地方創生は外国人転入増の視点も~初めて明らか

みずほインサイト
政 策
2015 年 4 月 2 日
地方創生は外国人転入増の視点も
政策調査部主任研究員
初めて明らかになった外国人の国内人口移動
03-3591-1318
岡田豊
[email protected]
○ 2015年2月に発表された住民基本台帳人口移動報告は、外国人の国内人口移動の詳細を捉えた、初
めての統計である。
○ それによると、外国人の国内人口移動は比較的活発で、製造業の盛んな地域を中心に、外国人の転
入により人口減少に歯止めがかけられているところも少なくない。
○ 地方創生では、地方圏から東京圏への人口移動を迎える方策に注目が集まっているが、外国人に選
ばれる地域づくりを企業や住民と共に進めることも重要であろう。
1.外国人の国内人口移動の実態が初めて明らかに
安倍政権が進める地方創生で、国内人口移動に大きな注目が集まっている。人口減少が進む地方圏
において、少子化の進行以上に、三大都市圏などへの人口流出が問題視されるようになったからであ
る。国内人口移動については、住民基本台帳を元にして総務省統計局が集計する「住民基本台帳人口
移動報告」が、市町村を超える移動を捉えた詳細な統計として知られており、2014年分は2015年2月に
発表された。なお、住民基本台帳人口移動報告については、今次の地方創生の動向に配慮し、2月発表
分に加えて、さらなる追加的なデータ提供が2015年4月下旬にも行われる予定である。
この2014年分の住民基本台帳人口移動報告で注目されるのは、初めて外国人の国内人口移動の年間
統計が記載されたことである(月次統計については、2013年7~12月分について遡及して修正された)。
日本における外国人の人口移動の把握はこれまで難しかった。外国人は、以前は外国人登録制度と
いう日本人とは別の制度で把握されており、日本人と同様の住民登録の必要がなかったので、この住
民基本台帳人口移動報告では、外国人の国内人口移動は把握できなかった。
一方、日本に入国・在留する外国人は増加傾向にあること等から、基礎自治体である各市区町村が
外国人に行政サービスを提供する基盤となる住民登録の必要性が高まってきた。そこで、外国人につ
いても日本人と同様に住民登録の対象に加える「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が2012年7
月9日に施行された。
それにより、観光客など3か月以下の短期滞在者を除き、外国人に対しても日本人と同様に住民票
が作成されることとなった。さらに、2013年7月8日から、住民基本台帳ネットワークと住民基本台帳
カードについても外国人を対象とする運用が開始された。その結果、住民基本台帳人口移動報告にお
1
いて、2013年7月8日以降外国人についてもデータが把握できるようになった。
2.日本人と比較した外国人の国内人口移動の特徴
(1)外国人の移動は日本人よりも活発
2014年の外国人の国内人口移動者数(都道府県間移動+都道府県内移動。以下、同じ)は299,590
人である。一方、同年の日本人の国内人口移動者数は4,908,009人で、11年連続の減少となっている。
日本人の人口移動は、住居の購入や結婚などによる世帯形成か就学・就職を理由とするものが中心で、
多くは10歳代後半~30歳代に移動する。少子高齢化の影響でそれらを理由とする人口移動の可能性が
高い10歳代後半~30歳代の人口そのものが減っているため、日本人の国内人口移動数は長期減少傾向
にある。
また、人口全体(2014年10月1日現在)に対する移動者の割合をみると、日本人が4%であるのに対
し、外国人は18%と高率になっている。この人口全体に対する割合について、外国人の年齢別のデー
タがある都道府県間移動者をみると、外国人は日本人よりも全ての年齢で高い(図表1)。このよう
に、外国人は日本人よりもかなり活発に移動していることがわかる。
図表1
人口全体に対する都道府県間移動者の割合(2014年)
(%)
20
18
外国人
16
14
12
10
8
6
4
日本人
2
0
(歳)
(注)人口全体は総務省統計局の2014年10月1日の人口推計による。
(資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告
平成26年(2014年)結果』などにより、みずほ総合研究所作成
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(2)製造業が盛んな地域で外国人転入超過が目立つ
都道府県別に2014年の転入超過数をみると、日本人で転入超過となっているところは、宮城県、埼
玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、福岡県のわずか7都県であり、特に東京圏が目立つ。こ
れは、地方創生において、人口の東京一極集中是正が叫ばれる背景の一つとなっている。
一方、外国人で転入超過となっているところは、北海道、宮城県、秋田県、山形県、福島県、群馬
県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、福井県、静岡県、愛知県、滋賀県、奈良県、和歌山県、島
根県、山口県、香川県、愛媛県、宮崎県、鹿児島県と、かなり多岐にわたる(図表2)。群馬県や福
井県のように、長年日本人の転出超過に苦しんでいる県で、外国人が転入超過となっているところも
あり、製造業などでの人手不足を外国人が補いつつある側面が明らかになっている。
この点は、都道府県間転入者における外国人の比率(日本人を100%とした時の比率)をみると、さ
らに鮮明になる。都道府県別にみると、最高は群馬県の16%、他では三重県、栃木県、岐阜県、愛知
県、福井県、茨城県、埼玉県、島根県が10%を超えている(次ページ、図表3)。これらの多くは製
造業の盛んな地域であり、日本の製造業が外国人の労働者無しに成り立たせることが難しい状況に至
っていることを表している。
図表2
外国人の転入超過数(2014年)
(人)
4000
3000
2000
1000
沖縄県
鹿児島県
宮崎県
大分県
熊本県
長崎県
佐賀県
福岡県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
山口県
広島県
岡山県
島根県
鳥取県
和歌山県
奈良県
兵庫県
大阪府
京都府
滋賀県
三重県
愛知県
静岡県
岐阜県
長野県
山梨県
福井県
石川県
富山県
新潟県
神奈川県
東京都
千葉県
埼玉県
群馬県
栃木県
茨城県
福島県
山形県
秋田県
宮城県
岩手県
青森県
北海道
0
-1000
-2000
-3000
(資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告
平成26年(2014年)結果』により、みずほ総合研究所作成
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3.地方創生には外国人転入者を増やす視点も
現在進められている地方創生では人口の東京圏一極集中を「弊害」とし、地方圏から東京圏への人
口流出に歯止めをかけるため、高学歴化が進む若い女性の仕事を地方圏で創出することが重要視され
ている。そこで、日本人の東京圏への転出者数に対する、外国人の都道府県間転入者の比率をみてみ
よう(次ページ、図表4)。最も高い比率となっているのが三重県で、90%を超える。50%を超える
のは、岐阜県、島根県、滋賀県、福井県と続く。さらに、三大都市圏の中心地域である愛知県が42%、
大阪府が26%と、軒並み高水準となっている。このように、愛知県や大阪府といった大都市圏でさえ
日本人の東京圏への転出を外国人の転入が補っているのが現状であり、東京圏一極集中是正のために
東京圏への転出をたとえ減らしたとしても、外国人に選ばれない地域になれば人口減少は避けられな
い。特に製造業への依存度が高い地域の地方創生は、もはや東京圏との人口獲得競争というよりも、
外国人の受け入れ競争になっているといっても過言ではない。
図表3
都道府県間転入者における外国人の比率(日本人比、2014年)
(%)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
沖縄県
鹿児島県
宮崎県
大分県
熊本県
長崎県
佐賀県
福岡県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
山口県
広島県
岡山県
島根県
鳥取県
和歌山県
奈良県
兵庫県
大阪府
京都府
滋賀県
三重県
愛知県
静岡県
岐阜県
長野県
山梨県
福井県
石川県
富山県
新潟県
神奈川県
東京都
千葉県
埼玉県
群馬県
栃木県
茨城県
福島県
山形県
秋田県
宮城県
岩手県
青森県
北海道
0
(資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告
平成26年(2014年)結果』により、みずほ総合研究所作成
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外国人の人口移動率の高さから、外国人は住居の移転を伴う転職に日本人以上に積極的と見ること
ができる。また、少子高齢化の進む日本では、人手不足が長期化する可能性が高く、外国人への依存
度が今後徐々に高まるのは間違いない。
そこで、地方創生で人口減少に歯止めをかけるために、外国人に選ばれる地域を目指してみるのも
一計であろう。高学歴化が進む若い女性の仕事作りは、これまでそうした経験があまりない地域では、
多少努力したところで、若い女性の東京圏への転出を抑制するのは難しいであろう。一方、製造業の
誘致を長年進めてきた地域は多く、こうしたところでは外国人が長年住んでいる地域も少なくない。
それらの経験を生かして、地域の企業とともに、外国人にとって働きやすい製造業の現場作りに努め、
また外国人にとって暮らしやすい地域づくりを住民と共に進めていけば、外国人労働者に選択される
地域として、人口減少対策の一助にできよう。さらには、そのような地域は、将来日本が本格的に外
国人の受入を増加させる方向に政策の舵を切った場合には、人口増加が見込める先進地域に踊り出る
ことも可能であろう。
図表4
日本人の東京圏への転出者数に対する外国人の都道府県間転入者の比率(2014年)
(%)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
沖縄県
宮崎県
鹿児島県
大分県
熊本県
長崎県
佐賀県
福岡県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
山口県
広島県
岡山県
島根県
鳥取県
奈良県
和歌山県
兵庫県
大阪府
京都府
滋賀県
三重県
愛知県
静岡県
岐阜県
長野県
山梨県
福井県
石川県
富山県
新潟県
群馬県
栃木県
茨城県
福島県
山形県
秋田県
宮城県
岩手県
青森県
北海道
0
(注)東京圏は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県。
(資料)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告
平成26年(2014年)結果』により、みずほ総合研究所作成
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