卒業論文講評と要旨(PDF版);pdf

今野ゼミ卒業論文講評
社会変動の研究を中心とするゼミナール
担当
今野
裕昭
2014 年度専門ゼミナールBの今野裕昭クラ
働に大事と思われる市民サイドの市民の意識態
スからは、6編の卒業論文が提出された。以下、
度と組織のあり方、さらに、行政サイドの職員
それぞれへの講評を記す。
の在り方を、自発性、責任意識、学習、対等な
伊藤友裕『直売所による地域社会振興』は、
議論、専門性、透明性、正当性、スキルといっ
地方における地域農業振興の核として注目され
た項目の中に論じている。とりあげた先行研究
てきた農産物直売所が地域農業に持つ意義を、
がほとんど行政学のもので、市民の側からの視
山形県鶴岡の農協が経営する直売所の観察調査
点に乏しい物足りなさは残るが、論旨が明瞭で
を踏まえて論じている。農産物直売所は、1980
論の詰め方が丁寧な論文といえる。
年代の単なる農作物を販売する場所から出発し、
渡邉麻衣『スポーツと地域の共存―地域の中
2000 年以降、加工、物産販売、農村レストラン
のスタジアム』は、大型のスポーツスタジアム
等の地域活性化施設を併設した地域振興の拠点
が地域と共存してゆくために何が必要かを考察
へと進化してきたが、6次産業化がこの進化を
している。地域のシンボルと考えられてきた超
もたらすと指摘している。そして、鶴岡市農協
大型スタジアムは周辺地域に大きな経済効果を
が経営する単独直売所と観光複合施設の中に設
もたらすとされたが、2002 年のワールドカップ
置した直売所の考察の中から、地域の食文化や
時に建設された大型スタジアムを境に、自治体
伝統的な在来作物を新たなブランドにつくりあ
の規模に見合った管理・運営のできるスタジア
げ、地域の情報発信を通してその食文化や伝統
ムへと考え方が変化し、その運営も民間・市民
を守り伝え、地域住民の暮らしを支えている点
との協働を理念とするものに転換した。渡邉は、
に、地域振興の拠点としての直売所の役割を見
かつての巨大スタジアムが抱える問題である、
出している。各節の小結論をきちっと述べなが
施設にサポータや観客の要望が反映されていな
ら展開すると、もっとメリハリのある論文構成
い点や、維持・管理で赤字を抱え負担になって
になったであろう点が惜しまれるが、鶴岡では
いる点を、うまく克服している最近建設された
在来作物の新たなブランド化が地域振興の戦略
二つのスタジアムでの観察調査から、これらを
になっている点を見出したよい研究である。
どのように克服しているかを分析している。分
鈴木良侑『「協働」の中に見る地域社会の担
析と記述の仕方にやや甘さがみられるものの、
い手―市民・行政両セクターの在り方に関する
大型スタジアムへのユニークな切込み口を先行
分析―』は、協働が成り立つために、行政、市
研究の中から上手に探り当て、そこから自分の
民それぞれの側に何が必要で、何が課題とされ
足でフィールド観察をして書き上げた、興味深
ているかを先行研究から整理し、両者の異質性
い研究である。
への相互理解、両セクターの対等性、協働期間
木村安希『郊外の発展と今後の課題―首都圏
の明確化、両者間の役割分担の明確化、協働の
の事例を中心に―』は、近代日本の都市発展に
内容・ルールの明確化、協働プロセスの透明化
おける郊外の位置を、東京圏について歴史的に
の6つが協働の要件で、これらが欠けることで
辿り、郊外が現在直面している社会問題を検討
課題が生ずると説明している。その上で、協働
している。木村は、東京の郊外化が、戦後経済
で行われているまちづくりの事例を4つ取り上
の高度成長期まで私鉄沿線開発で東京の西部に
げ、これら要件をツールに分析する中から、協
巨大な郊外地を拡大してきたプロセスを辿った
1
今野ゼミ
あと、バブル崩壊後に第3セクター方式による
開発の波及効果を考察する論文である。東京の
つくばエクスプレスの開発で、東部が緑豊かな
ウォーターフロントの中でも、かつての埋め立
立地の郊外化として進められている現況を明ら
て工業地域が再開発された月島と大川端リバー
かにしている。その上で、高度成長期に建設さ
シティ、埋め立てが進行している臨海副都心の
れた郊外団地が、少子高齢化の下に団地の老朽
2か所に焦点を当て、それぞれの開発、再開発
化、住民構成の変化による増築の必要やその後
のこれまでの推移と現況を紹介している。その
の高齢化によるバリアフリー化へのニーズ、高
上で、現在両地域がまちづくりの点でどのよう
齢者の孤立と孤独死といった問題と、住民によ
な問題を抱え、どのような方向での解決を図っ
るこれら課題への対応を検討し、郊外地の持続
てゆけるかを、近年の再開発の指向に見られる
的居住の可能性を論じている。西部の郊外化と
コンパクトシティの観点、職住近接の観点、イ
現在進行中の東部の郊外化の比較を深めて特徴
ベントの活用とインフラ整備という観点から検
の違いを整理するとよかったのと、結論部分が
討し、今後の成長方向の可能性を考察している。
一般論になってしまった感が残るが、それぞれ
文献を使って、都心回帰の流れから見た東京都
の章でなにとなにを取り上げるかを考え必要な
の開発行政と都市計画とが交差する平面に、ウ
データを上手に探し、すっきりとまとめた論文
ォーターフロントの二つの地区を捉えた論考で
になっている。
あり、社会学的視点が強く出てこないとはいえ、
小林俊一朗『ロックの社会学』は、日本にお
上手にまとめた論文である。
ける3大ロックフェスティバルのそれぞれの特
徴をフィールド体験も踏まえて対比分析する中
から、日本のロックの行く末を展望している論
考である。まず、ロックの欧米における歴史と
日本への導入後の歴史を対比し、日本における
階層性の脱落を指摘している。階層性を持たな
い日本のロックの3大フェスティバルを、出演
アーティストの属性、会場の場所特性、大会の
雰囲気、参加者の年齢層などの属性といった点
で比較し、大型フェスティバルの飽和状態、地
域密着性志向と都市型ライブ志向の多様化とい
った、そこに見られる傾向をもとに、将来、こ
れまでの「聞く音楽としてのロック」から、フ
ェスティバルに参加する「ライブ体験のロック」
と、IT を使って自分が「遊ぶ媒体としてロック」
という、二つの方向に分化してゆくであろうと
予測している。3大フェスティバルの比較の部
分から結論部への展開が今一つシャープに明示
されるとなお良かったが、脱近代の特性とも共
振するロックの身体化とさらなる大衆化への方
向も描かれていて、読んでいて楽しい論文であ
った。
渡辺啓『東京都の都市計画におけるウォータ
ーフロントの位置づけ
開発による影響や波及
効果を探る』は、東京都の湾岸地域の成り立ち、
都市計画の中での位置づけを明らかにし、その
2
2014 年度
卒業論文要旨
直売所による地域社会振興
「協働」の中に見る地域社会の担い手
―市民・行政両セクターの在り方に関する分析―
HS23-0063H
伊藤
友裕
HS23-0078E
現代の日本において地方社会は発展から取
り残され衰退の道を進むしかないと考えられて
いる。少子高齢化による過疎化や限界集落問題、
雇用の場がないことによる都市部への人口流出
が主な原因であり、都市の繁栄の裏側で地方、
地域社会は消滅してしまうのか。地方は果たし
て何の魅力もない地域なのであろうか。
そんな私たちのイメージを覆す原動力とし
て地域農業の力が注目され始めてきている。大
型のショッピングセンターや箱物による観光地
化ではなく、地域に古くから根差している農業
が地域の魅力を発信し、新たな労働市場、独自
性を生み出し、魅力を再発見し多くの人々に伝
えることができる。その地域農業の核として大
きな役割を担うものが農産物直売所である。単
に農産物を売る場所としてだけではなく、地域
の情報発信を行う場、人々の暮らしを支える場
としての力がそこにはある。
本論文では対象地として日本有数の米どころ、
農業地帯である山形県鶴岡市の直売所に焦点を
あて考察していく。第 1 章でははじめとして地
域社会を支える農業とその核となる直売所の力
について示していく。第 2 章では直売所の成り
立ちと現在をそれぞれの経営形態や経営方針の
違い比較し、これから求められる六次産業化の
拠点としての役割について統計データを用いて
示していく。第 3 章では調査地である鶴岡市の
農業の特色である大規模農業と稲作中心の農業
からの転換を明らかにし地域が抱える問題点を
示す。第 4 章では実際の直売所がどのような働
きをしているのか対象地である鶴岡市の 2 つの
直売所を例に検証し、それぞれの場所により客
層は異なるものの根底にある地域住民の生活を
守る場としての役割と農業を守る場としてどの
ような役割を担っているのか示す。第 5 章では
鶴岡市の事例から発見した地域文化を守り発信
する場としての役割と直売所の意義について考
察する。
3
鈴木
良侑
地方自治の時代においては、住民の、地域運
営への積極的な参加が必要である。しかし現状
では、住民に自治の意識が確立されているとは
言えない。例えば、町内会への加入率は、年々
減少してきており、地域の公共的課題に対応す
べき組織の弱体化につながっている。さらに、
組織の後継者不足や地域の担い手の高齢化も進
んでいる。今後は、住民の自治意識を高め、地
域社会が人々の生活基盤の支えとなれるだけの
力を持てるよう、政策的な支援とともに、住民
自身が地域課題の解決に取り組む経験を積んで
いく必要がある。こうした中で、行政等と連携
しながら、住民の力で地域の課題と向き合う取
り組みが日本全国で活発化している。
そこで本論文では、住民参加の場としての
「協働」に着目した。その中で展開される活動
の特徴や、住民活動を支える人々を取り巻く現
状を分析することによって、これからの地域社
会の担い手となる市民像や市民の組織の在り方、
また、そうした市民と関わる行政組織や行政職
員に求められる姿勢とは何かを明らかにしてい
く。
まず、第 1 章では、市民・行政両セクターの
間に「協働」の関係が構築されてきた経緯につ
いて述べる。続いて第 2 章では、行政が、「協
働」する市民セクターとして、ボランタリーな
市民の組織に注目している点について取り上げ、
市民の組織と行政の「協働」という点に焦点を
絞っていく。第 3 章では、「協働」の条件と課
題について述べ、市民の組織と行政セクターが
パートナーシップ関係を構築する上で直面し得
る課題や、留意すべき点についてまとめる。そ
して第 4 章では、3 章の内容を踏まえながら、
「協働」に関するいくつかの事例を分析し、考
察していく。最後に、結論として、地域の担い
手となれる市民像、及び行政の在り方について
まとめる。
今野ゼミ
スポーツと地域の共存
郊外の発展と今後の課題
―地域の中のスタジアム
HS23-0099F
‐首都圏の事例を中心に‐
渡邉
HS23-0103D
麻衣
スポーツイベントの開催などをきっかけに建
設された大型スタジアムは、周辺地域に大きな
経済効果をもたらすが、イベント終了後のスタ
ジアムの管理・運営が自治体の財政に大きな負
担をかけることも多い。こうした問題は、建設
時の検証不足によって発生する場合もある。
2002 年 W 杯以前は、スタジアムは豊かさの
象徴と考えられ、それが超大型という「シンボ
ル性」となって表れたのである。しかし、それ
は自治体の規模に見合わない大きさである場合
が多かった。赤字経営のスタジアムが問題視さ
れるようになった近年は、デザイン性、実用性、
機能性という形で、
「シンボル性」も多様化して
きている。管理・運営についても、指定管理者
制度やネーミングライツのように、自治体以外
の組織が担うといった形での多様化がみられる。
スタジアムの建設や管理・運営がどのように
行われているのか、スタジアムに関する新しい
試みにはどのようなものがあるのかを明らかに
し、スタジアムの役割と理想のスタジアム像を
導き出していくことが、この論文の目的である。
1 章ではスタジアムを取り上げるにあたっ
ての問題意識について述べる。2 章では日本国
内における大型スタジアム建設の動きと問題点
を明らかにし、スタジアムの管理・運営にかか
わる制度について説明する。3 章では建設時の
試みの具体例として、フクダ電子アリーナの事
例を紹介する。4 章では建設時だけでなく、管
理 ・ 運 営 の 試 み の 具 体 例 と し て 、 MAZDA
Zoom-Zoom スタジアムの事例を紹介する。5 章
では 4 章までの内容を踏まえ、スタジアムのあ
り方を考察する。6 章では私自身が今回の調査
で感じたことを述べる。
スタジアムは行政・民間・市民といった地域
の力が働く場である。その力によって地域はス
タジアムと共存し、スタジアムによって地域と
スポーツは共存していくのである。
4
木村
安希
郊外に住むという考え方は 19 世紀のイギリ
スから広まっていった。産業革命によって都心
部の大気汚染が深刻となり、人々はより良い環
境を求めて郊外に住むようになったのである。
日本の郊外は明治時代から発展してきた。急
激な人口増加に対応するために住宅が開発され、
鉄道などが整備されていった。その開発の変遷
を株式会社パルコから出版された雑誌『アクロ
ス』では第一の山の手から第四の山の手ゾーン
と表した。
郊外は現在も開発が進んでいる。特に 2005
年に開通したつくばエクスプレスの沿線は力を
入れて開発されている。それぞれの駅や地区ご
とにテーマを持って開発しており、人にも環境
にも優しい郊外が開発されようとしている。
郊外の開発は良いことばかりではなかった。
開発が進むにつれ、環境問題や住民同士のトラ
ブルなど様々な問題が出てきた。最近では、人
口減少や孤独死といった問題が多く取り上げら
れる。そこでそれぞれの郊外は、人口減少を抑
えるための取り組みや、孤独死を早期発見した
り、防ぐための取り組みを行っている。このよ
うな取り組みを郊外全体で行うことによって、
これまでも問題視されてきた無縁社会やコミュ
ニティの衰退といった近隣住民との関係を見直
すことにもつながっていると考えられる。
今後、郊外を維持・発展させるには様々な問
題に対処しなければならない。都心部に住む傾
向が強い若い世代にどのように郊外の魅力を伝
えるか、団地全体の老朽化にどう対応するか、
住民同士のつながりや環境問題など課題は山積
みである。これらの問題を郊外住民全体が考え
ていかなければならない。
2014 年度
卒業論文要旨
東京都の都市計画におけるウォー
ターフロントの位置づけ
ロックの社会学
開発による影響や波及効果を探る
HS23-0129F
小林
LH20-4045G 渡辺
俊一朗
現在、日本において「ロック」や「ロックフ
ェスティバル」は定着し、誰もが知っているも
のとなっている。ロック音楽もロックというく
くりのなかでさらに細分化され、メディアやコ
ンテンツの進化とともに音楽自体も様々な形で
聴取されるようになった。ロックフェスもここ
数年で急激に広がり、定着するようになった。
その人気はとどまることなく年々動員数も増え、
新たなフェスティバルが開催されるようになっ
ている。これらのことからロックがどのように
発生し、日本で人気がでて定着したのか。また、
これからロックやロックフェスティバルがどの
ようになるのかに興味をもった。
本論ではまず第 2 章でロックの歴史について
触れ、どのようにロックが発生し、発展してい
ったのか。また、日本ではどのように定着し現
在のような形になっていったのかについて考察
する。続いて第 3 章ではロックフェスティバル
について触れ、どのようにロックフェスティバ
ルが行われるようになり、それが広がっていっ
たのかを探る。さらに、主に 3 つのロックフェ
スティバルを比較してこれからのフェスティバ
ルを考察する材料とする。最後に第 4 章として
上記までの資料をふまえ、ロックとロックフェ
スティバルの現在までの変化とこれからについ
て結論を論じていこうと考える。
5
啓
近年最も盛んに開発が行われている東京のウ
ォーターフロント、中でも大川端リバーシティ
21 と臨海副都心に注目し、これらについて東京
都がどのように行動し、それがどのような影響
や波及効果として現れているかについて論じる
ものである。
大川端リバーシティ 21 については、高度経
済成長により地価が上昇し問題となる固定資産
税のため撤退した石川島播磨重工業の佃工場。
また都心の空洞化により減少傾向にあった居住
人口の対策。これらのような理由によりこの地
域にタワーマンション群が建設されることとな
る。
臨海副都心については、当時の鈴木知事によ
り計画される。しかし、技術革新により計画の
意義が薄れ、バブル崩壊による計画の遅れや街
開きの目安として考えられていたイベントであ
る都市博の中止。だが、お台場やビッグサイト
などにより新たな観光地として認識されるよう
になる。リーマンショックにより進出予定の企
業が撤退という問題も発生したが、オリンピッ
ク招致成功により今後は安定して開発が行われ
るだろう。
このような地域をコンパクトシティや職住近
接、イベントとインフラという観点から検討し、
その上で今後どのように成長していくのかを論
じている。
今回取り上げた二つの地域は、月島地区のよ
うな元々住んでいる人もいる地域における再開
発と、臨海副都心のような人が生活していない
土地の新規開発では第四章にていくつかの差異
が鮮明となった。そして、臨海副都心という都
市は鉄道や橋によってつながっていても、他の
地域との距離感から、ある意味隔離された都市
であると考えることが正しい認識である。この
ような土地であるからこそ、数十年後に新たな
問題が発生し、新たな文化が流行する、未知な
る可能性を秘めていると考えることも必要だ。