日本を取り巻く LNG 情勢と取引の流動性向上に向けた動き

更新日:2015/3/20
調査部:永井 一聡
日本を取り巻く LNG 情勢と取引の流動性向上に向けた動き
(各社ホームページ、各種報道、他)
○世界の天然ガス市場は、主に、北米、欧州、アジアという 3 つの大きな市場が存在し、これまで市場を
横断するような流動性のある取引はほとんどなく、価格もそれぞれの市場で別個に決定されている。こ
の市場構造と 2011~2014 年にかけての原油価格高騰等が、アジアプレミアムと呼ばれる日本等アジ
ア地域での LNG 価格高騰をもたらした。
○現在、LNG 需給は緩和する方向にあり、需要動向や新規プロジェクト計画などを見ても、2020 年まで
の局面において需給は緩む見通しである。
○2014 年中盤からの原油価格下落と足元での LNG 需給緩和で、価格だけを見るとアジアプレミアムは
なくなりつつある。日本の LNG 輸入価格は、原油の市場価格の動向から数か月の遅れを持って動い
ており、単純な試算では 2015 年中盤頃に 7~8 ドル/MMBtu となり、今後の油価動向の予測に基づ
くと 2016 年頃には 11~12 ドル/MMBtu 程度となる見通しである。
○しかし、LNG 取引の構造的な課題は残っている。これら課題を解決し、適正な LNG 価格による調達
を将来に渡って可能とすべく、日本の LNG 買主も様々な取り組みを行っている。
○日本の LNG 買主が指向するのは「多様化」で、LNG 市場への参画者が拡大する中、生産者間での
競争を促進し、買主側の交渉力を高めようとしている。
○LNG 価格は、「適切な水準」と「合理的な価格体系」であることが重要である。高すぎれば需要は減退
し、安すぎれば上流側への投資が滞り、産業の発展に悪影響を及ぼす。
○重要なのは買い主と売り主が相互に協力し、天然ガス・LNG 産業の継続的発展に向けて努力してい
くことであると考える。
1. 世界の三大天然ガス市場と価格体系
(1)世界の三大天然ガス市場
現在、世界の天然ガス市場は、主に、北米、欧州、アジアという 3 つの大きな市場が存在すると
されている(図1)。近年、中東諸国や南米地域等においても天然ガス需要は伸びてきているが、
需要の規模や歴史的な背景に基づく天然ガス産業界への影響を考えれば、やはりその位置付けは非
常に大きなものとなっている。
しかし、これらの 3 つの市場はそれぞれ固有の形成の仕方をしており、調達のフローを見ても異
なるものとなっている。北米大陸は古くから域内での天然ガス生産が盛んであり、2000 年代以降
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
在来型の天然ガス生産に減退は見られるものの、2010 年頃よりシェールガス革命を成し遂げ、ロ
シアと並ぶ二大天然ガス生産国に君臨している。一方、欧州は、北海地域(イギリス、ノルウェー)
やオランダを初めとする域内での生産に加え、広大な土地に豊富な埋蔵量を誇るロシアや北アフリ
カなどからのパイプライン輸入による調達が主となっており、近年は LNG 受入基地の整備も進め
ている。アジア地域では、日本が 1969 年に LNG 輸入を開始したのを初めとして、先進国につい
ては多くを LNG 輸入に頼る市場構造となっている。
出所:JOGMEC 作成
図 1 世界の三大天然ガス市場と主な輸入フロー
(2)三大ガス市場における価格体系
これら三大ガス市場では、天然ガスの価格体系もそれぞれの市場の発展に合わせて固有の仕組み
が構築されてきた(図 2)。
北米では、歴史的に域内での天然ガス生産の産業化と共にパイプライン網が整備され、パイプラ
インハブを取引地点とする市場価格取引(ヘンリーハブが有名)が形成されている。
欧州については、大陸側諸国では石油製品に連動して天然ガス価格を決定してきたが、イギリス
のみガス自体の需給によって天然ガス価格を決定する方式(NBP 価格)で市場が形成されてきた。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
欧州大陸部では、もともとガスは石油製品の競合燃料であり、消費者はガスと石油の価格優位性の
ある方を選択していたため、このような石油価格連動の価格体系が出来上がったと考えられる。イ
ギリスでは、1980 年代からガス市場が存在し、天然ガス長期契約においても市場価格と連動する。
近年では大陸欧州においても、ガス取引市場が発展してきており、市場価格の割合も増加してきて
いる。
一方、アジア地域では、日本の LNG 輸入の開始以降、長期契約が主体の調達で、その価格は基
本的に日本の原油輸入価格に連動して決まる方式を採用してきた。
そして、それぞれの市場が地域的特性と歴史的経緯に基づき形成されてきたこともあり、現状こ
れまでは各市場間をまたがる流動的な天然ガス取引はほとんどなく、これら市場は事実上分断され
ていると言っても過言ではない。天然ガス価格は各市場の事情・方式によってそれぞれ別個に決定
されるのである。
出所:JOGMEC 作成
図 2 世界三大市場の価格体系
(3)アジアプレミアムの正体
図 3 に、欧州、北米、アジア地域のそれぞれの天然ガス価格推移を示す。
2 0 0 8 年以前は、地域ごとの需給状況や気象の影響による価格の上下動はあるものの、おおむ
ね天然ガス価格の地域差は小さかったことが分かる。しかし、2009 年以降、シェールガス生産が
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
実用化し生産量を増大(いわゆるシェールガス革命)させた北米では需給が急激に緩和して価格が
下がっている。逆にアジア地域では、2011~2014 年の約 4 年間、記録的な原油価格高騰の時代で
あったために、原油に連動して価格が決まるアジア向けの LNG 価格も高騰した。
また、欧州大陸部の天然ガス価格(ドイツの場合)は、基本的には石油製品連動であるため、原
油価格上昇によって同じく上昇しているが、アジア地域ほどの顕著な高騰とはなっていないように
見える。2009 年以降の欧州の価格の動きの要因としては、北米のシェールガス革命の余波として
安価な石炭が欧州に流入し、燃料間競争で石炭に天然ガスのシェアを奪われたことで経営を悪化さ
せた欧州の各天然ガス買い主が、ガス価格見直し(石油価格に指標付ける係数の引き下げや市場価
格連動方式の導入など)に向けた再交渉を活発化させ価格引き下げを獲得していったことが大きい。
さらに、原油価格の高騰が起こり始めた 2011 年には東日本大震災が発生し、日本国内の原発停
止に伴って、発電用燃料として LNG に頼らざるを得ない状況となってしまった。そのため、緊急
での LNG 調達を進めたことで LNG の需給もひっ迫し、LNG のスポット価格(長期契約による
調達ではなく、一船ごとに相対交渉で価格を決める取引)も高騰した。
結果的に、2011 年以降、北米、欧州、アジア地域での天然ガスの価格差が拡大し、アジア側で
は「アジアプレミアム」といった言葉で表現される状況となってしまったのである。つまり、一部
のマスコミ報道でイメージされるような、日本を初めアジア諸国が元々から不当に高価格な LNG
を契約させられていたわけではない。
ちなみに、2015 年 3 月現時点においては、アジアの LNG スポット価格(長期契約等のターム
契約と異なり、一船ごとに相対で価格を決める)は欧州向けのものとほぼ同じ水準となっている(1
月~2 月時点においては欧州向けより安いものもあったとの情報有り)。また、2014 年中盤から
の原油価格下落により、石油価格に連動する長期契約の LNG 価格も下がりつつあり、現状の価格
だけを見ると「アジアプレミアム」は消えつつある。
しかし、
だからといって日本の調達するLNG の価格に関して、
課題が解消されたとは言えない。
原油価格が高騰すれば再び日本が調達する LNG 価格も上昇し、北米・欧州との価格差が発生して
しまうからである。逆にいえば、日本が LNG の調達価格において目指すべきことは、「世界のガ
ス価格と常に同等の価格で調達できること」である。これを阻害してきた「原油価格連動の価格体
系」、「世界のガス市場の分断」、「買主としての交渉力の弱さ(≒LNG 生産者としてのメジャ
ー企業の寡占)」といったこれまでの LNG 業界の特性こそがアジアプレミアムの正体であり、日
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本は今後「合理的なガス価格体系の確立」、「世界の天然ガス価格の収斂(取引の流動化と市場の
統合)」、「買主としての売主側との交渉力の向上」を目指していく必要がある。
出所:各種データより推定
図 3 地域別天然ガス価格推移
2.LNG 需給動向と LNG プロジェクト見通し
図 4 に世界の天然ガス供給量推移、図 5 に世界の LNG 取引量推移を示す。
天然ガスの供給量は着実に増加しており、現在そのうちの約 10%が LNG によるものとなってい
る。また、LNG の取引量は 2011 年に約 2 億 4 千万トンとなり、2012~2013 年にはわずかに減
少しているがほぼ横ばい状態である。また、2000 年代中盤までは世界の LNG 取引量の半分以上
は日本が調達していたが、近年は天然ガスの調達手段として LNG を導入する国が増加してきてお
り、日本が占める割合は相対的に低くなっている。日本の LNG 輸入量は、2012 年 8730 万トン、
2013 年 8750 万トン、2014 年 8850 万トンとほぼ同水準となっており、LNG 需要の増加は、主に
中国、ブラジル、インド、台湾などによるものである。しかし、急激な経済発展に伴い天然ガスの
需要も急拡大すると予測されていた中国とインドは、従来の予測ほど増加が伸びておらず、LNG
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輸入についても伸びが鈍化してきている。
中国・インドにおける天然ガス・LNG 需要がそれほど伸びていない理由の一つに、
高すぎた LNG
価格が挙げられる。2011~2014 年の間の高騰しすぎたアジアの LNG 価格により、エネルギー源
としての石炭からのシフトが進まず、逆に安価な石炭に回帰する動きまで出てきてしまったのであ
る。
出所:IEA Natural Gas Information より JOGMEC 作成
図 4 世界の天然ガス供給量推移
出所:IEA Natural Gas Information より JOGMEC 作成
図 5 世界の LNG 取引量推移
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一方、供給側についても見てみる。世界の LNG 生産能力は、2015 年初頭の段階で、約 3 億ト
ン/年となっている(図 6)。さらに、2015 年以降、新たな LNG プロジェクトが複数起ちあがる
計画(表 1)ともなっており、生産能力の拡大は進んでいく見通しである。2018 年までの間に、
オーストラリアにおいて約 6000 万トン/年、北米においても約 6000 万トン/年の LNG 生産能力が
増加する見通しで、その他ロシア Yamal LNG も現在建設が進んでいる。
中国、インドの LNG 需要の伸びの鈍化と LNG 生産能力の拡大により、直近での LNG 需給バ
ランスは緩和した状況にあり、また、2020 年までの局面において LNG 需給は世界的に緩む方向
にあると言える。
ただし、昨年からの原油価格下落の影響により、その他の FID を行っていない LNG プロジェ
クトには暗雲が立ち込めている。油価下落で財務状況が悪化した生産者側の石油企業が、相次いで
投資削減を表明しており、既に北米などでいくつかの LNG プロジェクトの後ろ倒しや中止を発表
している。
また、モザンビークやタンザニアなど、新たな LNG 供給源として期待される大規模プロジェク
トについても、2020 年前後に生産開始するとされているが、政治・規制面での不安定さを抱えて
いる上、現在の需給動向や油価下落による影響が今後ないとは言い切れない。
出所:各種情報より JOGMEC 作成
図 6 世界の LNG 生産能力推移
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表 1 2014~生産開始する主な LNG プロジェクト
プロジェクト名
PNG LNG
QC LNG
Gorgon LNG
AP LNG
G LNG
Wheatstone LNG
Ichthys LNG
Prelude FLNG
Donggi Senoro LNG
Sabine Pass LNG
Cameron LNG
CovePoint LNG
Freeport LNG
Corpus Christi LNG
Yamal LNG
国
生産開始年
パプアニューギニア
オーストラリア
オーストラリア
オーストラリア
オーストラリア
オーストラリア
オーストラリア
オーストラリア
インドネシア
アメリカ
アメリカ
アメリカ
アメリカ
アメリカ
ロシア
2014
2014
2015 予定
2015 予定
2015 予定
2016 予定
2016 予定
2017 予定
2015 予定
2016~2017 予定
2017 予定
2018 予定
2018 予定
2018 予定
2017 予定
生産能力
(万 t/y)
690
850
1560
900
780
890
840
360
200
450(→1800)
1200
525
1320
1350
1650
出所:各種情報より JOGMEC 作成
3.日本の LNG 輸入価格見通し
前述の通り、日本が輸入する LNG は長期契約が主流で、また、基本的に原油価格連動となって
いる。そして周知の通り、2014 年中盤から原油価格が急激に下落し、2015 年 2 月時点での原油価
格は 1 年前の約半値まで下がっており、また今後の原油価格の動向も様々な場面で議論される話題
である。2014 年中盤からの原油価格下落と今後の原油価格動向が、日本の LNG 輸入価格にどの
ような影響を与えるのかを試算してみた(図 7)。
日本の LNG 輸入価格は、原油の輸入価格に連動し、また、原油輸入価格の反映には 3 か月間程
度のタイムラグが生じる(契約ごとに異なるが、3 か月前の原油輸入価格を指標にしたり、直近 3
か月の原油輸入価格平均を指標とするもの合などがあるとされている)。また、日本の原油輸入価
格も原油市場価格から数か月遅れる傾向にあるため、原油の市場価格の動きが LNG の価格に反映
されるのは 5~6 か月後となるのが普通である。
2015 年 1 月頃にとりあえずの底を打ったかに見える原油価格 50 ドル/バレルが、日本の LNG
価格に反映されるのは 2015 年後半に差し掛かる頃となるだろう。これによって、2014 年初め頃
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に 16~17 ドル/MMBtu だった LNG 価格は、単純に考えた場合、7~8 ドル/MMBtu 程度まで下
がる見通しである(実際は契約ごとに条件が異なるため価格にもばらつきがある)。原油価格の今
後の動向は複数の企業や機関が予測を出しているが、2016 年にかけて徐々に 70~80 ドル/バレル
に収束するという見方が大半となっており、これを考慮すると、LNG 価格は 11~12 ドル/MMBtu
に収束していくことになる。
さらに、
2017 年頃から輸入が開始される北米産の LNG の価格についても試算してみた
(図 8)
。
北米産の LNG は、北米内のガス価格であるヘンリーハブ価格が指標になるとされており、これに
液化コストや輸送費用が上乗せされる。ヘンリーハブ価格の動向はアメリカ EIA が予測を出して
おり、これに基づいて試算すると、こちらも 2016 年~2017 年局面での LNG 価格はやはり 11~
12 ドル/MMBtu に収束することとなる。
ただし、これらの価格見通しはあくまで現時点の環境を基にした試算価格であり、今後新たな契
約の締結や買主・売主間の交渉、LNG を取り巻く環境の変化によって大きく変動する可能性があ
る。そして、何より現在、日本を初めてとする買主企業側が、より適切な価格での調達を実現すべ
く様々な取り組みを行っている最中であることも忘れてはならない。
出所:原油価格予測は各機関および企業の発表値を参考に作成
原油・LNG 輸入価格実績は貿易統計を基に作成
日本原油輸入価格予測値および LNG 価格予測値は筆者作成
図 7 原油価格動向と日本の LNG 輸入価格見通し
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出所:ヘンリーハブ価格実績及び予測値はアメリカ EIA より作成
想定 LNG 価格は液化コスト 3 ドル/MMBTU、
輸送コスト 3.5 ドル/MMBTU として試算
図 8 ヘンリーハブ価格動向と北米産 LNG 想定価格の見通し
4.日本における LNG 価格適正化への取り組み
上述の通り、直近の LNG 価格だけを見た場合、アジアプレミアムはなくなりつつあるが、LNG
には市場と価格体系に構造的な課題がある。2011 年の震災以降、エネルギー源として LNG の重
要性が大きく高まっている中、日本政府および各 LNG 買い主は将来にわたって LNG を適正な価
格で調達できるよう、様々な取り組みを行っている。
(1)多様化の指向
日本の買い主は LNG 調達において、「多様化」を重要視している。「供給源の多様化」、「価
格体系の多様化」、「契約の多様化」などである。これまで、LNG の生産者側は、いわゆるスー
パーメジャーと呼ばれる企業、もしくは国営の大規模石油・ガス会社の寡占状態にあった。また、
2000 年以前ころまでは世界の LNG 取引の大部分を日本が占めていたように、消費者側も日本の
買い主を含め一部の企業らのみに限定されていた。こういった市場構造が、硬直的な LNG 契約体
系といわゆるアジアプレミアムに結びつく要因ともなっていた。しかし、2010 代に入って以降、
生産者側・消費者側ともに参画者が増加しており、世界の LNG 市場は拡大してきている。市場拡
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大はすなわち取引の流動性向上につながり、その中で既存の契約体系にとらわれずに「多様化」を
目指すことは、生産者間での競争をもたらすことにもなる。また、調達源の多様化は、買主側にと
っては供給安定性を高めることにも寄与する。
特に 2010 年代後半に向けて LNG の需給は緩和する見通しであるため、生産者側への交渉力を
発揮し価格の適正化へ向けて動く大きなチャンスと言える。
(2)北米産 LNG 調達の意味
アメリカ産 LNG の日本への輸入は早くて 2017 年頃より始まると予定されているが、それらの
LNG はアメリカ国内のガス市場価格(ヘンリーハブ)に連動するものであり、従来の原油価格連
動の価格体系とは異なるものである。LNG にするための液化コストや、日本への輸送コストは上
乗せされるが、アメリカ国内の天然ガス需給によって決定される価格の LNG が導入されることに
なる。原油価格の動向次第では従来の原油価格連動の LNG と比べて必ずしも相対的に安価とはな
らない可能性もあるが、アメリカ国内の市場とはいえ天然ガス自体の需給を反映した、ある意味で
は合理的な価格決定方法である。また、何よりも、分断されていた天然ガスのアジア市場とアメリ
カ市場をつなぐことにもなる。さらに、日本が調達する LNG にとって価格体系の多様化への一歩
となり、売主間の競争を呼び起こし、より安価な LNG 調達の実現につながるものである。
(3)短期・中期契約の増加と新たな価格体系の導入
従来の LNG 売買契約は、15~20 年といった長期契約が普通であったが、近年は 2~5 年と契約
期間とする短期・中期契約も増えてきている。これは、日本の原発再稼働の見通しが不透明なこと
への対応という意味も含め、やはり調達において流動性を高めたいとの狙いもあると思われる。な
お、統計上はスポット取引での調達と短期契約による調達が同じ区分けで計上されることが多いの
だが、正確には異なるものである。各機関がまとめている統計において、現状日本の LNG 調達に
おける短期・スポット取引の比率は約 4 分の 1 程度とされているが、中身としては大部分が短期契
約であり、純粋なスポット調達は少ないと推測される。
(4)買い主企業間のアライアンス
東京電力と中部電力が発表した LNG を含めた原料調達におけるアライアンス締結のように、買
い主間での協力を強化する動きが出てきている。これにはもちろんバーゲニングパワー拡大の意味
もあるが、LNG の場合、数量を多く買うからといって価格が安くなるわけではない。LNG の価格
は契約したタイミング(需給やプロジェクト固有の事情など)によるところが大きいからだ。だが、
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調達数量は大きければ、少量ずつ購入する場合と比べて、購入方法や契約内容としての選択肢が増
えることは確かである。企業間のアライアンス提携も、LNG 調達方法の多様化へとつながり、交
渉力の強化をもたらすことになるだろう。
(5)仕向け地条項の撤廃へ
仕向け地条項とは、LNG の調達において LNG 船の行き先を規定している条項のことである。
この条項はほとんどの既存 LNG 売買契約に存在しているとされ、LNG 船は契約で規定された行
き先以外の場所へ仕向け変更することはできない。これは、買い主が購入した LNG を第三者に直
接転売することを事実上認めないことを意味しており、LNG 取引の流動性を阻害している一要因
として考えられている。
ただし、この仕向地条項は、ある意味では LNG 取引の黎明期に実操業面での安全担保へも寄与
していたと考えられる。従来の(特に Ex-Ship 取引を主流とする)LNG 売買契約では「仕向地」
を指定する一方、LNG を輸送する「船舶」も個別船名として指定し、むやみに入港実績のない船・
基地で受渡しを行うことを防止する(LNG 船の操船や受渡し作業は熟練した知見と経験を要する)
という意味合いも持っている。ただし、LNG 産業・ビジネスは、既に黎明期は過ぎ去り、世界的
に十分発展・拡大しており、現在はむしろ市場の流動性が求められる時代となっている。そのため
仕向地条項も取引の流動性を阻害するというマイナス側の側面が大きくなっており、存在自体が好
ましくないと評されるようになった。
仕向地条項の撤廃は、経済産業省が掲げる「ガスセキュリティの強化に向けた課題と今後の取組
の方向性」の中において「FOB 契約における仕向地条項の撤廃」が重要課題として認識されてい
る。各 LNG 買い主も仕向け地条項の撤廃が必要との認識の下、売り主側への働きかけを行ってい
る。また、北米産の LNG についてはこういった仕向け地条項はないため、仕向け地条項の撤廃に
向けた第一歩という意味でも北米の LNG の導入は日本の買い主にとって大きな意義を持つ。
ただし、仕向け地条項の撤廃が直接的に安価な LNG 調達につながるというものでもなく、あく
まで世界的な天然ガス市場の流動性向上のための必要要因という位置づけであると考えられる。
(6)LNG 取引市場の開設
2014 年 9 月、Japan OTC Exchange(JOE)は、LNG の取引市場を開設した。これは、これ
まで相対取引が主で指標価格が存在していなかった LNG 市場を鑑み、経済産業省のエネルギー基
本計画でも標榜された、アジアにおける LNG の指標価格の形成が目的となっている。
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
元来、LNG プロジェクト(液化設備の建設)は、高額な設備投資に対するリスクを回避するた
め、長期契約でその生産能力枠をほぼ全量確保することが主流となっている。従って、現状ではこ
ういった公開市場に提供される LNG のボリュームは限られたものになると考えられるため、当該
市場を通しての LNG 調達はいまだ聞こえてこない。しかし、LNG 市場が拡大し原油並にコモデ
ィティ化するような将来に向けて、このような市場の整備は有意義なものになるだろう。
5.まとめ
現在、原油価格下落と世界的な LNG 需給の緩和により、価格だけを見るとアジアプレミアムは
消えつつあるように見える。しかし、アジアプレミアムとは、従来の LNG 価格体系と市場の硬直
性における構造的な問題により生じたものである。このアジアにおける LNG 取引の構造的な課題
を解決するためには、取引の流動性を高め、天然ガス・LNG の世界的な市場の形成に向けて変革
が必要である。そして、生産者側・消費者側とも参画者が増え、LNG 市場が大きく拡大しつつあ
る現在こそがその変革を行うべき絶好の機会である。
目指すべきは「世界の天然ガス市場の統合」、「取引の流動性向上」と「合理的な価格体系と適
切な価格水準」である。中国・インドでの需要が従前の予測ほど伸びなかったのは LNG 価格が高
すぎたことが一つの要因であり、逆に今般の原油価格下落は生産者側の投資意欲を奪い将来の供給
源となるはずの新規 LNG プロジェクトに暗雲を立ち込めさせている。これは、天然ガス・LNG
に限らず、エネルギーとして不当に高い価格であれば需要は減退してしまうし、逆に安価になりす
ぎれば上流側(生産者側)における投資意欲はなくなるということを示している。
天然ガスは環境面、資源量の面でも優位性を持ったエネルギー源である。再生可能エネルギーは
技術的にまだまだ発展途上であることを考えると、天然ガスが今後中期的に重要なエネルギー源と
なることは間違いない。
LNG 産業・ビジネスが今後も継続的に発展していくために重要なのは「適切な価格水準」であ
り、その価格は合理的に決定される必要がある。また、世界の天然ガス市場の中で、アジアおよび
日本が取り残されることなく価格が収斂していくことが求められる。
日本の LNG 買い主も価格適正化に向けて様々な取り組みを行っている。重要なのは買い主と売
り主が相互に協力し、天然ガス・LNG 産業の継続的発展に向けて努力していくことであろう。
以上
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