ICRPの放射線防護体系について 東京医療保健大学 伴 信彦 本日の内容 放射線防護の枠組み 被ばくの区分 放射線防護の原則 まとめ 放射線防護の枠組み 放射線の健康影響 確率的影響 (がん、遺伝性影響) 発生率 発生率 確定的影響 (組織反応) 線量 しきい線量 線量 過剰発がん率 低線量域の線量反応関係 0 100 200 被ばく線量(mSv) LNT(Linear non-threshold)モデル 確率的影響の線量反応に関する統計 モデル • 少ないパラメータで疫学データにフィット • 機構論的に矛盾しない 放射線防護体系の理論的前提 線量の単純加算性(過去の被ばくから の独立性)をもたらす 放射線防護の目標 放射線の利用を不当に制限 することなく、放射線の有害な 影響から人々および環境を 適切に防護する。 「防護」の中身 人の防護 • 確定的影響の防止 • 確率的影響のリスクを容認できる程度に 制限 環境の防護 • 生物多様性の維持、種の保存、生息環 境・生態系への影響が無視できるレベル であること 被ばくの区分 どう対処する? 放射線源は至るところに存在 • あらゆる放射線被ばくを規制するのか • すでに被ばくが存在する場合はどうするか 確率的影響にはしきい線量がないと仮定 • 基準値をどう設定するか • 基準値以下ならばいくら被ばくしてもよいか 規制除外と規制免除 規制除外(Exclusion) 制御不能なため、規制の対象としない被ばく 例) 体内の40Kからの被ばく 規制免除(Exemption) 被ばくがわずかであり、それ以上低減する意味が ないため、規制の対象としない被ばく 例) 一定数量以下の放射性物質からの被ばく 被ばく状況 計画被ばく状況 (Planned exposure situations) 緊急時被ばく状況 (Emergency exposure situations) 現存被ばく状況 (Existing exposure situations) 事故後の被ばく状況の展開 Decision (Declaration) Lack of Control Uncertainty Dose Rate Potential Health Risk Time 緊急時 被ばく状況 現存 被ばく状況 福島における状況 2011年12月 冷温停止 2012年 1月 本格除染開始 2012年 4月 食品新基準値 制限区域変更 2012年早期から現存被ばく状況に移行 被ばくのカテゴリー 職業被ばく(Occupational exposure) • 業務上の被ばく 医療被ばく(Medical exposure) • 本人の診療・検診に伴う被ばく • 近親者の介護に伴う被ばく • 医学研究の被験者としての被ばく 公衆被ばく(Public exposure) • 職業被ばく・医療被ばく以外の被ばく 放射線防護の原則 放射線防護の原則 正当化 Justification 防護の最適化 Optimisation of protection 線量限度の適用 Application of dose limits 正当化 被ばくの改変をもたらす場合には、害より 益が大きくなければならない。 • すべての被ばく状況に適用される。 • 益や害には、社会的な便益や個人の 物質的・精神的負担等も含まれる。 益と害の相対関係 有益 有害 低くなる 放射線被ばく 高くなる 上がる 生産性 下がる 増える 利用可能資源 減る 減る 精神的負担 増える ・ ・ ・ 防護の最適化 被ばくする人の数や程度は、経済・社会的 要因も考慮に入れながら、合理的に達成 できる限り低くしなければならない。 • すべての被ばく状況に適用される。 • 被ばくの最小化ではない。 • リスクが特定の個人に偏らないように個人 の線量に一定の制限を設ける。 線量拘束値と参考レベル (Dose constraint and reference level) 人数 人数 線量拘束値(計画被ばく状況) 参考レベル(緊急時被ばく状況, 現存被ばく状況) 線量 線量 正当化と防護の最適化の関係 正当化 メリット(益) > デメリット(害) であることを確認する 防護の最適化 正当化された被ばく状況について、被ばく 管理のあり方を調整し、メリットとデメリット の差を最大にする 線量限度の適用 どの個人についても、規制の対象となる すべての被ばく源からの合計線量が、 限度を超えてはならない。 • 計画被ばく状況にのみ適用される。 • 医療被ばくには適用されない。 • 安全と危険の境界ではない。 ICRPの線量限度 職業被ばく 公衆被ばく 実効線量 100 mSv / 5年 50 mSv / 年 1 mSv / 年 眼の水晶体 100 mSv / 5年 50 mSv / 年 15 mSv / 年 皮膚 500 mSv / 年 50 mSv / 年 手および足 500 mSv / 年 ― 基準値の適用 線量拘束値・参考レベル • 規制当局あるいは事業者が、個々の状況に 応じて数値を決定。 • 超過した場合は、最適化の過程を見直す。 線量限度 • 国際機関の勧告値に基づいて、国や地域 ごとに数値を決定。 • 超過した場合は、規則違反と見做される。 まとめ 放射線防護のための諸概念 LNTを前提とした合理的な放射線防護 被ばくの区分 放射線防護の原則 基準値・線量目安 放射線防護体系を支える三本の柱 倫理 社会的価値 科学 ICRP 放射線防護体系 経験
© Copyright 2024 ExpyDoc