ヲ ム;pdf

近世料理書におけるこシメルとニッケルをめぐっ
田
ム
ヲ
実
ち、近世料理書を資料として加熱調理操作を表す語葉を考
筆者は、語葉の体系とその歴史的変化について関心を持
それ以来、加熱調理操作を表す複合動詞の考察についての
(
二O O八)でもイリツケルについて取り上げた。しかし
本稿では、加熱調理操作を表す複合動詞の研究を、さら
ところで余田(二OO二)では言及するだけの用意がな
とにする。
代表させて片仮名で記すことで加熱調理操作語葉を表すこ
以下では、ニシメル、ニッケルのように現代語の語形で
に進めるべく、ニシメルとニッケルを考察することにする。
く取り上げることができなかったのであるが、加熱調理操
ジルを中心にニダス、ニツメルの体系を考えたが、複合動
合動詞も考察する必要がある。余田(一九九三)ではセン
操作語葉の体系を考えるためには、加熱調理操作を表す複
作語蒙は単純語のみではない。複合動詞もある。加熱調理
かにできたかと思う。
語の語葉体系は、余回(二OO二)でその概略をほぼ明ら
研究を進めていない。
合動詞にはどのようなものがあるのかを報告した。余田
九九七)では、近世料理書における加熱調理操作を表す複
詞については十分な考察をすることがなかった。余回(一
て
察してきた。近世料理書における加熱調理操作語葉の単純
一、はじめに
余
園文撃論叢
第六十輯
ニシメルとニッケル
ルがアゲル、ムス、ヤクとともに加熱調理操作の体系の中
近世料理書において、ニシメル、ニツメルの前項となるニ
げられている。次章で挙げるようにニッケルは近世料理書
と記述され、﹃西洋道中膝栗毛﹄﹃微光﹄の近代の用例が挙
ほうかんき
み込ませる。
とあり、用例として﹃慶長見聞集﹄﹃醒睡笑﹄﹃員操婦女八
食物などをよく煮て、醤油(しようゆ)などの汁をし
賢誌﹄﹃新浦島﹄が挙げられている。ニシメルは、近世か
(﹃料理珍味集﹄巻五敵午房)
のように、味付けを伴わないでユデルという加熱調理操作
ら近代の用例が挙げられている。﹃日本国語大辞典・第二
午房寒気の節外へ出し置は凍るをにへ湯へ入れ煮る
を表す場合もあるが、一般的には、
版﹄から、子ンメルとニッケルの意味は、用例の時代に差
イレニル
スアハセミギゴパウ
等を入て。すこし煮なり。(﹃和漢精進料理抄﹄巻之上
ることを考えあわせて﹁食物を十分に煮て味をしみ込ませ
があるが、近世料理書のニルが食物に味を付ける意味もあ
酒鍋にて酒気なきほどに煮王子をゆるくときくずをす
で、ニッケル、ニシメルの共通の意味をこのように仮定し
る﹂が抽出できる。次章で近世料理書の用例を検討するま
酢菜)
こしいれかきまはし煮てとろりとして鱒蜘などへかけ
ておく。
る(﹃料理山海郷﹄︿寛延三年一七五O﹀ 巻 き 一 王
子いり酒)
のように、食物素材に味を付けることを伴っている。 ゆえ
O
O さて酢と醤油と合。鍋に入て。よくた、せ。右の午芽
O
に遡って用例が見られる。ニシメルは、意味の記述①に、
める。
食物をよく汁がしみこむまで煮る。十分に煮る。煮し
ッケルを見てみると、
取り上げることにした。﹃日本国語大辞典・第二版﹄でニ
にニルを前項に持つ複合動詞のうちニッケルと子ンメルを
四
で最も基本的な位置を占めるためである。ニルは、
ルを取り上げるのは、余田(二OO二)で述べたように、
加熱調理操作を表す複合動詞のうち、ニシメルとニッケ
、
一
ニシメルとニッケル
三、﹃年中番菜録﹄における
﹃年中番菜録﹄は大坂で出版された料理書である。序に
﹁或とき畑りたつ民家の食事に関東にてはそう菜と称し、
関西にて雑用ものと唱る献立の数/¥をかき集めて年中番
菜録︿略﹀﹂とあるように、確かに、東の方言語形に対す
撰庖丁梯﹄と文化三年(一八O六)の﹃会席料理細工庖丁﹄、
に見られた近世の料理書は、享和三年(一八O三)の﹃新
た際、ニッケルとニシメルという意味がよく似た語が同時
優勢の場合が多い。上方の料理書でも、文章語としてはタ
立については上方の近世料理書でも、タクではなくニルが
記されていることが知られているが、ニル/タクの東西対
ところで、方言書の﹃浪花の聞書﹄は﹁たく煮也﹂と
る西の方言語形が目立つ料理書である。
嘉永二年(一八四九)の﹃年中番菜録﹄、文久三年(一八
クよりもニルの方がふさわしいと認識されていたと考えら
余田(一九九七)で加熱調理操作を表す複合語を調査し
六三)の﹃四季献立会席料理秘嚢抄﹄の四書であった。し
して、料理法を記した名詞に解釈した方が妥当と考えられ、
であった。﹃年中番菜録﹄のニルとタクはニルが優勢な近
一方﹃浪花聞書﹄が大坂の方言として挙げるタクは一 O例
ニルを﹃年中番菜録﹄で見てみると用例は四例であった。
まず、ニッケル、ニシメルの前項となっている単純語の
れる。
﹃会席料理細工庖丁﹄のニシメも﹃新撰庖丁梯﹄と同様、
世料理書一般的傾向とは異なる様相を呈している。
ニシメは動詞ではなく加熱料理操作の名称を示すニシメと
かし、今回新たに調査し直してみると、﹃新撰庖丁梯﹄の
くニツメとして名詞に解釈した方が妥当と思われる例ばか
まずニルの例を挙げる。
はまくりは何にでも手かずい
﹃四季献立会席料理秘嚢抄﹄のニツメも動調としてではな
りであった。結局のところニシメルとニツメルの両方の例
(1) 汁とおなじやうなり
(1) の例のニルは、現代語においても近世料理書にお
らすしてよきものなり︿中略﹀すべて煮すぎざるよし
が見られる料理書は﹃年中番菜録﹄だけであった。そこで
本稿では、まず﹃年中番菜録﹄の子ンメルとニツメルを考
察することにする。
近世料理書におけるニシメルとニッケルをめぐって
五
同文民平論叢
第六十輯
一般的な煮るの操作であると解せるものであろう。
7
こ
き
る
よ
し
a
u
x
u
M
すまし汁はさらりとた
せる事あり
(5) 汁 か ぶ ら 菜 お な し 事 な り
(1)(2)(3) の 例 か ら 、 ﹃ 年 中 番 菜 録 ﹄ で は ニ ル と タ
に持つ複合動詞については、異なった様相が見られるよう
操作を指しているように考えられるが、ニル、タクを前項
がニルに対して優勢であるのならば、タクを前項に持つ複
単純語において、タクがニルと同じように使用され、タク
次に、ニル、タクを前項に持つ複合動詞の例を見てみる。
名詞が﹁日本国語大辞典・第二版﹄に立項されているが、
=
?
えるであろう。現代語では、タキアワセという
動詞だと 4
タキアワセルは、近世料理書の中でも、かなり特殊な複合
タキアワセルが見られたのは﹃年中番菜録﹄だけであった。
料理書における加熱調理操作を表す複合動詞を調査した際、
合動詞が多く見られでも構わないように感じられるのであ
タキアワセルという動詞は立項されていない。タキアワセ
あるが、動詞としては、近世料理書でも現代語でも一般的
るが、﹃年中番菜録﹄で見られたタクの複合動詞はタキア
焼とうふなとたき合
ルは、京都出身の筆者にとってはあまり違和感のない語で
(4) ふ き ば か り に し め る こ と あ り
ワセルのみで、用例は一 O 例であった。
び確かめておく。
に思われる。ちなみに、余田(一九九七)において、近世
煮也﹂から、上方においてニルとタクはほぼ同じ加熱調理
挙 げ た (l)(2)(3) の 例 ゃ 、 ﹃ 浪 花 の 聞 書 ﹄ の ﹁ た く
煮て味をしみ込ませる﹂というような意味ではない。先に
で仮定したニツメル、ニッケルで仮定した﹁食物を十分に
材と一緒に煮ることを意味する加熱調理操作である。前章
のような例である。 (4)(5) の タ キ ア ワ セ ル は 、 別 の 食
油あげとたき合せてよ
ム
クがほぼ同じ加熱調理操作を指していることを確認してお
ニルの方言語形
、
ノ
く。そして、タクの例がニルの例の約二倍であることも再
でニルとほぼ同じ加熱調理操作であろう。
などが挙げられる。 (2)(3) のタクは、
し
いても、
くは
ここには挙げなかった一一ルの他の三例も同様に解せるもの
f
こ
(3) 身 し Yめ た し に て た く は 上 品 也
きたるよし
2 タ
である。
ょて
)ク
味みの
噌そ例
汁k
と
はし
タクの複合動調はタキアワセルだけで﹁食物を十分に煮
ではないと言えそうである。
ほしなあゆ
むこふ
晶子菜)油揚に鮎など取合にしめるすこし汁あるも
よし油をすこしいれて汁なきゃうにしめ向へつけて
(9)(
(叩)(ひじき)油あげほそぎり又こんにゃくなど取合に
もよし︿略﹀
対し、ニルの複合動詞のニシメルとニッケルは、ニシメル
しめてよし油すこしいれにしめてもよし白あへに
て味をしみ込ませる﹂意味と仮定したような語がないのに
が二八例、ニッケルが三例見られ、用例数にかなりの差が
こんぷを)青魚と取合せ煮付るもよし
(ロ)(こんにゃく)味噌あへしらあへ又からりとにしめ
(日)(焼豆腐)味噌かけ又しるためてにしめてもよし
やきと弓ふみそ
もすべし上品なり
ニッケルの三例をすべて挙げる。
あった。
(6)(
あかゑ)油にていためても又そのま、にでもねき
た る も よ し い づ れ も 御 客E山してよし酒のさかなに
度からいりをして水けをとり酒しほ醤油にてにしめる
(日)(網さこ)よく/¥えりてほこりをさりなべにて一
あみいち
上品なり浅草のり花かつをかくるときは客用なり
(7)(
L
にしんにつけ
取合せすっぽんもどきにすべしまづ酒と水とにへた
もなるべし
じぷん
せその中へさかなをいれしばらく煮つけよき時分に醤
烏賊)菜大こんなすびなと取合て煮つけるよし
油をいれかげんすべし︿以下略﹀
(8)(
理操作の一端が浮かび上がる。醤油のような味付けをする
以上の三例のうち、特に(七)からはニッケルの加熱調
味が濃厚になる。(叩)も同様に油を入れている。ニシメ
が、油を調味に使っているのが注目される。油を入れると
(9) のニシメルでは汁気があってもなくても檎わない
酒のさかなにはむめぼしいれたるもよし
調味料は記されていないが﹁澗と水とにへた瓦せ﹂てその
ルという加熱調理操作は味を十分に付ける操作であると考
︿
略
﹀
中で﹁しばらく﹂ニッケルのであるから、味は十分にしみ
えられる。(ロ)の例では調味料は書かれていないが、調
味料が ﹁味噌あへしらあへ又からりとにしめたるもよし﹂
込むであろう。
次にニシメルの例を見てみる。
近世料理書におけるニシメルとニッケルをめぐって
七
園文息子論叢
第六十輯
のように、﹁味噌あへ﹂と豆腐をすり潰して作る﹁しらあ
おから
野菜類
となる食物素材は、
は醤油ではないかと思われる。(日)では、雑魚を水分を
へ﹂に対して﹁又からりとにしめ﹂ることができる調味料
を取り除くために煎っている。水分を取り除くことにより
調味料の﹁酒しぼ醤油﹂の味は小魚によくしみ込むと思わ
海藻類
魚貝類
み込ませるように煮る加熱調理操作だと考えてもよいだろ
メルは、﹁食物を十分に煮て味をしみ込ませる﹂点では共
以上の結果から﹃年中番菜録﹄におけるニツメルとニシ
異なる傾向にあることがわかる。ニシメルは野菜・海藻・
おから類がかなりの部分を占める。
げ、(日)豆腐、(臼)こんにゃく、(日)雑魚である。こ
(臼)(日)は (9) 菜に油揚げ・鮎、(叩)ひじきに油揚
の料理書の﹃年中番菜録﹄で使用されているが、両方とも
あった。前章で述べたように、ニシメルもニッケルも近世
初期から見られたのに対して、ニツメルの例は近代からで
二章で見た﹃日本国語大辞典﹄ではニシメルの例は近世
ニシメルからニッケルへ
こで挙げた用例では、ニツメルが魚類に偏り、ニシメルは
使用されているのは﹃年中番菜録﹄だけであった。では、
叩)(日)
(日)のように魚類の場合もあるが、ニツメルよりはあっさ
(9)(
りしたもの、精進物に偏るように見える。﹃年中番菜録﹄
ニシメルとニッケルの使用には、近世の料理書でも時代の
大根である。それに対してニシメルの用例
6) 見布を練と、 (7) 赤鱒、 (8) 烏賊と
た食物素材は (
ニツメルの用例である (6)(7)(8) で、ニツメてい
用例数以外に違いはあるのだろうか。
では、﹃年中番菜録﹂におけるニッケルとニツメルには
う。前章で﹁食物を十分に煮て味をしみ込ませる﹂と仮定
であり魚類以外が多数であった。
、
1
¥
通であるが、加熱調理操作の対象となる食物素材の種類が
例例
した共通の意味は間違っていないと思われる。
れる。 (9) か ら ( 日 ) の 例 よ り 、 ニ シ メ ル は 味 を 十 分 し
例五
例
の、ここで挙げた例以外のニシメル(二二例)の対象の主
四
行
料理山海郷
寛延一
寛延三
宝暦年間
宝暦一円
安永二
安永五
天明三
天明四
常流料理献立抄
料埋珍味集
料理伊呂波庖丁
新撰献立部類集
豆腐百珍続編
四季献立会席秘嚢抄
年中番菜録
嘉永二
文久三
天保三
文政一三
文化二
文化三
文化三
文政二
文政五
文政七
享和三
享和三
享和二
享和一
享和一
卓子式
享保一五
文一二
延宝二以前
元禄九
元禄一 O
発
天保七
書
料理早指南初編
料理早指南二一編
料埋け十指南三編
新撰庖丁梯
素人庖丁初編
素人庖丁二編
料理簡便集
会席料理細工庖丁
精進献立集初編
料理通初編
精進献立集一二編
臨時客応接
鯨肉調味方
料岡山調菜問季献立帳
歌仙の組糸
和決精進料理抄
料理網目調味抄
料開献立集寛
古今料理集
茶湯献立指南
理
二シメル
ニッケル
近世料理書におけるニシメルとニッケルをめぐって
差があったのであろうか。
余田(一九九七)での調査結果をもとに、 ニシメルとニ
ツケルが見られる料理書を一覧表にしたのが次のものであ
る。なお、前稿において判断した用例を、改めて解釈し直
右の表より、近世料理書では、ニシメルの用例が先行し、
したものは訂正した。
一九世紀になってからニッケルが使われ始めたことがわか
る。また、ニッケルの初出例が江戸の料理書﹃料理早指南
初編﹄である一方で﹃素人庖丁﹄等の上方で出された料理
書でも使用されている点も注目される。
表のように、ニシメルとニッケルの使用には、ニシメル
がニッケルに先行するという傾向が見てとれるが、では三
章の﹁年中番菜録﹄のニシメルとニッケルのように、共通
点や相違点はあるのだろうか。
ニシメルの例から見てみる。
(M) くろまめたうにんかゃからともにしゃうかちんひし
ゃうゆにてから/¥となるほとにしめさてさけにてい
りあけ用(﹃料理献立集﹄)
たここま
(日)かたうばにしめて(﹃和漢精進料理抄﹄和之部)
(凶)蛸黒胡麻和はたこを水と酒にてよく和らかに煮て醤
九
企
.
A
.
.
A
.
.
A
.
企
.
A
.
.
A
.
.
A
.
.
A
.
.
A
.
.
A
.
.
A
.
.
A
.
•••••••••••••
••••
料
第六十輯
(同)柚子、(叩)豆腐である。やはり野菜のような、いわ
六例
なる食品素材を見てみると、
対象としている。例えば﹃料理珍味集﹂のニシメル対象に
ゆる精進物が中心のようだが、(凶)蛸のような魚介類も
(口)松茸つぼみ虫なきを能そうぢして笠ととも生醤油に
ほしなまかはき
てにしめ干生乾は切てさかなに用ゆ又極出し吸ものに
野菜類
例
まったけむしかさ
の組糸﹄)
[~
油少し加へ煮しめつぶ/¥切にして:::︿略﹀ (﹃歌仙
関文皐論叢
O
蛤
どきどりて去何本も寄ひらがんひやうにてくずの粉ふ
(却)大まきれんこんにははすのねの四方をすへかたるほ
明であるが、醤油であると見てよいと思われる。また(日)
なり(﹁料理早指南初編﹄)
りながらまき付て酒しゃうゆにて煮つけ大ばすに切る
叡制レ F
﹄
煮つけ胡麻あぶらすこし落し干-さんしゃうの粉ふる
(剖)鱈さいの目に切酒にてよく煮こぼし又酒と醤油にて
eg
め﹂からはニルとニシメルの違いがわかる。﹁たこを水と
(詑)(干ふぐ)てりかはこまかにきりみりん酒としゃう
(﹃料理早指南二編﹄)
を加えて味付けを行っている。ニシメル対象となる食品素
ゆにて煮つけて梅が、にかきまぜる(﹃料理早指南三
うめ
材は、 (H) 黒豆・種子、(日)湯葉(凶)蛸、(口)松茸、
のようなユデルに近いニルである。そのニルに対して醤油
酒にてよく和らかに煮て﹂は二章で挙げた﹃料理珍味集﹄
たらめきりさけにしゃうゆ
の﹁たこを水と酒にてよく和らかに煮て醤油少し加へ煮し
ょせ
(日)(同)(口)(凶)の例から、醤油でニシメているの
次にニッケルの例を見てみる。
多いように思われる。
(凶)柚子も含んでいる。ニシメルの対象は魚介類以外が
の計一 O例であった。この中には先に挙げた(口)松茸、
例
よし(﹃料理珍味集﹄巻之一)
ゆわりたねにく
Lり醤油にて煮染納置初
(日)柚二つ割種ばかり去肉は其ま、をきみそに砂糖すこ
つめあみにしめをさめおき
し入れ詰て編がさのごとくく
夏に用ゆ(﹃料理珍味集﹄巻之四)
きりかみさばい
うづみ一夜おくべし︿中略﹀又取肴には煮しめてよし
いちゃとりさかなに
(叩)とうふをコ一ツか四ツに切て紙によくっ、みて木灰に
豆
がわかる。(日)(叩)の例では、ニシメている調味料が不
(﹃四季献立会席料理秘嚢抄﹄)
腐
編﹄)
怠山マり
さんせ
蓮根
おから
魚類四例
でふある。 この中には先の(却)蓮根、(幻)鱈、(幻)干し
うせうゆに酒しほ沢山に入ょくにかへし其所へ右
たくさん
(お)(あかゑ) 常のごとくよく洗ひ小角にきり
の切肉を入煮付けて出すべし(﹃素人庖丁初編﹄)
ニッケルもニシメルと同様に、野菜類やおからにも使われ
M) 慈姑の他に燃を対象としている例があった。
亦師、 (
うヘめ
もよくとり其健生にて醤油淵等分にて汁なきゃうにな
ているが、ニシメルよりは魚類に使われる場合が多い。
かがよくわかる。﹁醤油酒等分にて汁なきゃうになるまで
をより深く記述することを念頭に置いてニルを前項にする
本稿では、近世料理書における加熱調理操作語集の体系
おわりに
煮付べし﹂なのだから、ニツメルことの対象である慈姑に
るようにも見える。例えば﹃料理早指南初編﹄﹃同二編﹄
菜も対象とはなっているが、ニシメルとは少々異なってい
ぐ、(お)赤輔、(お)玉子である。慈姑や蓮根のような根
材は (M) 慈姑の他に、(却)蓮根、(引)鱈、
土
品
↑
、
あった。ニシメルがニッケルより先行しているのである。
う意味を含んでいるが、近世料理書では使用の時期に差が
は、どちらも﹁食物を十分に煮て味をしみ込ませる﹂とい
ことで味を付けるという側面がある。ニシメル、ニッケル
ように、ニルには、食物素材を液体の中に入れて加熱する
四
ニシメルとニッケルが加熱調理の対象とする食物素
みると、
近世料理書におけるニシメルとニッケルをめぐって
﹃同三編﹄のニッケルの対象となっている食品素材を見て
(
n
) 干ふ
複合動詞ニシメルとニッケルを取り上げた。二章で述べた
しやろゆきけと号一ぷん
使っており、特に(幻)はどのように加熱調理操作するの
右の(叩)から(担)の例のニッケルは調味料に醤油を
けひしき(﹃会席料理細工庖丁﹄)
(お)煮ぬきして王子煮付皮をとり酒と醤ゆにて煮付
るまで煮付べし(﹃素人庖丁二編﹄)
そのままなましやろゆさけとうぶん
ふぐも含む。同様に﹃素人庖丁初編﹄﹃同二編﹄では、(お)
例
(但)(くわゐ)是も大小にかぎらず上のはかま芽かぶと
例
は十分味がしみ込むであろう。ニツメル対象となる食物素
五
行 が 相 次 い で い る 。 一 方 で 、 一 九 七01 一九八0年代あた
いぜいであった。が、最近になり近代料理書や研究書の刊
第六十輯
材も、ニシメルが野菜等に傾いて前⋮るのに対して、 ニツケ
りに盛んだった現代語の加熱調理操作語葉の体系の研究は
同文摩論叢
ルは魚類が多いことが指摘できる。対象とする食物素材の
滞っているように思われる。語嚢史研究の方法も、食をめ
参考文献
伊藤幸一(一九七九)﹁現代日本語における基礎加熱料理語柔
の構造的意味分析試論 L (﹃国学院大学紀要﹂一七)
指摘した。ニッケルも併せて考える必要があると思われる。
(5) 余回(二OO一一)参照。
(6) この点については別稿を用意するつもりである。
(7) 余回(二O O八)では、イリツケルと調味料の関わりを
(l)余田(一九九O
) を参照。
(2) 余田(二OO六)を参照。
(3) 余聞(二OO六)を参照
(4) 余国(二OO六)を参照。なお余問(二OO六)ではタ
クを九例としたが、今回の調査では十例であった。ここに
訂正する。
王
-
う一度考える必要があると考えている。
ぐる状況の変化も目まぐるしい昨今、研究資料と方法をも
相違は、後項の│シメル、ーツケルの差が考えられる可能
らも、現代語の加熱調理操作語蒙の体系との比較対照がせ
語葉史としての体系の変遷を明らかにすることを考えなが
と考えた約三O年前は、近世料理書が刊行されたばかりで、
利則することで加熱調理操作の語葉体系を明らかにしよう
付け加えて言うならば、筆者が近世料理書を資料として
味を記述する方法もあるように思われる。
して持つ語を比較対照することによって、その単純語の意
して行われてきたが、単純語とその単純語を語構成要素と
体系の記述はもっぱら関わりのある語動調の比較対照を通
ルの意味・用法の記述が補強できるのである。類義語の
その単純語ここではニシメル、ニツメルの前項であるニ
すなわち、加熱調理操作を表す複合動調を分析することで、
をするという面をより明確に示しているように思われる。
動詞は、ニルの、液体に食物素材を入れて加熱して味付け
また、 ニ シ メ ル 、 ニ ッ ケ ル と い う ニ ル を 前 項 に 持 つ 複 合
性もある。この点については今後考察して行くこととした
四
) ﹁意味の諸相﹄(三省堂)
園康哲禰(一九七O
Il--( 一九八二)﹃意味論の方法﹄(大修館書庖)
柴山武(一九八三)﹁一言語から見た食﹂(﹃食のことば﹄ドメ
L(
近代語研究会編﹃日本近代
(
二O O二)﹁江戸時代の料理書における加熱調理操
作語集の体系について
(
二O O六)﹁近世料理香における﹁煮る﹂意味のタ
詩研究﹄三ひつじ書房)
クをめぐって﹂(﹃関山和夫博士喜寿記念論集仏教
ス出版﹃諮葉論の方法﹄に再録)
Il--│(一九八八)﹃語葉論の方法﹄(三省堂)
文学芸能﹄忠文閣出版)
開書﹄は﹃日本古典全集﹄を使則した。
(本学特任教授)
時代料理本集成﹄(臨川書庖)所収本による。また、﹃浪花
︻使用した資料︼近世料理書はすべて、吉井始子編﹃翻刻江戸
(
二O O八)﹁近世料理書におけるイリツケルについ
余回弘実(一九九O
) ﹁近世料理主目における方言語形の東西対
μ
て﹂(﹃神女大国文﹄一九)
H
せ
んじる
の意
一九九三)﹁近世料理書における
立について﹂(﹃待兼山論叢﹄二四)
I(
味領域をめぐって﹂(﹃国語語葉史の研究﹄十三和泉
(一九九七)﹁加熱調理操作を表わす複合動詞に関す
書院)
間五)
る報告江戸時代料埋書を資料として│﹂(﹃西山学報﹄
近世料理書における子ンメルとニッケルをめぐって
四