【目的】副作用がなく、アレルギー症状予防効果のある 抗アレルギー剤を;pdf

(57)【要約】
【目的】副作用がなく、アレルギー症状予防効果のある
抗アレルギー剤を提供する。また、抗アレルギー剤の製
造法を提示する。
【構成】エンテロコッカス属の菌体を1種類以上の溶菌
酵素による処理および熱処理をしたものを有効成分とす
る副作用のない抗アレルギー剤であり、アナフィラキシ
ー反応を示すアレルギー症状、花粉症を抑制する。ま
た、市販の抗アレルギー剤との併用でアレルギー抑制作
用を増強し、市販薬剤の投与量を減少させることによっ
て副作用を軽減する。
(2)
1
【特許請求の範囲】
【請求項1】エンテロコッカス属に属する菌体もしくは
その処理物を主成分とする抗アレルギー剤
【請求項2】エンテロコッカス属に属する菌体を溶菌酵
素で処理した後、熱処理したものを主成分とする抗アレ
ルギー剤
【請求項3】抗アレルギー作用がアナフィラキシー反応
を抑制するものである請求項1または2記載の抗アレル
ギー剤
【請求項4】抗アレルギー作用が花粉症を抑制するもの
である請求項1または2記載の抗アレルギー剤
【請求項5】化学伝達物質の遊離抑制剤又は拮抗剤と併
用でアナフィラキシー反応抑制を増強する作用を有する
請求項1または2記載の抗アレルギー剤
【請求項6】エンテロコッカス属に属する菌体を1種類
以上の溶菌酵素で処理した後、熱処理を行うことを特徴
とする抗アレルギー剤の製造法
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エンテロコッカス属に
属する菌体もしくはその処理物を主成分とする抗アレル
ギー剤およびその製造法に関するものである。また、市
販されているヒスタミン、ロイコトリエン等の化学伝達
物質の遊離抑制剤又は拮抗剤との併用により抗アレルギ
ー作用を増強し、上記治療剤の副作用を軽減させること
のできる薬剤およびその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、アレルギー性疾患は増加の一途を
たどっている。特にアレルギー性鼻炎、花粉症、アレル
ギー性皮膚炎など、即時型アレルギーが大きく係わる疾
患に罹患する人が増えている。その原因としては、地面
がアスファルトなどにおおわれ花粉などの飛来抗原が地
面に吸着されないこと、空気中の化学物質の増加などに
よる抗原の増加という環境要因、また、密閉性の高い家
屋が多いことによるダニ類、真菌類の増加などが考えら
れている。さらにはストレスによるものや食生活の変化
など生活様式の変化等の原因の一つ以上が係わることに
よって、アレルギー性疾患の増加がみられると推測され
ている。
【0003】一方、アレルギー症状を示す患者の増加に
伴い、アレルギー反応を抑制するための医薬品の売上も
年々増加している(BioIndustry Vol.13 No.12 42-50
(1996))。アレルギーを抑制する作用機序についてもヒ
スタミンなどの化学伝達物質の遊離を防ぐもの、化学伝
達物質と拮抗作用を示すものなど多様化している。市場
規模については目下、横這い状態になっているが、新し
い作用機序の新薬の登場などで拡大するものとみられて
いる。ちなみに抗アレルギー剤の開発が盛んになり始め
た1985年の市場は250億円以下であったが、10
年後の1995年には1440億円と6倍近い伸び率を
10
20
30
40
50
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2
示している。なかでも、抗アレルギー薬で、現在主流と
なっているものが抗ヒスタミン剤であり、現在、市場の
7割を占めている。
【0004】しかし、抗ヒスタミン剤はアレルギー反応
を抑制するだけでなく中枢神経系にも作用するため、ほ
とんどの場合に眠気、倦怠感の副作用が生じる。この副
作用によって、昼間の活動を妨げ日常生活に影響がでる
場合が多々ある。このほかの作用機序を示す薬剤も、肝
臓に対する障害があるものや、心臓血管系の障害など、
投与中止要因となる副作用を有するものが多い。
【0005】免疫グロブリンE(IgE)は即時型アレ
ルギーの発症に係わる抗体である。この抗体のレベルが
上昇するとアレルギー症状を示すことが多い。このこと
に着眼した特許として特開平9−2959号があげられ
る。この特許は、in vitroで、卵白アルブミンで感作し
たマウスの脾臓細胞浮遊液中に乳酸菌を添加して、Ig
E産生量の抑制作用をみたものである。
【0006】しかし、臨床ではIgEレベルの上昇があ
ってもアレルギー症状を示さない人、逆にIgEレベル
が正常域であってもアレルギー症状を示す人がいること
が知られている。また皮膚テストを行うと無症状のヒト
の多くが通常抗原に対して陽性を示すことも知られてい
る。実際任意に選んだアレルギー症状を示していない5
000人のヒトに対し、一つ以上の通常抗原に陽性を示
すヒトは30%近くいることがわかっている。これらの
ことより、アレルギー症状を発現させるには、IgEレ
ベルだけでなく複合的な因子が係わっているといえる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】即時型アレルギー反応
は、IgEレベルの上昇、感作抗原の増加など一つだけ
の要因で生じるものではなく、複合的な因子が係わって
いることは周知の事実である。そのため、一つの反応の
みを抑えるのではなく、アレルギー反応に係わる複数の
反応を抑えることのできる薬剤が求められている。
【0008】また、抗アレルギー剤はアレルギー症状が
発現してから服用するよりも、症状が起こる前の予防薬
として継続的に服用するという処方例が多々ある。その
ときに眠気、倦怠感等の副作用が飲用期間中続くと、日
常生活に大きな影響が生じる。
【0009】これらの問題に対し、本発明は、アレルギ
ー予防効果またはアレルギー反応に係わる複数の反応の
抑制効果があり、かつ、副作用がみられない薬剤を提供
することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】乳酸菌には、いろいろな
作用があることが知られている。とくにエンテロコッカ
ス属に属する菌体は、粘膜免疫および消化吸収に係わる
最大の器官である腸に常在している乳酸菌のため、何ら
かのアレルギー抑制作用を持っていることが期待され
た。そこで、エンテロコッカス属に属する菌の死菌体を
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* した菌株であるので、副作用の危険性はない。また、こ
の菌体を酵素及び熱処理した菌体標品は、実施例3に示
すように、急性、亜急性、および慢性毒性試験による毒
性はみられなかったことが確認されている。
【0015】この菌体またはその処理物を製剤するには
デンプン、乳糖、大豆蛋白等の担体、賦形剤、結合剤、
崩壊剤、滑沢剤、安定剤、および矯味矯具剤等の添加物
を用いて周知の方法で錠剤や顆粒剤に製剤される。
【0016】この発明で用いる溶菌酵素としてはアクチ
10 ナーゼ、ザイモリアーゼ、キタラーゼ、リゾチーム、ム
タノリシン、アクロモペプチターゼ等、細菌類を溶菌す
るために普遍的に用いられているものであれば種類を問
わず、1種類以上の酵素を混合して用いることも可能で
ある。また、溶菌酵素の効果を高め、細胞壁を分解する
ためと、細胞内容物を完全に抽出する目的で熱処理を行
う。熱処理条件としては、100℃以上であればかまわ
ないが、抽出効果を考えるとオートクレーブ処理ができ
る温度帯が好ましい。
【0017】使用量は、症状、年齢等により異なるが、
20 有効成分として1日0.002∼0.1g/kg体重を通常成人に対
して1日1回又は数回に分けて投与することができる。
【0018】
【実施例】
実施例1.エンテロコッカス・フェカリス(Enterococc
us faecalis)NF−1011(微工研菌寄第1256
4号)を以下に示す組成のロゴサ液体培地に接種し(菌
6
数:10 個/ml)、37℃で10∼16時間培養
9
し、生菌数約10 個/mlの培養液を得た。得られた
培養液を12,000rpmで20分間遠心分離して集
30 菌し、蒸留水で2回洗浄して菌体を得た。この菌体を蒸
留水で懸濁し、ムタノリシンを終濃度30μg/ml量
添加し、37℃で4時間処理後、110℃で10分間加
熱した。この菌体懸濁液を、凍結乾燥法で乾燥処理して
乾燥処理菌体標品(以下菌体標品)を得た。
【0019】ロゴサ液体培地の組成を示す。
3
用いて能動型皮膚アナフィラキシー反応の抑制作用を見
たところ、若干の抑制が見られた。
【0011】そこで、本発明者らは体内への吸収によっ
て、腸管付近に集まっている免疫細胞のみならず、体内
の免疫細胞にも、アレルギー抑制作用に係わる何らかの
働きがみられるのではないかと考え、体内に吸収されや
すいように乳酸菌の細胞壁を破壊した菌体を用いて、能
動型皮膚アナフィラキシー反応の抑制作用を観察した。
すると該菌体を投与することにより、卵白アルブミン、
スギ花粉など、アナフィラキシー反応を誘発させる抗原
の種類を問わず、対照と比較して強い反応抑制がみられ
た。これらの結果より、エンテロコッカス属に属する菌
体の処理物は抗アレルギー効果があることを見いだし、
本発明を完成させた。また、抗アレルギー剤として用い
られるフマル酸ケトチフェンと併用投与すると、薬剤の
作用を増強した。
【0012】指標に用いた能動型皮膚アナフィラキシー
反応は、I型アレルギーの発症メカニズムの全ての流れ
をみたものである。体外からきたアレルゲンは、抗原提
示細胞に取り込まれた後、T細胞とB細胞に認識され
る。アレルゲンを認識した細胞は、アレルゲン特異的I
gEの産生を促す。このIgEがマスト細胞に付いた後
に、再び同じアレルゲンが体内に入ると、マスト細胞が
反応し、化学伝達物質が放出されてアナフィラキシー反
応をおこす、という一連の流れを実験系として再現して
いる。
【0013】I型アレルギーの実験系である能動型皮膚
アナフィラキシー反応で抗アレルギー作用がみられたと
いうことは、抗原提示細胞からIgE産生までの過程の
一部を抑制する作用、特異的IgEがマスト細胞に結合
するのを抑制する作用、ヒスタミンの遊離抑制作用、ま
たは、ヒスタミンブロッカー作用のいずれかを有してい
ると推測され、アレルギー予防薬として用いることがで
きるといえる。
【0014】この発明に使用するエンテロコッカス属に
属する菌体は、食品中もしくは、健常人の糞便から分離*
トリプチケース
10g
酵母エキス
5g
トリプトース
3g
リン酸一カリウム
3g
リン酸二カリウム
3g
クエン酸三アンモニウム
2g
ツイーン80(界面活性剤)
1g
グルコース
20g
システイン塩酸塩
0.2g
塩類溶液(1のとおり)
5ml
蒸留水
1000ml
(pH7.0に調整、121℃で15分間加熱滅菌)
(1)塩類溶液:MgSO4 ・7H2 O
11.5g
FeSO4 ・7H2 O
0.68g
(4)
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6
MnSO4 ・2H2 O
2.4g
蒸留水
100ml
【0020】実施例2.能動型皮膚アナフィラキシー反
* し、マウス1匹当たり1mg量となるよう、マウス両大
応
腿部に筋肉内投与して感作した。餌の種類によって分け
2−1卵白アルブミンを抗原とする反応
た2群を、実験開始から28日目に各々10匹づつ3群
5週齢のBALB/c系雌性マウス(日本SLC)を2
にわけることによって、全体で6群に分けた。これら
群に分け、1群には、実施例1で作製した菌体標品を5
に、生理食塩水に懸濁したフマル酸ケトチフェン(以下
%混合した粉末CE−2(日本クレア)を与え、もう1
ケトチフェン)(シグマ)を各濃度になるよう経口投与
群は粉末CE−2のみを実験終了日(28日間)まで与
した。ケトチフェンを投与しない群には生理食塩水のみ
えた。
10 を投与した。群構成を表1に示す。
【0021】各種の餌を与えてから14日目に卵白アル
【0022】
ブミン(以下OVA)(和光純薬)を生理食塩水に溶解*
表1
──────────────────────────────────
群名
ケトチフェン(mg/kg)
菌体標品
──────────────────────────────────
対照群
−
−
対0.2群
0.2
−
対1.0群
1.0
−
菌体投与群
−
+
菌0.2群
0.2
+
菌1.0群
1.0
+
──────────────────────────────────
【0023】ケトチフェン投与1時間後に1%エバンス
【0027】菌体標品の投与を開始してから14日目に
ブルー(シグマ)をマウス尾静脈から0.06ml量投
各群にスギ花粉エキス(鳥居薬品工業)を生理食塩水で
与した。その直後にエーテル麻酔下で、左右の側部に生
5倍希釈し、マウス1匹当たり0.1mlとなるよう、
理食塩水または生理食塩水で600μg/mlに調製し
マウス両大腿部に筋肉内投与して感作した。
たOVAをそれぞれ0.05mlずつ皮内投与して惹起
【0028】実験開始から28日目、全マウスに1%エ
させた。
バンスブルー(シグマ)を尾静脈から0.06ml量投
【0024】惹起30分後に二酸化炭素ガスで致死さ
30 与した。その直後にエーテル麻酔下で、左右の側部に生
せ、背部の皮膚を剥離した。各惹起部位の色素斑を切り
理食塩水で2倍希釈したスギ花粉エキスをそれぞれ0.
とり、それぞれを小さく切り刻んだ。これをアセトン:
05mlずつ皮内投与して惹起させた。
0.5%硫酸ナトリウム=7:3の割合で混合した溶液
【0029】惹起30分後に二酸化炭素ガスで致死さ
3mlに入れ、室温で24時間振盪して色素を抽出し
せ、背部の皮膚を剥離した。各惹起部位の色素斑を切り
た。それらを遠心分離(3000rpm、10分)して
取り、それぞれを小さく切り刻んだ。これをアセトン:
得られた上清の波長620nmの吸光度を測定した。
0.5%硫酸ナトリウム=7:3の割合で混合した溶液
【0025】OVAで惹起させた時の結果を図1に示
3mlに入れ、室温で24時間振盪して色素を抽出し
す。対照群の吸光度の値を1とした場合の各群の値をみ
た。それらを遠心分離(3000rpm、10分)して
ると菌体投与群は、対照群と比較して有意(p<0.0
得られた上清の波長620nmの吸光度を測定した。
5)にアナフィラキシー抑制効果が得られ、ケトチフェ 40 【0030】結果を図2に示す。対照群の吸光度の値を
ンを0.2mg/kg投与した群(対0.2群)と同等
1とした場合、菌体投与群の値は、0.7となり、有意
の値を示した。また、ケトチフェン単独投与と比較し
(p<0.05)にアナフィラキシー反応を抑制した。
て、菌体標品と併用する事によって、有意(p<0.0
このことは、食物由来の抗原だけでなく、花粉などの飛
5)にアナフィラキシー抑制効果が増強された。
来抗原に対してもアナフィラキシー抑制効果があること
【0026】2−2スギ花粉エキスを抗原とする反応
を示している。
5週齢のBALB/c系雌性マウス(日本SLC)を2
【0031】実施例3.毒性試験
群に分け、1群には、実施例1で作製した菌体標品60
3−1急性毒性試験
mg/匹/日を強制投与し(以下菌体投与群)、他の1
ICRマウス(日本チャールスリバー)および、SDラ
群には、生理的食塩水のみ(以下対照群)をそれぞれ実
ット(日本チャールスリバー)の雌雄に胃ゾンデを用い
験終了日(28日間)まで与えた。
50 て、2500mg/kg量の実施例1で作製した菌体標
(5)
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品を投与したところ、一般状態に異常はみられなかっ
* 【0034】
た。
【発明の効果】本発明剤を使用することにより副作用の
【0032】3−2亜急性毒性試験
ない抗アレルギー剤として用いることができる。また、
ICRマウス(日本チャールスリバー)の雌を各10匹
アレルギー症状の強いときは、少量の抗アレルギー剤と
ごとに分け、実施例1で作製した菌体標品を125、5
併用することでアレルギー抑制効果が増強し、抗アレル
00、または、2000mg/kg量、胃ゾンデにて6
ギー剤による副作用を軽減する効果も有する。また、ア
0日間投与を行った。実験時の一般状態、体重に異常は
レルゲンに感作される時期より前から服用することによ
みられず、実験終了後の一般血液検査及び解剖所見も異
ってアレルギーを副作用なく抑制することができるた
常がみられなかった。
め、花粉症など罹患時期の判明しているアレルギー反応
【0033】3−3慢性毒性試験
10 の予防薬としても用いることができる。
SDラット(日本チャールスリバー)の雌雄を各10匹
【図面の簡単な説明】
ごとに分け、粉末CE−2に実施例1で作製した菌体標
【図1】OVAを抗原とした場合の能動型皮膚アナフィ
品を1%量(500mg/kg量換算)、または、5%
ラキシー反応の強さを吸光度(相対値)で表した図であ
量(2500mg/kg量換算)混合したものを、各群
る。
に190日間投与した。投与期間の一般状態、体重に異
【図2】スギ花粉エキスを抗原とした場合の能動型皮膚
常はみられず、投与終了後の一般血液検査及び解剖所見
アナフィラキシー反応の強さを吸光度(相対値)で表し
も異常がみられなかった。
*
た図である。
【図1】
【図2】
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(72)発明者 林 篤志
三重県上野市桑町1418―6 ワシントンコ
ーポラス305
(72)発明者 山本 哲郎
三重県阿山郡阿山町大字円徳院1406―69