FOMC: シートベルトの着用サイン点灯

FOMC: シートベルトの着用サイン点灯
ドル高は恐れるに足らず
2015年3月19日
キーワード:FRB、利上げ、リスク、新興国
Market Insights
グローバル・マーケット・ストラテジスト
重見 吉徳
要旨
 FRBは『忍耐強くあるべき』との表現を削除し、次々回6月以降のFOMC
では、いつでも利上げを開始する可能性があることを市場に伝えた
 ドル高にはマイナスの要素があるが、①ドル高が景況感を悪化させるな
らば、それは金利低下や緩和的な金融政策と整合的であり、ドル高は抑
制される。②ドル高が許容されるならば、それは米国や世界経済の堅調
な拡大を示唆する。後者は中長期的にドル高を抑制する要因でもある
 目先は、特に新興国を含め、リスクオフに注意が必要
FOMCは適切なコミュニケーションで「離陸の許可」を得た
17-18日の2日間にわたり、米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれました。
利上げの開始について、FOMCは、前回1月までは『忍耐強くあるべき』と表現
していましたが、この文言を削除し、次々回6月以降のFOMCではいつでも利
上げを開始する可能性があることを市場に伝えました。この一方で、四半期に
1度見直す、連邦準備理事会(FRB)と地区連銀総裁各人による経済見通しで
は、政策金利の見通しが引き下げられました。中央値(最頻値でもある)に従
えば、年内に2回の利上げ、来年に4回の利上げが見込まれています。
総じて、利上げの開始時期は早まるとしても、利上げのペースは緩慢となるこ
とが示唆されたため、18日の米国市場では、①長短金利は共に低下、②内外
金利差縮小からドル安(ユーロや円の買い戻し)が生じ、③これらが好感され
る形で米株高、となりました。このところ市場では、早期利上げ観測の台頭で、
①金利上昇、②ドル高、③米株安が見られましたが、これと対照的な動きとな
りました。FRBとしては、6月にも利上げを開始できるというフリーハンドを得つ
つ、利上げのペースを遅めることで、市場の動揺を抑え、むしろ好感を引き出
したという点で、適切な政策の決定とコミュニケーションであったと考えます。
図1:市場が織り込む2015年末時点の政策金利
データ期間:2015年年初から3月18日まで、フェデラルファンド金利先物2015年12月限
0.750%
0.625%
年内に2回目の利上げを実施する場合のフェデラルファンド金利
= 3月時点FOMCにおける見通し中央値
0.500%
0.375%
0.250%
'15年1月
年内に利上げが1度しか実施されない場合のフェデラルファンド金利
'15年2月
'15年3月
出所: Bloomberg, J.P.Morgan Asset Management
FOMC: シートベルトの着用サイン点灯
ドル高は恐れるに足らず
ドル高が持つマイナスの要素
先にも述べたように、このところ市場では、①米金利上昇、②ドル高、③米株
安がセットで観察されることがあります。確かにドル高は、米国の経済や企業
活動、FRBの利上げにとって、マイナスになりうる要素があります。例えば、
1. 米国企業の海外業績がドル建てで目減りする
2. シェールガス開発の追い風を受けた米国製造業の国内回帰の動き(→中
間層の雇用拡大につながる)が弱まる
3. 輸入物価の伸びを抑え、インフレ目標の到達を遅らせる
の3点が考えられます。
ドル高の影響を、過去の日本の動向になぞらえると、過度な円高により、次の
3つが後押しされました。すなわち、①企業業績の落ち込み、②生産拠点の海
外移転、③貿易収支の赤字転換です。また、円高により、輸入物価ひいては
物価全体にも下押し圧力が生じましたが、それ以上に資源価格の高止まりと、
輸出製品の競争激化(と競争力低下)が、国内賃金の低迷につながりました。
おそらくはこうした日本の経験や再び台頭しつつある金融緩和競争が、『通貨
高はマイナス』というイメージを色濃くしているものと思われます。
しかしながら次に述べるように、①ドル高にはプラスの要素もあり、②現時点で
は実際に大幅なドル高が生じるかどうかも判然とせず、③ドル高が生じても米
国の景気や企業業績は堅調さを維持する可能性もあります。
図2:ドル・インデックスとダウ平均株価
データ期間:2015年年初から3月18日まで
指数
108
ドル・インデックス(左軸)
106
ダウ平均株価(右軸)
ドル
18,400
18,200
104
18,000
102
17,800
100
17,600
98
17,400
96
17,200
94
17,000
92
16,800
90
'15年1月
16,600
出所: 米経済分析局、Bloomberg, J.P.Morgan Asset Management
'15年2月
'15年3月
出所: Bloomberg, J.P.Morgan Asset Management
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ドル高は恐れるに足らず
ドル高が持つプラスの要素
一方で、ドル高にはプラスの要素もあります。それは、米国に購買力をもたら
すこと(=海外のモノやサービス、企業が安価になること)で、米国以外の経済
や企業活動を押し上げるという点です。例えば、
1. 米国の輸入が拡大し、日欧や新興国の輸出が拡大する
2. 米国企業による日欧や新興国の企業買収が拡大する
の2点が考えられます。
まず前者について考えてみます。その是非は別として、世界経済を長年けん
引してきたのは、米国の需要であり、米国の輸入です。米国の輸入拡大は貿
易赤字を招き、財政赤字の拡大との組み合わせは『双子の赤字』と呼ばれまし
た。反対に、日本やドイツ、中国を始めとするアジアの新興国の多くは、①内
需が不足するか、②通貨危機の経験から外貨準備を蓄える必要性もあり、貿
易黒字を計上しました。その米国の貿易赤字は世界金融危機以降、縮小傾向
にありますが、ドル高により、米国の輸入は再び拡大する可能性があります。
GDP統計上、輸入は控除項目であるため、輸入の拡大は米国のGDPに下押
し圧力をかけます。一方で、輸入の拡大は、①米国の旺盛な需要を示唆する
と共に、②日欧や新興国の輸出と景気を押し上げることから、世界経済全体
はより良い状態にあるという表現ができるかもしれません。
Guide to the Markets-Japan 2015年第1四半期版66ページ
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(弊社HPよりダウンロード頂けます)
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ドル高は恐れるに足らず
次に、後者については、ドル高により、買収対象となる日欧や新興国の企業の
株価が上昇する可能性があります。
米国の企業経営者は株価を上げる方策を常に考えています。ドル高が株価と
業績を押し下げるならなおさらです。M&Aは一般に、競争相手を取り込むこと
で競争そのものを減らし、利益率(マージン)を確保することができることから、
株価を押し上げる要因として働きがちです。そもそも米国国内では、資本の蓄
積と人口の高齢化が進み、設備投資の期待収益率は低下しています。言い換
えれば、資本が絶対的にも、相対的にも(労働に対して)多くなっています。
足元のドル高は、米国の企業にとって見れば、海外の優良企業をより安価で
買収することができることを意味します。同時に、貿易赤字の拡大による中長
期的なドル安傾向に鑑みれば、米国企業にとって、海外企業の買収という投
資の期待収益率は、足元の(短期的な)ドル高と、中長期なドル安の差分だけ、
より高くなります。
Guide to the Markets-Japan 2015年第1四半期版40ページ
(弊社HPよりダウンロード頂けます)
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ドル高は恐れるに足らず
必ずしもドル高を恐れる必要はない
足元で嫌気されているドル高ですが、よくよく考えれば、必ずしもこれを恐れる
必要はないかもしれません。それは次の2つの点からです。すなわち、
1. ドル高が嫌気されるなら、金利は下がり、ドル高は抑制される
→ ドル高が実際に、先のマイナス要因をもたらし、景況感や株価を押し
下げる場合、これは金利の低下と整合的です。FRBも(今回のように)利
上げのペースを緩めることを明示し、ドル高圧力を抑制することができま
す。また、輸入物価の鈍化も利上げのペースダウンを許容するはずです。
2.. ドル高が許容されるならば、それは米国と世界経済の力強さを示唆する
→ 米国の景気がドル高にも関わらず、力強さを維持するならば、①イン
フレ圧力が高まり、②輸入と貿易赤字も拡大します。これらはいずれも、
ドル高を抑制する要因として作用します。また、先に述べたとおり、日欧
や中国、その他の新興国の輸出や景気は押し上げられているはずです。
言い換えると、前者は比較的低い成長と緩和的な金融環境が持続する状況、
後者は景気の過熱と続く利上げがやがて過熱を抑えるという状況です。いず
れにせよ、適切な金融政策とコミュニケーションが確保される限り、経済が持
つ本来のメカニズムがあるべき居場所に、経済自身を誘導すると見られます。
問題は景気の力強さであり、これが景気後退の大きさを決めることになります。
Guide to the Markets-Japan 2015年第1四半期版9ページ
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(弊社HPよりダウンロード頂けます)
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ドル高は恐れるに足らず
ただし、新興国は注意が必要
実際に利上げが始まり、利上げのペースが定まれば、市場のボラティリティ
(変動性の大きさ)は下がると見られます。これは、前回の利上げ局面(2004
年6月に利上げ開始)や、量的緩和による債券買い入れの縮小局面(2014年
1月から縮小開始)でも同様です。
しかしながら、目先は市場の動きが不安定になる可能性があり、警戒が必要
です。『いざ利上げ』が意識されると、市場参加者にとっては、別の参加者が自
分よりも先に利益の確定を行うことを懸念し、自分も同様の動きを取ろうとする
可能性があります。こうした動きが連鎖してリスク資産価格が下がると、最初
は利益の確定であったものが、やがては損切りに性質を変える恐れがありま
す。特に現在は、過剰な流動性によってリスク資産価格が押し上げられており、
言い換えれば、リスク資産価格には調整の余地があると考えられます。
特に、『利回り追求』の動きが世界に波及する中、新興国は引き続きキャリー・
トレードの投資先になっており、その一方で、資源価格の下落やインフレ率の
鈍化で利下げを行い、米国との金融政策の違いも鮮明であることから、比較
的大きな調整に見舞われる恐れもあります。
本資料は、JPモルガン・アセット・マネジメント株式会社が作成したものです。2015年3月19日時点におけるJPモルガン・アセット・マネジメントの見通しを含んでおり、
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