AEC 下で進む関税撤廃による ベトナムの輸出入へ

みずほインサイト
アジア
2015 年 3 月 20 日
AEC 下で進む関税撤廃による
ベトナムの輸出入への影響
アジア調査部研究員
中村拓真
03-3591-1414
[email protected]
○ AECの下、ベトナムを含むASEAN後発国の関税が2018年までに全て撤廃される。ベトナムにとっては、
他の後発国向けの輸出増加が期待される一方、対ASEAN輸入の増加が予想される
○ 関税撤廃は基本的にベトナムの貿易収支を悪化させるとみられるが、悪化の程度に関しては、高関
税撤廃に伴って乗用車の輸入がどの程度増加するかに依存している
○ 貿易収支の急激な悪化が懸念される場合には、国内税制や非関税障壁によって乗用車の輸入が抑制
されるとみられ、貿易収支の赤字が急激に拡大する可能性は低いだろう
1.はじめに
ASEANでは、2015年末にASEAN経済共同体(以下、AEC)が発足する。その下で、域内関税は基本的
に全て撤廃される予定である。すでにASEAN先発国のシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、
ブルネイ、フィリピン(いわゆるASEAN6)は、ASEAN物品貿易協定(以下、ATIGA)に定められたスケ
ジュールにしたがい、2010年までに関税撤廃が終了している。ASEAN後発国であるベトナム、カンボジ
ア、ラオス、ミャンマー(いわゆるCLMV諸国)についても、2015年までにほぼ全ての関税撤廃が終了
しており、残存している関税も2018年までに全て撤廃する見込みである。こうしたCLMV諸国の関税撤
廃は、ベトナムの輸出を押し上げる可能性がある一方、
図表1
自身も輸入関税を撤廃することから、ASEANからの輸入
増加が懸念されており、貿易収支への影響が注目される。
ベトナムは、2008年には過去最大の180億ドル(名
(億ドル)
50
貿易収支
貿易収支(左軸)
名目GDP比
(%)
5
目GDP比18.3%)もの貿易赤字を抱えていたが、2012年
0
には黒字に転じ、その後は3年連続で黒字を維持してい
▲ 50
▲5
る(図表1)1。貿易収支の改善に伴い経常収支も黒字に
▲ 100
▲ 10
▲ 150
▲ 15
転化したことで、長年悩まされてきた通貨安圧力が緩和
0
され、為替レートも徐々に安定化している。しかし、通
貨安に対する懸念は完全に解消されたわけではない。再
▲ 200
▲ 20
2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
(年)
び貿易収支が悪化すれば、外貨準備の枯渇懸念から通貨
(資料) ベトナム統計総局、IMF
安定の維持が困難となる恐れもあるだろう2。
1
そこで本稿では、今後のCLMV諸国の関税撤廃品目を確認したうえで、関税撤廃がベトナムの貿易収
支に与える効果を検討する。なお、本稿執筆にあたり、ベトナムにて現地有識者へのヒアリング調査
を行った(2/2~2/6、ハノイ、ホーチミン)。ご協力いただいた方々に、この場を借りて感謝の意を
申し上げたい。
2.ATIGA における関税削減・撤廃品目
(1)ATIGAにおける関税撤廃スケジュール
まず、ATIGAにおける関税撤廃スケジュールを確認しよう。ATIGAでは、通常の関税撤廃の対象とな
る品目(IL品目)が各国ごとに定められており、その品目については、①関税を5%以下に引き下げる、
②関税を完全に撤廃する、という2段階で関税撤廃が行われる(図表2)。CLMV諸国の場合には、①の
段階が2009年まで、②の段階が2015年までと定められている3。ただし、IL品目のうち総品目数の7%
を上限に、2018年まで関税撤廃が猶予される例外品目として指定することができる。
IL品目とは異なるスケジュールで撤廃される品目も存在する。IL品目に含まれないのは、武器など
関税撤廃の対象とならない一般的除外品目(GEL品目)、未加工農産物など例外的に長期で関税削減が
行われるセンシティブ品目・高度センシティブ品目(SL品目・HSL品目)、各国の独自スケジュールで
の関税撤廃が認められている石油製品品目(PP品目)などである4。SL品目、HSL品目、PP品目も徐々
に関税が削減されているほか、GEL品目も品目によってはIL品目に組み込まれ、関税撤廃が進んでいる。
以上のスケジュールを踏まえると、今後のベトナムの貿易収支に影響を与えうる品目は大きく3種類、
①2015年に関税が撤廃されたIL品目、②今後2018年までに関税撤廃が行われるIL品目(猶予品目)、
③IL品目以外で関税削減・撤廃が行われる品目、に分類することができる。
図表2
IL品目の関税撤廃イメージ(CLMV)
2009年以前
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
2009年
2015年
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
0
5
10 15 20
(関税率、%)
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
0
5
10 15 20
猶予品目
(総品目数の7%以下)
0
(関税率、%)
(資料)ASEAN事務局資料より、みずほ総合研究所作成
2
5
10 15 20
(関税率%)
2018年
a
b
c
d
e
f
g
h
i
j
0
5
10 15 20
(関税率%)
(2)各国の関税削減・撤廃品目
次に、ベトナム及びCLM各国の関税削減・撤廃スケジュールを品目ごとに確認しよう。以下では、関
税削減による輸出入への影響が大きいと考えられる、①貿易シェアの大きい品目(ベトナムについて
は対ASEAN輸入におけるシェアの大きい品目、CLM諸国については対ベトナム輸入においてシェアの高
い品目)、②現時点で高関税であり今後撤廃される品目、の2点に焦点を絞って整理する。
a.ベトナム
はじめに、ベトナムをみてみよう(図表3)。2015年に関税が削減・撤廃された品目は、全て対ASEAN
輸入におけるシェアが1%以下の低シェア品目のみとなる5。シェアの高い品目は7%の猶予品目に指定
し、撤廃の猶予を受けているためだと考えられよう。2018年までに関税撤廃となる品目のうちシェア
の高い品目は、家電製品、食料品である。また、同国の対ASEAN輸入の7.3%を占める石油精製品も、
PP品目ではあるが、撤廃される予定である。加えて、高関税が撤廃される品目としてバス、自動車、
二輪車の3品目がある。なお、ATIGAでは2009年に全て5%以下に下げることとなっているにもかかわら
ず、これら品目に5%を超える高関税が残っているのは、もともと除外品目として扱われ、その後にIL
品目に移行したため、例外的なスケジュールで撤廃が行われているためである6。
b.CLM諸国
CLM諸国をみると、2015年に関税が削減・撤廃された品目のうち対ベトナム輸入シェアの高い品目は、
ラオスの二輪車及び石炭、ミャンマーの鉄鋼製品である(図表4)。加えて、ラオスでは2015年に乗用
車の10%という高関税が撤廃されている。2016~2018年では、ラオスの対ベトナム輸入の25%超を占
める石油精製品の関税が撤廃される予定となっている。
カンボジアは、2015年時点での具体的な関税がATIGA付属のスケジュールに記載されていないため、
2015年に関税が削減・撤廃された品目と、2016~2018年までに関税が削減・撤廃される品目の区別が
図表3
品目名
石油精製品
エアコン
テレビ
穀物
冷蔵庫
HSコード
HS-2710
HS-8415
HS-8528
HS-1901
HS-8418
ベトナムの主な関税削減品目
対ASEAN輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
7.3
1.6
1.6
1.2
1.0
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
2016~2018
2016~2018
2016~2018
2016~2018
2016~2018
5→0
5→0
5→0
5→0
5→0
PP
IL
IL
IL
IL
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
2016~2018
2016~2018
2016~2018
50→0
50→0
50→0
GEL→IL
GEL→IL
GEL→IL
高関税残存品目
品目名
乗用車
バス
二輪車
HSコード
HS-8703
HS-8702
HS-8711
対ASEAN輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
0.1
0.0
0.0
(注)1. 同じ4桁コード内で異なる撤廃スケジュールがある場合は、最もシェアの大きい6桁コード品目の
スケジュールを表示。さらに同じ6桁コード内で異なるスケジュールがある場合は、最も品目数
の多い6桁コード品目のスケジュールを表示。
2. シェアの最も大きい6桁コードの品目が関税撤廃の対象となっていない品目は除外した。
3. 石油精製品のシェアは、関税撤廃が行われない軽質油(HS2710.12)を除く。
(資料)ASEAN事務局、ベトナム財政省、UN Comtradeより、みずほ総合研究所作成
3
できない。そこで、2015年時点で関税が残っている品目のうち、2018年までに関税撤廃義務がある品
目のみを確認すると、対ベトナム輸入の約20%を占める石油精製品の関税が撤廃となるほか、電力や
鉄鋼といったシェアの大きい品目も関税が撤廃される予定である。
3.輸出入への影響の考察
上記を踏まえ、関税撤廃によるベトナムの輸出入及び貿易収支への影響を考えよう。以下では、輸
出入それぞれにおいて、①5%の関税が削減されることによる効果、②5%以上の高関税が撤廃される
ことによる効果、の2点に着目して分析する。
(1)関税率削減の全般的影響
前述の通り、ATIGAでは全てのIL品目について2009年までに5%に関税を引き下げるよう定められて
いるため、2015~2018年にCLMV諸国が削減・撤廃する品目の関税削減率は、例外を除き全て5%以下で
図表4
CLMの主な関税残存品目
ラオス
品目名
HSコード
対ベトナム輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
25.4
8.2
4.0
2.6
1.7
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
2016~2018
2015
2016~2018
2015
2016~2018
5→0
2→0
5→0
1→0
5→0
IL
IL
IL
IL
IL
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
2015
10→0
GEL→IL
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
2015
2016~2018
2016~2018
2016~2018
2016~2018
1.5→0
1→0
5→0
5→0
0.8→0
IL
IL
IL
IL
IL
関税撤廃時期( 年)
関税削減・ 撤廃率( %)
品目分類
6.0
2015~2018
2015~2018
5→0
5→0
IL
IL
HS-7213~7215
7.6
2015~2018
5→0
IL
HS-3923
HS-1902
2.3
2.0
2015~2018
2015~2018
5→0
5→0
IL
IL
石油精製品
二輪車
セメント
石炭
ねぎ属の野菜
HS-2710
HS-8711
HS-2523
HS-2701
HS-0703
高関税残存品目
品目名
乗用車
HSコード
HS-8703
対ベトナム輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
0.5
ミャンマー
品目名
鉄鋼製構造部品
セメント
コーヒー・茶
パン・ケーキ等
プラスチック製品
HSコード
HS-7308
HS-2523
HS-2101
HS-1905
HS-3921
対ベトナム輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
4.7
3.8
2.0
1.5
1.2
カンボジア
品目名
石油精製品
電力
鉄または非合金鋼
の棒
プラスチック製品
麺
HSコード
HS-2710
HS-2716
対ベトナム輸入
におけるシ ェア
( 2 0 1 3 年、 %)
20.9
(注)1. 同じ4桁コード内で異なる撤廃スケジュールがある場合は、最もシェアの大きい6桁コード品目の
スケジュールを表示。さらに同じ6桁コード内で異なるスケジュールがある場合は、最も品目数
の多い6桁コード品目のスケジュールを表示。
2. シェアの最も大きい6桁コードの品目が関税撤廃の対象となっていない場合は除外した。
(資料)ASEAN事務局より、UN Comtradeより、みずほ総合研究所作成
4
ある。CLM諸国が関税を削減・撤廃する品目のうち、削減率が5%を超えるものは2013年の輸出額ペー
スでわずかに0.1%であり、ベトナムの関税削減・撤廃品目においても0.3%である。そこでまず、関
税率が全て5%引き下げられると仮定した場合の輸出入への影響を考察し、関税が貿易収支におおむね
どのような影響を与えるのか分析する。
CLM諸国が2015~2018年に削減・撤廃する品目のベトナムの輸出額(CLM諸国向け)は、合計で22.8
億ドルと、ベトナムの2013年の輸出総額における割合は1.7%である。仮にすべての関税削減率が5%
だとしても、ベトナムの輸出押し上げ額はおよそ1.5億ドル(2013年輸出額比、以下の試算でも同様)、
0.1%程度と試算される7(図表5)。また、輸入についても同様に考察すると、2015~2018年にベトナ
ムがASEANに対して削減・関税を撤廃する品目の対ASEAN輸入の合計額は69.8億ドルで、2013年の輸入
総額における割合は5.3%である。関税削減による押し上げ効果は、6.5億ドル(0.5%)と試算される。
したがって、5%の関税削減・撤廃は貿易収支をわずかに5.0億ドル(名目GDP比0.3%)程度悪化させ
るのみである。2014年の貿易黒字額が21.4億ドルであることを考えれば、貿易収支への影響は軽微だ
といえよう。
(2)高関税撤廃品目の効果
ただし、関税が残存している品目の中には非常に高い関税が課されている品目もあり、こうした品
目は注意が必要だ。現状のシェアは低いものの、高関税の撤廃で急拡大する可能性もあるからである。
以下では、これらの品目による貿易収支への影響を個別に検証する。
まず輸出について考えると、CLM諸国が関税削減・撤廃する品目のうち、関税削減率が5%を超える
品目は、ラオスの乗用車のみであった。したがって、高関税撤廃によって輸出が拡大する可能性があ
るのは、ラオス向けの乗用車である。ただし、後述するように、ベトナムの乗用車は輸出競争力を有
しているとはいえないため、高関税が撤廃されても、輸出増加の影響は限定的だとみられる。一方、
輸入では、バス、二輪車、乗用車で50%の高関税が2018年までに撤廃される。これらの品目の急増可
能性については、それぞれ考察する。
a.バス関税撤廃の影響
バスは、ASEAN諸国内に高い輸出競争力を有している国がなく、ベトナムの輸入拡大余地は大きくな
い。輸出額の最も大きいマレーシアでも0.4億ドルであり、2013年にデータの入手できるASEAN諸国の
全輸出額を合計しても1.1億ドルである。仮に関税撤廃に伴ってASEAN諸国が輸出を全てベトナムに振
り向けたとしても、その押し上げ効果は輸入総額の0.08%である。したがって、関税撤廃によりASEAN
からのバス輸入が急増する可能性は低く、仮に急増したとしてもその影響は極めて小さいとみられる。
図表5
カンボジア
+1.3
5%関税撤廃による輸出入押し上げ効果
輸出
ラオス ミャンマー
+0.1
+0.03
合計
+1.5
(億ドル)
輸入
貿易収支
ベトナム
+6.5
▲5.0
(注)貿易額はHSコード6桁のデータを用いて試算。
(資料)ASEAN事務局、ベトナム財政省、UN Comtrade、Tokarick(2011)より、みずほ総合研究所作成
5
b.二輪車関税撤廃の影響
二輪車についても、輸入が急増する可能性は低いだろう。まず、ベトナム国内の二輪車消費の拡大
余地が大きくない。ベトナムの二輪車保有台数は2013年時点で人口1,000人あたり416台であり、2.4
人に1人が二輪車を保有している計算となる(図表6)。これはASEAN諸国内で際立って高い水準であり、
二輪車はすでに相当程度普及している。加えて、国産品が高い競争力を有しており、関税撤廃で国内
市場が輸入品に代替されるということも考えにくい。2013年のベトナムの二輪車生産台数は、ASEAN
諸国内でインドネシアに次ぐ2番目の規模である。国内市場が大きく生産台数も多いことから、部品の
現地調達が進んでおり、現地調達率は80%以上と非常に高い8。結果として、ベトナムで生産される二
輪車は他のASEAN諸国と比べても価格競争力が高い。実際に、ベトナム国内生産の主力である排気量
51cc~250ccの二輪車については、ベトナムは25.8万台を輸出しており、ASEAN諸国ではタイに次いで2
番目の輸出国である。二輪車の関税撤廃が貿易収支に大きな影響を与える可能性も低いだろう。
c.乗用車関税撤廃の影響
一方、乗用車は、2つの点でバス・二輪車と異なる。1つは、国内市場が未成熟で、市場の拡大余地
が大きいことである。ベトナムの乗用車保有台数は、人口1,000人あたり20台であり、CLM諸国を除く
ASEAN諸国で最低の水準である(図表7)。足元では、所得水準の向上から国内市場は拡大傾向にあり、
2014年の乗用車販売台数は前年比+33.3%と大幅に増加した。今後も、国内市場は拡大余地が大きい
とみられる。もう1つの相違点は、国産品の競争力が、他のASEAN諸国に比べて著しく劣っている点で
ある。国内市場が未成熟であることから、ベトナムの乗用車生産台数は2014年で5.9万台と、タイの
107.1万台、インドネシアの92.5万台と比べて圧倒的に規模が小さい。さらに、国内生産は部品を輸入
に頼った構造であり、国内新車販売台数の73.8%がノックダウン生産と呼ばれる輸入部品の組み立て
生産である。輸入部品に頼った生産のため、国産乗用車は競争力を有しておらず、現状では50%とい
う高関税を課すことで、輸入品に対する競争力を維持できている9。関税が撤廃された場合には、国産
品の競争力が低下することから、タイなどからの輸入品に代替されてしまう可能性は否定できない。
図表6
二輪車生産・保有台数(2013年)
(万台)
800
416 生産台数
1000人あたり保有台数(右軸)
362 700
600
390 (台)
1000人あたり保有台数(右軸)
120
400
364 400
350
100
300
80
250
250
150
43 200
60
200
300
0
生産台数
300
400
100
乗用車生産・保有台数(2013年)
(万台)
450
350
287 500
200
図表7
(台)
40
100
50
20
0
0
(資料)ASEAN Automotive Federation、ベトナム統計総局、
世界銀行
150
106 100
46 20 31 50
0
(注)商用車、トラックなどは除く。
(資料)ASEAN Automotive Federation、OICA、世界銀行
6
上記の22つの要因から、乗用車は
は関税撤廃に
により輸入が
が増加しやす
すい構造にあ
ある(図表8)
)。仮に国
内乗用車市
市場が、足元
元のペースに
に近い前年比
比+35%程度
度の拡大を続け、国内販売
売の半数が輸
輸入品とな
った場合に
には、2018年
年には貿易赤
赤字額を13.44億ドル悪化させる計算となる(図表
表9)。関税撤
撤廃による
価格低下で
で国内市場の
の拡大ペース
スがさらに加
加速すれば、貿易収支の悪化は一層大
大きくなる。
。乗用車販
売の増加ペ
ペースが年率
率+50%に拡
拡大した場合
合には、貿易
易収支の悪化額は21.4億 ドルに拡大す
する。
ただし、国内市場が
が急速な拡大
大を続けると
とは限らない
い。乗用車市場の拡大余地
地は確かに大
大きいもの
の、現地ヒ
ヒアリングに
によれば、ベ
ベトナムの国
国内市場拡大
大を抑制している要因は関
関税以外にも
もあるから
だ。その1つは国内税制である。ベ
ベトナムの自
自動車にかか
かる税金は、輸入関税の
の他にも、国
国内消費税、
特別消費税
税、自動車登
登録料がある
る。このうち
ち、特別消費
費税は現状で45~60%と非
非常に高く、
、需要抑制
の大きな要
要因となって
ている。特別
別消費税はそ もそも、ASE
EAN内での関税引き下げ に伴う税収減
減少を賄う
ために19996年に導入さ
された税制で
であり、これ
れまでも交通
通渋滞の抑制や環境への配
配慮などを理
理由に、何
度も引き上
上げが行われ
れている。ヒ
ヒアリングで
でも、乗用車
車の輸入が急増し貿易収支
支に大きな影
影響を与え
うる場合に
に、政府は再
再び特別消費
費税の引き上
上げを実施す
するのではないかとの声が
が多く聞かれ
れた。
乗用車市
市場を抑制し
している要因
因としてもう 1つ聞かれた
たのは、国内
内のインフラ
ラ整備の未整
整備である。
例えば、ベ
ベトナムでは
は駐車場の価
価格が規制に
により低く抑
抑えられているため、駐車
車場の供給が
が不足して
いる。今後
後、こうした
たインフラが
が整備されな
ないまま自動
動車保有台数だけが増加す
すれば、消費
費が抑制さ
れる可能性
性があるとの
の意見が聞か
かれた。国内
内市場がこうした要因で抑制されれば
ば、乗用車が
が輸入品に
転換されて
ても、貿易収支への影響は
は限定的にな
なる。仮に乗
乗用車販売台数の拡大が過
過去5年の平
平均程度(+
5.0%)であれば、貿易
易収支の悪化
化額は3.7億
億ドル程度にとどまる(図
図表9)。ま た、国産乗用
用車の大半
を占めるノ
ノックダウン
ン生産車と、輸入品が大半
輸
半を占める完
完成車に対し
して異なる税
税率を課すこ
ことなどで、
輸入乗用車
車に対する一
一種の非関税
税障壁を設け
けることなど
ども考えられるだろう10。
4.おわ
わりに
本稿では
は、2018年ま
までに予定されているAE C下でのCLMV
V諸国の関税
税撤廃が、ベ トナムの貿易
易収支に与
えうる影響
響を考察した
た。CLMV諸国
国の関税撤廃
廃は、輸出よりも輸入の押し上げ効果
果が大きく、
、基本的に
図表8
乗
乗用車輸入増加のプロセス
図表9
乗用車によ
乗
る貿易赤字
字増加効果(
(2018年時点
点)
市場拡
拡大ペース
乗用車販売伸
伸び率(前年比)
貿易収支悪
悪化額(億ドル)
2014年と同程度
35%%
13.44
2014年より加速
速
50%
211.4
(注)1. 輸入品の供給に
輸
占める割合は500%と仮定。
2. 輸入単価は2013年
輸
年のデータを用
用いた。
(資料)UN Comtrade、OICA
Aより、みずほ総
総合研究所作成
(資
資料)みずほ総合
合研究所作成
7
過去5年平均
均
5%
3.7
はベトナムの貿易収支を悪化させる効果があるとみられる。
貿易収支悪化の程度については、高関税の撤廃でベトナムの乗用車輸入がどれだけ増加するかに依
存しているといえる。乗用車の国内市場拡大が急速に進み、かつ競争力の低い国産品が輸入品に置き
換われば、輸入が急増して貿易収支を急激に悪化させる可能性もあるだろう。もっとも、現地ヒアリ
ングで聞かれた意見などを踏まえると、こうした懸念が高まった場合には、政府が国内税制など関税
以外の措置で乗用車市場の急拡大を抑制することなどが予想され、貿易収支の急激な悪化は避けられ
るものとみられる。
ただし、こうした国内市場の抑制につながる施策は、自動車メーカーから撤廃の圧力を受け続けて
いるほか、AECの下でも徐々に市場の自由化圧力が強まるとみられることから、その持続性には疑問も
残る。今後のAECによる自由化動向や、ベトナム政府の乗用車市場に対する方針が注目される。
【参考文献】
Stephen Tokarick(2010)
“A Method for Calculating Export Supply and Import Demand Elasticities”
(IMF Working Paper 10/180)
石川幸一(2009)
「新AFTA協定の締結」
(国際貿易投資研究所『国際貿易と投資』Spring 2009/No.75)
石川幸一・清水一史・助川成也(2013)『ASEAN経済共同体と日本―巨大統合市場の誕生―』文眞堂
稲垣博史(2014)「ベトナム経済はなぜ堅調か」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2014年1
月28日)
稲垣博史・宮嶋貴之(2014)「反中デモ後のベトナム経済をどうみるか」(みずほ総合研究所『み
ずほインサイト』2014年6月2日)
小野沢純(2011)「ASEAN3カ国の自動車産業の変化」(日本自動車工業会『JAMAGAZINE』2011年9
月号)
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ベトナムの貿易収支改善の背景にあるのは、①政府のマクロ経済安定化姿勢への政策転換、②携帯電話輸出の増加、③精油所
の稼働開始などである。詳しくは稲垣(2014)を参照。
2 外貨準備高の減少が通貨安に与える影響については、稲垣・宮嶋(2014)を参照。
3 カンボジアは例外的に、
2009 年までに IL 品目を全て 5%以下に削減しなくてもよいこととなっている。ただし、総品目数の 80%
にあたる IL 品目については、2009 年までに 5%以下にするよう定められている。
4 PP 品目の指定は、ベトナム、カンボジアにのみ認められている。
5 本稿の品目別輸出入額は、全て UN Comtrade の 2013 年の値を用いた。
6 乗用車、二輪車、バスの関税撤廃スケジュールは、2015 年 50%⇒2016 年 40%⇒2017 年 30%⇒2018 年 0%、となっている。
7 ①関税撤廃による価格低下、②輸入の価格弾力性、という 2 つの効果の大きさを考慮して試算を行った。①の価格低下につい
ては、5%の関税撤廃がそのまま価格に反映されると仮定し、価格低下率は 5%とした。また、②輸入の価格弾力性については、
Tokarick(2010)に示されている試算結果を用い、長期の弾性値をそれぞれ、ベトナムが▲1.85、カンボジアが▲1.33、ラオス
が▲0.95、ミャンマーが▲0.90 とした。
8 現地調達率はメーカーによって異なるものの、ホンダは 2011 年時点でマニュアル車の部品調達率が約 90%、オートマチック車
が約 85%としている(NNA、2011 年 9 月 28 日付記事)
。
9 関税が撤廃されれば、タイから輸入する完成車に比べて 20%割高になるといわれている(NNA、2014 年 12 月 25 日付記事)
。
10 ASEAN 諸国が輸入関税の削減に国内税制で対応した例は、過去にもある。マレーシアは 2004 年に自動車の関税を削減したが、
同時に物品税を導入。物品税の還付条件として、部品の調達先が国内メーカーであるプロトンなどであることとし、実質的に国
内生産車を優遇した。
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