添付資料4(東日本大震災時の風評・デマと災害弱者の状況と考察)

添付資料
Ⅳ
東日本大震災時の風評・デマと災害弱者の状況と考察
<以下の資料と共に構成されている>
A.参考文献・サイト(風評・デマ)など
B.参考文献・サイト(災害弱者)など
A.東日本大震災時の風評・デマの状況と考察
1.東日本大震災時に実際に流されたデマの例(参考文献 1~17 などから編集)
(1)風評・デマは、メール、SNS(Twitter など)、口伝などで発信され、チェーンメ
ール、SNS のリツイートなどで拡散される。著名人の発言(石巻で「子供が餓死」
発言など)が拡散されたケースもあった。マスメディアでの著名人の安易な(うっか
り)発言が混乱を招くこと
もある。メールや SNS の普及した現在では友人や知人
への善意から拡散に加担する恐れも高い。
(2)被災地のデマ例
・
「外国人の窃盗団がいる」、
「レイプが多発している」、
「電気が10年来ない」、
「仮
設住宅が近くに造られず、置き去りにされる」、「明日もし雨が降ったら絶対雨に
当たるな。確実に被曝(ひばく)するから」、
「政府は混乱を避けまだ公表してい
ないそうです」など
・デマではないが、仙台市の広南病院が Twitter で燃油が不足していると支援要請
し、要請はすぐに満たされたが、解決したことが徹底せず拡散が続き大混乱とな
った。
(3)被災地以外のデマも多かった
・地震に関連するチェーンメールが日本国内で出回り、Twitter 上でも事実確認を
せずに行われたリツイートによって、デマが拡散してしまう例があった
・コスモ石油千葉製油所の火災に関連して、
「火災で発生した有害物質が雨として地
上に降る」
・ピースボートが、福島県いわき市で「物資横流し」や「物資の意図的な停滞」を行
っている
・「枝野官房長官が 105 時間ぶりに寝た」という情報は、初めに誰かが「枝野さん、
きっと 105 時間は寝てないはずだ」ということをツイート、それが伝言ゲームにな
って「105 時間振りに就寝したらしいな」くらいに変わって、気が付いたら「105
時間振りに就寝」になったなど
(4)ウィルスをばら撒こうとするものがあった(参考文献25)
政府機関や災害対策に関係ありそうな組織名やメールアドレスを詐称し、
・被災者の皆様、とくにお子さんをお持ちの被災者の皆様へ
1
・被ばくに対する防護対策について
・全国へ計画停電のお知らせについて
・福島原発最新状況
など一見怪しくなさそうなタイトルや本文、マイクロソフトワード文書やエクセルフ
ァイルなどの一見ウイルスと思えないファイルの添付などによって、メール受信者を
騙そうとし、添付ファイルを開くと、パソコンがウイルスに感染する可能性があるも
ので IPA が注意喚起を行った。
(5)マスメディアで取上げられた風評・デマ・問題発言など
・枝野官房長官、チェーンメールへの注意呼びかけ - MSN 産経ニュース 2011 年 3
月 12 日
・ビートたけし生放送で激怒「泥棒は撃ち殺せ。議員は作業服着るなら被災地行け」
――ロケットニュース 24(β) 2011 年 3 月 20 日
・東海テレビで放送されていた『ぴーかんテレビ』で「セシウムさん」とテロップを
出してしまい、番組打ち切り
・「復興努力してない」と仏 TV、日本大使館抗議――読売新聞 2011 年 4 月 30 日
・避難所のトラブル防止…警視庁きずな隊派遣――日テレ NEWS24 3 月 31 日
・ 天皇陛下と被災者をパロディ化した台湾テレビ局が謝罪「不敬な気持ちは一切な
い」―― ロケットニュース 24(β) 2011 年 4 月 5 日
・フランスの TV 局「カナル・プリュス」―― 3 月中旬に放送された風刺番組で、人
形劇で原爆投下後の広島と被災後の仙台の写真を比較して、「日本は(何十年も)
復興に向けた努力をしていない」とコメントし、福島第一原発事故の作業員をゲー
ムのキャラクターに例えた場面があった――読売新聞 2011 年 4 月 30 日
・フジTVの「
(原発事故の際の官房長官の会見中に)笑えてきた」と音声が漏れる
・石原知事『津波で「我欲」洗い落とす必要ある・・』――読売新聞 2011 年 3 月
15 日付朝刊 14 版、29 面
2.東日本大震災時の風評・デマへの対応(参考文献3、21,23,25など)
東日本大震災から 3 年が経過し、風評・デマに対する分析・研究は「東日本大震災ビ
ッグデータワークショップ - Project 311 -」 をはじめ多くなされてきている。シェ
フィールド大学など海外での先進的な取組みも進んでいる。
(1)東日本大震災時の風評・デマは、直後からツイッターを中心に発信されリツイー
トされ拡散されていった。犯罪性自体は無いものの、問題視される行動(「デマ」、
「チェーンメール」
、
「買い占め」等)も発生した。そのため、公的機関等が以下の
ような対策を講じた。
・国民生活センター: ホームページ上に震災関連のページを作り、
「正しい情報を発
信している各問合せ先」をまとめて提供
2
・AC ジャパン: 臨時テレビ CM『今、わたしにできること』で(節電と共に)、
「デマ
への冷静な対応」と「買い占めの自粛」を呼びかけ
・(財)日本データ通信協会迷惑メール相談センター:3 月 12 日から『チェーンメール、
電子掲示板、ミニブログ等で広がる不確かな情報や間違った情報についての注意やお
知らせなどを紹介しています』と対応
・荻上チキ氏:
『東北地方太平洋沖地震、ネット上でのデマまとめー荻上式 BLOG』と
して 3 月 12 日から『・・・
「こうした情報に触れたときは、いったん冷静になって
みよう」という実際のケースのみまとめてみます。以下、見つけ次第更新してみま
す・・・』と注意を喚起する発信(荻上氏は書籍も発行・・参考文献1)
。
・facebook:3 月 12 日に『デマ注意:東日本大震災デマと思われる情報まとめ』とい
うページを立ち上げて注意喚起
・その後、
「東北関東大震災に関するデマまとめ」(jishin_dema)
」などが中心となり、
主にツイッター上を流れるデマ情報とそれに対する分析の収集・告知が精力的に行な
われており、多くの人が情報提供や検証に加わっている
(2)デマ対応の具体的な手順例(参考文献2、参考文献5などから編集)
・ジャーナリストの藤代裕之氏などのチームは、コスモ石油千葉製作所のデマ拡散と
終息までの過程を分析している。
① 11 日 18 時 28 分:コスモ石油が HP で『工場で火災発生』をアップ
② 11 日 18 時 43 分:デマの起点となるオリジナルデマツイート『火災で有害物
質降る』を発信
③ 以降 1700 回以上がリツート、さらに引用・改変ツイートが拡散
④ 11 日 22 時 10 分:NHK 総合 TV で 5 回にわたり『有毒ガスの恐れなし』の放
送を行い、この報道を情報源とした『デマ打消し』のツイートが生まれたがほ
とんどリツイートされなかった。
⑤ 12 日 16 時 13 分:ウェブサイト asahi.com による「コスモ石油が否定:
『火災
で有害物質降る』のメール連鎖」がデマ収束の役割を果たしたと思われる。
一連の経過の中で④、⑤を比較し、特にデマの拡散期においては「正しい情報をそ
のまま伝えるだけではデマの収束は困難であること、今後はデマが流れていること
に触れたうえでそれを打ち消すような報道に努めるべき」と問題提起している。
(3)東北大学の乾・岡崎研究室の提案
デマツイートや真偽が不明確なまま広がるツイートに対し、打ち消しや反論を唱え
る内容のツイートを検出・分析し、情報の裏を取る仕組み(主だった賛成・反対の
両論の意見を一目で確認できる「言論マップ」)を提案している。
たとえば上記と同様の『コスモ石油のデマ』の場合は 5 時間で訂正が出されたが収
束にはそれから 19 時間掛かったということがツイッターのみの情報から出てくる
が言論マップの参照でリツイートを食い止め、デマの拡散を防げるのではないかと
3
の提案である。
(4)Project Pheme:の『 lie detector for social media 研究』
(英国シェフィールド
大学)
、NECの研究
英国シェフィールド大学を中心に、英独などの 5 大学、複数の企業を集めてデマを
自動的に検出する 3 年のプロジェクトが進行中である。(参考文献26)
また NEC では Twitter 上で拡散したデマ情報を時系列分析してデマ収束のための
条件探索を試みている。
(参考文献5)
3.風評・デマに対する考察
(1)対応システムや対処の仕組み
大災害時に悪意を持って風評・デマを発信する人は少ないと思えるが、風評やデマ
をなくすことはできない。
・注目される研究として、東北大の『言論マップの研究』、シェフィールド大学中心
の『 lie detector for social media 研究』などが出てきており期待が持てる。
・受け手が如何に対応していくかという対症療法による対応も必要
-当事者/専門家がいて強力な発信手段を持っていたことがデマ収束に繋がったコ
スモ石油の例(参考文献2)
-メディアは、正確・詳細な情報を伝えていくこと。間違った情報が流されている
場合には迅速に訂正すること
-政府機関、自治体、公共機関なども正確で迅速な情報提供と自らがネットやマス
メディアへの提供
-ネット上の識者には協力してデマサイト一覧などの提供などを期待するととも
に情報共有の仕組み作りを期待
(2)平時からスマホなどに慣れ親しんでリテラシーの向上に努めておくこと
(今後の災害時には、スマホも SNS 利用者もさらに増えていると思われる)
・平時から使いこなし慣れ親しんでおくこと、セキュリティ意識、詐欺行為などへの
備え、怪しいコンテンツに対するチェック(発信元、発信時間の確認、検索機能を
使っての検証など)意識などを養っておくこと
・自治体サイトなどは、平時から以下を含んで災害時には「ここを見れば良い」とい
う場を事前に構築・周知しておくこと
-当事者・専門家の意見を的確に伝えることのできる伝達手段を用意すること( 当
事者・専門家であることの確認が取れることも必要)
-情報が地域・分野ごとに整理され、容易にアクセス可能なこと
-最新の情報に常に更新されていること
4
B.東日本大震災時の災害弱者の状況と考察
1.災害弱者(除く外国人):障害者のおかれていた状況
(参考文献 1~12などから編集)
(1)東日本大震災における障害者の死亡率が被災地全体の死亡率に比して高かった
(参考文献4、参考文献5、参考文献6)
・東日本大震災で、聴覚・視覚障害者の死亡率は 2 倍 避難所でも大きなハンディ
津波で大きな被害を受けた岩手・宮城・福島3県の沿岸37市町村に住む障害者は
約15万人で、内閣府が障害者関係の27団体に確認したところ、約9千人のうち
2.5%にあたる約230人が死亡、または行方不明になっていた(住民全体に占
める死者・行方不明者は1%弱)。
・NGO 団体などは、岩手、宮城、福島 3 県の聴覚障害者 1671 人の安否を調べ、17
人 (1%) の死亡を確認した。
・NHK 調査によると、3 県には聴覚障害者が 3753 人おり、2%の 75 人が犠牲にな
っていたと分った。聴覚障害者の死亡率は健常者を含めた全体の 2 倍だった。
・視覚障害者:最大の情報源である TV では、字幕や手話通訳が重要であるが、日本
の TV では総放送時間の 4 割強に字幕が出るが、詳しく内容を追える手話通訳付き
はNHK教育放送が 2%ほどで、他は殆どなく、
「努力目標」にすらなっていない。。
欧米ではかなり多くの番組に手話通訳が付いている。韓国では放送法を改正し、視
覚障害者支援を義務づけ、2016 年までに字幕は 100%、手話は 5%の達成目標を
定めている。障害者手帳を持つ視覚障害者の 66%は 65 歳以上で、中高年になって
から障害が深刻になったケースが多く、見えない状況を家族にも明確に伝えていな
い場合もあった。また避難所では様々な情報が張り紙であったことでも疎外され、
トイレは後の処理を誰かに頼まざるを得ず「移動と情報の不自由」に苦労した。
・聴覚障害者:ラジオ、TV の情報は、ラジオ所持が少なく、TV のテロップが音声
化されない場合が多かった。
(2)個人情報保護法が支障になるケースもあった
・安否確認や支援活動では個人情報保護法が支障になったケースもあった。
・有賀絵理氏(茨城大非常勤講師;車いすで生活)は手を差しのべる必要がある人た
ちの名簿作りの重要性指摘と事前調査書のひな型作りを提案した (参考文献9)
2.災害弱者となりやすい外国人(参考文献13~27などから編集)
(1)被災 3 県の在日外国人は少なかったが災害時のニーズは多様
・在日外国人約 207 万人の内被災3県は 28,846 人(1.4%)であった。
・在日外国人の東日本大震災時のメディア環境、情報に基づく行動は、国籍、日本語
能力、職業、来歴などで多様であった。
5
・平時、災害時共に主たる情報取得メディアは日本の TV である。インターネットや
新聞の利用度は国籍によって傾向が異なる。自分の住んでいる地域の詳しいニュー
ス、情報提供要望に加え、自分たちのおかれた状況に関する情報発信の要望も高い。
・被災地の外国人の間では、
『やさしい日本語』
(ひらがな、フリガナの多用、語彙数
を限定した日本語表現)などへのニーズが高い。「やさしい日本語』によるニュー
ス・情報提供を増やしてほしい”といういう割合が母国語や英語による情報提供よ
りも高くなっている点が注目される(韓国人は母国語希望が多い)
。
・来日まで地震未経験の在住外国人が約 4 割、発災時、6 割近くの外国人が自宅以外
の場所におり、約 1 割の人がその日帰宅できなかった(交通機関の運休状況を説明
する駅のアナウンスが理解できない人、帰り道がわからず困った人)。約 4 割の外
国人がうまく連絡を取ることができなかった。
(2)信頼できる情報ソース、『やさしい日本語』による情報提供が求められている
・外国人への多言語による情報提供ルートの整備が必要、外国人を対象とした防災知
識の普及と防災訓練の実施、定期的な連絡会の開催や、外国人と地域の日本人が知
りあう機会を日ごろから持つことへの支援が望まれる。
・本国にいる家族の呼びかけや大使館の指示で、4 分の 1 の外国人が帰国したが、1
年以上 3 年未満の滞在年数の人が最も多く、10 年以上の滞在年数は少なかった。
・信頼できるソースを求めている。そうすれば海外への帰国とか、関東から遠く避難
するなどの問題も少なくできる
・NHK が以前から行っている英語や多国語でのサービスは認知度が低い
(3)参考になる八王子市の「災害ヘルプカード」(参考文献25)
・東日本大震災を教訓に、八王子国際協会(八王子市旭町)が同市内の外国人向けに
避難場所などの情報をまとめた「災害ヘルプカード」を作成している。
「災害ヘルプカード」には、使用言語や血液型、大使館の電話番号を書き込む欄が
ある他、避難方法などが日本語、英語、中国語、スペイン語、韓国語--の各言語
で書かれている。各地域の避難場所となる17の市民センターを案内した防災マッ
プとの2枚一組で、どちらもA4サイズの四つ折り。
八王子市では災害時に語学堪能なボランティアを避難所に派遣することも決め、
「外国人を災害弱者にしない」ようにと準備を進めている。
(4)参考になる群馬県大泉町の取組み
(参考文献 23:総務省・多文化共生の推進に関する研究会)
・2012.8.31 現在、全人口 40,934 人の内外国人 6,160 人( 15.1%)の大泉町は、平
時から外国人と共に生活していくために
-必要な情報をどう伝えるか?
-どうしたら顔の見える関係を築けるか?
-万が一のときお互い、どう助け合えるか?
などの課題に対して
6
-通訳による相談・説明
-多文化共生懇談会
-日本語指導助手の配置
-外国人学校対象「防災訓練」
-面接にも役立つ日本語とマナー講座 -節約日本料理の基礎とゴミ減量化講座
-日本の習慣や文化を母語で正しく伝えられる人を育成
等の実施により平時から外国人を災害弱者にしないための取組みを続けている。
3.災害弱者に対する考察
災害弱者はメディアの対応が不十分のまま疎外されている。東日本大震災時には被災
3県の在日外国人は少なかったが、想定される東南海トラフ、東京直下型地震などの
地域には多くの外国人が居住している。外国人旅行者数も 2020 年には 2000 万人を
目標にしている。これらの外国人を災害弱者にしないための施策が求められる。
(1)障害者や個人情報をどう守るか、災害時にはどう活かすか災害時の個人情報保護
の扱いに関わる法整備、自治体などによる運用規定が必要である。在日外国人に対
しても災害時に安否確認をどうするかルール作りが必要である。
(2)身体障害者目線からの指摘(茨城大非常勤講師:地域・障害福祉専門;車いすで
生活者の有賀絵理さんなど)の具体化を国、各自治体も進めるべきである。
視覚障害者への字幕や手話通訳、聴覚障碍者へのテロップの音声化などは実施目標
の義務化などが求められる。
(3)外国人を災害弱者にさせないために
・災害直後/数週間後/中長期のそれぞれに必要とされる情報、地域/国/母国の情
報などいろいろなレベルの情報は、TV、ラジオ、新聞、雑誌、SNS などが連携・
協力できる関係の構築が平時から準備されていることが重要である。
・NHK が以前から行っている英語や多国語でのサービスは認知度が低いことへの対
策や(添付資料-Ⅰ)、(添付資料-Ⅲ)の考察で述べたデータ放送の外国語対応、
「JoinTV」、小集団への対応が可能な SNS を活用した TV との連携などによる外
国人向けサービスなどの実現、充実化を期待する。
・東日本大震災時の被災地では、『やさしい日本語』によるニュース・情報提供を増
やしてほしいといういう割合が母国語や英語による情報提供よりも多くの国で高
くなっている点が注目される。平時、災害時共に居住地域及び自分たちのおかれた
状況に関する詳しいニュース、情報提供の要望に応える施策が必要である。
・外国人居住比率が 15%と高く、平時から外国人と地域の日本人が知りあう機会を
持つことを推進している群馬県大泉町の取組みの例や「災害ヘルプカード」などに
より「外国人を災害弱者にしない」ようにと準備を進めている八王子市などの例の
研究と実施を全国の自治体も行うことを提案する。こういう取組みを進めることで
不安にかられての帰国とか、被災地や関東から遠くへ避難するなどの問題も少なく
できるはずである。今後も増加が期待される外国人旅行者に対しても上記同様の
7
「旅行者用災害ヘルプカード」のようなものを検討すべきではないか。
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