」平成26 年度取組に対するコメント 安藤輝

「大学教育再生加速プログラム」平成 26 年度取組に対するコメント
安藤輝次(文学部)
本年度の取り組みに対する優れた点や疑問点、提案等を申し上げます。今後の発展を期待して、優れた点だけ
でなく改善点や疑問点にも力点を置いて述べます。ただし、掲載順は、必ずしも重要度にそっていません。
<優れた点>
A. 基礎能力と高次能力に分けてコモンルーブリックを創るという方向性(3 頁)は、易から難へと無理なく進める
という点で、妥当な考え方であると思います。
「考動力の成長」で実社会とのつながりを体感できる教育」の
必要性(6 頁)もよく分かりますし、
「考動力の成長の確認と成長」で卒業生を活用する(7 頁)のもよいアイディ
アであると思います。
B. 今は種まきの段階でしょうが、13 頁以降に記されている「取組の概要」で精力的にプロジェクトへの着手を
されておられます。本プロジェクトのような場合、中核にある人々のチームワークがポイントになるかと思
いますが、そのような心配も杞憂なようです。学外へのワークショップ(16-18 頁、22-25 頁)も教え手である
と同時に、参加者の皆さんの反応は、学びにもなりますから、有意義な実践になっていると思います。
C. ラーニングアシスタント(LA)の活用は、本学のこれまでのプロジェクトから継続されてきたことですが、
今回のプロジェクトでも LA の(クリティカルシンキング)の研修をされておられます。このような実践は、
ともすれば軽視されがちですが、LA にとってもその支援を受ける学生にとっても、そして、教学面におい
ても Win-Win の関係に繋がる良い実践であると思います。
D. 平成 27 年度から実施予定の学生向け「入学時調査」について、どこにターゲットを充てるのかということが
ポイントで、しかも、卒業後の追跡調査も含めておく必要性は感じますが、意義深いと思います。
<疑問点及び提案>
① テーマ II 関連で、昨年 10 月から 12 月で「ルーブリック作成に際して、考動力を支えるキーコンピテンシ
ィを同定する」(8 頁)とあり、3つの柱も提案されています(32 頁、ただし⑩は何も記されていない)
。し
かし、このような短期間では、机上の提案はできても、実践的裏付けをもったものを示すことは無理でしょ
う。アルバーノ大学の例でも分かるように、ルーブリックは、絶えず実践にかけて、学生の声も反映させて、
何年にもわたって修正加筆を繰り返した後、確立されていくものです。参照(インターネットで入手可能):
拙著論文「アルバーノ大学の一般教育カリキュラムの改革」(2006 年)及び「アルバーノ大学の教員養成カリ
キュラム」(2007 年)
② 全体スケジュール(イメージ)には、ルーブリックの優秀レベルに対応した学生の学んだもの(私は「学習
物」と称しています)をサンプルとして示すというものがありません。このような学習物サンプルなくして、
ルーブリックを記すだけでは、学生はなかなか具体的なイメージ化が難しいと思います。そのようなサンプ
ルをデジタルでデータベースとして収納することも必要ではないでしょうか。そのような試みをした「初等
教育学専修ゼミ1」の授業の歩みと成果を今年度の本学教職支援センター紀要で発表しています。
③ 第 11 回 FD フォーラムで近田政博氏がアクティブ・ラーニングを導入しても、学生がアクティブにならな
いという問題指摘(19 頁) があり、その点では私も同感です。では、どうするのでしょうか。私は、関大生
は、ある程度は皆さんできるという自信を持っているけれども、それはペーパー試験を通してそのような自
信があるだけで、交渉力のような別の力から見て、それを生涯学習で必要な力を認識させて、大学でも学ぶ
必要性を感じるかどうかという点がアクティブ・ラーニングの成否の鍵と考えています。
④ 第 12 回 FD フォーラムの中で「交渉学入門」テキスト教材の開発が論じられていますが、そのテキストで
は、教師が学生にいかに教えるのかという点だけでなく、いかに学生の学びを評価するのかということへの
配慮が見られないように思います。私は、昨年度から文学部「初等教育学専修ゼミ3」の授業で教育実習生
や若手教員が遭遇する学校問題を取り上げたケースメソッドに対する問題の発見や解決を促すルーブリッ
クを学生と一緒に作成しており、平成27年度もルーブリックづくりを継続します。そのようなルーブリッ
ク作成とその評価の方法も論じる必要性を感じます。
⑤ 他大学に調査に行かれたり、他大学の教員を招かれたりされていますが、国内では、帝京大学高等教育開発
センターの土持ゲーリー法一先生(
『主体的学び』創刊号と第二号を発行済み)への調査又は講演などがあ
れば、ICE など実践的な研究紹介もあり、有益なヒントを得ることもできるのではないかと思います。外国
でしたら、パフォーマンス評価の旗手であるアルバーノ大学(米国ウイスコンシン州ミルウオーキ市)への
出張をお勧めします。この大学は、卒業 5 年目を追跡した Glen Roger 教授による量的調査も行っており、
出版部を通して、その成果報告も行っています。彼のアドレスや報告書が必要でしたら、ご連絡下さい。
大学教育再生加速プログラム
「21 世紀を生き抜く考動人〈Lifelong Active Learner〉の育成」
2014(平成 26)年度 内部評価報告
年次計画によれば、2014(平成 26)年度は「検討・開発・試行的運用フェーズ」として位置づけられ
ている。教育開発支援センターの下に AP プロジェクト委員会、The DOTS 部会、教育・学修成果部会
を発足させ、特任教員による交渉学等の授業運営、ワークショップの企画、コモンルーブリックの開発
等を行うこととなる。
具体的には、テーマⅠに関しては「交渉学科目についての開設・検討」
「交渉学ワークショップの実施」
、
テーマⅡに関しては「学修行動・到達度調査の項目検討」「コモンルーブリックに係る評価指標の検討・
開発」
「学修成果可視化に取組む 3 学部(学内 AP)との協働調査の実施および結果収集、FD/SD・事
業運営」
「国内外の先進事例等の調査およびその内容に関する交渉学・キャリア教育学習会等の実施」
「学
生スタッフ育成プログラムの開発および学修コンシュルジュ研修プログラムの検討」等々と極めて多岐
にわたる。
2014(平成 26)年度においては、これら年次計画に従って組織体制の構築と人員配置を実現し、複数
回にわたるワークショップ・各種研修・FD フォーラム等の開催のほか、テキスト教材・コモンルーブリ
ック等の開発、および各種調査等が実施された。また、AP プロジェクト運営委員会および DOTS 部会
/教育・学修成果部会が定期的に開催され、綿密な議論と調整に基づいてこれらの取組みが進められた。
これらの結果から、計画初年度の進捗は概ね順調で、ほぼ計画通りに活動が行われてきたと評価する。
一方、計画初年度において多くの成果を求めることには自ずと無理があるものの、今後の展開におい
ては、以下の点について更なる検討が必要だろう。
まず、ワークショップ・研修・フォーラム等の活動への関与・参加を、全学規模で幅広く展開するた
めの方略である。革新的で優れた活動内容であっても、参加・関与が特定の関係者に限定されるに留ま
れば、全学的な潮流となり大きな変化をもたらすには不十分である。次に、人材育成の観点からは、個々
の学修が単なる経験として蓄積されるだけでなく、個々の人格において総合的に構築されることが望ま
しい。そのため、当プログラムにおける各々の活動が「単発イベントの連続」に留まるのではなく、相
互に密な関連を持たせるとともに、勉学をはじめとする学生生活の多様な側面と関連づけられる仕組み
を構築することが重要である。また、「考動人」の自律性・自発性を育成する観点からは、「仕組み」を
構築するための教職員の関与は必須ながら、最終的には学生が中心的主体となってこれら仕組みの運用
を担うことが望ましい。今後の展開の中で、こうした切換えを行うタイミングと方略を見極めることが
重要となる。
なお、これらの課題解決に向けては、当プログラム担当者の尽力にのみ頼っていては実現困難であり、
より幅広い総合的・全学的な取組みへの拡充と充実が重要である。
内部評価委員
社会安全学部教授 中村隆宏