6.機械要素の動向と課題③:シール技術 ―‌過酷な環境下での密封性と

特集 オピニオン!機械設計の課題と展望
6.機械要素の動向と課題③:シール技術
―‌過酷な環境下での密封性と低摩擦化を ‌
実現する
NOK 水田 裕賢*
*みずた ひろたか:技術本部 技術研究部 課長
はじめに
一方,非金属ガスケット(ゴム・エラストマー
製)は通常,低温・低圧用途として用いられるこ
とが多いが,燃料電池自動車(FCV)や水素ステー
自動車をはじめとする輸送機器,電力・エネル
ションの構成機器用の固定シール(O リングな
ギー関連機器,産業機器などで幅広く使用されて
ど )で は 耐 圧 要 求 が 70 MPa に 達 す る。 実 際 に
いる密封装置(シール)は,密封対象の漏洩防止
70 MPa 高圧水素ガス環境下にて実製品の耐久性
や異物の浸入防止による機器の寿命向上という観
評価などを行い,水素暴露条件下で発生する O リ
点で環境保全に直接的な関わりを持つが,動的シ
ングの破壊メカニズムや耐久性確保のために重要
ールは摩擦損失の低減による機械装置の省エネル
な設計因子が明らかになってきている2)。また,
ギーへの貢献という点においても重要性が高まっ
FCV の重要な構成機器である固体高分子型燃料
ている。また,近年発生している機械にまつわる
電池のスタックを構成するセパレーターとシール
さまざまな事故についても,シール技術も無関係
ではないと思われる。本稿では,個別の詳細につ
無機質紙またはマイカフィラー
いては割愛し,代表的なシールについて,最近の
研究動向から今後の課題や展望について述べる。
ガスケット
膨張黒鉛フィラー
固定シール(ガスケット)はその構成材の違い
(a)複合フィラーうず巻形ガスケット1)
により,金属ガスケット,セミメタリックガスケ
ット,非金属ガスケットの 3 つに大分類され,い
ずれも材料特性を考慮した改良が進められている。
セパレータ
金属およびセミメタリックガスケットは,両者
とも高温・高圧環境下での使用を想定して設計さ
れているが,さらなる高温化のニーズに応えるた
め,耐熱性を向上したシール材料の開発が進めら
ゴム(ガスケット)
れている。耐熱性を有する無機フィラー(無機質
紙,マイカ)で膨張黒鉛を保護することで,酸性
の高温雰囲気でも優れたシール性と長寿命化の両
(b)FCV燃料電池セル用シール3)
面を達成した製品(図 1 ⒜)が提案されている1)。
図 1 開発されたガスケットの事例
第 59 巻 第 4 号(2015 年 4 月号)
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