スポットライト 会合報告 ITUイベント “Combating Counterfeit and Substandard ICT Devices” 報告 ひめ の 日本電気株式会社 テレコムキャリア企画本部 主任 ひで お 姫野 秀雄 1.イベント概要 2.イベント背景及び主旨 偽造&標準非準拠ICT端末対策について関係機関が議論 標準規格非準拠品及び偽造ICT製品は、先進国及び途上 するITUイベント“Combating Counterfeit and Substandard 国共通の経済/ICT産業/消費者に対して重大な問題となっ ICT Devices”が、2014年11月17 ~ 18日にITU本部Geneva ている。標準規格非準拠品及び偽造ICT製品対策に対する にて開催された。SG11にて議論されている偽造品対策の コストや負の効果は、 全てのステークホルダへ影響している。 技術レポートTR-Counterfeitingに関連するイベントとの 損失として税金/ロイヤリティ/収益、減少として売上/価 ことから、SG11会合期間中での開催となった。会合参加 格/オペレーション、ブランド価値低下/評価の低下、イノ 者は約120名であり、ITU room Hがほぼ満席となったこと ベーションへのインセンティブの減少/投資の減少、雇用の から関 心 の高さが 伺える。冒 頭にITU-D Director Mr. 低下/経済成長率の低下、相互接続性問題によるサービス Brahimaからの挨拶、基調講演CNRI、講演者としては、 品質の低下、健康/安全/環境へのリスクなどが想定されて 政府系(ウクライナ, ガーナNCA, UAE TRA, ブラジル いる。国際商工会議所(ICC)によると、国際的な偽造品の ANATEL, 英国BIS, 中国MIIT) 、国際機関系(WIPO, EC, 価値は、 2015年までに1.7兆USDを超えると予想されている。 WTO, OECD, WCO, IFPMA) 、 産 業 界(MMF, GSMA, ITU PP-14にて新決議177“ICT端末偽造品対策” (Busan, Cisco, Microsoft, HP)が実施し、多くの関係機関が参加 2014)が採択され、WDC-14においても同様に、新規決議 する会合となった。主に各機関での偽造品対策施策につい 79“ICT端末偽造品への対処及び扱いにおけるICTの役割” て紹介し合い、最終セッションでは、ITUにて検討すべき (Dubai,2014)が採択された。これらの決議にて提示され 偽造品対策の作業方針について議論されている。会合情 ていることは、①ICT偽装品端末問題は拡大している。② 報は下記より入手可能。 偽造品端末問題の重大さと本問題を抑制するメカニズムを ( h t t p s : / / w w w . i t u . i n t / e n / I T U - T / C - I / P a g e s / 検討し、国際的かつ地域的に本問題への対処方法を見付 WSHP_counterfeit.aspx) けるために、ITUと関連ステークホルダが協力して本問題 また本イベントでは、セミナとは別に寄書を募集してお に対処する重要な役割を担うこと。③ITU事務局長に対し り、NECから「物体指紋認証技術による偽造品対策」の て、認証評価システムを含んで地域レベル及び国際レベル 寄書(Contribution 009 - Image recognition technology での情報共有を通して、偽造ICT端末対策への懸念事項 that identifies counterfeit products - NEC Corporation) へ対応するために、加盟国の活動をサポートすることを指 を入力している。 示する。④ITU加盟国を招集し、偽造ICT端末の測定方法 の情報を収集し協力して本領域における解決策に対する 専門知識を情報共有するために、産業界メンバの参加を 促すこと。である。これらの決議を受けて、本ITUイベン トの目的は下記3点としている。 1.偽造と標準規格非準拠ICT製品のインパクトと様々 なステークホルダと共に、国際的な影響範囲とイン パクトについて議論する。 2.様々なステークホルダの共通の検討事項、課題、活 動などをハイライトする。 3.本課題に苦渋しているメンバをアシストするために、 SDO特にITUが国際的な戦略と解決策を担うことが イベントWebページ 46 ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) できる役割を検討する。 3.講演内容 ンド、ケニヤ、スリランカ、トルコ、ウガンダの対策につ 3.1 オープニングセッション いて紹介されている。特にウクライナでは、2008年から本 冒頭にITU-DディレクタBrahima SANOU氏よりWelcome 問題を重要視し、2009年にウクライナモバイル端末自動登 addressがあり、本イベント開催趣旨の紹介。 「ITU-Dセク 録システム(AISMTRU)を構築した。本システムでは、 タである途上国では重大の問題であるため、ITU-T及び 3種類のデータベース(ホワイトリスト、グレーリスト、ブ ITU-Dで協力して対応していきたい」と述べられた。 ラックリスト)を構築して、各登録端末の照会を実施して 基調講演として、CNRIの Dr. Robert E KAHN氏より、 いる。本施策により2010年には違法輸入端末の数が急激 偽造品対策のための統一アプローチとしての、米国CNRI に減り、合法的に輸入された端末が93 ~ 95%上昇すると のDigital Object(DO)アーキテクチャと、ITU-T X.1255 いう経済的な効果が得られた。これによりウクライナ政府 (DOアーキテクチャ基づいた相互接続性フレームワーク” は、 2億USDの収入が増えている。ウクライナの効果をベー A framework for interoperability - based on the Digital スに、グローバルに利用できるシステムを構築すべきであ Object Architecture” )の使用方法についての紹介が実施 ると結んでいる。 された。ICT製品の偽造品対策のためには、工場出荷から ガーナ通信省(Q8/11ラポータ)より、偽造モバイル端 消費者までのサプライチェーンを管理する必要があり、統 末のガーナの状況についての紹介。ガーナでは、従来の 一のID(DOI:デジタルオブジェクト識別子)にて管理す 音声通信に加えてチャット/ブラウジング/映像通信/電 ることが有効である。DOIは現在、主にインターネット上 信振込などでモバイル端末がよく利用されているが、偽造 のデジタル文書に付与される識別子として利用されており モバイル端末/バッテリー/アクセサリの流通が増大して CNRI等によりセキュアに管理されている。また、ネット おり、問題は深刻である。IMEIXSの調査では、60%の端 ワーク上のサーバはHandleと呼ばれる識別子で一意に管 末がno-IMEIか不正に書き換えられたIMEIであるとして 理している。Handleシステムはグローバルで利用されて いる。多くの偽造端末がアフリカへ流入しており、これら おり、 ” prefix/suffix”という形式でWeb上のコンテンツ は簡単に故障するが、ストリートで不正に修理されマー はURLという形で定義されており、CNRIが同様に管理し ケットに戻される。そのため、不正修理品は発熱/発火な ている。ICT端末にもこのHandleシステムが流用可能であ どにより健康被害や、多くの不正端末を処理するため るとしている。本システムは、ITU勧告X.1255(デジタル E-waste問題は深刻であり、焼却時には有害物質が排出さ オブジェクトアーキテクチャに基づいた相互接続性フレー れるなど非常に危険な状態である。本問題に対処するため ムワーク)として2013年9月にSG17にてTAP承認を得て完 にガーナNCAでは、偽造品及び盗品端末をブロックする 成した。デジタルオブジェクトアーキテクチャを利用した ことができるVASプロバイダ(IMEIXS)とライセンスを HandleシステムであるGlobal Handle Registry(GHR)を 結んだ。また、TAP(Type Approval Process)により正規 利 用したパイロットプロジェクトを実 施 するために、 品との認証システム(TAC:Type Approval Certificate) DONA foundationが本システムの管理、監督の実施を目 を確立させて運用している。まだ課題もあるため、共通認 的に2014年1月に非営利団体としてジュネーブにて設立さ 識を持つ地域と一緒に対応していきたいと結んでいる。 れている。ICT偽造端末対策には様々有効な対策があるが、 UAE通信規制省より、UAEにおける偽造品対策につい Handleシステムの様にICT端末以外にて運用されているシ ての紹介。UAE TRAが実施したこととして、まず偽造端 ステムを活用することも有効である。 末及び重複IMEI端末をネットワークから切断したことで ある。2011年9月に本指令を発布し実施することで、10万 3.2 セッション1:政策議論:政府の対策 端末以上が切断されている。 ウクライナ電波省(TR-Counterfeitエディタ)より、偽 ブラジル通信省より、ブラジルにおける偽造/標準規格 造品及び標準非準拠品端末からマーケットを保護するため 非準拠/否認可ICT端末対策についての紹介。本システム のウクライナの規制手順と解決策についての紹介。偽造品 は、ユーザが端末を使ってネットワークに接続する際に 問題はグローバルで年々増加傾向であり、特にモバイル端 ネットワークキーを収集し、認証端末データベースにて照 末は2015年には19億台にも達すると言われている。本プレ 会することで、本システムが不正を発見した場合、オペレー ゼンでは、アゼルバイジャン、コロンビア、エジプト、イ タへ通知し、オペレータがアクションを起こすというワー ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) 47 スポットライト 会合報告 クフローである。また、本検出システムを輸入時に適用し、 の健康と安全を促進するための活動についての紹介。 国内に流通することを防いでいる。 MMFでは、ネットワークパフォーマンス試験を実施して おり、3GPP仕様プロトコルを使用して実施することで、 3.3 セッション2:国際機関における活動 偽造品は1/4呼がドロップし、平均41%のハンドオーバの 世界知的所有権機関(WIPO)より、政府間イニシアチ 遅延が発生し、3rdハンドオーバには失敗するなどの重大 ブであるWIPOの戦略ゴールVIについての紹介。WIPOで な影響が発見されている。 は知的財産の観点から、偽造品及び海賊品対策を各政府 GSMAにより、IMEIエコシステムによる偽造モバイル と連携して実施している。 端末対策への適応についての紹介。3GPP仕様では、モバ EUコミッションにより、知的所有財産を犯している製 イル端末を一意に特定できるIMEIを規定しており、Type 品の流通量を減らすためのEUコミッションプロジェクトの Approval Advisory BoardはIMEIをシリアル番号として 紹介。EUアクションプラン(2017年7月)にて、通信分野 規定することをエンドースしていることもあり、端末を一 におけるIPRの強制に向けた新たな合意が実施されてい 意に識別するシステムとして承認している国/政府もある る。本アクションプランでは、10のアクションを三つの分 ことからも、IMEIは現在唯一グローバルで活用できる識 野に分けて構成している。2003年にセッション1が開始さ 別子となっている。GSMAの役割として、このIMEI TAC れてから、2014年までにセッション9が実施されており、 (Type Allocation Code)管理及び各社への割り振りを実 次回2016年のセッション10では、市場における偽造品及び 施しており、IMEIデータベースを構築し管理し公開して 海賊品の流通量を減らすために現在進行中の測定方法を いる。 補足するために、予防活動、測定方法、成功体験の共有 中国通信省(MIIT)により、乳児用粉ミルク産業にお を実施する予定。 ける製品品質安全管理のためのトレーサビリティシステム 世界貿易機関(WTO)より、WTOのTRIPS協定(知 の紹介。ベース技術としてCNRIのHandleシステムを活用 的所有権の貿易関連の側面に関する協定)についての紹 しており、Digital Object Architecture(DOA)がシステ 介。WTOでは、トレードマーク(TM)の活用状況をモ ム間相互接続を実現する主要技術となっている。 ニタした結果、今回例示する靴/医薬品/モバイル端末に 国際製薬団体連合会(IFPMA)により、偽造医薬品に ついては、地域ごとに偏りがあることが分かった。TRIPS 対する活動についての紹介。 IFPMAは、 IFPMA医薬品マー 協定は、偽造ICT端末に対しては有効であるが、標準規格 ケティングコードを発行し、偽造品対策を実施している。 非準拠品に対しては効果がないことが課題、としている。 その他Microsoft社、HP社、SGS社から、自社製品の偽 経済協力開発機構(OECD)より、偽造品及び海賊品に 造品対策についての紹介及び検査手法などの紹介が実施 おける経済及びポリシ課題のリサーチについての紹介。課 さ れ、 最 後 に、Q8/11ラ ポ ー タ 及 び 技 術 レ ポ ートTR- 題規模の評価、本問題の効果、関連ポリシを決めるために、 CounterfeitエディタによるITU-T SG11における本テーマ OECDでは2008年より検討を開始し、2009年にはデジタル に対する活動紹介が実施された。 製品の海賊品についての調査を実施しており、その調査結 果及び今後の活動についての紹介が実施された。 3.5 結論と今後の作業 世界税関機構(WCO)より、偽造品規模を調査するた 本イベントでは、最終セッションにてワークショップ形 め2013年4月に10日間アフリカ地域23か国で実施した“オ 式のグループディスカッションを設け、4 ~ 5名程度の小 ペレーションBIYELA”の紹介。能力向上策として、正規 グループに分かれて、本課題に対する影響や不足してい 品と非正規品を判断できるIPM認証システムを構築し、税 る対策、ITUに期待する役割を議論するというユニークな 関と権利保有者をつなぐツールとして活用していることを 試みが実施され、最後に各グループの意見を発表し合っ 紹介。 た。全体方針をまとめることは実施しなかったが、本アイ デアが元となり今後のITU-Tでの検討を進める材料になる 3.4 セッション3:産業界における技術議論 MMF(Mobile Manufacturers Forum)より、消費者 48 ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4) と思われる。
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