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第379回生命科学セミナーのお知らせ
下記の通り生命科学セミナーが開催されますので、教員・院生・学生を問わず、多数ご参加下さい。
記
日時: 平成27年3月27日(金) 15:30~17:00
場所: 広島大学 総合科学部 J306教室
演題: ヒト分裂期チェックポイント欠損症の分子病態
演者: 宮 本 達 雄 氏
(広島大学原爆放射線医科学研究所)
《
講演要旨
》
生物進化の過程で真核細胞は、細胞分裂時にすべての染色体が細胞赤道面に整列するまで染色体分配が開始
しないように厳密に監視する「分裂期チェックポイント」を発達させて遺伝情報を安定化している。
ヒトにおいて分裂期チェックポイントの主要分子 BUBR1 が先天的に欠損した場合、染色体の異数性を伴っ
た“小児がん”が多発する染色分体早期解離(Premature Chromatid Separation;PCS)症候群を発症する。
日本人症例では、片アリル性に BubR1 遺伝子エクソン内にヌルタイプ変異を認めるが、もう一方のアリル
ではエクソン内変異が検出されないかわりに、BubR1 遺伝子発現低下にリンクする 200 kb のハプロタイプを認
める。最近、我々は次世代シークエンサーによるゲノム解読と人工ヌクレアーゼを利用した一塩基編集技術を
組み合わせて、BubR1 遺伝子の転写開始点上流 44 kb に PCS 症候群の原因変異を同定し、本疾患が BubR1 の転写
障害病(cis-ruption disease)の一つであることを報告した(PNAS 2014)。
PCS 症候群は発がん以外にも、
「染色体分配の失敗」では説明できない、脳や腎臓の“発生形態異常”さら
には肥満を合併する。一次繊毛は、多くの動物細胞の G0 期細胞表面に発達する非運動性の「毛」様構造であり、
細胞増殖因子や神経ペプチドなどの液性因子の受容体が集積しており細胞外情報の「センサー」として機能す
る。一次繊毛の構造や機能の破綻は、多発性腎嚢胞や肥満などに特徴づけられる一連の「繊毛病」を引き起こ
す。これまでに我々は、G0 期 BUBR1 が繊毛形成を担っており、PCS 症候群が「繊毛病」の一つであることを示
した(Hum Mol Genet, 2011)
。一次繊毛の起点となる中心体は分裂期で紡錘体形成を担うため、増殖シグナル
を受容した細胞は一次繊毛を退縮させて有糸分裂に備える必要がある。ゲノム編集技術を用いた細胞生物学研
究から、分裂期キナーゼ PLK1 とその基質であるキネシン分子 KIF2A が細胞増殖に連動した繊毛退縮経路を構成
することを見出し、本経路の恒常的な亢進が PCS 症候群の繊毛病発症機序の一つであることを明らかにした
(Cell Rep,2015)。また、本セミナーでは PCS 症候群の治療の可能性についても紹介したい。
責任者 総合科学研究科・斎藤祐見子(内線 6563)
主催者 生物圏科学研究科・清水典明 (内線 6528)
(注)生命科学共同セミナーを受講する生物圏科学研究科の院生は、特に積極的に参加してください。
(注)このセミナーは5研究科共同セミナーの一環として開催されます。
(注)このセミナーは総合科学演習または研究演習の一部として認められています。