蔵屋根の大穴 池田桂一 すさ 過疎となり久しき家か閉ざされて荒みし庭に残り柿のあり 雪道の曲がれるところ黄に染まる小便の跡の二つ並べる のこ お 人気なき道を歩めば行く手より鋸挽く音のかすかに聞こゆ み 冬の陽といえどまばゆき不忍の池面に鴨の水脈曵きてゆく ドア際にマンガ見る子の鼻唄が大きく聞こえる車両きしむたび ビル風に着物の裾のひるがえる成人式帰りの娘らの華やぎ 空缶を叩けど雀ら現れず去年の鳥らは皆逝きたるか この冬も取り忘れられ鳴り止まぬ隣りの風鈴聴きつつ眠る 暖冬に氷の張らぬ沼に来て夜鳴く白鳥の声は続きぬ 大地震に空きたる穴の蔵屋根は歳々広がる空を映して 4 展景 No. 77 展景 No. 77 5
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