総合演習Ⅱ - 外国人児童生徒支援リソースルーム

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リライト教材を用いた国語教育の実践②
−「 総 合 演 習 Ⅱ 」に
おける試み−
(中田敏夫:国語教育講座)
本演習では昨年度に続き次のような授業目標を設定した。愛知県は外国人児
童生徒の数が全国で一番多い県である。そして近い将来日本の教室のどこにで
も外国籍の子供たちが普通に並んで学ぶ光景がみられるだろう。このとき「国
語教育」の果たす役割は他の教科と比べ、極めて大きいものがあると考えられ
る。日本語教育の視点を持ちながら、国語教育のあり方を考えてみることを本
授業の基本目標として設定した。
次に、予定した授業計画・内容は以下の通りである。上記目標に基づき、前
年度後期開講された総合演習Ⅰでの検討を踏まえ、外国人児童が学ぶ「国語教
科書」の具体的な教材開発を行う。説明文教材を取り上げ、小学校4年生をタ
ーゲットに、リライト教材、ワークシートの開発を行っていくことを内容とし
た。
前半はこの教材開発を中心にし、後半は、知立市知立東小学校に出向きその
教材を用い、具体的に実践する。実践の反省を踏まえ、外国人児童にとっての
教材のあり方を考え、外国人児童の学習活動の困難さがどのあたりにあるかを
議論していくことを主な内容とした。
ただし、本「実践2」では、昨年度行った実践とは大きくその方法を変更し
た。それは、昨年度は外国人児童を取り出して、一つの教材を5時間で授業構
成し、一つのまとまった単元として実践を行ったのに対し、本年度はリライト
教材の用い方を、あらかじめ取り出しの形で取ってもらった1時間の授業時間
において、「予備学習」「0時間学習」として、自学自習してもらえるような
形、補助教材として使う形で準備した。具体的には後で示すが、昨年度実施の
スタイルは教員の配置の点一つとっても現実には、年間を通して、また全学年
を通して実施するのは不可能な状況にあり、実際的ではない。外国人児童の国
語の授業をすべて、取り出しで教員を張り付けることが果たしてよいのかどう
かにも意見があろう。子ども達が日本人、外国人区別なく「共就学」すること
に学校教育の意味があることを筆者も指摘しているところである(注1)。
しかしながら日本語クラスを終了し原籍学級(親学級)に戻っていく児童に
求められる力は、教科学習の力である。日本人児童と共に学年相当の教科学習
についていくことが目標である。充分な取り出しでの教科学習の予備教育が手
当てされない状況にあって、原籍学級で一体外国人児童が有効に学びうる方法
が 何 か を 考 え た と き 、リ ラ イ ト 教 材 の 有 効 性 が 確 認 さ れ た 昨 年 度 の 実 践 を 受 け 、
1時間の授業時間の中でリライト教材を用いて文章の全体の内容をつかみきっ
てしまうことを行ったらどうかという発想に立った。リライト教材をあくまで
も補助教材として位置づけ、これを本文理解のための呼び水(導入)として利
用できないかと考えたのである。実は日本人児童にとっても「あらすじ」をつ
かんでおくことが文章理解に有効であることが報告されている(注2)。
本年度はこのような背景から、ある単元に入る前の「0時間学習」として1
時間外国人児童のみ取り出していただいて、自学自習の形でリライト教材並び
にワークシートを学ぶという試みを行った。このようなリライト教材の使い方
が子ども達の教材理解にとってどのくらい有効であるか、その学習効果を計る
ことも本「実践2」での課題でもある。
実際に実施された授業過程について、大きく3段階に分けて、簡単に振り返
りたい。
Ⅰリライト教材の概説
全員が総合演習Ⅰに出席していたので、外国人児童を取り巻く教育環境、教
育課題などの一般的な議論についてはまとまっては触れないで、トピックス的
に取り扱うだけで済ませた。
光 元 聰 江 氏 の 実 践 、並 び に 昨 年 度 の「 総 合 演 習 Ⅱ 」で の 実 践(「 あ り の 行 列 」
「たんぽぽのちえ」)を事例に、外国人児童への学習言語教育の課題、リライ
ト教材の可能性を議論していった。具体的には光元氏の論文「外国人児童に対
する教科の学習指導について−日本語教育と国語教育との連関を例として−」
( 岡 山 大 学 教 育 学 部 研 究 集 録 第 108 号
1998) 、 「 子 ど も の 成 長 を 支 援 す る 日
本 語 教 育 」 ( 岡 山 大 学 教 育 学 部 研 究 集 録 第 121 号
2002) 、 並 び に GP2006 年
度報告書『国語リライト教材の開発』(愛知教育大学発行)を読み進めた。
Ⅱグループ別によるリライト教材の検討
リライトする教材は「ヤドカリとイソギンチャク」(東京書籍4年上)を取
り上げた。これは本年度予定した知立市立知立東小学校4年生が実践で関わる
時期に学ぶ教材であること、説明文教材を取り上げることとした結果、本教材
が選ばれた。説明文を選んだのは、前年度の経験があることと、文学教材より
論理的な文章構成を持つこと、剰余的な意味を持つ表現・語彙(所謂文学的な
表現・語彙)が少ないことなどを理由としている。
学生達の討議を踏まえて、リライト文、ワークシートを作成していった。レ
ベルを5段階に設定して作成した。レベルは以下のように設定した。
①口頭リライトレベル;文字がわからず、生活言語もそれなりにできていない
レベル。
②レベル0;かたかな・ひらがなが読み書きできるが、まだ日本語の取り出し
がなされているレベル。
③レベル1;かたかな・ひらがな、少しの漢字ができ、日本語の取り出しも終
え、生活言語に支障がないレベル。
④レベル2;生活言語も学習言語も相応に備わっているが、学年相当の学力に
はまだ難しさのあるレベル。
⑤レベル3;学年相応の学力がかなりついているが、まだ日本人の子どもと全
く同じ水準で教科理解が達しているわけではないレベル。
ここでは【レベル1】のリライト教材を紹介するにとどめる。ワークシート
も省略する。
【レベル1】
ヤドカリは、貝がらに
なぜ、ヤドカリは
イソギンチャクを
貝がらに
つけています。
イソギンチャクを
つけているのでしょ
うか。
このことを
しらべるために、じけんをしました。
水そうに、タコがいます。
そこへ、イソギンチャクが
すると、
次に、
タコは、
ついていない
ヤドカリを
イソギンチャクが
ヤドカリを
食べて
ついている
いれます。
しまいました。
ヤドカリを
水そうに
入れ
ます。
タコは、イソギンチャクを
イソギンチャクは、
タコは、その
はりに
体から
はりが
ささると
見つけると、にげてしまいました。
はりを
きらいです。
しびれてしまう
だから、ヤドカリは
出します。
からです。
イソギンチャクを
貝がらに
つけて、てきから
いのちをまもります。
では、
ヤドカリは
どうやって
貝がらに
イソギンチャクを
つけ
るのでしょうか。
ロスはかせは、
を
つけるのか
ヤドカリがいる
ヤドカリは、
そして、
ヤドカリが
水そうで
かんさつ
水そうに
足をつかって
貝がらに
どうやって
貝がらに
しました。
イソギンチャクを
イソギンチャクを
つけます。
イソギンチャク
いれます。
ひっぱります。
では、イソギンチャクは、
いいことが
貝がらに
つくと、
どんな
いろいろな
ばしょ
あるのでしょうか。
イソギンチャクは、
に
ヤドカリの
行くことが
ついていると
できます。
だから、えさを
また、ヤドカリが
このように、
ヤドカリに
とりやすく
なります。
のこした
たべものを
ヤドカリと
もらうことが
イソギンチャクは、
できます。
たすけあって
生き
ているのです。
Ⅲ知立市立知立東小学校での実践
受講生は大学4年生国語科の学生である。全員が前年度「総合演習Ⅰ」で、
知立東小学校で観察学習をし、またマスマス教室での算数支援を経験していて
(簡単な、文章題のリライト化も経験している)、外国人児童に接する機会を
既に持っており、児童のイメージをある程度つかんでいた。
知立東小学校の外国人児童の状況については省略する。対象児童は 4 年1組
のすべての外国人児童である。彼らの日本語力は来日の状況がそれぞれである
ことから(個人の能力的な面はおき)多様であり、生活言語としての日本語も
ままならないレベルから、生活言語はもちろんのこと、学習言語もほぼ不自由
しないレベルまで様々存在する。
【1時間の授業内容】
4 年 生 の 外 国 人 児 童 を 対 象 に 、国 語 教 科 書 教 材「 ヤ ド カ リ と イ ソ ギ ン チ ャ ク 」
を用いて、1時間の取り出し授業を行う。教材レベルを5段階設定し、それぞ
れにつきリライト教材を用い、1時間で「ヤドカリとイソギンチャク」の概要
をつかむことを目標とする。
【指導の実際】
① そ れ ぞ れ の 教 材 に つ い て 、子 ど も 達 が 自 主 的 に 取 り 組 む こ と を 原 則 と す る( 自
学自習)
②どのレベルでも一番始めに、各レベル担当の学生が1回範読をする。
③リライト教材が記されたプリントを子どもが何度か自分自身で読み直し、配
布されたワークシートを各自でやっていくことを指示する。
④自主学習が始まった時点で、子どもからの内容的な質問には原則答えないこ
ととする(質問があった際には、担任の先生による10時間構成の授業がこれ
からあるから、「10時間先生といっしょに勉強するから、そのときに質問を
しようね」という指示を出し、教室での授業の場で理解していこう、参加しよ
うという姿勢を期待する)。
⑤ ワ ー ク シ ー ト も 自 分 の 力 で 解 く 。ワ ー ク シ ー ト が 終 わ っ た 段 階 で 丸 ツ ケ を し 、
できている箇所とできなかった箇所を明確にしておくこと。できなかった箇所
については、消しゴムで消さないで、指導の段階で朱筆で知らせること(正解
を朱筆で、教師が書くか子どもに書かせる)。<この子どもの資料が分析の重
要な指標になるので、注意深く対応すること>
⑥ワークシートを回収する。教材本文は子どもに渡したままでよい。授業の場
に持ち込んで教科書の助けにしてもらってもよい。
この「0時間学習」としての1時間の取り組みを経て、通常の「ヤドカリと
イソギンチャク」の授業が担任によってなされた。外国人児童は日本人の子ど
も 達 と 一 緒 に 本 教 材 を 学 び な お し た 。そ し て 確 認 の テ ス ト も 行 わ れ て い る 。
「0
時 間 学 習 」に つ い て の 外 国 人 児 童 へ の 感 想 も 聞 い て お り 、本 実 践 の 反 省 を 含 め 、
「 実 践 2 」の 取 り 組 み に つ い て は 、GP2008 年 度 報 告 書『 国 語 リ ラ イ ト 教 材 の 開
発と実践』に譲ることにする。詳細はこちらを参照いただきたい。
注1
中田敏夫「外国人児童生徒に対する日本人学生の意識調査からみえる外
国人・日本人児童生徒の共就学の可能性」(愛知教育大学教育実践総合センタ
ー紀要
第 10 号
2007) 注 2
牧恵子「「あらすじ」考−「読書」と「読み」
の教育の観点から−」(愛知教育大学国語研究
第9号
2001)