医療法人啓信会京都きづ川病院

医学フォーラム
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<病 院 だ よ り>
医療法人啓信会京都きづ川病院
院長
は
じ
め
中 川 雅 生
に
医療法人啓信会京都きづ川病院(以下当院)
は京都府南部の城陽市にあります.城陽市は京
都と奈良を結ぶ奈良街道のちょうど中間に位置
し,京から五里,平城(奈良)から五里にある
ことから「五里五里の里」と呼ばれてきました.
また,山城盆地を流れる木津川の水運を利用す
ることで古くから水陸の交通の要所として栄
え,市内には 4世紀頃の古墳群や古代史を彩っ
た人物にちなんだ地名が多く残されており,歴
史を肌で感じることができます.
城陽市は今から 50年くらい前(当時は久世郡
城陽町)に大阪,京都のベッドタウンとして発
展し,人口が急激に増加しました.しかし,人
口が 10万になろうとする城陽市内には住民の
健康を支え救急医療に対応できる医療機関がな
く,1980年に南山城地域(府医療計画地域 4市
3町)の急性期医療を担う病院として当院が開設
されました.現在は,急性期医療だけでなく,
地域の住民の高齢化に対応すべく回復期や慢性
期の医療とともに経営母体である医療法人啓信
会が運営する老人保健施設や介護施設も充実さ
せ,地域の中核病院として住民のニーズに合っ
た医療の提供を行っています.
沿
当院は 1980年 4月に初代理事長であった中野
進(故人)により地域の救急医療と小児医療を
担う医療機関として開院されました.当初は一
写真 1.病院外観(正面玄関)
〒610
‐0101京都府城陽市平川西六反26
‐1
革
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150
般病床 100床でしたが,1983年には 170床に増
床され,同時に「あゆみ館」という保育園も開
設いたしました.1985年に 185床に増床された
のを機に重症病室と小児専用病室各々 8床が開
設され,1989年には I
CUが設置されるなど急性
期医療機関として着実に発展し,開院当初の目
標であった救急医療と小児医療の基盤が固まり
ました.その後も増床を重ね,1996年の「京都
府保健医療計画」見直しに伴い 313床となって
います.社会の高齢化に伴い病床種別の変更が
なされ,2004年 4月の時点で一般病床 156床,
療養型病床 157床と一時は療養型病床の方が多
い状態でしたが,2006年 12月の再度の病床種
別の変更により,現在の一般病床 253床(急性
期病床 150床,回復期リハビリテーション病床
50床,障害者病床 53床)
,療養型病床 54床,
感染病床 6床となっています.
関連施設として 1999年 1月に老人保健施設
「萌木の村」が開設されたのをはじめ,2002年に
は「きづ川クリニック」が,そして 2014年 10
月には老人保健施設「ひしの里」が開設されま
した.これにより,城陽市を中心とした南山城
地域の急性期医療,回復期及び慢性期の在宅医
療,介護や福祉を支える環境が整えられまし
た.当院の理念である「献身と信頼」のとおり,
地域医療への献身と地域住民からの信頼を確固
たるものにすべく日々努力を続けています.
診 療 の 現 状
病院の組織は,病院長,顧問 2名と副院長 4
名のもとに,診療部,脳卒中・神経疾患セン
ター,看護部,医療技術部,健康管理センター,
医療情報部,事務部が設置されています.
診療部は,内科,循環器内科,消化器内科,
神経内科,放射線科,小児科,外科,肛門外科,
脳神経外科,整形外科,泌尿器科,皮膚科,麻
酔科,リウマチ科,リハビリテーション科で構
成され,常勤医師 39名が診療にあたっていま
す.これに非常勤医師 63名を加え,糖尿病,呼
吸器内科,血液内科,心療内科,耳鼻咽喉科,
救急センターの外来診療部門を設け,夜間や休
日には外科系,内科系,脳神経外科の 3名の当
直医を配置するとともにオンコールの医師を配
し,あらゆる疾患に対し救急診療ができる体制
を整えています.診療を支える医療スタッフと
して,看護師 232名,薬剤師 15名,放射線技師
11名,臨床検査技師 12名,ケアマネージャー
1名,ケアワーカー 58名,理学療法士 47名,
作業療法士 21名,言語聴覚士 8名,管理栄養士
5名,臨床工学技士 2名,医療ソーシャルワー
カー 4名,介護福祉士 2名とクラーク 21名を擁
し,それに事務職員 45名と保育士 6名,技術職
員等を合わせると総勢 610名の職員が勤務して
います.
設立当初の目標であった救急医療は,この数
年城陽市はじめ近隣の自治体から年間 3,
000件
を超える救急車の搬入を受け入れています.設
立当時のもう一つの目標であった小児医療は,
10年前に常勤小児科医の減少により縮小を余
儀なくされましたが,2014年から小児科医を増
員し,きづ川クリニックでの日常診療だけでな
く以前と同様に救急と入院診療も再開していま
す.さらに循環器及び腎臓の専門外来を設け,
より専門性の高い小児診療を行っています.
当院の急性期医療を支える内科,消化器内
科,循環器内科,脳神経外科,整形外科,泌尿
器科も年々着実に診療実績が伸びています.
2013年度に消化器内科では年間 8,
131件の消化
管内視鏡検査を行いました.また,頭部や胸腹
部の CT検査は年間 12,
000件,MRI
検査も 5,
500
件を超えていますし,心臓血管造影検査はカ
テーテル治療施行例を含め年間約 200件に及ん
でいます.手術件数も全身麻酔 839件を含む
1,
087件を数えています.主なものは脳動脈瘤
等の脳神経外科手術,交通外傷や股関節,膝関
節疾患に対する人工関節置換術等の整形外科手
術,癌に代表される消化管手術,前立腺や膀胱
がん等の泌尿器系手術に加え,最近は腹腔鏡下
での消化器系や泌尿器系手術の件数も増加して
きています.
リハビリテーション科は,啓信会グループ関
連施設を中心にした地域包括的な切れ目のない
リハビリテーション資源を提供しています.介
護施設での転倒予防をはじめとする予防的活
医学フォーラム
動,当院における急性期及び回復期リハビリ
テーション,介護老人保健施設及びデイサービ
スセンターにおける生活期リハビリテーショ
ン,そして在宅医療における通所リハビリテー
ションと訪問看護でのリハビリテーションを一
つの継続したプログラムで実施しています.
2011年にはロボットスーツ「HAL」を導入し,
すでに 70名以上で回復期・生活期リハビリテー
ションを行いました.
今後も急性期医療,回復期医療,そして在宅
医療の支援まで一貫した診療を提供していきた
いと考えています.
人材育成と教育
先述したように常勤医師 39名のうち,内科,
消化器内科,循環器内科,消化器外科,脳神経
外科,整形外科,泌尿器科,小児科,麻酔科,
皮膚科,救急医療,消化器がん,脳卒中,人間
ドックなど各領域の専門医が在籍しており,学
会認定施設として,また厚生労働省指定臨床研
修病院として大学から派遣いただく若い医師や
研修医の指導と教育にあたっています.現在,
新たな専門医制度が実施されようとしている
中,当院は大学等の中核病院を中心とした研修
あるいは修練指定施設の一つになるべく準備し
ています.また,各診療科での症例検討に加
151
え,医局の中で救急症例のカンファレンスを
行っていますが,これは若い医師が専門外の領
域の救急疾患を学ぶ機会になっていますし,実
際に救急当番日を割り当て,あらゆる疾患に対
する初期診療を実践の中で身につけてもらって
います.
医療の高度化や専門化に伴い,医師だけでな
く病院職員の知識と技術の習得が不可欠になっ
ています.現在感染管理認定看護師や医療安全
管理者等の専門職員を配置していますが,看護
師や薬剤師はじめ多くの職員に研修会や講習会
あるいは情報交換の場への参加を促し,資格の
取得や研鑽に努めているところです.
これまで京都府立医科大学の研修医及び医学
生,松下記念病院研修医の救急研修,京都大学
医学生の神経内科臨床実習をはじめ,毎年,救
急救命士の研修,看護学生,薬学生,作業療法
士や理学療法士等の医療技術系の学生など,院
内の様々な部門で実習生の受け入れを行ってき
ました.将来の医療を担う人材の育成のため,
今後も研修や実習,施設見学の受け入れを積極
的に行っていく所存です.
地域とのかかわりと貢献
開設当初から当院は地域に開かれた医療機関
を目指してきました.年に 2回の学術講演会の
写真 2.学術講演会
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写真 3.きづ川健康まつりで地元の高校合唱部によるコンサートを開催
開催や開放病床の設置はその一つです.特筆す
べきは当院で毎月開催されている「京都きづ川
病院消化器カンファレンス」で,開催回数は 290
回を数え,毎回近隣の病院やクリニックから多
くの先生方にご参加いただき,熱心に症例の検
討が行われています.また,毎年秋には「きづ
川健康まつり」を開催し,地域の方々に骨密度
の測定や血管年齢,脳年齢の測定等のサービス
を行うことで健康推進の啓発に向けた活動をし
ています.さらに今年度から新たに 2つの取り
組みを始めました.一つは城陽市や近隣の救急
隊との救急症例検討会です.搬入した救急隊員
と担当医が問題のあった症例や気になった症例
を討論することで,よりスムーズな救急医療体
制が構築されると期待されます.もう一つは健
康増進セミナーです.今までも定期的に糖尿病
教室を開催していたのですが,その他の生活習
慣病,たとえば高血圧,動脈硬化等が気になる
一般の方を対象に,栄養士が講演を行い,その
後に医師が質問にわかりやすく答えるという企
画です.普段気になっているが医療機関にかか
るのは,と思っていた方々には大変好評です.
今後もいろいろな企画を考え,地域貢献に努め
ていきたいと考えています.
将来に向けて
今まで述べてきたように当院は山城地域の中
核医療機関として,その時々の住民の要求や環
境に配慮した医療の提供と地域への貢献を行い
評価を得てきたと思います.しかし,この地域
を支える若者の姿は減りゆく一方で,近頃出さ
れた人口動態予測では山城地域は 2040年に生
産期にある女性の数が最も少なくなる地域にあ
げられています.2040年に生産期になる世代
は,今,まさに小児期を過ごしているこども達
です.この若い世代と若い世代に支えられる方
たちが「ずっとここで暮らしたい」と思うよう
な医療環境を提供し,住民の健康増進に貢献す
る医療機関となるようさらなる努力をしていく
所存でございます.今後とも何とぞよろしくご
指導・御鞭撻のほどお願い申し上げます.