付録1:前線形成関数の導出と解説

付録1 前線形成関数の導出と解説*
・前線形成関数の各項の計算式について
式(2.2.2)の前線形成関数の各項の計算式を以下に導出する。
d
d
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
ඨ
F ≡
ห∇ 𝜃ห =
൬ ൰ + ൬ ൰
dt ௣
dt
𝜕𝑥
𝜕𝑦
1
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
=
ቊ൬ ൰ + ൬ ൰ ቋ
2
𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
= ቊ൬ ൰ + ൬ ൰ ቋ
𝜕𝑥
𝜕𝑦
ି
ି
ଵ
ଶ
ଵ
ଶ
൬
d
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
ቊ൬ ൰ + ൬ ൰ ቋ
dt
𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝜃d 𝜕𝜃 𝜕𝜃d 𝜕𝜃
+
൰
𝜕𝑥dt 𝜕𝑥 𝜕𝑦dt 𝜕𝑦
𝜕𝜃 𝜕
𝜕
𝜕
𝜕 𝜕𝜃 𝜕𝜃 𝜕
𝜕
𝜕
𝜕 𝜕𝜃
൤൬ + 𝑢 + 𝑣 + 𝜔 ൰ ൨ +
൤൬ + 𝑢 + 𝑣 + 𝜔 ൰ ൨ൠ
𝜕𝑥 𝜕𝑡 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑝 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑡 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑝 𝜕𝑦
𝜃𝜕𝜕𝜃 𝜕𝜃𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃𝜕 𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕 𝜕𝜃
ିଵ 𝜕
= ห∇௣ 𝜃ห ൬
+
+𝑢
+𝑢
+𝑣
+𝑣
𝜕𝑥𝜕𝑡𝜕𝑥 𝜕𝑦𝜕𝑡𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑥𝜕𝑥
𝜕𝑦𝜕𝑥𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑦𝜕𝑥
𝜕𝑦𝜕𝑦𝜕𝑦
𝜕𝜃𝜕 𝜕𝜃
𝜕𝜃𝜕 𝜕𝜃
+𝜔
+𝜔
൰
𝜕𝑥𝜕𝑝𝜕𝑥
𝜕𝑦𝜕𝑝𝜕𝑦
ିଵ
= ห∇௣ 𝜃ห
ப஘
ここで、
ப୲
ିଵ
F = ห∇௣ 𝜃ห
൜
=
ୢ஘
ୢ୲
డ஘
డ஘
డ஘
−𝑢 −𝑣 −𝜔
డ௫
డ௬
డ௣
を使う。
𝜕𝜃𝜕 𝑑𝜃
𝜕θ
𝜕θ
𝜕θ
𝜕𝜃 𝜕 𝑑𝜃
𝜕θ
𝜕θ
𝜕θ
൬ −𝑢 −𝑣 −𝜔 ൰+
൬ −𝑢 −𝑣 −𝜔 ൰
𝜕𝑥𝜕𝑥 𝑑𝑡 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑝 𝜕𝑦𝜕𝑦 𝑑𝑡 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑝
𝜕𝜃𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕 𝜕𝜃
𝜕𝜃 𝜕𝜕𝜃
+𝑢
+𝑢
+𝑣
+𝑣
+𝜔
𝜕𝑥𝜕𝑥𝜕𝑥
𝜕𝑦𝜕𝑥𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑦𝜕𝑥
𝜕𝑦𝜕𝑦𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑝𝜕𝑥
𝜕𝜃 𝜕𝜕𝜃
+𝜔
൨
𝜕𝑦𝜕𝑝𝜕𝑦
൤
𝜕𝜃 𝜕𝑑𝜃 𝜕𝜃𝜕𝑑𝜃 𝜕𝑢 𝜕𝜃 ଶ 𝜕𝑣𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝜔𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝑢𝜕θ 𝜕𝜃
+
−
൬ ൰ −
−
−
𝜕𝑥𝜕𝑥𝑑𝑡 𝜕𝑦𝜕𝑡𝑑𝑡 𝜕𝑥 𝜕𝑥
𝜕𝑥𝜕𝑥𝜕𝑦 𝜕𝑥𝜕𝑥𝜕𝑝 𝜕𝑦𝜕𝑥𝜕𝑦
𝜕𝑣 𝜕θ ଶ 𝜕𝜔𝜕𝜃𝜕θ
−
൬ ൰ −
቉
𝜕𝑦 𝜕𝑦
𝜕𝑦𝜕𝑦𝜕𝑝
𝜕𝜃𝜕 𝑑𝜃 𝜕𝜃𝜕 𝑑𝜃
𝜕𝑢 𝜕𝜃 ଶ 𝜕𝑣 𝜕θ ଶ
𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝑢 𝜕𝑣
ିଵ
= ห∇௣ 𝜃ห ቊ൤
൬ ൰+
൬ ൰൨ − ቈ ൬ ൰ +
൬ ൰ ቉−൤
൬ + ൰൨
𝜕𝑥𝜕𝑥 𝑑𝑡 𝜕𝑦𝜕𝑡 𝑑𝑡
𝜕𝑥 𝜕𝑥
𝜕𝑦 𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑦 𝜕𝑦 𝜕𝑥
𝜕θ 𝜕𝜔𝜕𝜃 𝜕𝜔𝜕𝜃
−൤ ൬
+
൰൨ቋ
𝜕𝑝 𝜕𝑥𝜕𝑥 𝜕𝑦𝜕𝑦
ିଵ
= ห∇௣ 𝜃ห
ቈ
各項について、次の通り Fc(合流項)
、Fs(シアー項)
、Ft(立ち上がり項)
、Fd(非断熱項)を定義す
ると、F は式(2.2.2)のとおり、これらの和と等しくなる。
ିଵ
𝐹𝑐= −ห∇௣ 𝜃ห
𝜕𝑢 𝜕𝜃 ଶ 𝜕𝑣 𝜕θ ଶ
ቈ ൬ ൰ +
൬ ൰ ቉
𝜕𝑥 𝜕𝑥
𝜕𝑦 𝜕𝑦
*黒良 龍太(気象庁予報部予報課)
-141-
𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝑢 𝜕𝑣
൬ + ൰൨
𝜕𝑥𝜕𝑦 𝜕𝑦 𝜕𝑥
θ 𝜕𝜔𝜕𝜃 𝜕𝜔𝜕𝜃
ିଵ 𝜕
𝐹𝑡= −ห∇௣ 𝜃ห ൤ ൬
+
൰൨
𝜕𝑝 𝜕𝑥𝜕𝑥 𝜕𝑦𝜕𝑦
𝜃𝜕 𝑑𝜃 𝜕𝜃𝜕 𝑑𝜃
ିଵ 𝜕
𝐹𝑑= ห∇௣ 𝜃ห ൤
൬ ൰+
൬ ൰൨
𝜕𝑥𝜕𝑥 𝑑𝑡 𝜕𝑦𝜕𝑡 𝑑𝑡
ିଵ
𝐹𝑠= −ห∇௣ 𝜃ห
∴
൤
F = 𝐹𝑐+ 𝐹𝑠+ 𝐹𝑡+ 𝐹𝑑 (2.2.2)
・Petterssen frontogenesis の計算式(2.2.3)の解説
𝐹ு = 𝐹஼ + 𝐹
ௌ =
について説明する。
ଵ
ଶ
ห∇௣ 𝜃ห( 𝐸 cos 2𝛽 + 𝐶𝑜𝑛𝑣)
(2.2.3)
𝜕𝑢 𝜕𝜃 ଶ 𝜕𝑣 𝜕θ ଶ
𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝑢 𝜕𝑣
൬ ൰ +
൬ ൰ ቉+൤
൬ + ൰൨ቋ
𝜕𝑥 𝜕𝑥
𝜕𝑦 𝜕𝑦
𝜕𝑥𝜕𝑦 𝜕𝑦 𝜕𝑥
1 𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
1 𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
ିଵ
= −ห∇௣ 𝜃ห
ቊ ൬ + ൰ ቈ൬ ൰ + ൬ ൰ ቉ + ൬ − ൰ ቈ൬ ൰ − ൬ ൰ ቉
2 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥
2 𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑦
𝜕𝜃𝜕θ 𝜕𝑢 𝜕𝑣
+൤
൬ + ൰൨ቋ
𝜕𝑥𝜕𝑦 𝜕𝑦 𝜕𝑥
1
𝜕𝑢 𝜕𝑣
= − ห∇௣ 𝜃ห ൬ + ൰
2
𝜕𝑥 𝜕𝑦
ିଵ
𝐹ு = 𝐹𝑐+ 𝐹𝑠= −ห∇௣ 𝜃ห
ቊቈ
1
𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃𝜕θ
ିଵ
− ห∇௣ 𝜃ห
ቊ൬ − ൰ ቈ൬ ൰ − ൬ ൰ ቉ + 2 ൤൬ + ൰
൨ቋ
2
𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑥𝜕𝑦
この第一項は収束に関する項、第二項は変形に関する項である。ここで、第二項を FHd とする。
1
𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃𝜕θ
ିଵ
𝐹ுௗ = − ห∇௣ 𝜃ห
ቊ൬ − ൰ ቈ൬ ൰ − ൬ ൰ ቉ + 2 ൤൬ + ൰
൨ቋ
2
𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑥
𝜕𝑦
𝜕𝑦 𝜕𝑥 𝜕𝑥𝜕𝑦
式(2.2.3)への変形については、北畠(2005)を参照。なお、Conv と E は、次のとおりである。
𝐶𝑜𝑛𝑣= − ൬
𝜕𝑢 𝜕𝑣
+ ൰
𝜕𝑥 𝜕𝑦
𝜕𝑢 𝜕𝑣 ଶ
𝜕𝑢 𝜕𝑣 ଶ
𝐸= ඨ൬ − ൰ + ൬ + ൰
𝜕𝑥 𝜕𝑦
𝜕𝑦 𝜕𝑥
ここでは Petterssen frontogenesis の合流変形に関する項について、直感的に理解できる解説を行う。合
流変形場の効果を考察するため、収束発散が 0 となる点の近傍で合流変形となっている場合を考える。その
点を中心に xy 平面を𝜕𝜃⁄𝜕𝑥= 0となるように回転すると、FHd は次のように変形できる。
1
𝑢 𝜕𝑣 𝜕𝜃 ଶ
𝜕𝑢
ିଵ 𝜕
𝐹
ห ൬ − ൰ ൬ ൰ = ห∇௣ 𝜃ห
ுௗ = ห∇௣ 𝜃
2
𝜕𝑥 𝜕𝑦 𝜕𝑦
𝜕𝑥
この式から、FHd は、温位傾度と合流の強さの積であることがわかり、frontogenesis かどうかは𝜕𝑢⁄𝜕𝑥の
符号が正かどうかで判別できる。付録第 1.1 図に𝜕𝑢⁄𝜕𝑥が最大(正)
、0、最小(負)の合流変形の流れ、つ
-142-
まり合流変形場における FHd の正(Frontogenesis)
、0、負(Frontolysis)となる合流変形の場の模式図を
示す。
付録第 1.1 図 Petterssen frontogenesis の合流変形の効果
点線は等温位線、矢印は流れ、破線は変形の拡大軸を示す。
このことから、合流変形による frontogenesis は、付
録第 1.2 図の変形の拡大軸と等温位線のなす角(β)が
45 度より小さいかで判断できる。式(2.2.3)から FHd と
cos2βは比例することから、βが 30°の場合はβ=0 の
Frontogenesis の半分となる。
Petterssen frontogenesis
において、βが大きくなると合流変形の寄与は小さくな
り、収束発散の効果が相対的に大きくなる。
付録第 1.2 図 合流変形による frontogenesis の模式図
点線は等温位線、矢印は流れ、破線は変形の拡大軸を示
す。βが 0°以上 45°未満の場合に Frontogenesis とな
る。
参考文献
北畠尚子, 2005: 前線の考え方の過去と現在. 気象研究時報,57, 27-57.
-143-