Business Trend インフラ・PPP 投資市場の幕明け 第4回 インフラ投資のリスク・リターン特性 福島 隆則 株式会社三井住友トラスト基礎研究所 投資調査第1部 上席主任研究員 はじめに ど、今回のレポートでは、こうしたイ な2 つの形態を示した。1つは①で ンフラ投資のリスク・リターン特性に 示される、インフラ事業を行うSPC ついて考察していきたいと思う。 などに直接投資を行う形態。もう1 前回のレポートでは、国内におけ ただ、インフラ投資にもいくつか つは②で示される、インフラファンド るインフラ投資ビジネスの収益性を の形態があり、それによってリスク・ を通して間接的にSPCなどに投資 評価する目的で、その市場規模の推 リターン特性も異なる。まずは、そ を行う形態である。さらにインフラ 計を行った。我が国のストックベー うしたインフラ投資の形態と特徴に ファンドについては、取引市場に上 スのインフラは約 730 兆円、取引対 ついて見ていくこととする。 場されているものと非上場のものと 象になり得そうな利用料収入を伴う インフラは約185 兆円ある一方で、 実際に期待できるインフラ投資市場 の規模は10 年で十数兆円程度であ ろうというのが結論であった。 がある。 インフラ投資の形態と 特徴 断を行えるという高い自由度の反 図表1に、インフラ投資の一般的 る負担が大きくなる。その上で分散 ①の直接投資では、自ら投資判 面、相応の人材や情報などを整備す しかし、投資ビジネスの収益性を 評価するには、もう1つ重要な情報 図表1 インフラ投資の一般的な2つの形態 が必要となる。それはリスク・リター 国・自治体など ン特性である。一般的にインフラ投 資はミドルリスク・ミドルリターンと言 われているが、本当にそうなのか。 また、株式や債券など伝統的資産と の相関が低く、分散効果が得られや 許認可/運営権設定など 利 用 者 サービス提供 利用料 プロジェクト SPCなど 各種業務委託 エクイティ / デット ① インフラ ファンド 上場/非上場 ② 投 資 家 関連企業 すいとされているが本当にそうかな March-April 2015 63 Business Trend 効果を追求しようとすると豊富な資 が、こうした公開市場を通して投資 投資のリスク・リターン特性を見て 金量も必要となるため、ある程度規 家の裾野を個人にまで広げることが いくこととする。こうした場合、通 模の大きい機関投資家が選択し得 できるのも、上場インフラの特徴の1 常は市場を代表するインデックス る形態と言える。 つと言えるだろう。 のデータが有用となるが 、残念な 一方、②のインフラファンドを通し 一方、 Preqin社の調査 注 1 によると、 がらインフラ投資市場には世界的 た間接的な投資では、個別の投資 機関投資家がインフラ投資を行う場 にも認知されたインデックスがまだ 判断については基本的にファンドマ 合、76%は非上場インフラの形態を ないため注 2 、個別の研究成果に頼 ネジャーに委ねることになるため、 選択すると回答しており、以下、直接 らざるを得ない。さらに我が国で ①の直接投資ほど人材や情報など 投資を選択するとしたのが43%、上 は 、この市場自体がまだ確立され を整備する負担は大きくならない。 場インフラは11%となっている。 ていないため 、ここではインフラ投 さらに、資金量がそれほど豊富にな くても分散効果が得られることは重 要な特徴の1つと言えよう。反面、 ファンドマネジャーの投資判断が必 ずしも思い通りのものとはならない 資の盛んなオーストラリアのデータ 上場/非上場インフラ のリスク・リターン特性 る。 図表 2 は、EIB Papers (Vol.15 No.1 次に、実際のデータでインフラ リスクや、彼らに支払う 少なからぬ手数料には を使った分析を参照することにす 2010 ) に掲載されているオーストラリ 図表2 オーストラリアの6資産のリターン、ボラティリティ、シャープレシオ 留意が必要となる。 インフラファンドの上 場/非上場については、 上場インフラには取引所 を通して売買されること による信頼性や透明性、 また一定の流動性があ るのに対し、非上場イン フラには株式市場などほ かの市場動向に影 響さ れにくい安定性があると いうのが、一般的に言わ れていることである。先 日、東京証券取引所が、 本年 4月をめどにインフ ラファンドの上場市場を 開設することを発表した 出所 )Georg Inderst、 「Infrastructure as an asset class」 、EIB Papers、Vol.15 No.1 2010:pp.70-105 注1 Preqin、「The Q2 2014 Preqin Quarterly Update Infrastructure」(2014 年 7 月) 注2 2014 年 11 月、MSCI 傘下の IPD 社は 「IPD Global Infrastructure Direct Asset Index」 というグローバルな非上場インフラのアセットベースのインデックスを発 表しており、今後はこの分野における標準的なベンチマークになることが期待されている。 64 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.24 インフラ・PPP 投資市場の幕明け アの非上場インフラ注 3 、株式、債券 、 産との相関の低さが 読み取れる。 上場不動産、不動産、上場インフラ 相関の低い資産同士の組み合わせ の6資産を対象にした (年平均)リ が高い分散効果をもたらすため、伝 ターン、 (年率) ボラティリティ、シャー 統的資産を多く抱える年金基金や プレシオの分析結果である。 保険会社などの機関投資家が、そ 最後に、直接投資においてもイン いくつかある研究のうちNewellら のポートフォリオにインフラを加えて フラファンドを通した間接的な投資 の1995 年第3四半期~ 2009 年第2 分散効果を得ようとするのは極めて においても最終的な投資先となる、 四半期の分析結果を見ると、リター 合理的な投資行動と言えるだろう。 インフラ・プロジェクトの種類による ンが最も大きかったのは上場インフ 以上のようにオーストラリアの 6資 リスク・リターン特性の違いについて ラで16.7%、次が非上場インフラで 産を対象にした分析からは、インフ 14.1%となっている。一方、 リスクの大 ラ投資、特に非上場インフラへの投 インフラの種類によるリスク・リ きさを表すボラティリティは、非上場 資はミドルリスク・ミドル (ハイ) リター ターン特性の違いについては、公益 インフラが 6.3%で不動産、債券に次 ンであり、株式や債券など伝統的資 財団法人 年金シニアプラン総合研 ぐ小ささとなっているが、上場インフ 産との相関が低く分散効果は得ら 究機構の「 インフラ投資に関する調 ラは24.6%と6資産の中で 最 大と れやすいということが実証されたと 査研究報告書」 ( 2013 年 3月)に掲 なっている。また、投資の効率性を 言えるだろう。 載されているイメージ図 ( 図表4)が インフラの種類別 リスク・リターン特性 考えてみる。 示すシャープレシオは、非上場イン わかりやすい。ここでは、相対的に フラが 1.34と不動産に次ぐ高さと ローリスク・ローリターンのインフラと なっている。 して、稼働中の有料道路、病院や学 校、刑務所などの社会インフラを、 さらに、同じNewellらの2007年 第 2 四半期~ 2009 年第 2 四半期と いうサブプライム問題とリーマン 図表3 オーストラリアの非上場インフラとその他5資産の相関 ショックのあった期間の分析では、 非上場インフラのシャープレシオは 6資産の中で最高の 0.32となってお り、荒れた市場環境の中でも安定的 にリターンを出している様子が読み 取れる。 また 図 表 3 は、同じEIB Papers ( Vol.15 No.1 2010 ) に掲載されてい るオーストラリアの非上場インフラと その他 5資産の相関を分析したもの である。ここからは、非上場インフ ラと特に株式や債券など伝統的資 出所 )Georg Inderst、 「Infrastructure as an asset class」 、EIB Papers、Vol.15 No.1 2010:pp.70-105 注3 AMP Infrastructure Equity Fund(1995)、Colonial First State Infrastructure Income Fund(2003)、Perpetual Diversified Fund(2004)、Hastings Infrastructure Fund(2000)、 Hasting Utilities Trust of Australia(1994)の5つの非上場インフラファンドの加重平均から算出。 March-April 2015 65 Business Trend 逆にハイリスク・ハイリターンのイン 一方、これまでの議論で SPCの ほかに、SPCの 発 行 する社債 (債 フラとして、新たに建設する有料道 何に対して投資するのかについては 券)やSPCに融資した金融機関の 路、卸売電力市場に売電する商業発 特に明示してこなかったが、投資対 債権 ( を証券化したもの) などデット 電所などを挙げている。一方、空港 象にはSPCの株式などエクイティの もあり得る。特に近年は後者の 「イ や港湾、鉄道、また最近我が国でも M L P( M a s t e r Limited 図表4 インフラの種類別リスク・リターン特性のイメージ Partnership )の投資対象としてよく 知られるようになったガスパイプライ ンや貯蔵施設など 注 4 は、その中間に 位置付けられている。ただし、これ らはあくまでも目安であり、インフラ は不動産以上に個別性が強いため、 実際のリスク・リターン特性は個々の プロジェクトの契約内容や諸条件に よって大きく異なる点に留意が必要 である。 また図表 4 では、「新規建設 」 や 「稼働中で需要の安定した」 と表現 されているが、これらはそれぞれ一 般的に 「グリーン ( フィールド) 」、「 ブラウン (フィールド) 」 と呼ばれてお 出所 )公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構 、 「インフラ投資に関する調査研究報告書 」 (2013 年 3月) り、同じインフラであればグリーン フィールドへの投資の方が、ブラウ 図表5 株式、債券投資とインフラ投資のリスク・リターン特性のイメージ ンフィールドへの投資よりリスクが大 きくなる。インフラファンドの投資方 針などには通常、「ブラウンフィール ドのインフラにしか投資しない」 や 「グリーンフィールドのインフラにも 積極的に投資する」 などの記述があ るため、投資家はこうしたファンドの 投資方針をしっかりと確認・理解し た上で、自らのリスクアペタイト (選 好)に応じた選択をすることが重要 となるだろう。 出所 )Georg Inderst、 「Infrastructure as an asset class」 、EIB Papers、Vol.15 No.1 2010:pp.70-105 注4 石油や天然ガスの産業において、パイプラインや貯蔵施設などのインフラは 「ミッドストリーム」 と呼ばれている。ほかに、探査・開発分野のインフラは 「アップストリーム」、卸売分野は 「ダウンストリーム」 と呼ばれている。 66 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.24 インフラ・PPP 投資市場の幕明け ンフラ・デット」への投資が盛んに行 図表 5 に示した。 されているものを、 ね株式投資と債券投資の中間に位 われてきており、より安定的なリター 図表4と同様にイメージ図ではある 置する、すなわちミドルリスク・ミドル ンを求める投資家に広く受け入れら が、インフラの種類によってリスク・ リターンであることがわかりやすく リターン特性が異なること。また、 表現されている。 注5 れているようである 。 これまでの考察が総合的に表現 インフラ投資のリスク・リターンは概 注5 2013 年にファンドレイズされたインフラファンドのうち、23%がインフラ・デット・ファンドであったという調査結果もある(Infrastructure Investor Survey for 2014)。 参考文献 Preqin 、「 The Q2 2014 Preqin Quarterly Update Infrastructure 」( 2014 年 7 月) Georg Inderst 、 「 Infrastructure as an asset class 」、EIB Papers 、Vol.15 No.1 2010:pp.70-105 IPD Press Release 、「 MSCI releases industry ’ s first global asset infrastructure index 」( 2014 年 11 月 19 日 ) 「インフラ投資に関する調査研究報告書 」( 2013 年 3 月) 公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構 、 ふくしま たかのり 早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了( MBA )。国内証券会社 や外資系投資銀行などでデリバティブ・トレーディングやリスクマネジ メント業務を担当し、現職では 、自治体向けの公的不動産( PRE ) や PPP/PFI のコンサルティング業務 、投資家・事業者向けの PPP・イン フラ投資ビジネスの戦略リサーチ 、コンサルティング業務に従事。国 土交通省 「不動産リスクマネジメント研究会 」 座長。国土交通省「不 動産証券化手法等による公的不動産( PRE )の活用のあり方に関す る検討会 」委員など。早稲田大学国際不動産研究所招聘研究員。日 本証券アナリスト協会検定会員( CMA )。著書に『投資の科学 』 (日 経 BP 社・共訳 ) など。 March-April 2015 67
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