1 - 地球環境戦略研究機関

持続可能な資源利用シンポジウム
-人々の福利向上と資源利用・環境影響削減の両立を目指して-
コクヨホール 多目的ホール、2015年3月11日
先進国による資源利用抑制の効果:
厚生水準と資源利用のデカップリングは可能か
小嶋公史 (発表者)
ポンサン・ブンディサクルチャイ
周新
アンビヤ・アブドラ
(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)
Institute for Global
Environmental Strategies
研究の背景:持続可能な資源利用とは?
成長のジレンマ
先進国が経験してきたような経済成長は、地球環境容量から考
えて持続可能ではない。
しかし経済成長からの脱却(脱成長)は金融システムや社会保
障制度の破綻につながり、社会システム、経済システムを不安
定にしてしまう。
先進国による持続可能な資源利用政策の役割
全世界の規範となりうるグリーン経済モデルへの転換
国際的な資源競合の緩和を通じた新興国・発展途上国の経済
発展に対する側面支援
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全世界の規範となりうるグリーン経済とは?
Contraction & Convergence & Catching-up
成長のジレンマ解決なしに世界的「Contraction」は衡平性に関し問題
新興国・途上国は、先進国が享受する「質の高い生活」に追いつく権利
地球環境容量内での「質の高い生活」実現(成長のジレンマ克服=グリー
ン経済)
新興国・途上国のキャッチアップ支援(グリーン経済の世界展開)
生活の質
一人あたり資源利用・環境影響
先進国
先進国
キャッチアップ
途上国
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キャッチ
アップ
途上国
時間
環境容量
時間
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資源競合緩和と新興国・途上国でのインフラ整備・経済成長
社会の金属蓄積量(一人あたり蓄積量)
1人当たり蓄積量
(先進国)
1人当たり蓄積量
(途上国)
アルミニウム(kg)
350–500
35
銅(kg)
140–300
30–40
鉄(kg)
7000–14000
2000
鉛(kg)
20–150
1–4
ステンレス鋼(kg)
80–180
15
亜鉛(kg)
80–200
20–40
金属種類(蓄積量単位)
出典:UNEP (2010) Metal Stocks in Society より筆者加工
先進国の資源利用水準を下げることにより、新興国・途上国がキャッチアップ
を容易にし、限られた資源をより多く新興国・途上国の利用に回すこととなる。
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研究の概要
研究仮説:持続可能な資源利用政策により、厚生水準(生活の質)向
上と資源利用削減の両立が可能となる。
政策手段としては、天然資源税、スクラップリサイクル促進補助金を
想定。
分析ツールとして、すべての産業部門間の連関や、他国との連関を
扱うことのできる世界経済モデル(多地域応用一般均衡モデルと産業
連関表の連携モデル)を開発。このツールを用いて持続可能な資源
利用政策の影響を評価。政策影響は、政策シナリオにより、政策を入
れないBAU(なりゆき)シナリオから各指標がどれだけ変化するかで
評価。
対象資源として、経済的に重要な循環資源であり、かつ経済モデル
に必要なデータが入手可能であることから鉄(および銅)に着目。広
汎な対象資源候補の中の代表的事例という位置づけ。
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研究手法(分析ツール)の概要
政策による影響を応用一般均衡(CGE)モデルで推計し、その結果を用いて産業連関
表を更新し鉄鉱石フットプリント・カーボンフットプリントを推計。
世界データベース(GTAPデータベース)をもとに、鉄関連部門(鉄鉱石、銑鉄、転炉鋼、
電炉鋼、鉄スクラップリサイクル)の細分化を実施。
再生資源(鉄スクラップ)による天然資源(鉄鉱石)代替の可能性反映(CGEモデル)
自動車部門など高級鋼の使用比率が比較的高い部門については、代替弾力性(代
替のしやすさ)を低めに設定。建設部門などは高めに設定。
逐次動学モデル:基準年(2004年)から2020年まで1年刻みでシミュレーション実施。
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政策影響評価指標と政策含意
一人当たり等価変分(単位:ドル/人)
厚生水準への政策影響(政策への支払意思額に相当)
鉄鉱石国内使用量(単位:千トン)
資源利用抑制政策のターゲット指標
先進国の資源利用抑制が新興国・途上国での資源供給に与える影響の指標
鉄鉱石フットプリント(単位:千トン)
鉄鉱石国内使用量に対応する消費に伴うライフサイクル環境影響指標
CO2直接排出量(単位:百万トン)
環境持続可能性への政策影響指標
カーボンフットプリント(単位:百万トン)
CO2直接排出量に対応する消費に伴うライフサイクル環境影響指標
実質GDP(単位:百万ドル、基準年固定)
新興国・発展途上国における貧困削減と相関する経済発展指標
先進国については社会経済システムの安定性指標
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政策シナリオ
日本一国グリーン経済シナリオ:
日本のみ政策導入
上流側天然資源税(シナリオ1):鉄鉱石の中間投入に対し天然資源税を課税。
下流側天然資源税(シナリオ2):1つ下流側である銑鉄(主原料は鉄鉱石)の中間
投入に対し天然資源税を課税。
上流側天然資源税+リサイクル補助金(シナリオ3 ):鉄鉱石の中間投入に対し天
然資源税を課税、鉄スクラップリサイクル財の中間投入に対し負の消費税に相当
する補助金(補助金率20%に設定)を導入。
天然資源税率は、評価期間(2015年-2020年)累計で国内鉄鉱石利用量を5%
削減(対BAU比)するように設定。2015年導入、以降税率一定。
持続可能な開発シナリオ:
先進国・地域による政策導入
先進国・地域(OECD加盟国を念頭に、日本、豪州、韓国、米国、EU、チリの6カ
国・地域)が上流側天然資源税+リサイクル補助金(シナリオ3に相当)を導入。
天然資源税率は、評価期間(2015年-2020年)累計で6か国・地域合計の国内
鉄鉱石利用量を5%削減(対BAU比)するように設定(各国・地域同一税率)。
8
日本一国グリーン経済シナリオ:国内への影響
日本国内政策影響(評価期間合計)
シナリオ1
(税率推計結
果:127%)
シナリオ2
(税率推計結
果:20.5%)
-101.4
-106.8
10.9
-0.0053
-0.0098
-0.0023
-48.7
-51.9
-15.1
-3.4
-1.0
0.3
銑鉄生産量への影響 [%]
-2.79
-5.08
-4.93
転炉鋼生産量への影響 [%]
-0.97
-1.91
-0.05
電炉鋼生産量への影響 [%]
-0.01
-0.03
0.63
一人あたり等価変分 [2004年USD/人]
実質GDPへの影響 [%]
CO2直接排出量への影響 [100万t]
カーボンフットプリントへの影響 [100万t]
シナリオ3
(税率推計結
果:30.0%)
出典:シミュレーション結果
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日本一国グリーン経済シナリオ:国外への波及効果
一人あたり
等価変分
(評価期間合計)
(USD/人)
20
0
-20
-40
-60
-80
-100
-120
シナリオ1
シナリオ2
シナリオ3
(%)
シナリオ1
シナリオ2
シナリオ3
0.005
0.000
-0.005
実質GDP変化
(評価期間合計)
-0.010
-0.015
-0.020
-0.025
出典:シミュレーション結果
10
日本一国グリーン経済シナリオ:国外への波及効果(2)
CO2排出量変化(評価期間合計)
(Mt-CO2)
20
0
-20
シナリオ1
シナリオ2
シナリオ3
-40
-60
出典:シミュレーション結果
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持続可能な開発シナリオ:厚生水準-資源利用デカップリング
(USD/人)
200
150
一人あたり
等価変分
(評価期間合計)
税率推計結果:
54.0%
100
50
0
-50
-100
(1000t)
鉄鉱石
使用量変化
(評価期間合計)
鉄鉱石直接使用量
40,000
20,000
0
-20,000
-40,000
-60,000
-80,000
-100,000
-120,000
-140,000
-160,000
-180,000
出典:シミュレーション結果
鉄鉱石フットプリント
 先進国・地域
合計で175百
万トン削減
 それ以外の地
域で
13百万トン増
加
12
持続可能な開発シナリオ:実質GDP、CO2排出量への影響
実質GDP変化
(評価期間合計)
(%)
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
-0.01
-0.02
(Mt-CO2)
CO2排出量変化
(評価期間合計)
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
直接排出量
出典:シミュレーション結果
カーボンフットプリント
13
持続可能な開発シナリオ:製鉄・鉄鋼部門への影響
製鉄・鉄鋼部門生産量変化(評価期間合計)
(%)
4.0
銑鉄
転炉鋼
電炉鋼
2.0
0.0
-2.0
-4.0
-6.0
-8.0
-10.0
-12.0
出典:シミュレーション結果
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持続可能な開発シナリオ:対策導入が1年遅れるコスト
対策導入が1年遅れることによる影響(評価期間合計)
国・地域
日本
中国
オーストラリア
韓国
インドネシア
マレーシア
インド
米国
ブラジル
EU
チリ
その他原油・ガス主要輸出国
その他地域
世界合計
一人あたり等価
変分の差
[2004年USD/人]
15.2
1.0
11.4
7.4
0.3
0.4
0.2
3.1
4.5
8.1
13.1
1.8
0.6
1.7
対策遅れによる
実質GDP損失
[百万2004年USD]
-325
-651
57
-95
-26
-23
-19
-256
-22
-993
32
126
-499
-2,694
税率推計結果:
73.0%(2015年
導入の場合
54.0%)
出典:シミュレーション結果
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持続可能な開発シナリオ:対策導入が1年遅れる影響
対策導入が1年遅れることによる影響(一人あたり等価変分)
(USD/人)
(USD/人)
50
JPN
50
40
40
CHN
2016年政策導入
AUS
KOR
30
30
20
20
10
10
0
IDN
MYS
IND
USA
BRA
EUC
0
CHL
-10
-20
2014
-10
EOG
ROW
2015
2016
2017
2018
2019
2020
-20
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
World
出典:シミュレーション結果
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結論:厚生水準と資源利用のデカップリングは可能か
先進国が同時に資源デカップリング政策を導入するシナリオ(持続可能な開発
シナリオ)では、オーストラリア(鉄鉱石主要輸出国)以外の国・地域で厚生水準
が改善、世界全体でも改善。鉄鉱石使用量は世界的に削減、ただし政策導入
国以外の合計としては増加。
⇒ 厚生水準と資源利用の強いデカップリングの可能性を示唆。
⇒ 資源競合緩和による新興国・途上国の経済発展側面支援の可能性を示唆。
日本一国が政策を導入する事例では、上流側課税では税率が高くなるが、厚生お
よび実質GDPへの負の影響が下流側課税よりも緩和される結果となった。鉄スク
ラップリサイクル促進策との組み合わせでは厚生水準が改善する結果となった。
持続可能な開発シナリオで対策導入が1年遅れた場合、資源利用削減目標を達
成するために高い資源税率が必要となり、実質GDPは世界全体で下がるが(対策
導入遅れの経済コスト)、一方で厚生水準は上がる結果となった。
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結論:環境政策への貢献および今後の課題
すでに欧州で検討が始まっている資源利用抑制あるいは強いデカップリングを目
指す政策につき、定量的な裏付けを提供するツールとして、応用一般均衡モデル
と産業連関モデルによるライフサイクル全体での資源利用、環境影響評価を組み
合わせた評価ツールを開発した。
日本が単独で資源利用抑制を図る場合の政策含意に加え、先進国が資源利用
抑制を図ることで世界的な持続可能な開発を目指した場合の政策含意を提示す
るなど、将来的な国際環境政策を検討する上で有用な知見が得られた。
本研究では、政策により誘発される技術開発による資源効率改善を反映していな
い。また、厚生水準に対する環境改善の影響などについても考慮していない。厚
生水準-資源利用デカップリングについて控え目な推計となっている。
資源利用抑制の必要性についての合意形成なしには、天然資源税などの政策導
入の実現可能性は低い。このような合意形成を進めるために、定量的政策分析を
駆使し、将来のヴィジョンを提示し議論を深めることが重要である。
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ご清聴ありがとうございました。
[email protected]
http://www.iges.or.jp
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