スマートハウス普及に向けた取組 ~HEMSやECHONET Liteの - ITU-AJ

特 集 会合報告 スマートハウス ~HEMSからの取組み~
スマートハウス普及に向けた取組
~HEMSやECHONET Liteの普及をテコに~
たついし
経済産業省 商務情報政策局 情報政策課 課長補佐
たく や
立石 拓也
1.はじめに
HEMSをはじめとしたエネルギーマネジメントシステム
2011年3月の東日本大震災以降、深刻な電力不足を経験
は、需要家の規模や意思決定の観点によって、その導入
した我が国は、従前に増して、省エネルギーに関する取組
可否が大きく左右される。例えば、電力使用量の多い工
を進めてきた。その中の一つに、エネルギーや交通等のシ
場や大型ビルなどの大口需要家では、達成可能な省エネ
ステムが、IT(Information Technology)やデータを触媒
量が大きく、また、企業活動として投資効率を重視できる
として融合し、ITにより全体が最適化されることで実現す
ため、費用回収が比較的長期に及ぶ場合でも、便益があ
る、便利で効率的な社会であるスマートコミュニティの推
ると判断されれば、導入が進む傾向にある。一方、一般
進がある。特に、スマートコミュニティの重要な構成要素
家庭については、一軒当たりの電力使用量が少ないため、
の一つであるスマートハウスの普及は、我が国の家庭部門
省エネによる便益が小さく、また、投資効率よりも、利便
に対する省エネの推進に大きく資するのではないかと期待
性やライフスタイルの充実といった経済合理性以外の視点
されている。
も重視することが多々あるため、導入が進みにくい状況に
スマートハウスとは、HEMS(Home Energy Management
ある。
System)を中心に、家庭内の創蓄省エネルギー機器がIT
一軒当たりの電力使用量が少ないとはいえ、全国に約
で制御され、電力を無理なく賢く使用するエネルギーマネ
5,000万世帯ある一般家庭は、我が国の電力需要に占める
ジメントを実現する家のことである。ITを用いて電力需要
割合としては決して小さいものではない。このため、需要
をきめ細やかに制御することで、高度なエネルギーマネジ
家にとっての付加価値となる魅力的な新サービスとともに、
メントであるピークカットやピークシフトを実現することが
いかにしてスマートハウスを普及していくかが、政策上の
できる。
重要な課題となっている。
図1.スマートコミュニティ及びスマートハウスの概念
ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4)
7
特 集 会合報告 スマートハウス普及に向けた取組み
2.具体的な取組
前項で述べたとおり、スマートハウスの普及に当たって
は、エネルギーマネジメントに留まらない新サービスの創出
がカギとなっている。このため、政府としては、
(1)通信規
格の標準化、
(2)事業実施者(アグリゲータ)の育成、
(3)
新サービス創出のための環境整備の三つの取組を推進して
いる。
(1)通信規格の標準化
効率的で利便性の高いエネルギーマネジメントを実現す
るためには、スマートメーターや家庭内の創蓄エネルギー
機器の通信や制御が、メーカにとらわれず実施できること
図2.エネルギーマネジメント市場の特徴
が必要となる。
図3.通信規格の標準化
重点機器
スマートメーター
蓄電池
普及状況
平成26年度は約366万台を導入予定。平成36年度までに全世帯(約5,000万)へ導入予定。
平成25年度補正「定置用リチウムイオン蓄電池導入支援事業費補助金」へ申請のあった機器の約
70%が対応。
太陽光パネル
一部大手メーカでは、平成26年度上期から全機種に対応。
燃料電池
平成27年3月を目処に都市ガス用機種の半数以上が対応。
ガス・石油給湯器
エアコン
証明
EV用充電器
平成27年3月を目処に都市ガス用暖房機能付給湯器の半数以上が対応。
平成26年4月時点の発売機器の3 〜 4割が対応。順次、拡大予定。
平成27年度以降、市場投入予定。
(ある大手企業では、既に約30機種をラインナップ)
平成27年度以降、市場投入予定。
図4.重点8機器の市場投入状況
8
ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4)
このため、政府としては、有識者や民間企業の方々と議
る補助事業を実施した。これにより、初期需要創出を通じ
論を重ね、2012年2月に、HEMSとスマートメーターや家
たコスト低減が進むとともに、アグリゲータとして、電気事
庭内の創蓄エネルギー機器との間の通信インタフェースとし
業者のほか、通信事業者や機器メーカ等、従来エネルギー
て、ECHONET Liteを推奨することを決定した。この日本
供給事業を実施していなかった事業者の参入が進んでい
発の通信規格であるECHONET Liteは、2015年中にも国
る。
際標準化が終了する予定である。また、
家庭内のエネルギー
マネジメントへの貢献度が高いと想定される八つの機器(ス
(3)新サービス創出のための環境整備
マートメーター、太陽光発電、蓄電池、燃料電池、ガス石
通信規格の標準化やアグリゲータ育成は着実に進んでい
油給湯器、エアコン、照明機器及びEV充電器)を重点機
るものの、冒頭指摘したとおり、家庭部門の小口需要家は、
器として、通信媒体の検討や接続性強化に向けた仕様書
経済合理性のみならず、利便性やライフスタイルの充実と
の策定を進めてきた。
いった観点も重視する。このため、エネルギーマネジメント
2015年2月現在、ECHONET Liteは90機種以上に対応
サービスの更なる充実はもちろん、HEMSから得られる電
しており、既に、重点8機器を中心に、対応製品の発売が
力利用データを活用して魅力的なサービスを創出し、消費
始まっている。今後は、
接続性を担保する第三者認証スキー
者への訴求を高めるとともに、ビジネス性を高めていくこと
ムの確立等の環境整備に伴って、対応製品の開発、市場
が必要である。
投入が更に加速する見込みである。
一方、HEMSから得られる電力利用データを利活用した
新サービスを創出するためには、二つの課題がある。1点
(2)事業実施者(アグリゲータ)の育成
目は、サービサーとなる中小企業やベンチャーを含む多種
エネルギーマネジメントの普及に当たっては、事業とし
多様な企業が、電力利用データを効率よく取得するための
てその展開を行うプレイヤの育成も重要である。一般に、
情報基盤の標準化である。2点目は、データ利活用と個人
エネルギーマネジメントは、小規模な需要家ほど達成可能
情報保護との間での、バランスのとれたデータ取扱いに関
な省エネ量が少なく、投資回収が困難となる。したがって、
するルール整備である。
こうした需要家を束ねて管理し、エネルギーマネジメント
こうした課題を解決し、新サービスが創出されるような
サービスを提供するアグリゲータが、家庭部門のエネル
環境整備のため、政府としては、2014年度から、大規模
ギーマネジメント推進のキープレイヤになると考えられて
HEMS情報 基 盤 整 備事 業を開始した。 当該事 業 では、
いる。
14,000世帯にHEMSを導入し、これをクラウド管理する大
このため、アグリゲータを通じたエネルギーマネジメント
規模HEMS情報基盤システムの構築、当該システムの標準
の普及を進める観点から、政府としては、2011年度から
化、消費者の実際の声を踏まえたプライバシー上の対応策
2014年度にかけて、中小ビル向けやマンション向けに、エ
の検討を実施している。これらは、電力小売全面自由化を
ネルギーマネジメントシステムを導入するアグリゲータに対す
控えた2015年度末までに終了する予定である。
図5.スマートマンションのイメージ
ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4)
9
特 集 会合報告 スマートハウス普及に向けた取組み
図6.新サービスのイメージ
3.おわりに
自由化が、スマートハウス普及の契機となる可能性がある。
スマートハウスの普及には、HEMS、ECHONET Lite
具体的には、多種多様な事業者が、HEMSから得られる
製品の市場拡大、アグリゲータの登場、魅力的なサービス
電力利用データを利活用した魅力的なサービスを競争原資
の創出やそのための環境整備など、様々な課題がある。一
として参入することが考えられる。政府としては、短期集中
方で、その普及が進めば、省エネルギーの推進、データ
的に環境整備を進めているが、スマートハウスの普及には、
利活用による新産業の創出、対応家電の市場拡大など、
民間事業者の創意工夫が欠かせない。今後、双方の取組
我が国にとって大きな利益をもたらすこととなる。
がシナジー効果を生み、普及の大きな活力となっていくこと
こうした中、2016年度から予定されている電力小売全面
を期待したい。
10
ITUジャーナル Vol. 45 No. 4(2015, 4)