2015 年度 公益財団法人アフィニス文化財団 オーケストラ助成 アフィニス エンブレム 選考理由 「アフィニス エンブレム」として選出された 2015 年度の 9 件につきまして、委員会の 総意として以下の選考理由がまとめられました。各委員が執筆を担当し、広報にも活用して いただけるようコメントを作成しています。 札幌交響楽団 第 579 回定期演奏会~ポンマー首席指揮者就任記念~ バロックから現代音楽までこなすドイツの隠れた巨匠、マックス・ポンマーが日本のオー ケストラのシェフになる日が来るとは! 札幌交響楽団の慧眼に敬意を表するとともに、 北海道の聴衆に心からの祝福を贈りたい。今年、開基 1000 年を祝うライプツィヒ市出身の ポンマーが札響首席指揮者の就任披露に選んだのは、同市出身の偉大な作曲家、シューマン とメンデルスゾーンの祝祭的な作品。札響にとって、記念すべき演奏会になるだろう。 (岩野 裕一) 山形交響楽団 第 246 回定期演奏会 「日本でいちばん面白いオーケストラはどこですか?」と聞かれたら、私は迷わず「山形 交響楽団です!」と答えることにしている。飯森範親音楽監督と小編成を活かしたモーツァ ルトの全交響曲演奏に取り組む中で、モチベーションの高い楽団員たちが自発的にバロッ ク的な奏法を習得。その努力は、古典派のスペシャリスト鈴木秀美との出会いによって大き く花開いたのだ。メンデルスゾーンとベートーヴェンの名作2曲で勝負するこの定期公演、 地元だけでなく全国の音楽ファンに聴いてほしい。 (岩野 裕一) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 第 288 回定期演奏会≪高関健 常任指揮者就任披露演奏会≫ 現在活躍する邦人指揮者のなかで、高関健は、間違いなくごく少数のトップクラスに属す。 楽譜に対する学究的姿勢。それにもとづく作品の精緻な読み。その読みを現実の音にしてゆ く手管。どれをとっても最高級だ。そんな彼が、このたび東京シティ・フィルハーモニック 管弦楽団の新しい常任指揮者に就いた。同団の新たな黄金期が到来するであろう。就任披露 で演奏されるスメタナの「わが祖国」は、オーケストラのいわば基礎体力が問われる作品。 鮮やかな船出を期待している。 (舩木 篤也) 東京フィルハーモニー交響楽団 第 862 回オーチャード定期演奏会、第 863 回サントリー定期シリーズ、第 93 回東京オペラ シティ定期シリーズ 「ペール・ギュント」はイプセンの劇とグリーグの音楽が時に溶けあい、時にぶつかりな がら、人間の不思議な本質を追求している。一見、分かりにくい登場人物の行動も、音楽が 理解を助けてくれる。全曲を朗読付きで聴いて、初めて納得できる作品だろう。しかしその 機会は滅多に無い。用意周到なプレトニョフが、舞台作品に精通する東フィルや新国立劇場 合唱団を指揮するこの公演こそ、数少ないチャンスだ。 (梅津 時比古) 日本フィルハーモニー交響楽団 第 670 回東京定期演奏会 作曲家たちに新作オーケストラ作品創作の機会を与え、日本の音楽界に大きな刺激を与 えてきた「日本フィル・シリーズ」 。名だたる作曲家のほとんどがその恩恵に預かっている。 画期的かつ野心的なこのシリーズからは、稔り豊かな作品が数多く登場したが、生を受けた 作品たちにもういちど活力を与えるのが再演である。手にした宝物をさらに磨き上げる演 奏会で、その宝物は以前には知られなかった、思わぬ輝き、光沢をさらに得ることだろう。 (長木 誠司) 大阪交響楽団 第 194 回、198 回定期演奏会≪自然・人生・愛~マーラーとそのライヴァルたち③④≫ 昨年度に続くマーラーとその周辺を特集した寺岡清高によるこのシリーズは、選曲がき わめてよく考えられている。今年度の2公演も演奏機会の少ない曲を多く取り入れた意欲 的なもので、ドヴォルザーク晩年の互いに繋がりを持った一連の交響詩をまとめたプログ ラムと、マーラーの様々な側面に光を当てたプログラムをとおして、マーラーの生きた時代 を浮かび上がらせようという企画性を高く評価したい。常に真摯なアプローチを示す寺岡 の演奏もおおいに期待できる。 (寺西 基之) 大阪フィルハーモニー交響楽団 第 489 回定期演奏会 たんなる芸人ではなく実質を伴った仕事人としての指揮者が、昔はもっといたはずだが ――そうお嘆きの向きをも「これだ!」と唸らせる指揮者。2008 年より大阪フィルハーモ ニー交響楽団と共演を重ねてきたラドミル・エリシュカは、そんな一人だ。彼の棒のもと、 音楽はきっちりと、かつ若々しく躍動する。ドヴォルザークのヨハネ受難曲ともいうべき 「スターバト・マーテル」は、このチェコの巨匠にとって特に大切な楽曲という。声楽も加 わり、新たな成果が期待できそうだ。 (舩木 篤也) 広島交響楽団 ディスカバリー・シリーズ〈シベリウス生誕 150 周年シンフォニー全曲シリーズ〉 特定のテーマに基づいた広響のディスカバリー・シリーズだが、今年度はシベリウス生誕 150 年に因み、彼の交響曲全曲を取り上げるところがチャレンジングである。シベリウス作 品に特有の緻密な構築性、澄明さ、幻想的な詩情を表現するのはなかなか難しいが、ここ数 年の秋山&広響のコンビのきわめて中身の濃い充実した演奏からみて、理想的なシベリウ スを聴かせてくれることが期待できよう。交響曲以外の珍しい曲をいくつか組み合わせて いる点も意欲的である。 (寺西 基之) 九州交響楽団 第 342 回定期演奏会 広島の3日後にあたる8月9日、長崎にも原爆が投下された。当然ながら我々は永遠に、 この事実を忘れることはできない。シュニトケのオラトリオ「長崎」は、この悲劇を描いた 数少ない作品である。この重厚な作品の横に、生涯にわたってあの大戦を描き続けた三善晃 の「夏の散乱」と「焉歌・波摘み」が並べられ、これらを遠く俯瞰するようにバッハの「お お人よ、汝の大いなる罪を嘆け」が置かれている。戦後 70 年にふさわしい意欲的なプログ ラムとしてこの演奏会をアフィニス・エンブレムに推奨した。 (沼野 雄司)
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