平成 21 年度千葉市・大学等共同研究事業報告書 千葉市における再生可能エネルギーの導入可能性 概要 千葉大学倉阪研究室 2010 年 3 月 要約 (1) 千葉市のおかれている現状 ① 他都市と比較した再生可能エネルギー導入状況 千葉市における自然エネルギー総供給量は、約 180000GJ/年(2008 年 3 月末・永続地帯研究 による)であり、政令市・東京 23 区(総数 19)の中で 17 位となっている。自然エネルギー総供給量 を市内の民生用+農水用エネルギー需要で割った「自給率」は 0.27%で 13 位、自然エネルギー 総供給量を市域の面積で割った「供給密度」も 0.66TJ/km2 で 13 位と、自然エネルギーの普及に 関して千葉市は都市自治体の中では低位に位置するといわざるを得ない状況である。 ② 他都市と比較した政策実施状況 アンケート調査に基づき、千葉市の政策の状況を他都市の政策の状況と比較すると、全国 18 政令指定都市のうち、10 都市が再生可能エネルギーの導入目標を設定していたが、千葉市は再 生可能エネルギーの導入目標を設定していない政令市に属している。 具体的な施策のメニューに関しては、千葉市は、太陽光発電設備導入への補助金を実施してい る 15 政令市の中に入っているが、その補助率は他の政令市に比べると低い状況となっている。 太陽熱温水器への補助/助成を行う政令市、再生可能エネルギー導入への低利融資を行う政令 市もある程度存在する。また、建物の新築・増改築時における再生可能エネルギー設備の導入 配慮を求める施策も、都市自治体に広がりを見せ始めている。これらの施策についての検討が千 葉市には求められていよう。 一方、自らの再生可能エネルギー設備を導入するという点については、千葉市は比較的早い段 階から太陽光発電設備などの導入を進めてきている政令市であるということができる。 (2) 千葉市における再生可能エネルギーの導入可能性 ① 民間投資を引き出しうる範囲 国による全量全種の再生可能エネルギーの買取制度が導入された場合(48 円/KWh のレベ ル)の各再生可能エネルギー設備にかかる内部収益率 IRR を試算したところ、累積で、 5620102GJ の導入が見込まれるという結果になった。これは、千葉市の民生用+農水用エネル ギー消費量の 8.39%に相当し、現状(180000GJ/年)の約 31.2 倍の数字である。 ② 公共投資を追加して実施できる範囲 国による全量全種の再生可能エネルギー買取制度が 48 円/KWh のレベルで実施されたとして も、、一戸建て・長屋建て(既設)で屋根傾斜対策や老朽化対策を行わなければならない箇所へ の太陽光発電と、4 階以上 9 階未満の共同住宅(既設)や事業所への太陽光発電は IRR が 8 に 達しない。同様に、太陽熱利用、風速 5m/s のマイクロ風力、バイオマス発電、バイオガス発電、 地中熱利用も民間の採算ベースに乗らないことがわかった。 買い上げ価格の引き上げなど千葉市がインセンティブを追加するによって、すべての太陽光発 電、太陽熱利用、マイクロ風力が実現できたとすると、1583960GJ 追加され、7204062GJ まで導 入が可能となる。これは、千葉市の民生用+農水用エネルギー消費量の 10.76%に相当し、現状 の再生可能エネルギー導入量の 40 倍に達する。 さらに、バイオマス発電、バイオガス発電、地中熱利用についても、公的資金を投入しつつ実現 させたとすると、最終的には、千葉市において再生可能エネルギーを 7292807GJ まで導入でき る計算である。これは、千葉市の民生用+農水用エネルギー消費量の 10.89%に相当し、現状の 再生可能エネルギー導入量の 40.5 倍となる。 (3) 千葉市における再生可能エネルギー施策の方向性 千葉市において採用しうる再生可能エネルギー施策について、以下の 3 つの群に分類して示す。 第一に、他都市での導入事例があり、千葉市においてもすでに取組を始めており、さらなる強化 が必要な政策群(A 群)である。第二に、他都市での導入事例があるが、千葉市においてはまだ 取り組まれていない政策群(B 群)である。第三に、他都市でも導入事例が少なく、千葉市でも取り 組まれていない政策群(C 群)である。 それぞれ、A 群は既存施策の拡充が必要な政策群、B 群は新規施策の導入が必要な政策群、 C 群は施策の可能性の検討が必要な政策群と考えられる。 ① A 群の施策(既存施策の拡充) 既存施策の拡充が必要な政策としては、再生可能エネルギー設備導入への補助金・助成金、 行政自らによる自ら再生可能エネルギー設備の設置・導入、再生可能エネルギー導入促進のた めの行政計画をあげることができる。 再生可能エネルギー設備導入への補助金・助成金については、太陽光発電に加えて、太陽熱 温水器、マイクロ風力など、その対象を拡張するとともに、その補助率などの上乗せを検討するこ とが必要と考えられる。 行政自らによる自ら再生可能エネルギー設備の設置・導入については、民間投資ではなかなか 引き合わないような分野(バイオマス発電、バイオガス発電、地中熱利用)について、モデル的に 導入することを検討する必要があろう。 再生可能エネルギー導入促進のための行政計画については、計画の中で、再生可能エネルギ ー導入目標量を設定することが必要であろう。目標量としては、国の施策の充実に期待しつつも、 千葉市がインセンティブを上乗せできる範囲で設定することが必要だと考えられる。 ② B 群の施策(新規施策の導入) 他都市での導入事例があるが、千葉市においてはまだ取り組まれていない政策としては、建物 の新築・増改築時における再生可能エネルギー設備の導入配慮を求める施策、再生可能エネル ギー導入への低利融資をあげることができる。 IRR が 8 を超えることとなったとしても、情報が行き渡らなければ再生可能エネルギーの導入は 進まないであろう。その際に、有効だと考えられるのは、建物の新築・増改築時における再生可能 エネルギー設備の導入配慮を求める施策である。さいたま市、横浜市、川崎市など首都圏の政令 市が導入に動いているため、千葉市でも導入の方向で検討を進めるべきであろう。 また、再生可能エネルギー導入への低利融資についても、横浜市、新潟市、名古屋市、京都市、 神戸市、広島市、福岡市が導入している。長期的に見れば再生可能エネルギーの投資が引き合 う可能性がある場合でも、市中金利が高ければ導入が進まないため、低利融資や債務保証など 投資を支えるための仕組みを検討することが必要であろう。 ③ C 群の施策(施策の可能性の検討) 他の政令市でもまだ導入事例が少ないものの、今後、その導入の可能性を検討していく必要性 がある施策群としては、再生エネルギー証書の取得がメリットとなる施策、再生可能エネルギー設 備の導入に関する都市計画上の配慮、再生可能エネルギー設備導入のための地方債の発行、 再生可能エネルギーの導入促進のための条例の制定をあげることができる。 再生可能エネルギー証書(再生可能エネルギーで供給したということを証する書類)の取得が事 業者にとってメリットになる施策としては、京都市が省エネ関係の報告書からの削減を認める取組 を行っている。今後、市自ら再生可能エネルギー証書を購入することも含め、再生可能エネルギ ー証書の流通を促進するための施策を検討することが必要であろう。 また、再生可能エネルギー設備の導入に関する都市計画上の配慮については、再生可能エネ ルギーで供給される熱を活用する観点などから重要と思われる。 さらに、市民の協力を得ながら再生可能エネルギー施設の導入を進めるため、再生可能エネル ギー設備導入のための地方債の発行を検討すること、これらの施策を総合的に規定し、市として の姿勢を明確にするため条例を制定することも、検討に値するのではなかろうか。 図1 千葉市における再生可能エネルギーの供給量と IRR との関係 200.00% 180.00% ① 160.00% 140.00% 120.00% 100.00% ② 80.00% ① 60.00% ③ 40.00% ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑩ ⑪ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑲ ⑳ 21 20.00% 22 0.00% ④ 0 2000000 ⑨ 4000000 ⑫ エネルギー種別 設置形態 条件 6000000 ⑱ 8000000 年間エネルギー IR R (電力料金換算4 8 円 総供給量 / k W h 買取ケース) ① 小水力発電C 園生給水場 上水道 8684 179.08% ② 小水力発電B 誉田給水場 上水道 5072 91.91% ③ 小水力発電A 花見川 2 0 kW 級 1562 19.27% ④ マイクロ風力発電B ビル屋上 6 .0 m /s 962 14.93% ⑤ 太陽光発電A 一戸建て・長屋建て(新築) 追加コストなし 124918 12.00% ⑥ 太陽光発電C 一戸建て・長屋建て(既設) 追加コストなし 2951060 10.17% ⑦ 太陽光発電F 共同住宅(新築) 25095 9.66% ⑧ 太陽光発電B 一戸建て・長屋建て(新築) 屋根傾斜対策 13880 9.04% ⑨ 太陽光発電O 大規模平面駐車場 128684 8.31% ⑩ 太陽光発電L 道路中央分離帯 2 m おき 61255 8.31% ⑪ 太陽光発電N 公共施設(地面直置き) 更地に設置 259673 8.31% ⑫ 太陽光発電G 共同住宅(新築) 4 階以上9 階未満 5646 8.13% ⑬ 太陽光発電M 公共施設(ビル) 建築物 148952 8.10% ⑭ 太陽光発電H 共同住宅(既設) 3 階まで 1017114 8.02% ⑮ 太陽光発電J 事業所 3 階まで 867545 8.02% ⑯ 太陽熱利用A 一戸建て・長屋建て(新築) Y A Z A K I 31985 7.77% ⑰ 太陽光発電D 一戸建て・長屋建て(既設) 屋根傾斜対策 327896 7.46% ⑱ マイクロ風力発電A ビル屋上 5 .0 m /s 2565 6.97% ⑲ 太陽光発電I 共同住宅(既設) 4 階以上9 階未満 228242 6.62% ⑳ 太陽光発電K 事業所 4 階以上9 階未満 194740 6.62% ㉑ 太陽熱利用C 一戸建て・長屋建て(既設) Y A Z A K I 763650 6.61% ㉑ 太陽光発電E 一戸建て・長屋建て(既設) 老朽化対策 34883 5.47% ㉑ バイオガス発電A ㉑ バイオマス燃料 ㉑ バイオマス発電 3 階まで バイオガス発電所 畜産系 バイオガス発電所 生活残渣系 44810 (67,63円) バイオマス燃料 BD F 13898 (104.83円) バイオマス発電所 木質系(林地残材) バイオマス発電所 木質系(公園剪定枝) バイオマス発電所 木質系(果樹剪定枝) 7821 (109.67円) バイオマス発電所 農産系 17731 (212.6円) 4485 (347.7円) ㉑ 地中熱利用 新築一戸建てに導入 3 割導入 ㉑ バイオガス発電B バイオガス発電所 汚泥系
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