PVSEC-23 に参加して

特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 20
化,Mo 上に NaF 成膜).Cu-poor CIGSuf 膜(Cu/
(In
PVSEC-23 に参加して
+Ga)=0.8, Ga/(In+Ga)=0.11)を犠牲層上に 3 段
中
野
翔
平
Shohei NAKANO
電子情報学専攻修士課程
2年
階蒸着により作製した.次に吸収層を反転させるた
めにリフトオフ法を適用した.Mo 層を裏面電極と
して CIGSuf 膜上に堆積し,エポキシ接着剤を使用
して別の SLG 基板をその上部の Mo 層に接着し
1.はじめに
た.最後に,CIGSuf/犠牲層界面の剥離により元の
私は,2013 年の 10 月 29 日から 11 月 1 日の 4 日
基板から SLG/接着剤/Mo/CIGSuf 構造になるように
間,台湾の台北で開催された Photovoltaic Science
スタックを剥がした.その構造上に CdS のバッフ
and Engineering Conference 23(PVSEC-23)に参加
ァー層と i-ZnO/ZnO : Al 窓層を堆積することで太陽
しました.この学会で私は「Cu-poor Cu
(In, Ga)S2 so-
電池を作製した.電極を得るために,シャドウマス
lar cells prepared using lift-off process」という題目で
クを介して Ni/Al を蒸着した.
ポスター発表を行いました.
lift-off 法前の Cu-poor CIGSuf 膜を調べるために
斜入射 X 線回折(GIXRD)測定を行った.引き剥
2.研究背景
がし前後の CIGSuf 膜を走査型電子顕微鏡(SEM)
Cu( In, Ga)S(CIGSuf)固溶体は
Ga/In 比比率に
2
で観察し,波長分散形 X 線分光器(WDS)を用い
応じて 1.5 から 2.43 eV のバンドギャップを持つこ
て吸収体の組成を推定した.太陽電池特性を 25℃
とができる.そのため,タンデム構造のトップセル
でシミュレーションされたエアマス 1.5 照度で波長
に CIGSuf 吸収層を用いる.Cu-poor CIGSuf 吸収層
依存外部量子効率(EQE)と電流密度−電圧(J-V)
から高効率の太陽電池を得ることが困難であること
曲線を測定することによって調べた.
はよく知られている.その理由の一つは,n 型の Cu
(In, Ga)5S8 との二相の偏析であり,Cu/In 比がわず
4.結果および考察
かに 1 を超えるときでさえ存在するためである.第
GIXRD による lift-off 前 CIGSuf 薄膜の X 線入射
二の理由は,Cu-poor 膜が低キャリア密度であるた
角度に対する Cu( In, Ga)5S(440)
/CIGSuf(112)と
8
めである.3 段階同時蒸着による Cu-poor 膜は 2 段
CIGSuf
(204)/CIGSuf(112)強度比を図 1 に示す.X
階目で Cu-excess に 3 段階後で Cu-deficiency に達
する.したがって,ある程度まで膜の下の部分で
Cu-excess の有益な効果(単相,大きな粒径,高キ
ャリア密度)が保っていると考えられる.Cu-poor
膜の表面よりも裏面に接合を置くことによって良好
な太陽電池を達成することができると考えられる.
本研究では,3 段階蒸着法により Cu-poor CIGSuf
薄膜を作製し,lift-off 法を用いて太陽電池を作製
し,評価した.
Fig. 1
3.実験方法
Mo を成膜した soda lime glass(SLG)上に 3 種
類の犠牲層を用いた(1 : Mo の硫化,2 : Mo の酸
― S-7 ―
Cu(In, Ga)5S(440)
/CIGSuf( 112)and
8
CIGSuf(204)/CIGSuf(112)intensity ratio by GIXRD as a function of X-ray incidence angle of CIGSuf films(Cu/(In
+Ga)=0.80)before lift-off process.
線入射角度が大き く な る に つ れ て Cu( In, Ga)5S8
は亀裂が確認されておらず,引き剥がし前の表面よ
(440)/CIGSuf
(112)強度比が小さくなっていること
りも滑らかだった.表 1 に示すように引き剥がした
がわかった . こ の こ と か ら , 表 面 近 く で Cu( In,
CIGSuf 表面上から Mo 犠牲層によりわずかな Mo
Ga)5S8 の偏析を確認できた.GIXRD では,Cu/(In
が残っていた.
+Ga)=0.95∼0.98 の膜では Cu(In, Ga)5S8 のピーク
Cu( In, Ga)
5S8 の偏析があるにもかかわらず,効
は観察できなかったが,TEM では,Cu/(In+Ga)
果的に逆さまに吸収層を反転することによって,
<1.00 の膜で Cu(In, Ga)5S8 結晶を観察できた.
lift-off 法を用いて作製した Cu-poor CIGSuf 太陽電
SEM 像からすべての犠牲層の条件で CIGSuf 面
池の変換効率は 2.3%(Cu/(In+Ga)=0.95)を得ら
れた.
Table 1 Mo/(Cu+In+Ga+S+Mo)ratio of Cu
(In, Ga)S2 absorbers with three kinds of sacrificial
layer after lift-off process.
the sacrificial layer
Mo/
(Cu+In+Ga
+S+Mo)
[%]
lift-off 法を用いて作製した Cu-poor の波長による
EQE を図 2 に示す.EQE からバンドギャップが
1.71 eV 以上であり,全体の組成(1.6 eV)から予
想されるよりもはるかに高い.これは,3 段階蒸着
膜の Ga/
(In+Ga)の傾きから容易に説明できる.
nothing
0.36
Sulfurization of Mo
0.28
deposition of NaF(15 nm)on Mo
0.32
deposition of NaF(25 nm)on Mo
0.27
本研究では,lift-off 法を用いて 3 段階蒸着法によ
Oxidization of Mo
0.37
り Cu-poor Cu
(In, Ga)S2 薄膜を作製し,太陽電池を
5.結論
作製した.Cu( In, Ga)
5S8 の偏析があるにもかかわ
らず,効果的に逆さまに吸収層を反転することによ
って,lift-off 法を用いて作製した太陽電池の変換効
率は 2.3% を得られた.1.71 eV 以上のバンドギャ
ップは全体の組成(1.6 eV)から予想されるよりも
はるかに高かった.
6.おわりに
今回のポスターセッションは,初めての学会発表
であったため緊張していたものの大変良い経験にな
Fig. 2 Wavelength-dependent EQE of Cu-poor
3-stage Cu( In, Ga )S2 solar cell using lift-off
process. For comparison, the EQE of Cu-rich
and stoichiometry Cu(In, Ga)S2 solar cells(Ga/
(In+Ga)ratio is nearly equal)without lift-off
process(normal)
.
りました.この経験を今後の研究活動に活かしたい
と考えております.最後に,学会参加に際してご指
導賜りました海川龍治教授および研究室の方々に深
く御礼申し上げます.
― S-8 ―