記 念 樹

記 念 樹
池田桂一
ご
天皇の後追う如く逝きたもう師の齢より二十七年過ぐ
え
売 子 の 木 の 花 に は 遅 か る 「梅 園」 の 師 の 歩 み た る 道 を た ど り ぬ
花季を過ぎて訪い来し道をゆき花無き淋し師のなき哀し
沙羅の木の葉ずれに想う師の庭に茂りて残る我らの記念樹
台風の予報の雨は止みいたり遠くにカッコウの声のみ聞こゆ
と
一瞬に風過ぎゆきて蓮の葉の朝露まろび鋭き色放つ
群鳩のくぐもる声の透りくる台風一過の昼の目覚めに
揺れ止まぬ花木の名前浮かび来ず思い出すまで佇み居たり
朝明けとともに起き出で桃採りの母の後姿今朝夢に見し
一つ部屋に寝ることもなく過ぎたるを今にし思う父の寂しさ
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展景 No. 83
展景 No. 83
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