広域・多数箇所調査の安全管理について 発注者 新庄河川事務所 請負者 株式会社 業務名 立谷沢川流域ほか砂防施設配置検討業務、角川流域ほか砂防施設配置検討業務 発表者 管理技術者 1 建設技術研究所 金野 崇史 はじめに 広域かつ多数箇所の調査では、調査事項や調査手法を明確にするなどの工夫やその内容に合わせた 調査員訓練により、調査精度を維持しつつ1箇所当たりの調査を短時間化して効率的に実施することが 求められる。その一方で、箇所毎の地域情報を深化させて得ることが困難であるため、様々なトラブ ル等のリスクが予想される。本論文では、立谷沢川、鮭川、角川、銅山川流域で計約300箇所(表1参照) の調査を約1.5ヶ月間の短期間で実施するにあたり、リスクを顕在化させないために実施した予防措置 とリスクが発現した際に速やかに解消するための事後措置の準備内容について報告するとともに、会 社の安全管理への取り組み状況等について紹介する。 2 業務概要 2.1 表1 背景 各流域の土砂整備率はこれまでの事業実施により概ね50%を達成 している(表1参照)。完成に向けて砂防事業を進める中では、以下の 課題があり、実現性とその精度がこれまで以上に求められている。 ①施設適地が減少してきたこと、②事業前半に比べて計画と実態 土砂整備率と調査箇所数 土 砂 調 査 流 域 整備率※ 箇所数 立谷沢川 55% 80 鮭 川 42% 109 角 川 59% 62 銅 山 川 60% 33 ※H25事業評価時点 との差異の調整の余幅が減少してきたこと、③新たな制約条件が加わってきたこと、等 2.2 業務目的と実施内容 本業務は、新たに加わった制約条件やこれまでの事業の中で計画が中止・変更となった事由を踏ま えて砂防施設配置計画の実現性及び精度向上を目的に以下の内容について実施している。 ①現地調査(約300箇所)、②概略図(新規施設の正面図)作成、③施設効果量の見直し、④流域情報図 作成(制約条件等の地域情報の整理)、⑤上記①~④を踏まえた施設配置計画の見直し 3 予防措置と事後措置 現地調査開始予定を10月1日とし、業務着手(8月9日)から調査開始期間までの約1.5ヶ月間で以下に 示す調査に必要な諸手続き、予防措置、事後措置の準備を実施した。 3.1 リスクの想定 調査着手前に、社内の担当者(10名程度)でブレーンストーミング方式による調査時のリスクを洗い 出した。その結果、①住民等の第三者への対応、②事故等調査員自身の安全確保、③調査期間の長期 化による降雪など現場条件の悪化及び①~③を原因とした調査精度の低下が挙げられた。 3.2 予防措置 3.2.1 作業周知や土地立入承諾 発注者を通じて各役場の担当者に、作業内容等を連絡するとともに、 地元への作業周知や土地立入承諾の方法について指導を受けた。作業周 表2 作業周知等実施数 対 象 実施数 役 場 5箇所 区 長 23人 地権者 8人 森林管理署 2箇所 知や土地立入承諾については、地域毎に方法が異なり、役場や区長を通じて作業期間や内容等を記載 したチラシを配布する場合や区長挨拶、地権者挨拶などを実施する場合など、地域の状況に応じた方 法で実施した。なお、地権者と連絡が取れない場合などは区長に代理承諾を依頼して対応した。 3.2.2 作業の効率化と精度確保 上記「3.2.1 作業周知や土地立入承諾」が若干遅れて調査開始は10月6日となった。高標高 の現場では11月下旬に降雪があることから、調査期間と想定している11月中旬までの約1.5ヶ月間に調 査を完了するため、15箇所/日(稼働率0.5)の目標調査数量を設定した。このため、計画レベルとして、 週間天気予報等に基づく作業週報を作成し、作業計画を構築するとともに、天候に合わせて柔軟に作 業計画(内業・外業、等)を見直して、作業の効率化・短期化を図った。また、外業と内業を並行し調 査結果を順次整理して「補足調査」を別の調査班が後追いで実施するとともに、各流域で1~2箇所同 じ現場を重複して調査し、精度を確認する「確認調査」を実施して調査精度を確保した。 実施レベルでは、事前に必要事項等を調査票に記入して作業の明確化・精度確保を図った。さらに、 既往の巡視点検等の成果から調査ルート、車両駐車位置、アクセスまでの目印や注意事項も調査票に 明示して作業の効率化を図った。 3.2.3 地元企業の活用 15箇所/日の作業効率を維持するため、協力会社への再委託により実施体制の強化を図った。 再委託は、各流域で1社と「補足調査」及び「確認調査」のための1社で計5社とし、極力地元企業と 契約して保有する経験・知見や地域情報の有効活用を図った。 3.2.4 測量作業実施中 作業の見える化 地域住民からの不審の解消策として同一車両の使用や駐車位置を 指定した。また、作業員を固定することにより現場付近の情報の蓄 積に努めた。さらに、作業に対する不満の解消策として調査かんば ん(図1参照)の設置等による作業の見える化を図った。 3.2.5 作業員教育 後述する弊社の「現場作業安全衛生管理マニュアル」(以下、マニ 渓流調査のため、測量作業を実 施しています。 連絡先:株式会社 建設技術研究所 TEL:○○○-○○○-○○○○ (担当部署直通) 管理技術者;金野 崇史(こんの たかし) TEL:○○○-○○○○-○○○○(携帯) 図 1 かんばん (作業車ダッシュボード上) ュアル)の携帯版(写真1参照)に基づいて現場での作業員教育を推進 し、マニュアルに準拠した装備、注意事項の遵守を徹底した。 また、上記「3.2.1 作業周知や土地立入承諾」の際に、作 業員に連絡窓口を担当させて意識向上を図るとともに、作業周知と 土地立入の承諾手続きの対応や相手の反応について一覧表を作成し、 担当者間の情報共有を図った。特に、注意が必要な地域については、 作業着手前に作業員にあらためて情報提供し、注意喚起した。 3.2.6 事故防止 写真 1 安全管理マニュアル 携帯版 交通事故防止対策として、車両走行時にはライト点灯により存在を示すほか、駐車位置の配慮・識 標・車止めの設置、作業員の相乗りや装備の一括積載による車両台数や通行回数の抑制、通行時の合 図(警笛、ライト点滅、手挙げ誘導等)を積極的に実施した。 また、作業継続による作業員の疲労からくる転落・遭難等の事故の危険性もあったことから、休日 作業を原則実施しない方針とし、定期的な休日の取得や連続作業日数を制限した。 3.2.7 双方向連絡体制の構築 現地情報や発注者及び役場等からの注意喚起を関係者に迅速かつ 確実に伝達するため、発注者⇔受注者(元請)、受注者(元請)⇔再委 託企業でそれぞれメーリングリスト(ML)を構築し、それぞれの双方 向から情報提供が行われる体制を構築した。 発注者⇔受注者MLでは、発注者から業務指示や役場等からの情報、 注意喚起等の連絡が配信され、受注者からは、調査予定(週報)、調 図 2 上記かんばんの裏面 住民対応等の心得記載 査状況(日報)などの連絡を配信した。役場からの情報提供の中には、 狩猟期間にワナが仕掛けられている位置や目印などの情報も提供さ れ、調査員に周知した。 受注者⇔再委託企業MLでは、受注者から調査予定や地域情報を配 信し、再委託企業からは調査状況(日報)や現場情報(天候等)が配信 され、現場情報の共有化を図った。 3.3 事後措置 3.3.1 写真 2 準備 図1のかんばん裏には「住民対応等の心得」を記載し、地域住民と のトラブル回避や安全な作業を実施するための指標を身近に置いた (図2参照)。 また、事故等の緊急時には、当事者及び同行作業員は気が動転し、 複雑な行動や判断ができないことから、連絡手順カードの裏面に事 連絡手順カード 事故があった場合の対応 ①所轄消防署への連絡(救急要請) ・事故が発生しました。 ・事故現場は、○○市の○○橋付近です。近くに○○があります。 ・ケガ人の名前は○○○で、○○才、血液型は○型です。 ・被災の状況は、・・・・・・・・です。 出血があります。 骨が折れているようです。 意識がありません。 ・・・・・・・・・・。 ・私は、建設技術研究所の○○です。連絡先は○○○○○○です。 ②管理技術者・現場責任者・部室長への連絡 ・救急要請を行いました。内容は・・・・(上記と同様)・・・です。 ・発注者他への連絡について、ご指示下さい。 図 3 連絡手順カード (写真 3)の裏面 故があった場合の対応を記載して作業員全員に常時携帯させた(写 真2、図3参照)。 さらに、天候による作業の中止、休止、再開、実施の「作業実施 判断基準(案)」を設定した(表3参照)。これらの判断は、現場では情 表3 判断 中止 報入手に制約があることから極力始業前に判断するものとし、防災 休止 (台風、豪雨、雷、降雪、地震等)情報を提供する気象情報サービス 再開 と契約して定期的に情報収集した。天候の急変時には、作業員各自 で避難等の判断ができるように、 「安全第一」で避難・撤退すること を事前に申し合わせした。 作業実施判断基準(案) 実施 判断基準(近隣観測所web等で情報取得) 時間雨量10mm以上で、回復の見込みがな い場合 時間雨量5mm以上で、今後の予測でも降雨 が続くと予想される場合 時間雨量5mm未満で、連続雨量が20mm未満 で、今後の予測でも回復が見込める場合 降雨無し、もしくは、時間雨量5mm未満で、 連続雨量10mm未満の場合 ※ 上記基準は目安であり、危険と感じた場合は上 記基準に達していない場合でも作業を中止、休 止すること。また、天候急変には十分留意する 4 安全管理の紹介 4.1 こと。 会社の取り組み紹介 弊社では、現場作業における安全管理・衛生管理の重要性に鑑み、安全衛生管理に対する社内規定 を整備するとともに、事業所への安全管理マネージャの配置、部室での安全管理担当者の選任等、安 全管理の指導・徹底と意識向上を継続的に図っている。平成26年には、以下の取り組みを実施した。 (1) 社内における安全教育の実施 1)安全衛生管理セミナーの開催(1回) 2)特定線量下業務における特別教育の実施(1回) 3)安全パトロール講習会(現場)の開催(1回) (2) 業務における安全・衛生管理活動 1)安全管理計画の立案(業務毎) 写真 3 現場安全パトロール実施状況 2)現場安全パトロールの実施(写真3参照) また、事故等の原因については様々なものが挙げられているが、弊社では、ハインリッヒの法則 ※ にしたがって昭和57年より「現場作業の危険事例集(ヒヤリハット)」を継続的に登録・更新し、それ らの事象に基づいた実践的な「現場作業安全衛生管理マニュアル」を作成・運用して安全管理に取組 んでいる。このマニュアルでは、調査にあたって安全管理計画書(図4参照)を作成し、その内容の適正 や適切な履行を確認するチェックリストを活用して安全管理マネージャのチェックを受けるものとし ている。さらに、抜き打ちで安全管理マネージャが作業現場を視察し安全管理の履行確認や改善指導 を行うなど普及と向上を図っている。 本業務では、マニュアルにしたがって、安全管理として以下の 内容を履行した(上述した内容との重複あり)。 ①通信手段の確保(docomo、au多重回線の確保) ②連絡手順カードの作成・配布(写真2参照) ③保険(有期労災)の適用確認と加入 ④土地所有状況等の確認 ⑤作業時リスクの洗い出し(以下の安全管理の対象) ⑥ワンポイントKYの実施(毎日の作業前に実施) ⑦ヒヤリハットの報告(毎日の作業終了後に実施) 4 おわりに 図4 安全管理計画書 本業務では、トラブルや事故等の発生もなく予定期間よりも前倒しの11月7日に調査を完了するこ とが出来た。しかし、調査完了後の状況を振り返ると時期外れの寒波やその後の積雪等により調査完 了時期が少しでも遅れていたら中止や調査箇所不足の可能性もあったことを考えると余裕があったと は言い難い。特に、現状では、降雪期における現地作業実施の基準やルールについて社内では定めた ものがなく(原則として降雪期には作業を実施しない)、作業者の判断に委ねられている状況であり、 事故等の潜在的なリスクの可能性が高くなっていたことと思われる。 本業務では、上述のとおり事故等がなかったため事後措置として準備した対策の効果は評価できな いが、予防措置については機能したと自負している。 本論文が、広域かつ多数箇所の調査における現地作業の安全かつ効率的な実施に向けて、少しでも 寄与することを祈念して結びとする。 ※ 1 件の重大災害の裏には 29 件の軽微な災害がありその後ろにはヒヤリとしたりハッとしたりするような 事例が 300 件潜んでいるという重大災害の発生確率論
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