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特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する
高速連帳インクジェット技術
Compact and Lightweight Inkjet Continuous Feed
Printers Delivering High Speed
要
旨
印刷業界においてはデジタル化による仕事の革新、
【キーワード】
インクジェット、連帳印刷、高速乾燥、RIPコン
すなわち刷版が不要、バリアブル出力、オンデマンド
トローラー、水性インク、オンデマンド出版
印刷による在庫の削減、が急激に進められている。こ
のデジタル印刷市場は成長を続けており特に連続帳
票印刷においては、カラー、高速、低ランコストが求
められ、一方、画質に対する要求が高くないためイン
クジェット技術が好適である。富士ゼロックスは本市
場に集約型高速コンパクト設計をコンセプトとする
2800ICCFPS(200m/分)と分散型低コスト設計
をコンセプトとする1400ICCFPS(100m/分)を
導入した。共通する主要構成を1)機械本体(紙送り
と乾燥)、2)プリントヘッド、3)インク、インク供
給およびメンテナンス、4)コントローラーに分類し、
それぞれ要求される特性と採用されている実現手段
を説明した。また、今後のインクジェット技術の進展
について、インク噴射に関する高速限界、水性インク
の乾燥技術、印刷市場への拡張性について議論した。
Abstract
【Keywords】
inkjet, continuous feed printing, high-speed
drying,
RIP
controller,
water-based
ink,
on-demand publishing
執筆者
森田
直己(Naoki Morita)
研究技術開発本部 マーキング技術研究所
(Marking Technology Laboratory, Research & Technology
Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
Digitization has revolutionized workflows in the
printing industry by allowing variable-data and
on-demand printing. For continuous feed printers,
there is demand for color, high speed, low running
cost, and medium print quality, and as a result inkjet
technology is considered to be especially suitable. Fuji
Xerox has introduced two continuous feed printers:
the 2800 ICCFPS, which prints 200 meters per minute
with a consolidated, compact design prioritizing high
speed, and the 1400 ICCFPS, which prints 100
meters per minute with a distributed, lightweight
design prioritizing cost reduction. This paper explains
the technologies used in both, classifying their
structures into four groups: 1) paper feeding/drying, 2)
printheads, 3) inks and ink handling/maintenance, and
4) controllers. This paper then explains the required
characteristics of each of these and the technologies
used to deliver them, as well as describing advances
in inkjet technology, discussing the speed limits of
jetting, technology for drying water based ink, and
expansion into the printing market.
1
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
3,000万円以上のカラー機
1. はじめに
1,000万円以上のカラー機
(億円)
従来の印刷市場の縮小には、活字離れ、電子
1,000万円未満のカラー機
12,000
画像への置き換えなどによる単純な減少とは異
なる「デジタル化の急激な進展」による市場の
変化が影響している。ここで印刷のデジタル化
5,000万円以上のカラー機
10,000
8,000
とは、印刷原理に関することと印刷業態に関す
ることに分類される。
印刷原理について、従来デジタル化をけん引
6,000
4,000
してきた電子写真技術はスピードとコストの観
点で、印字部数が少ない白黒の“Trans-action”
(文字を中心とする明細書等の白黒帳票)にそ
の応用が限られてきた。これに対しインク
2,000
0
(当社推定)
2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016
図1
ジェット技術は、ヘッド数を増やすという簡易
デジタル印刷市場の成長
The growth of the digital printing market
な高速化と廉価インクを用いたランコストの削
減を実現し、オフセット印刷の後刷りをはじめ、
Transaction領域に進出を果たし、さらにカ
ラー化、高画質化、用紙汎用性の拡大により、
“Trans-promotion”(文字に加え広告写真を
追加)あるいはパンフレットなどの商業印刷、
(a)2800 ICCFPS
オフセット前刷り印刷、小ロットの書籍や雑誌
印刷へ進出しオフセット印刷物を幅広く代替し
ようとしている。
続いて印刷業態におけるデジタル化とは、バ
リアブル技術とオンデマンド技術の進展であり、
Direct Mailにおいてはお客様一人ひとりへの
(b)1400 ICCFPS
図2
印刷装置の正面外観
Front view of printing devices
個別対応、出版においては多品種、小ロットへ
の対応と在庫の削減を実現した。さらにオフ
分 の 印 刷 速 度 を 有 す る 1400 Inkjet Color
セット印刷機をデジタル印刷機に置きかえるこ
Continuous Feed Printing System(以下、
とで、刷版自体が不要となり、かつ画質調整の
1400ICCFPS)を、また2014年に次世代コ
ためのプレプリント工程を大幅に削減し、しか
ントローラーを市場導入した。本稿では本装置
も機器の設置スペースと人件費を削減するとい
を構成する採用技術について解説し、将来動向
う仕事の変革も得られるため、印刷会社からの
について議論する。
デジタル化への期待は非常に高まっている。
図1はデジタル印刷市場が高成長を続けてい
ることを示し1)特に装置価格が5,000万円以上
2. 印刷装置の構成
のカラー連帳機は、年平均23%の成長が見込ま
図 3 ( a ) は 2800ICCFPS 、 図 3 ( b ) は
れることが、飽和状態にあるオフィス、ホーム
1400ICCFPSの内部構成を示す。Unwinder
市場と比べて魅力的である。富士ゼロックスは
から送り出された用紙は、各搬送ロールに張架
2011年に図2(a)に示す600dpiで200m/
され、まずヘッド部に搬送され印字が行われる。
分(A4換算で2624 ppm相当)の印刷速度を
続いてヒーター部を通過しインク乾燥を行い、
有する2800 Inkjet Color Continuous Feed
チラー部に搬送される。ここで用紙は裏面印字
Printing System(以下、2800ICCFPS)を、
部での昇温を防止するため冷却され、続いて裏
2013年に図2(b)に示す600dpiで100m/
面印字が行われ、裏面乾燥が行われたあと、
2
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
がある。一方で薄い紙はインクの受容量が小さ
Printhead
(front side)
いことにより、裏抜けなどの問題が発生する場
合がある。もちろん、ここでは、ヘッドに接触
するほど厚い紙、マシンの中で切れてしまうほ
ど強度が弱い紙は使用を前提としていない。
Dryer
(front side)
Chiller
(front side)
(a)2800
ICCFPS
また、近年、国内では個別情報を掲載し2つ
あるいは3つ折りにした個人あてのはがきの需
要が高まっている。はがき用紙には丸穴、ミシ
ン目などが存在し、かつ、圧着のためののりが
Printhead
(front side)
先に塗布されている。そのため、高速搬送に対
しては用紙強度が不足する場合があり、かつ、
Dryer
(front side)
Chiller
(front side)
のりとインクの相互作用により圧着を行ったと
きに、対面側に画像がオフセットする場合があ
る。これらに対しても上記項目の調整による最
適化は可能である。
(b)1400
ICCFPS
図3
印刷タワーの正面構造
Front View of the printing tower
2.1.2
印字部の構成
図3(a)に示される装置構成において
Rewinderに巻き取られる。本装置は次の主と
2800ICCFPSは1タワー内に2つの印字機構、
なる4つの要素、すなわち、1)機械本体(紙送
すなわち両面印字機構をコンパクトに組み込ん
りと乾燥)、2)プリントヘッド、3)インク、
でいるのが特徴である。その結果、装置の設置
インク供給およびメンテナンス、4)コントロー
面積は19m2でありスピードに対する面積とし
ラーで構成され以下、それぞれの技術内容につ
ては世界最小を実現している。なお、
いて述べる。
2800ICCFPSはあとに述べるヘッド構造に基
づき、100m/分の装置として、まずユーザー
2.1
機械本体(紙送りと乾燥)
先で稼働を開始し、様子を見ながら200m/分
各国、各ユーザーの事情により使う用紙はさ
の装置にグレードアップすることを選定できる
まざまであり、ユーザーは用紙に合わせて、以
ため、市場において2800ICCFPSを100m/分
下の項目を調整し、最適動作を選択する。
の装置として利用しているユーザーは存在する。
z 印字スピード
一方、図3(b)に示す1400ICCFPSは、1
z 画像濃度
タワーに1つの印字機構を備えており、両面を
z 乾燥条件
印字するためには、ターンバーで印字面を反転
させて2タワーで両面印字を行う構成となって
2.1.1
用紙の種類
いる。これはタワーの小型軽量化を優先した結
推奨するロール用紙は、連量55から135kg
果であり、その結果、装置コストを低下させる
まで(坪量64から157gsmに相当)であり以
とともに、2800ICCFPSを設置できない耐荷
下に示す。
重500kg/m2以下のスペース、あるいは、エ
z 上質普通紙:日本製紙社NPiフォーム®
レベータに搭載して上層階に運搬し設置するこ
z IJ 専 用 紙 : 日 本 製 紙 社 NPi フ ォ ー ム
とを可能にしている。また、両面印字が不要で
NEXT-IJ
z IJ専用紙:王子製紙社IJWファンタス
あるユーザーには1タワーのみ提供することも
可能である。
ここで、厚い紙は紙自体の熱容量が大きいた
め、乾燥のための加熱が不十分となり、乾燥不
足によるオフセットなどの問題が発生する場合
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
3
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
2.1.3
乾燥装置の構成
表1
本装置において印字後の乾燥工程は重要であ
る。ホーム用途のインクジェットプリンターは
印字速度が遅いため、特に乾燥装置を必要とせ
高速乾燥用ドラム(2800)と赤外線ヒーター(1400)の
比較
A comparison of the systems used for high-speed drying:
the drum (2800) and the infrared heater (1400).
Machine
drying structure
2800
Heated drum / hot air
1400
Infrared exposure
ず自然乾燥が行われている。が、高速の本装置
では、水分の強制乾燥を行わないと以下の問題
Configuration
が発生する。
z シワ(crease)
水が浸透すると紙は膨潤するためシワが発生
しヘッドをこする。加熱により白部(非印字
部)は収縮すること、紙送りには一定のテン
ションがかかっていることがシワの発生を助
Size (mm)
Print speed (m/min)
Drying period (s)
Heating method
Paper thickness
Start up speed
Heater numbers
dia. 700
200
0.6
direct touch
affect
fair (large mass)
36
700 x 400
100
1.2
indirect
less affect
faster
6 → 9
長する。ヘッドこすりはプリント品質の低下
だけではなく、ヘッド故障を招くため重要問
の熱容量の影響が小さいことなどが挙げられる
題である。そのため、ヘッド紙間距離(Throw
が、一方で赤外線ヒーターを高温で動作させる
Distance)を長くする対策が考えられるが、
ため安全確保が重要となる。表1はそれぞれの
その分、印字品質(ジェット方向性)は低下
乾燥方式の比較を示す。なお1400ICCFPSに
する。
おいて当初ヒーターは6本で市場導入されたが
z 転写(offset)
未乾燥インクが搬送ロールや巻き取り用紙へ
乾燥能力向上のため、現在は9本まで増強されて
いる。
転写(オフセット)する。搬送ロールに堆積
したインク成分は、後に用紙面に脱落し黒点
2.2
プリントヘッド
などの問題となって現れる場合がある。ここ
2.2.1
印字Barの構成
でオフセットは用紙への鉛直方向の負荷によ
用紙全幅を1パスで印字するBarは、ノズルを
り発生する。また同様の現象に用紙に対して
マトリックス状に集積した4インチの印字幅を
水平方向の負荷を与えた場合に発生するこす
有するピエゾオンデマンド型プリントヘッドを
れ(スマッジ)がありこちらは色材によって、
5個千鳥状に配置し構成される。このプリント
すなわち染料と顔料では状況が異なるため
ヘッドの基本仕様を以下に示す。
各々のインクで確認が必要である。
z 解像度:600dpi
図3(a)にはヘッドの下部に直径700mmの
z 印字周波数:40kHz(1波長25マイクロ
ドラム型ヒーターが示され、用紙はドラムに接
秒以内)
触開始した後、印字速度200m/分の場合、約
z インク滴量:3値(5、8、11pl)
0.6秒の乾燥時間が与えられる。乾燥には用紙
本仕様で得られる印字速度は100m/分で
の裏面から接触する本ドラムとさらに用紙の印
あり、したがって200m/分を得るために2本
字面側に加熱空気の送風機が用意されており、
のBarを用いている。また2800ICCFPSには5
こ れ ら の 温 度 は 約 100℃ ま で の 範 囲 で ユ ー
色めのBarを設置することが可能であり、たと
ザーが調整可能である。
えば磁性インクMICR、あるいは画質向上のた
また図3(b)に示す1400ICCFPSにおいて
めの処理液 2) を印字することが可能である。
は乾燥装置として赤外線非接触ヒーターを採用
2800ICCFPSにおいて印字速度200m/分の
している。赤外線を用いたのは小型軽量化の一
場合、搭載されるBarの数は
環であり、印字後、用紙は乾燥BOXの中に設置
2Bar/色×4色×2(両面)=16Bar
した赤外線ヒーターの前を3回通過することに
であり、1Barにはプリントヘッドは5個搭載さ
より約1.2秒間、乾燥が行われる。赤外線ヒー
れるので全部でプリントヘッドは80個搭載さ
ターの利点は温度の上昇速度が速いこと、用紙
れている。1400ICCFPSは4色単列であるため、
4
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クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
両面印刷の場合、8Barが搭載されヘッド数は
形情報が内蔵される本方式においては、インク
40個であり、これらは個別交換できることが1
が異なればヘッドも異なる扱いとなる。一般に
つの特徴である。1本のBarをヘッドと一体で提
噴射挙動はインクの静的表面張力、粘度からお
供する方式と比べると、本構成では設置時に調
おむね説明できるが、以下に示す評価項目を含
整が必要となるヘッド数は多いが、一方で機械
めるとインク種類ごとに微調整が要求される場
設置後のヘッド交換が容易であることにメリッ
合が多い。
トがある。ヘッドは寿命あるいは故障等により
駆動波形が寄与する噴射特性としては、サテ
いずれ交換する必要がある。そのとき、一体型
ライト特性、周波数特性が挙げられる。ジェッ
のBarは重量があり容積も大きいため作業が難
ト噴流であるインク滴は主滴とその後続滴のサ
しく、Barの1部であるヘッドを交換する場合に
テライトに分離するのが一般的であるが、この
は工場に戻して組み付け調整などを行う必要が
サテライトが大きく、あるいは遅くなると紙面
あるが、本方式では1ヘッド単位ごとに現地に
上の線が2重に割れるという問題が発生する。
て交換が可能である。ここでプリントヘッドお
また、プリントヘッドという剛体に超音波を印
よびBarにおける調整項目は以下が挙げられる。
加すると定在波が起きてジェット間クロストー
z 機械的位置調整
クが発生し、印字サンプルにスジムラが現れる
z ピエゾ駆動電圧調整
場合がある。本装置は40kHzで100m/分の
1Bar 内 の 5 ヘ ッ ド の つ な ぎ 目 を 合 わ せ て
速度に相当することは先に述べたが、ユーザー
ヘッド間スジを低減すること、5ヘッドの電圧
の選択によりスピードは自由に設定でき、たと
を調整し濃度を合わせて濃度ムラを低減するこ
えば75m/分、あるいは50m/分の速度で印
と、さらに2800ICCFPSにおいては2Bar間の
字するときは、それぞれ駆動周波数は30、
タイミング調整が重要である。1本めのBarで1
20kHzとなる。この周波数変化に対し、噴射状
ドットおきに印字を行い、すなわち用紙搬送方
態が変化しないことが波形設計に求められる。
向には300dpiの印字を行い2本めのBarでそ
なお、本装置の滴量は3値であることは先に
の 間 を 埋 め て い く こ と で 紙 面 上 、
述べたが、ノーマルモードでは中滴(8pl)以
600×600dpiを実現している。この2Bar構成
下となるように設定されている。これは、イン
にはインクジェットの本質的課題である目詰ま
ク消費量を抑制し、ランコストを低減させると
りに対して、1つ副次的な効果がある。すなわ
ともに、用紙上のインクが過多とならず、乾燥
ち、1ラインを2ノズルで印字するため、片方の
不足を発生させないよう配慮した結果である。
ノズルが目詰まりしてもスジが目立ちにくいと
さらに、インク乾燥を助けるため、後述するコ
いう特徴を有している。
ントローラー側でインクの打ち込み量制限を
行っている。ユーザーの選択により大滴をベー
2.2.2
ピエゾ駆動波形の設計
ジェットを噴射するためのピエゾ駆動波形は、
スとする、あるいは小滴のみとすることは可能
であるが、大滴では乾燥に関する確認、小滴で
滴サイズを可変、すなわち本方式では3値とす
は濃度に関する確認が必要となる場合があり、
るため3種の波形が用意される。滴サイズを所
調整項目となる。
望の滴量に合わせるとともに、滴速度をできる
だけ均一にする必要があり、滴速差が存在する
2.3
と、トーンが変化するとき、つまり小から中滴
に、中から大滴に切り替わるときにトーンジャ
ンプと呼ばれるスジが発生する場合がある。
2.3.1
インク、インク供給およびメンテナ
ンス
インク
インクは水性の染料、顔料インクが用意され
また、後述するインクに応じて波形を最適化
ており、ユーザーが選択する。大量に消費する
する必要がある。同じ目標滴量であってもイン
連帳印刷においては、染料インクは低コストで
クが異なれば、駆動波形もインク種に合わせて
あることが求められるが、耐水、耐光性は当然
変更する必要があり、したがって、ヘッドに波
劣る。ただし染料は用紙への浸透性が高いため、
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
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特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
オフセットの問題は発生しにくい。一方、顔料
2.3.3
メンテナンス
インクは特にカラー色材が高価である一方、耐
装置が長期に放置された場合に発生する水分
水、耐光性に優れているが、顔料成分が用紙の
蒸発によるインクの高粘度化、あるいは先に述
表面にとどまりやすいためオフセットなどの問
べたヘッド内への気泡混入、さらには紙粉など
題が発生し、さらに顔料は基本的に固体である
がノズルの周辺に付着することにより、ヘッド
ため長期の液体安定性も課題となる。
のメンテナンスが必要となる。本装置はインク
したがって帳票印刷において、環境に対する
供給系から圧力を印加し、インクと共に高粘度
保存性を優先する場合は顔料インクを、コスト
化したインクおよび気泡をヘッドからの押し出
を優先する場合は染料インクを用いるのが一般
すこと、ヘッド表面を機械的にブレード材でワ
的である。特殊な例として先に述べたはがきに
イピングしノズル周辺の高粘度インクあるいは
おいては、郵送のことを考慮し雨(耐水性)を
ゴミ、異物を取り除く、という2系統の連携動
懸念する場合は顔料を、のりによる画像のオフ
作によりメンテナンスを行っている。ここで、
セットを懸念する場合は染料を用いるのが好ま
インクによる圧力洗浄はインクを捨てることに
しい。また用紙差が存在するので、オフセット
なるため、極力消費量を抑制する方策が取られ
しにくいはがき用紙を選定することも可能であ
ている。また先に述べた長期放置があらかじめ
る。さらには、これら特性に合わせた用途を両
発生することが予測される場合は、インクを
立するために、黒染料インクと黒顔料インクの
ヘッド充填液に置換することを推奨している。
双方を本装置に搭載することも可能である。
また水性インクにとって不可避である水分蒸発
本装置においては、高速乾燥が重要であるこ
は画質の維持にとって重要である。図4は顔料
とはすでに述べた。インクを高速に乾燥させる
インクの放置時間に対する蒸発特性を示し、水
ためには、まずは用紙に高速に浸透する性質を
性インクは1秒程度の短期間で蒸発により噴射
組成設計においてインクに持たせる必要がある。
特性が変化する3), 4)ことが示される。すなわち、
ただし、色材が用紙内部に浸透しやすくなると、
数秒放置しただけで、ノズル部のインクが高粘
色材量の割に画像濃度が低くなるというトレー
度化し、そのまま噴射信号を送ると、ドットの
ドオフが発生する。
位置ずれ、飛び散りなどが発生する。そのための
蒸発への対応策は以下の2つが必要となる。
2.3.2
インク供給
z 目詰まり維持性の確保
数秒以下の蒸発に対応する。ほかのノズルを
インク供給系はインクをヘッドに供給すると
ともに以下の動作を行っている。
印字動作中に、印字機会がないため高粘度化
z インクの脱気
しているノズルから、インク噴射(除去)を
インク中の溶存空気はヘッド内において気泡
意図的に行い、印字時には適正粘度のインク
となった場合に、目詰まりを引き起こし、白
を噴射することを確保する。この印字に供し
スジの原因となる。
12
一定とし、一定のピエゾ振動に対して、滴量、
滴速度を含む噴射状態を一定に保つ。
z インク背圧の安定化
静水圧を適正な負の値に保ち、ノズルからの
インクの漏れ出しなどが発生しないよう維持
し、かつ最高40kHzの噴射周波数に対する流
体応答性を安定に保つ。
6
Drop Speed
インク温度を適正に保つことでインク粘度を
[m/s]
z インク温度の安定化
10
8
6
pL
5pl
4
pL
7pl
pL
10.5pl
2
pL
14.5pl
0
0.1
図4
1
10
Non-jetting time [sec]
100
滴量の相違に基づくノズルからの水分蒸発による
ジェット速度の低下
Degradation of jetting speed due to evaporation of
water from the nozzle for different droplet volumes
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クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
ないダミージェットとも呼ばれるインク滴の
Variable Prints
行き先は紙面上である。本装置においては、
(1)紙面上へランダムに(Star drop)、
(2)
用紙の区切り部(裁断され破棄される場所)
へ集中的に(Line drop)
、の2通りをユーザー
健康保険審査
結果報告書
が選択する方式を採用している。なお(1)
終身医療
保険ガイド
COOPお届け
明細
において紙面上のダミージェットによるドッ
トは見えない程度であること、
(2)において
インク集中による紙強度の低下は許容範囲で
お買い上げ
明細
あることが確認されている。
個人成績表
(教育関連)
クレジットカード
利用明細
z 目詰まり回復性の確保
数分から数時間の蒸発に対応する。装置休止
状態、あるいはロール紙を交換する作業時間
図5
インクジェット連帳印刷機における可変サンプルの例
Examples of variable-data documents printed
on the ICCFPS devices
などに発生する水分蒸発に対し、ダミー
ジェットをメンテナンスポジションにて噴射
することで回復させる。もしダミージェット
のみで回復しない場合は、先に述べたインク
圧力印加を用いたメンテナンスが必要となり、
インクを消費するため、極力少ないダミー
ジェット数で回復することが望ましい。
上記、蒸発に基づく目詰まりの維持性と回復
性は一律に求められるものではなく、双方の性
能が相反する場合がある。すなわち、短期で蒸
発しやすい(維持性が劣る)インクであっても、
回復性は優れている(少ないダミージェットで
図6
回復する)場合もあり、重要なインク組成の設
RIPから印刷実行するときの手順説明図
An overview of the flow of RIP (raster image
processor) and print processing
計項目である。
処理を実現する第2世代コントローラーを市場
2.4
コントローラー
導入した。図7は本コントローラーが高速を特
図5は本装置の提供するバリアブルプリント
徴とする連帳用コントローラーと高画質を特徴
の例、図6は高速データ処理の概念図を示す。
とするカット紙機用コントローラーの両者の長
2800/1400ICCFPSにおいて提供する第1世
所を併せ持ち、しかも低コスト化を実現した次
代コントローラー(LPF)は生産効率を上げ大
世代向けコントローラーであることを模式的に
*1
処
示す。低速から高速まで同一ハードウェアと基
理を開始すると同時に出力を開始できる
本ソフト構成にて、幅広く接続することが可能
On-the-flyプリントを実現している。さらに
であり、現在、1400ICCFPSおよびVersantTM
データ形式としては、PDF、PostScript®など
2100 Press(電子写真方式100ppm)に搭載
の汎用データまで幅広く対応している。また
され順次、他機種への展開を図っている段階で
2014 年 6 月 に は 独 自 の 描 画 処 理 技 術
ある。
量、短納期のジョブを高速で行うため、RIP
(RunObject/DRP)を用い高速描画と高画質
*1
RIP:Raster Image Processor、DTPで作ったPDFデー
®
タやPostScript を出力のためにプリント、イメージセッ
タの出力解像度に合わせてビットマップデータに変換す
る処理。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
7
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
LPF
GSVR
(Continuous feed
printer)
(Cut-sheet printer)
Worse
次世代コントローラー
Better
1400 ICCFPS
VersantTM 2100 Press
Printing Direction
→
↓
Other Products
図7
2.4.1
次世代コントローラーの画像処理概念図
A conceptual diagram of image processing on the
next-generation controller
インクジェットの画質設計5)
Printing
Direction
表2は、本装置において留意すべき画質設計
項目を示す。インクジェットの1つの特徴は、
Worse
図8
縦線と横線の形成方法が異なることである。す
なわち、用紙の搬送方向と平行に1ドット線を
形成するときは、1ジェットの連続噴射により
線が構成されるため安定しているが、直行方向
Better
ノズル並び方向と紙送り方向の相違が印字品質に
与える影響
(a)文字
(b)バーコード
The impact of differing nozzle array and paper
feeding directions on print quality
(a) Characters
(b) Barcodes
では異なるジェットで構成されるため、方向性
バラツキがノイズとして作用し、その結果、用
2.4.2
カラーマネジメント
紙の縦横方向で画質が異なる場合が存在する。
図9は色変換のフローを、表3は入力画像の
図8(a)は文字における縦線と横線の線幅比が
ソースプロファイルを示す。カラーマネジメン
大きく異なり文字品位に影響を与えている例、
トは、CMYKではT01、EU、USの色空間に知
図8(b)において、バーコードはいずれも横線
覚・彩度・相対・絶対の色再現のインテント、
で構成されており、ノズル並び方向のエッジが
RGBではsRGBの色空間に、標準・写真・プレ
不均一でギザツキが発生している悪い例と、良
ゼンテーションの色再現のインテントが用意さ
い例を比較して示す。特にバーコードが解読で
れている。またユーザーTRCではCMYKの階調
きないことは帳票プリンターにとっては問題と
特性を調整することが可能である。
なるが、縦横の差に加え、インクジェットは元々
にじむという特性を有しているためバーコード
Source
Profile
は白のコントラストを確保することで解読可能
とする設計を行っている。
Input
Data
Source
Profile
Device
Profile
Color Resource
Management
User TRC
表2
連帳印刷における主な画質評価項目
The main print quality evaluation items for continuous
feed printing
Major items
Details
Basic performance
density, color reproducibility, show through
graininess
line quality
inter color bleed
Print defect
density unevenness
white/black streak
System quality
text quality
bar code quality
8
TRC
Screen
Output Data
図9
Color Resource
Color Resource
Processing
カラー画像処理のための2800 ICCFPSに
おけるデータフロー
The flow of data for color image processing
in the 2800 ICCFPS controller
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
表3
各画像入力に対して用意されている選択的カラーモード
Color modes selectable for input images
CMYK
RGB
Intent
Perceptual
Saturation
Relative Colormetric
Absolute Colormetric
Color space
Normal/Photo/Presentation
度が存在し、インクが乾かなければ乾燥機の際
限ない巨大化が必要となる。市場を見る限り、
T01 (Japan)
現時点でdrupa2012にて株式会社ミヤコシか
US (U.S.A.)
ら発表された320m/分が実証レベルの高い
EU (Europe)
インクジェットの最高速であると考えている。
sRGB
またソフトウェアとしては画像処理を含むデー
タ転送速度が重要な因子であり、これらの高速
化には相当のコストアップが見込まれ、また、
接続する後処理機、裁断機や紙折り機の速度と
印字部のバランスと取ることも必要であるなど
が高速化のハードルとなると考えている。
インクを噴射するヘッドにおいては、インク
のリフィル限界とピエゾ振動子を作動する駆動
波形が決定因子となると考えられるが、ここで
電気回路による信号生成の制約を除くと、我々
の実験では160kHz程度までは噴射可能と考
えている。この条件では6マイクロ秒以内にピ
エゾ駆動を完了し、1種類のインク滴を印字に
図10 1400 ICCFPSのユーザーインターフェイス
The user interface of the 1400 ICCFPS
用いる2値プリンターとして、印字速度は1Bar
ならば400m/分、2Barならば800m/分ま
で可能性があることになる。
本装置はカラーリソースの作成機能を用意し
ところでインクジェットの本質である直接
ており、ユーザー指定のソースプロファイルを
(非接触)印字はインクが空中を飛翔し紙に到
用いて用紙ごとに、あるいは表裏印字それぞれ
達することで実現されている。このとき、高速
に、異なるカラーリソースを適用することも可
の用紙搬送に伴い発生する風圧が強ければイン
能である。なお、カラーリソース作成用のパッ
ク滴は紙面に到達することができなくなると予
チとして当社PX-Serverシリーズに適用され
想される。そこで、オフラインの高速印字用実
ているColorProfileMakerProの1584パッチ
験ベンチを構築し実験6)を試みた。
をあらかじめ内蔵している。その他の画質設計
図11は5plのインク滴の用紙速度に対する紙
の項目として、スクリーン、ハーフトーン、す
面上のドットずれを示す。用紙速度200m/分
5)
じむらの扱いなどが挙げられる 。
までは2800ICCFPS、それ以上が実験ベンチ
による測定結果である。高速化に伴いインク滴
2.4.3
ユーザーインターフェイス
60
60
フェイスを示す。操作性に優れたタッチパネル
を用い、プリンターの状態、ジョブの状態、プ
リンターの管理などが直感的に把握できるため、
操作効率の最大化を実現している。
3. インクジェット技術の進展について
Relative Displacement[μm]
図10は1400ICCFPSのユーザーインター
Drop Target Velocity: 10m/s
Drop Target Velocity: 10m/s
ThrowDistance:
Distance:
1.0mm
Throw
1.0mm
50
50
40
40
30
30
20
20
2800ICCFPS
10
10
Hi-speed bench
bench
0
0
00
3.1
インクジェットにおける高速化の限界
インクジェットの高速化には、当然さまざま
な要素が寄与する。機械的には紙送りに限界速
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
200
200
400
600
400
600
Paper Speed [m/min]
800
800
1000
1000
図11 ドットの位置ずれの用紙搬送速度の依存性
The dependence of dot displacement on
paper speed
9
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
Relative Displacement [μm]
Inkjethead
300
Total
Couette flow
Paper motion
250
200
t1
150
t2
Paper Paper speed
Inkjet head
100
50
Throw
Distance
0
50
0
200
400
600
Couette Flow
droplet
800 1000
Paper
Paper Speed [m/min]
Paper speed
図12 ドット位置ずれへの風と滴速度バラツキの影響
The effects of air flow and droplet speed unevenness on dot displacement
50
のずれ量は、不連続曲線を描くことを予想した
ことが示された。続いてこの実験結果を元に用
紙搬送により発生する風(Couette Flow)
、イ
ンク滴速、滴量などの寄与を検討したところ、
図12に示す2plのインク滴において、インク滴
100%
30
Amount of Water [%]
すなわち本スピードにおいても印字可能である
0%
40
が、実験範囲の820m/分までほぼ直線に従い、
200%
20
10
0
-10
速度の寄与が最も大きいことが示された。すな
-20
わち、風でインク滴が押し流される影響よりも、
-30
インク滴速度のバラツキによる着弾時間差に基
-40
0
づく用紙の移動量の寄与が10倍以上大きいと
いう予想外の結果である。よって高速化のため
50
100
150
Print Speed [m/m]
200
250
(a)印字乾燥後の用紙における水分残留量
The amount of moisture remaining on and inside paper
after printing and drying
の指針としては、滴速度の均一化が最も重要で
0.2
あることが示された。
0.1
水性インクの乾燥技術に関する検討
図13(a)は、2800ICCFPSを用い、印字
速度と各印字率に対する乾燥後の用紙に含まれ
る水分量の測定結果を示す。ここでは、印字率
が200%の場合に乾燥前の用紙に含まれる総
0.0
Cockle [mm / 120mm]
3.2
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
水分量を100%とし、乾燥前の白紙を0%とし
-0.6
ている。図中、水分量が0%以下であるプロッ
-0.7
トは、用紙自体が元々含有していた水分が除去
-0.8
されたことを表す。印字速度の増加に伴い、特
に印字率が高い場合、水分が用紙に残留するこ
とが示された。続いて図13(b)は同様の条件
0%
100%
200%
0
50
100
150
Print Speed [m/m]
200
25
(b)インク浸透と乾燥による用紙の変形
Paper deformation due to ink penetration and drying
において紙の膨潤量(Cockle)を測定した結果
図13 乾燥性能の印刷速度依存性
The dependence of drying performance
on printing speed
10
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
を示す。速度150m/分以上において高濃度と
1.60
低濃度の印字パターンが混在するときには、紙
1.50
ワが発生しうることが示唆される。
ところで乾燥方式の違いについて表1に示し
たが、1400ICCFPSにおいて採用された赤外
線ヒーターはインクのみを効率よく加熱できる
ため、シワなどの問題に対しては有利である。
Optical Density [-]
の膨潤と収縮が混在することを示しており、シ
1.40
1.30
1.20
1.10
一方、用紙がじかにヒーターに接触する
1.00
2800ICCFPSのドラム方式も伝達効率の観点
0.90
では優れており現時点ではどちらの加熱方式が
優れているとは判断しがたい。
さらにインクと用紙のインタラクションを把握
するという視点から、用紙の変形に寄与するイ
IJ Paper
Plain Paper
0
1
2
3
Exposed Energy [x10 4 J/m 2]
4
図15 レーザー照射による印字部の光学濃度の変化
Changes in the optical density of a solid printed
patch due to laser exposure
ンクの浸透ははどの程度の速度を有するか検討
る方式7), 8)を検討した。印字後、極めて短時間
を行った。図14は本装置で用いているインクの
で乾燥を行うことは、乾燥の問題だけではなく
用紙への浸透速度を用紙種、印字パターンごと
副次的にインクジェットの長年の課題である、
に測定した結果を示す。浸透速度は用紙種に
にじみの抑制にも効果があると予想される。
よって異なること、また孤立印字ドットから1
図15は印字して20ミリ秒後にレーザーを
ライン、複数ラインとインクの浸透方向が拘束
20ミリ秒照射した結果、高速乾燥が可能である
されるに従って、インクの浸透速度は遅くなる
とともに、レーザー照射エネルギーに応じて、
が、それでも100ミリ秒オーダーで浸透は完了
普通紙ではOD値が1.05から1.2まで、IJ紙では
することが示された。一方、現在のドラムヒー
1.25から1.50まで増加しその後低下すること
ターと赤外線ヒーターによる乾燥は終了までに
が示された。これはインクの用紙中への浸透を
1秒程度を必要としている。したがって乾燥効率
抑制し、色材が表面にとどまった結果である。
を向上すれば高速化は可能であると考えられる。
ここで濃度が低下したプリントサンプルにおい
そこで強力な乾燥エネルギーを有するレー
て、紙の焦げらしきものが観察されているが低
ザーダイオードを用いインクのみを直接加熱す
下の原因は定かではない。
図16はレーザーを照射した場合の印字サン
プルを通常の印字サンプルと比較して示し、
250
Penetration Time [ms]
200
IJ Paper
レーザー照射により、文字の白抜き部分がクリ
Plain Paper
アに見えるようになり、さらに、
(好ましいこと
ではないが)スジも見えやすくなることが示さ
れ、にじみを抑制できることが実証された。レー
150
ザー照射の今後の課題としては、装置コスト、
100
50
0
Dot
1 Line
5 Lines
10 Lines
Print Pattern on Paper [-]
図14 インクジェット用紙と普通紙におけるインク浸透速度
Ink penetration speeds for inkjet and plain paper
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
No Exposure
1.5 × 104 J/m2
図16 レーザー照射による画質の変化の観察
Observation of changes in image quality due to
laser exposure
11
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
20
表される微浸透紙、PETに代表される非浸透メ
18
Xerox Corporation
with Impica Inc.(2013)
ディアを用いていることである。そして、印刷
(2011)
市場は成長している(図1)ため本市場へのデジ
IJCF Supplier numbers
16
Fuji Xerox Co., Ltd.
14
12
タル印刷機の投入は非常に魅力的に感じられる。
Canon Inc. with Oce Holding B.V. (2010)
10
しかしながら、水性インクジェット技術をこ
Ricoh Co., Ltd.
with InfoPrint
Solutions Company (2007)
8
6
Company L.P.
Dainippon Screen Mfg.
Co., Ltd. (2005)
4
2
2003
2005
(2008)
クジェット本来の印字原理が用紙への浸透であ
Eastman Kodak Company
Miyakoshi Printing Machinery Co., Ltd.
0
れらのメディアに適用させることは、水性イン
Hewlett -Packard Development
2007
(2003)
(2003)
るため困難である。具体的には定着不良と用紙
2009
2011
2013
2015
Year
図17 連帳印刷市場へのメーカーの参入状況(2013年時点)
The number of continuous feed printer manufacturers
in the market (as of 2013)
上でのドットの移動(着弾干渉)という大きな
安全性、インクへの赤外感応性の付与などが挙
る解決は簡単ではない。そこで油性UVインク
げられるが、オンデマンド照射による省エネル
の採用が考えられるが、今後の環境、安全動向
ギー化を含めて実現したいと考えている。
を予想すると最終解決案にはなりにくい。
課題がある。この課題に対し、インクの高機能
化と補助システムの構築という改善型活動によ
浸透しないことに関わる問題を克服できたと
3.3
インクジェットの機能向上による印
刷市場への進出について
しても、商業印刷市場では帳票印刷と比較する
図17は年々増加するインクジェット連帳機
必要がある。そのため写真出力の用途で用いた
の参入メーカーの2013年時点における数を示
マルチパスに代表される、簡易な高画質化技術
し、新規参入が活発であり、すでにオフィス市
に匹敵する手段を見つけない限り、スジの問題
場と同様の過当競争の状態を呈していることが
からインクジェットは逃れることができない。
示される。また図18は印刷市場において、イン
さらにはラベル・パッケージ印刷においてはコ
クジェットが参入できる可能性がある分野を示
スト、および特に食品の安全性に関する要求は
し、現在の帳票市場からDirect Mail、Book、
極めて厳しく参入障壁は高いと予測される。
と極めて高い画質が要求されることに留意する
9)
図18に示す電子写真技術の範疇に属する液
今後の期待される広がり先はカタログなどの商
体現像(Liquid Immerse Development: LID)
業印刷分野、ラベル・パッケージ分野であり、
が画質上では現時点で最も可能性があり、した
それぞれの特徴は用紙として印刷コート紙に代
がってまだまだインクジェットと電子写真の攻
Newspaperへ拡張しつつあることが示される 。
Marketing Communication
Marketing
Collateral
Application
Application
Examples
Substrates
LID
CF
Med
Mid
/High
/Super
High
Speed,
Brochure Trans
Booklet Promo
(thin)
•Coated paper
•Light weight paper
(60gsm - )
•Heavier paper
•Lightly coated paper
Expand
DX
IJ
High
Catalogue
Expand
Content Communication
Direct Mail
TransPromo
•Coated
paper
•Lightweight
paper
(40gsm - )
•Plain
paper
•Envelope
Book
Label, Package/Sign
Photo
Newspa- Photo
Book
Magazi- per
/Event Book
Photo
/Manual ne
newspa- /Novelties
per
Billing
DM
•Light
weight
paper
(40gsm - )
•Plain
paper
•Envelope
•Postcards •Light
•Envelope weight
paper(40gs
Coated
m -)
paper
* For body
•Heavier
paper
•Light
paper
(40gsm -)
•Coated
paper
•Slightly
coated
paper
Electro-Photography
Inkjet
Newspa
per
•News
•Heavier
print paper paper
(40gsm - )
Package
Label
Food
(confecti
onery)
Toiletries Label
/Medici- Seal
ne
/Kleenex
•Photogra Paper
phic paper board
(White
cardboard,
Manila
cardboard)
•Woodfree paper
•Coated
paper
•Synthetic
paper
•Film
•Adhesive
paper
Soft
Package
Sign
Outdoor
advertising
Film
package Indoor
advertisi
ng
Poster
•LDPE
•HDPE
•PP
•PET
•Film
•Synthetic
paper
•Adhesive
paper
•Plastics
(PVC, PET,
etc.)
Expand
Expand
Primary
Secondary
Catalogue
図18 印刷市場の分類と適合する技術について
Different sectors of the printing market and
suitable technologies
12
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
防は続くと考えている。今後、インクジェット
技術側としては、印刷市場への拡張を謳いつつ、
7. 参考文献
真に必要である技術開発を見極め、ブレークス
1) J. Hamilton: “Continuous-feed Inkjet, The
ルーを虎視眈々と模索しながら、研究開発を継
Next Level of Production Digital Print
続していきたいと考えている。
Productivity”, Infotrends, (2012).
2) T. Doi and K. Hashimoto: “Novel Aqueous
Ink Jet Technology Realizing High Image
4. おわりに
Quality and High Print Speed”, Journal of
当社の高速インクジェット連帳機
(2800/1400ICCFPS)について解説した。
また、インクジェット技術の将来について検討
Imaging Society and Technology, Vol.52,
No.6, pp.1-6, (2008).
3) S. Hirakata, M. Okuda, H. Nakamura, T.
を行った。サーマルインクジェットを中心にイ
Ishiyama,
ンクジェット技術は21世紀初頭に、ホーム、
“Improvement of Jetting Reliability Against
フォト、ワイドフォーマット市場の要求をほぼ
Ink Viscosity Increase by Installation of an
完全に満たし、飽和し停滞した。その後、ピエ
Ink Circulation Path”, Proc. of Pan-Pacific
ゾインクジェットを中心に産業用途への展開が
Imaging
盛んに検討されたが伸長は少なく、そして現在
(2008).
は3D市場と呼ばれる用途への展開が話題に
S.
Seto,
Conference
N.
’08,
Morita:
pp.200-203,
4) N. Morita, S. Hirakata, T. Hamazaki: “Study
なっている。これらに対し印刷市場への進出は
on
新たな本格的展開であり、今後インクジェット
Droplets and Nozzle Clogging”, Journal of
にとって、おそらく電子写真にとっても新たな
the Imaging Society of Japan, Vol.49, No.1,
成長の糧となるだろう。1990年代のインク
pp.14-19, (2010).
ジェット業界における熱気を帯びた活気ある開
Vibration
Behavior
of
Jetted
Ink
5) 清水透: “2800 Inkjet Color Continuous
Feed Printing System-高速インクジェッ
発競争の再来を期待したい。
トが新たな市場を切り拓く-”, 2011年度
第4回日本画像学会技術研究会, (2012).
5. 商標について
6) 小野吉彦, 平潟進, 磯崎準, 森田直己: “高速
z Nipフォームは、日本製紙社の登録商標です。
連帳インクジェットにおけるインク滴着弾
z PostScript
Systems
挙 動 に 基 づ く 速 度 限 界 の 検 討 ”, 富 士 ゼ
Incorporated(アドビ システムズ社)の商
ロ ッ ク ス テ ク ニ カ ル レ ポ ー ト No.23,
標です。
pp.105-112, (2014).
は
、
Adobe
z Versantは、米国ゼロックス社の登録商標ま
たは商標です。
z その他の商品名、会社名は、一般に各社の商
号、登録商標または商標です。
7) 森田直己, 沼田学, 坂本朗, 小笠原康裕, 畠
中真実, 本杉友佳里: “高速インクジェット
へのレーザー乾燥の適用とインク浸透観
察 ”,
Imaging
Conference
Japan,
pp.137-140, (2013).
6. 出典
8) M. Numata, A. Sakamoto, Y. Ogasawara,
M. Hatanaka, Y. Motosugi, N. Morita:
本 論 文 は 日 本 画 像 学 会 誌 第 52 巻 第 5 号 、
“Drying Technology Using Laser Exposure
pp.423-432 (2013)に掲載された「高速イン
for High-Speed Inkjet Printing”, Proc. of
クジェット技術を用いた連帳印刷機
NIP29: 29th International Conference on
“2800/1400ICCFPS”」に最新情報を追加
Digital Printing Technologies, Society for
し、大幅に加筆し修正したものである。
Imaging
Science
and
Technology,
pp.292-297,(2013).
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015
13
特集
クラス最小および軽量ボディーを実現する高速連帳インクジェット技術
9) T.
Mihara:
“Grow
your
Business
by
Expanding your Target Market with Color
IJ”, China Print, (2013).
筆者紹介
森田
直己
研究技術開発本部 マーキング技術研究所に所属
専門分野:インクジェット、水中音響、沸騰、流体
14
富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015