3.1.2.3 目 SVM による簡易耐震診断システムの開発 次 (1) 業務の内容 (a) 業務題目 (b) 担当者 (c) 業務の目的 (d) 5ヵ年の年次実施計画 (e) 平成14年度業務目的 (2) 平成15年度の成果 (a) 業務の要約 (b) 業務の実施方法 (c) 業務の成果 1) SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 2) 住宅耐震性能の定量的評価手法の調査 (d) 引用文献 (e) 成果の論文発表・口頭発表等 (f) 特許出願、ソフトウェア開発、仕様・標準等の策定 (3) 平成16年度業務計画案 99 (1) 業務の内容 (a) 業務題目 SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 (b) 担当者 所属 役職 氏名 慶應義塾大学理工学部 教授 日本女子大学住居学科 助教授 平田京子 大学院生 萩原宏美 慶應義塾大学大学院理工学研究科 三田 彰 (c) 業務の目的 地震被災度の高い既存木造建物に対して、耐震安全性を高めるため、耐震診断技術の開発、耐 震補強指針の開発、行政ならびに市民が容易に理解でき普及可能性の高い耐震補強技術の開発、 耐震補強後の建物についての耐震補強診断技術の開発をおこなう。 (d) 5ヵ年の年次実施計画 1)平成 14 年度: サポートベクトルマシン(SVM)を用いた、耐震診断手法の理論的な構築を開始する。また、 現状の住宅の耐震安全性能についての定量的な評価を行い、開発する耐震診断手法の診断結 果の妥当性について検討する。 2)平成15年度: 前年度に得られた理論的な成果を基に、SVM を用いた耐震診断システムの開発を開始する。 また、耐震安全性レベルに対するユーザーの要求を定量的に把握するための簡便な手 法について研究する。 3)平成16年度: 前年同様の検討を継続するとともに、ワイヤレスで振動データを取得可能な形態センサシス テムの使用について検討し、2つの振動センサからデータ取得可能なワイヤレスセンサシス テムを試作する。また、前年度の研究成果に基づいて、携帯端末に搭載可能な診断プログラ ムを作成する。 4)平成17年度: 開発したワイヤレスセンサの妥当性を検証する。また、高密度センサネットワークの設置さ れた建物に適用して、その精度と適用可能性について確認する。 5)平成18年度 ワイヤレスセンサを用いて取得される診断データおよび診断結果を蓄積する仕組みについて 検討すると共に、結果的に蓄積されたデータベースから、保険や保険デリバティブの設計に 100 活用可能な有用な情報を抽出するデータマイニングの仕組みについて検討する。 (e) 平成15年度業務目的 振動計測データを用いて、損傷の有無についてSVMによる構造性能評価手法を実用的 なものとするために、新たな指標を採用して定量評価の精度を高めた手法を提案すると共 に、実験を実施して検証する。 また SVM による耐震診断システムに活用するため、住宅の耐震性能を市民が理解しやす い簡便な形で定量評価する手法に求められる基本構成要素を洗い出し、現実的な評価手法 候補を模索する。今年度は住宅の耐震安全性レベルに対する目標値を社会的要望から評価 する手法の開発を行う。 (2) 平成 15 年度の成果 (a) 業務の要約 平成15年度は、次の研究を実施した。 1) SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 (慶 應 義 塾 大 学 三田彰、萩原宏美) 昨年度は、損傷箇所によって共振周波数の変化率パターンが異なることを利用して、SVM に よる自動損傷層検知が可能であることを示した。本年度は、さらに進展させて、損傷層の定性 的(損傷層検知)かつ定量的(損傷程度)な自動健全性診断を提案した。新たな入力として反 共振周波数の変化量についても検討した。反共振周波数は共振周波数と同様にモード解析で簡 単に特定できる。加振位置や応答測定位置に依存して変化する局所項であるため、センサ設置 数や位置は従来のシステムとは異なってくるが、診断の信頼性は高まると推測される。反共振 にはおいては、純せん断以外のモデルにおいても検討し、その特性を調べた。 その結果、共振周波数と反共振周波数がともに損傷と相関が高く、パターン認識の入力に適 したパラメータであることを示した。さらに、SVM に工夫を加えることで精度向上の可能性を 示すとともに、反共振の導入により純せん断以外の構造物への適用も可能になることを示した。 2) 住宅耐震性能の定量的評価手法の調査(日本女子大学 平田京子) 耐震改修を促進し、耐震性能を定量的に評価する手法を普及させるためには、市民が 理解しやすい評価手法にする必要がある。特に性能設計・表示に対応するため目標性能 を明示することが求められる。しかし住宅にどのくらいの目標性能を付与すればよいの かという点を解明した研究はほとんどない。そこで今年度は耐震安全性レベルの目標値 を明確にするため、設計に使える精度で市民の要望から把握することを目的とする。 すでに市民が自分の住宅にどのくらいの耐震安全性レベルを要望しているのか、定量 評価する手法を提案し、全国のユーザーに調査した研究実績がある 1) 。これを基に市民 が自分の住宅に望む安全性レベルを個々に算出するプログラムを開発してきた。今年度 はこれらのツールを用いて、市民の望む個々の目標安全性レベルを算出し、評価手法を 模索する。 101 (b) 業務の実施方法 1) SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 対象となる低層構造物は主にせん断構造とみなすことができるため、提案する健全性診断 手法の理論的検証をシミュレーションデータや、小型模型の実験データから行った。これら の検証により、共振周波数を入力とするSVMのシステムの有効性と限界を確認し、具体的な 改善策を検討した。まずは学習データの基準化を行い、次に分類クラスの異なるSVMを構築 し、損傷パターンに応じて組み合わせることで多様なデータに対応できるようにした。さら に、新たな入力として反共振周波数の変化量を検討した。反共振周波数は共振周波数と同様 にモード解析で簡単に特定できる。加振位置や応答測定位置に依存して変化する局所項であ るため、センサ設置数や位置は従来のシステムとは異なってくるが、診断の信頼性は高まる と推測される。反共振においては、純せん断以外のモデルにおいても検討し、その特性を調 べた。 2) 住宅耐震性能の定量的評価手法の調査 簡便な住宅性能評価手法を構築するには、市民の分かりやすい指標で評価することが 重要である。その指標を用いて市民の要望する目標耐震安全性レベルを把握する。 市民がどのくらいの耐震安全性レベルを要望しているのか、市民が自分で望む安全性 レ ベ ル を 分 か り や す く 算 出 で き る WEBプ ロ グ ラ ム を 制 作 し 、 保 有 し て い る 。 今 年 度 は これらのツールを用いて市民の望むレベルを算出する。市民が自分で望む安全性レベ ル を 算 出 で き る WEBプ ロ グ ラ ム を 用 い て 、 目 標 レ ベ ル に 対 す る 各 自 の 要 望 を 調 査 し た 。 また算出プロセスとわかりやすい指標を解析・考察し、値の妥当性などを検討した。 (c) 業務の成果 1) SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 提案手法の流れ 昨 年 ま で の 研 究 に お い て 、単 層 損 傷 時 の 共 振 周 波 数 変 化 率 で 学 習 し た SVMを 用 い て 損 傷 層 の 検 知 が 可 能 な こ と を 示 し 、さ ら に SVMの 出 力 と 剛 性 値 が 線 形 関 係 に な る こ と 利 用 し て 、 近 似 式 か ら 剛 性 低 下 率 を 算 出 す る こ と を 提 案 し た 1) 。 本 研 究 で は 、 そ の 手 法で識別の難しいデータが確認されたことを改善するために、新たに反共振周波数の 変化を入力に採用する。以下に提案するシステムのフローを示す。 102 0 -0.1 損傷層による クラス分類 SVM1~SAM5 5 層目損傷 -0.2 0 共振周波数変化 グローバルな 指標による診断 共振周波数の変化率 損傷層と剛性低下率出力 -0.1 4 層目損傷 -0.2 0 -0.05 3 層目損傷 -0.1 0 -0.1 2 層目損傷 -0.2 0 ローカルな 指標による診断 入力層と応答層の選定 1 層目損傷 -0.1 -0.2 1 2 3 4 5 モード次数 反共振周波数の変化 による損傷層検知 誤診断の除去 信頼性の高いシステムの実現 図1 提案システムのフロー 共振周波数および反共振周波数変化の利用 共振周波数は比較的算出が容易であり、複数用いることができる場合、モード形と 同 様 に 損 傷 の 空 間 情 報 等 を 得 る こ と も で き る 2) 。 対 象 を せ ん 断 構 造 と み な し 、 損 傷 が 質量変化をひきおこさないとすれば、損傷は剛性の低減で評価できる。 反共振周波数は加振・応答位置に依存して変化する局所項であり、共振周波数と同 様 に モ ー ド 解 析 で 求 め た 周 波 数 応 答 関 数 か ら 簡 単 に 特 定 で き る 。加 振 点 が i点 で 応 答 点 が j点 の 周 波 数 応 答 関 数 の 反 共 振 周 波 数 は 、 特 性 行 列 Gの j行 目 と i列 目 を 除 い た 余 因 子 行 列 の 行 列 式 を 0と す る 周 波 数 と し て 求 め る こ と が で き る 。 ⎡− m1ω2 + k1 + k2 ⎤ − k2 0 0 0 ⎢ ⎥ 2 − − + + − k m k k k ω 0 0 2 2 2 3 3 ⎢ ⎥ 2 ⎥ G=⎢ − k3 − m3ω + k3 + k4 − k4 0 0 ⎢ ⎥ 2 − k4 − m4ω + k4 + k5 − k5 ⎥ 0 0 ⎢ ⎢ − k5 − m5ω2 + k5 ⎥⎦ 0 0 0 ⎣ (1) 例 と し て 、 加 振 点 i=3、 応 答 点 j=4の と き を 考 え る と 、 式 (2)の 枠 内 の 行 列 式 よ り 反 共 振 周 波 数 は k5と m5で 表 さ れ る 。 す な わ ち 、 純 せ ん 断 の 場 合 、 任 意 の 加 振 点 − 応 答 点 間に損傷が存在しても、反共振周波数は健全状態に比べて変化しないが、加振点−応 答 点 の 外 に 損 傷 が あ る 場 合 に の み 反 共 振 周 波 数 は 低 下 す る 3) 。 共振周波数変化による SVM の構築と検証 本 研 究 で は 損 傷 の 位 置 同 定 だ け で は な く 、 SVMの 出 力 と 剛 性 低 下 の 線 形 近 似 式 か ら 、 損 傷 程 度 を 算 出 す る 。 以 下 で は 、 こ の 提 案 を 軸 に 複 数 の SVMを 構 築 し 、 組 み 合 わ せ る ことにより、精度の向上を図るとともに診断の難しいデータについて考察を行う。 i層 目 損 傷 デ ー タ と そ の 他 の 損 傷 デ ー タ を 分 類 す る SVMを SVMiと し て 、 5層 分 の 計 5種 類 の SVMを 作 成 し た 。 さ ら に 、 剛 性 と 共 振 周 波 数 の 感 度 に 有 効 範 囲 が あ る こ と か ら 、 従 来 の 健 全 状 態 の 共 振 周 波 数 に よ る 基 準 化 を タ イ プ Aと し 、 全 層 の 剛 性 50% 低 下 時 の 103 共 振 周 波 数 で 基 準 化 し た タ イ プ Bを 新 し く 導 入 し た 。 上 記 で 導 入 し た タ イ プ Aと タ イ プ Bの ど ち ら の 出 力 を 重 視 す る か の 指 標 と し て 、建 物 全 体 の 剛 性 低 下 の 度 合 い を 判 定 す る 。 剛 性 低 下 の 刻 み は 10% ず つ と し 、 元 の 90% の 剛 性 の デ ー タ を 分 類 す る SVMを SVM09と し 、 SVM09∼ SVM01の 9種 類 作 成 し た 。 2層 分 損 傷 時 (1層 あ た り の 剛 性 低 下 率 40%)の 実 験 デ ー タ を 入 力 し た と き の 各 SVMの 出 力 を 図 2に 示 し た 。 SVM09∼ 01の 出 力 に 関 し て は 、 白 と 出 力 さ れ て い る と こ ろ に デ ー タ が 属 し て い る と み な す 。こ の 分 類 結 果 に よ り 、剛 性 は 元 の 50∼ 60% と 推 測 さ れ る の で 、基 準 化 タ イ プ Bに よ る 出 力 結 果 が 有 効 と 推 測 さ れ る 。右 の SVM1∼ 5の 出 力 に 関 しては、剛性低下率が出力されており、黒い棒が真値、白い棒が同定値を示す。 タイプ A svm5a sv m09 svm4a sv m08 svm3a sv m07 svm2a svm1a sv m06 0 4 6 10 12 Data Number sv m05 タイプ B svm5b sv m04 svm4b sv m03 svm3b sv m02 svm2b sv m01 svm1b Data Number 図2 Data Number 実験データの検証結果一覧 タ イ プ Bで は 剛 性 値 に ば ら つ き は あ る が 、 誤 診 断 は 減 少 し 、 精 度 の 向 上 が 図 れ た 。 し か し 、 2,3層 目 損 傷 デ ー タ に お い て は 両 タ イ プ で 3層 目 の 損 傷 が 検 知 さ れ ず 、 誤 診 断 が 発 生 し て し ま っ た 。 こ れ は 、 2,3層 目 損 傷 デ ー タ と 2,5層 目 損 傷 デ ー タ の 形 が 非 常 に よく似たものになるためと考えられる。パターン認識では、精度が上がることで、識 別率もよくなる一方、データが酷似していることで誤った診断をしてしまう恐れがあ ることが判明した。 反共振周波数を用いた損傷層の検知 構造物に複数の損傷が存在する場合、組合せによっては形が似通ってしまうことが ある。これは全次数の共振周波数変化率が構造物のグローバルな特性を示すためであ る。そこで、このような誤差をなくし、システムの信頼性を高めるため、新たな入力 として反共振周波数変化の活用を検討する。 104 0.3m f1 100 f2 10 伝達関数 応答層 x3 健全 4層目損傷 5層目損傷 入力層 x3 1 0 10 0.1 20 30 40 50 60 D12 0.01 0.2m 周波数 [Hz] 入力 図3 反共振周波数の導出方法 先述したとおり、せん断構造においては入力−応答点間の損傷に対して反共振周波 数は変化しないことが知られている。したがって、純せん断ではない小型模型の実験 を 行 い 、 実 験 装 置 と SAP構 築 モ デ ル の 2 つ を 比 較 す る こ と で 、 損 傷 に 対 す る 反 共 振 周 波数の挙動を調べる。検証においては共振周波数変化が負のとき、入力点と応答点間 に 損 傷 が 存 在 す る と 判 断 す る 。i次 と j 次 の 共 振 周 波 数 の 間 に 存 在 す る 反 共 振 周 波 数 を fa ij と す る と 、 変 化 量 は 式 (2)で 表 さ れ る 。 ∆faij = faij − faij′ (2) バ ネ を 柱 に 見 立 て た 5層 の 小 型 模 型 に お い て 、 ゴ ム で 支 え た プ レ ー ト に 衝 撃 を 与 え ることで入力とし、各層の加速度を計測、時刻暦の積分により伝達関数上での入力i 層 と 応 答 j層 の 変 位 応 答 x i と x j を 算 出 し 、 相 対 変 位 の ス ペ ク ト ル 解 析 か ら 反 共 振 周 波 数 を 確 認 し た 。図 3 は 入 力 3層 目 、応 答 4層 目 の と き の 伝 達 関 数 で あ る 。反 共 振 点 は 一 点 の み で あ り 、⊿ fa 34 を 見 る こ と に よ り 5層 目 の 損 傷 有 無 の み が 確 認 で き る 。実 験 と 有 限 要 素 モ デ ル の 反 共 振 周 波 数 変 化 を 図 に 示 し た 。 計 測 誤 差 、 同 定 誤 差 を 0.3~0.2Hzと 考 えれば、シミュレーションと実験の傾向は一致する。 -2.73 -1.56 k5 ⊿fa12 k5 ⊿fa12 -0.29 k4 k4 k3 -0.98 k3 -0.20 1.95 k2 k2 -6 -4 ⊿fa ij [Hz] -2 実験データ 図4 k1 k1 -0.29 -8 0 -8 2 -6 -4 ⊿fa ij [Hz] -2 0 2 有限要素モデル 反共振周波数の変化量の比較 このことから、詳細なモデルが構築できれば、その反共振周波数変化をパターン認 識の入力として学習することで、実用的な損傷同定が可能となる。反共振周波数は損 傷有無を考慮する範囲が限定的である。すなわち、共振周波数による診断により入 力・応答層を選定することで、信頼性の高いシステムの構築が期待される。 105 2) 住宅耐震性能の定量的評価手法の調査 目標耐震安全性レベルの簡易評価プログラムの検討 建築基準法レベルで設計された既存住宅の標準的な耐震安全性レベルを定量的に把握するた め、先行研究の算出結果と本プログラムの算出値を比較し、本研究の算出プログラムが妥当で あるかどうかを検討した。算出プロセスは、前年度の報告書に記載した通りである。先行研究 の結果一覧と本プログラムによる目標信頼性指標βTの算出値(集合住宅の場合)を表1に示す。 表1 βT 地域 東京 大阪 先行研究の結果と本プログラムによる算出値の比較 本研究の解析 RC4∼9階集合住宅 終局限界 1/50 1.4 1.7 松村論文 建研総プロ 建研総プロ 荷重指針 RC複数 RC8階オフィス S8階オフィス 基準法2次 終局限界 終局限界 終局限界 設計レベル − 1/50 1/50 の試算結果 0.5∼1.0 2.0 2.2 平均 1.3 1.2∼1.8 2.2 2.5 − 注:基準期間を50年とする.解析結果は標準的な支出金額の場合.後述の引用文献より作成 目標耐震安全性レベルに関する調査 日 本 女 子 大 学 生 涯 学 習 総 合 セ ン タ ー で 開 発 さ れ た V O D( ビ デ オ オ ン デ マ ン ド )形 式 の WEBプ ロ グ ラ ム を 現 在 公 開 し て い る 。こ れ を 用 い て 、市 民 の 要 望 す る 目 標 レ ベ ル を 調 査した。 調査期間 2003年 5 月 試験段階調査 2004年 2 月 よ り 一般公開調査 調査方法 WEBに よ る VOD形 式 の ア ン ケ ー ト 調査対象 全国の市民 調 査 結 果 か ら 、 現 時 点 で 355人 の 結 果 が 得 ら れ 、 図 5 の よ う な 集 計 結 果 が 得 ら れ て い る 。こ の 場 合 の 耐 震 安 全 性 指 標 は 、供 用 期 間 に お け る 信 頼 性 指 標 で 評 価 を 行 っ た 。結 果 か ら は 、標 準 的 な 住 宅 が 震 度 6 弱 に 耐 え る 程 度 と 認 識 さ れ る こ と が 多 く 、目 標 と し て は 現在の基準法レベルよりも上のレベルを希望している回答が多いことが特徴であった。 ま た 支 出 金 額 に 傾 向 が 読 み 取 れ 、多 く の 市 民 は た と え 新 築 す る 場 合 で も 、支 出 金 額 は 1 割 程 度 の 割 り 増 し ま で と 考 え て い る 。供 用 期 間 に つ い て は 50年 を 希 望 し て い る こ と が 多 く 、実 際 に 住 宅 の 建 て 壊 し が 30年 程 度 で 行 わ れ て い る 現 状 よ り も 、長 い 期 間 が 希 望 さ れ ていることになる。 106 図5 調査中の耐震安全性レベルの集計(回答者数 310人 時 点 ) ま た 既 存 木 造 の 耐 震 補 強 を す る 場 合 に は 、 ユ ー ザ ー に よ っ て は 100年 な ど の 長 い 供 用 期 間 を 希 望 す る 場 合 や 補 強 後 の 性 能 に 対 す る 大 き な 期 待 が あ る こ と が 予 測 さ れ 、ど の 程 度 の 供 用 期 間・性 能 を め ざ し た 補 強 計 画 で あ る の か に つ い て 性 能 と し て 情 報 開 示 す る こ とが重要であり、ユーザーに対しても説明すべき項目になることが分かった。 (d) 結論ならびに今後の課題 1) SVMに よ る 簡 易 耐 震 診 断 シ ス テ ム の 開 発 SVMの 出 力 と 剛 性 低 下 率 か ら 線 形 近 似 式 を 求 め 、層 剛 性 の 簡 易 同 定 を 行 っ た 。学 習 デ ー タ の 基 準 化 を 健 全 時 で は な く 、 剛 性 が 50%低 下 し た 場 合 の 共 振 周 波 数 で 行 う こ と に よ り 、各 層 の 損 傷 デ ー タ の 相 関 が な い 範 囲 を 移 動 さ せ た 。こ れ に よ り 学 習 デ ー タ の 異 な る SVMを 2種 類 作 成 し 、 検 知 で き る 損 傷 デ ー タ の 範 囲 が 広 が っ た 。 さ ら に 、 分 類 ク ラ ス の 異 な る SVM( 損 傷 層 に よ る 分 類 、 構 造 物 全 体 の 剛 性 低 下 率 に よ る 分 類 、 3次 ま で の 共 振 周 波 数 を 用 い て 損 傷 層 を 上 層 ・ 中 層 ・ 下 層 と し た 分 類 )を 作 成 し て 組 合 せ る こ と に よ り 診 断 の 信 頼 性 が 高 ま る こ と を 示 し た 。複 数 層 損 傷 デ ー タ も 用 い て 学 習 し た SVMの 検 証 を 行 う こ と に よ り 、単 層 損 傷 デ ー タ で 学 習 す る こ と の 有 効 性 を 示 し た 。小 型 模 型 の 実 験 を 行 い 、誤 診 断 さ れ た デ ー タ の 損 傷 ケ ー ス か ら 、損 傷 層 の 組 合 せ が 異 な っ て も 共 振 周 波 数 の変化率が酷似するデータが存在することを確認した。 以 上 を 踏 ま え 、損 傷 層 に よ る 反 共 振 周 波 数 変 化 を 調 べ 、自 動 健 全 性 診 断 手 法 へ の 適 用 を 検 討 し た 。本 手 法 の 特 徴 は 、反 共 振 周 波 数 は 共 振 周 波 数 と 同 様 に 、モ ー ド 解 析 で 求 め た 周 波 数 応 答 関 数 か ら 簡 単 に 特 定 で き る 。共 振 周 波 数 が 加 振 位 置 や 応 答 測 定 位 置 に 依 存 し な い 全 体 項 で あ る の に 対 し て 、反 共 振 周 波 数 は こ れ ら の 位 置 に 依 存 し て 変 化 す る 局 所 項 であるため、単層損傷の学習により、複数層損傷にも適用可能である。 共振周波数の変化および反共振周波数の変化の2つの指標を利用してSVMを活用 す る こ と に よ っ て 、損 傷 検 知 の 位 置 精 度 、損 傷 レ ベ ル 精 度 が 向 上 し 、実 用 性 の 高 い 手 法 で あ る 。将 来 的 に は 、大 量 の セ ン サ が 常 設 さ れ て い る 大 規 模 構 造 物 の 自 動 診 断 へ の 適 用 も視野に入れたい。 2) 耐震性能の目標値を市民の要望から評価する簡便な手法確立のための調査 住宅の耐震性能を表示する際、市民に分かりやすく表現するには、どのくらいの地震に耐え 107 るか、その時どのような被害・状態になるか、補修する必要があるかという3点がポイントに なる。まず地震の大きさについて、震度階で表現するのが市民にとって分かりやすいことが分 かっている 1)。他のポイントである被害状態や補修については、適切な指標が確定されていな い。 今回の調査結果からは、市民は自分の支払う金額を意識した上で、目標レベルとして多少金 額を支払ってでも現在の法令レベルより高めたい、50年程度の供用期間を希望したいと考えて いることが読み取れる。したがって耐震補強の目標値をどこに定めるのか、現行法レベルでよ いのか、それよりも上げておくべきなのかについては慎重な対応が必要であり、できるだけ設 計時に表示し、説明する必要がある。 耐震補強ではユーザーがコストをかけることになる。したがって、補強後の目標レベルにつ いてユーザーと設計者との意識のずれが生じることを避ける必要があり、性能の向上と工事単 価の関係に相関性が認められなければ、ユーザーからの不信感が予想される。簡易的な評価手 法を構築する際に、「どのレベルまで補強するか」、「どのくらいの供用期間を想定するか」 という目標値を明確にして、その条件をユーザーに伝達することが重要である。 (e) 引用文献 【(c)1)引用文献】 1) Mita, A. and H. Hagiwara, "Quantitative Damage Diagnosis of Shear Structures Using Support Vector Machine", KSCE Journal of Civil Engineering, Vol.7, No.6, 683-689, 2003 2) 薛松涛,李銀生,謝強,周波数分析に基づいたフレーム構造損傷同定の実験的研究, 第 44 回自動制御連合講演会前刷,208-211,2001 3) 稲田貴臣,島村佳伸,轟章,小林英男:反共振周波数変化に基づく CFRP 積層梁のはく 離領域の判定,日本機械学会論文集 A 編,67 巻 664 号,1929-1935,2001 【(c)2)引用文献】 1) 平田京子,石川孝重:社会的に要求される耐震安全性レベルの確率論的評価−ユーザ ーの要望をふまえた性能設計の構築に向けて−,日本建築学会構造系論文集,第 543 号,pp.23∼29,2001 年 5 月. 2) 日本建築学会:建築物荷重指針・同解説,日本建築学会,第 3 版,1993 年 6 月. 3) 松村和雄,牧野稔:地震動の再現期間値と鉄筋コンクリート造建物の破壊確率の関係, 日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)(構造Ⅰ),pp.171∼172,1990 年 10 月. 4) 建設省総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」平成 7 年度・8 年度報告書, 建設省建築研究所・日本建築センター・国土開発技術研究センター,平成 8 年 3 月・ 平成 9 年 3 月. 5) 坂本順,森保宏:現行設計法により設計される建築物の信頼性レベルについての試算 的考察 終局限界および使用性限界状態設計に用いる荷重モデル[Ⅲ],日本建築学会 構造系論文集,第 501 号,pp.41∼48,1997 年 11 月. 108 特許出願、ソフトウエア開発、仕様・標準等の策定 (f) 1) 特許出願 なし 2) ソフトウエア開発 なし 3) 仕様・標準等策定 なし 4) 成果の発表 著者 題名 発表先 Mita, A. and Quantitative Damage Diagnosis KSCE Journal H. Hagiwara of Civil Engineering, Shear Structures Using Support Vector Machine 発表年月日 of 2003 年 11 月 Vol. 7, No. 6, 683-689, (2003) 2003 年 9 月 Hagiwara, H. Local Damage Assessment of a Earthquake and A. Mita Building Using Support Vector Resistant Machine Engineering Structures IV 2003 年 9 月 萩原宏美,三田 サポートベクトルマシンを用いた 日本建築学会大会学術 彰 建築構造物の定量的損傷評価 講演梗概集(東海) 三田彰,萩原宏 パターン認識を活用した建築構造 日本地震工学会大会 2003 年 11 美 物の損傷診断 2003 梗概集 月 平田京子,石川 耐震安全性レベルに対する社会的 日本建築学会大会学術 2003 年 9 月 孝重 合意形成に関する調査−安全性レ 講演梗概集(東海) (構 ベルの決定と情報公開の関係に注 造Ⅰ) 目して− Kyoko Hirata, PROBABILISTIC EVALUATION Takashige OF Ishikawa SEISMIC LEVEL DERIVED FROM DESIRABLE TARGET 13th World Conference 2004年 on (in press). Earthquake Engineering REQUIREMENTS OF USERS (3) 平成16年度業務計画案 ワ イ ヤ レ ス で 振 動 デ ー タ を 取 得 可 能 な 携 帯 型 セ ン サ シ ス テ ム と し て 、2 つ の 振 動 セ ン サ か ら の デ ー タ を 取 得 可 能 な ワ イ ヤ レ ス セ ン サ シ ス テ ム を 試 作 す る 。ま た 、S V M な ど のパターン認識手法を用いた診断プログラムの構成について検討する。 109
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