三宅克哉 フロベニウス自己同型について

フロベ ニ ウス 自己 同型 写像 につい て
三宅
克 哉 (名 古屋 大
教養)
1.現 在 では「 フロペニ ウス 自己同型 写像」 とい えば ,例 えば ,有 限体 の上 の
万有体 くun市 ersal donlin)の 場合 に も用 い られ ,さ らに代 数幾何学的 には,そ れか
ら有 限体 上 の多様体 上 に 引 き起 こ される「 フ ロペニ ウス 写像」 が しば しば用 い ら
れ る。 しか し ここでは,ハ セが 高木 ‐アルテ ィ ン の類体 論 を詳細 に解説 した報 文
脚]で ,彼 が名付 けた「 フ ロペニ ウス記号」 によって代 数体 のイデアル と対応 させ
た代 数体 の 自己 同型写像 の場合 を見 る。 良 く知 られて い るよ う に,ま た昨 年 の シ
ムポジ ウムで 触 れたが
(IM2,4〕
参照 ),こ れ はアル テ ィ ンの相 互法 則 (IAl])に
本質的 に 関 わってお り,さ らにチ ェボ タ レフに よる「 フ ロベニ ウスの予 想」
(=
「 チ ェボ タレフの密度 定 理」 )の 証明 (「 s〕 )の 方法がア ル テ ィンの相 互法 則 の証
明 (IA2])を 産 み出 したのであ った。ハ セが フ ロペニ ウスの名 を採 つたの もま さに
これ (FF3])に よる。 それ以 来「 フ ロペニ ウス 自己同型写像 」 と呼 ばれ るこ とに
なる。 しか し実 は「 フロベニ ウス 自己同 型写像 」 その ものは,円 分体 に 関 して は
すで に クム マ ー IKullが 選 か に先 ん じて そ れ を取 りだ して お り,デ デキ ン トは
(絶 対 )ガ ロ ア拡大 にお け るイデ アルの分
―
(IDal)に よってそ の正体 を明
か してい た。問題 のフ ロベ ニ ウスの仕事 Fr3]は この分 解理論 に本質的 に依拠 して
い る。
ここでは高 木 ―
アルテ ィンの類 体論 との 関 わ りか ら,「 フ ロベニ ウス の予想」 が
提示 され るまでの道筋 のい くらか を辿 ってみる。
-31-
2.フ
ロベニ ウ ス 自己同 型写像 とい え ば有限体 の 自己 同型群 の 考察 を欠 くわ け
には行 か ない し,有 限体 とい えば ガ ロアを欠 くことが 出来 ない 。
もっ ともガウスはす で に彼 の
C洒 中団
ones Arim熙 燎題 )の 草稿 として有 限素 体
の代 数拡 大 の考 察 を用意 してい たが ,出 版 に際 して これ を割愛 した よ うであ る。
後 に彼 の全集 のなか に出版 され る (IG2])が
,出 版 の時期 か らい えば これはガ ロ
アに遅れ る ことになる。 もち ろ んガ ロア は この ガウスの 仕事 を まった く知 る こ と
は なか つたろ う 。 しか しさす が にガウス であ る ;標 数 の 素数 を Pと す る とき有 限
素体 GF(Dの 有 限次拡大 にたい して,
p乗 自己同型写像 を導入 して基本的なこと
をすべ て押 さえている。ただし彼 の場合 は抽象的な有 限体の認識 を表に出さず に
,
(有 理)整 数係 数 の多項 式 を mOd
Pの みならず,「 素」多項式 による合 同関係 に
よつて考察 してい る。
一方 ガロア [Gal]は まった く現代風 であ つて,旗 色鮮明である ;学術論文 として
練 りあげ た ものでないだけに,彼 がかか る対象 をどのよ うに認識 してい たかが直
接に現 われている。彼 にとつてはもとよりGЦ Dの 真 の有限次拡大が問題であ り
,
GLp)上 の高次既 約多項式 とその根が問題である。まず,ガ ウスの くDisquisitiones
Arim鷹 敷題〉流 の有理整数 のあ いだでの mod Pの 合 同関係 について,混 乱を避け
てその記号「 ≡」 を退 けて,等 号「 =」 のみを用いる。そして与 え られた GFo
上の高次既約多項式
Fx=0の 「根」 を,複 素数の虚数単位 の場合 にならつて「 虚
な記号 の類 として」 (comme des es〆 ∝s de Symb01es imaginaires〉
認識 し,そ のひ
とつ を 1と 書 き,そ れが Gり 上に生成する拡大体 を考察 している。例 えば既約 多
項式 Fxの 次数 を vと す るとき,こ の拡大体 の要素が,有 理整数の (mod Pの )代
毒系 から a al,%,...,av‐ 1を 取 つて
a+ atir tzi2 +... + ar-ti"'l
-32-
の形 に一 意 的に表 わ され ることを示 して い る。 当然 P乗 自己同型写像が 本質的 に
利用 され てお り,フ ェルマの小 定理 の拡 張 を与 え,こ の 拡大体 の Oで な い要素 が
すべ て 1の メ ‐1乗 根 で ある こと を見 てい る ;従 つて拡大体 が 次数
vの み による
ことお よび各 γ にたい して v次 の拡大体 GF(PV)が 存在す ることが 結論 づ け られ る。
なお ぃだ3]で もすで に 名前 をあげてお い たが ,シ ェ ネ マ ン IS]が 同 じこ ろに「 高
次合 同関係」 を考察 して いる。 しか しこ れは (有 理 )整 数環 を素 数 の高 い幕 を法
に して考 察 した ものであ って,一 般 の有 限体 の研究 では ない ;ベ ルメ ー イ数 に つ
い ての クムマ ー の一連 の仕事 ほ どには直接 の影響 は なか つたに して も,P‐ 進数 へ の
先駆 のひ とつ と見 て もよかろ う。
3.い よい よフロベニ ウス同型写像 に移 ろ う。
有 限次代数的数体 のガ ロア 拡大 K′ なが 与 え られた と し,そ のガ ロア群 を Cと す
る ;ま た Kお よび なの全 整数 の環 を 0,oと 表 わす。体 Kの 素 イデアル
たい
"に
して ,="∩ 。は なの素 イデアルで あ り,剰 余体 ■=0ノ
Pは 有 限体 で
",1=0′
あ る :こ れ ら ,,Pの 下 にある (で 割 り切 れ る)有 理素数 を Pと す れば,0の 標数
は Pで あ り,位 数 q=lelは Pの 幕である。 さらに f=1■ ::]を 拡大次数とすれ ば
,
■′eの ガ ロア群 は ■の q乗 自己同型写像 で生 成 され る位 数 Fの 巡 回群 であ る。
もとのガ ロ ア拡 大
K′
■に戻 って,Cの 部分群 4つ ={σ ∈GI摯 σ ="〕 を
の分解群 とい う。部分群 ス つ の薇 素 は明 らかに ■ノtの 同型写像 を引 き起 こす が
"
,
この対応 で ス つ か らガ ロア群 GalK■ ′1)へ の準 同型写 像 が得 られ ,K′ ■の生成 元
を 0か ら選べ ばわか るよ うに,こ れは上 へ の写像 で あ る。 ここ で特 に ■の q乗 自
フ ロベニ ウス同型写像 と呼 ぶ。一 般 的にはこれ
己同型写像 に写 され る もの を
"の
た い してただ一 つ定 まるわけではない ;こ の準 同型写像 の核 を Ⅵっ とす れ
は
"に
ば,a"に おける スっ の剰余類 として確定 す る。 しか し Kノ ■で分岐す る有 限個
の
除 け ば実 は ス駒
=1と なる。実際 ,拡 大 Kノ ■にお い て素 イデアル フは,p
"を
-33-
●L)e,"1=",g=〔 G:4つ ],C=│ス つ │,と 分解 され,Kっ の位数
=('1物 。
cが ,の 分 岐指数 である :ま た明 らかに 〔■ ,L,…
,覧 }={"σ
lσ
∈G}.
これ らの こ とは特 に Kと よが 共 に有 理数体 上 のガ ロ ア拡大 で あ る場合 にデデ キ
ン トIDe3,4]に 見 られる ;群 論 的なイデアルの分解法 則 に関す る部分 は [De4]と し
て 1894年 に出版 された ;し か しその最 後 に付 け られた 日付 は 1882年 6月 8日 で
あ る。序文 には,1882年 6月 3日 のフ ロベニ ウ スか らの問 い合 わせ にた い して こ
の 日付 にこの内容 をそのまま送付 した もの とあ る ;も と もとデデ キ ン トが 1877年
の論文 IDel]の §27 Examph empmn盗 五 la
d市 亙on
du cercleで 例 示 した事柄 に
つい て,利 用 で きそ うな形 の一 般論 をフ ロベニ ウスが 求 めた よ うで あ る。また ヒ
ルベ ル トが この 内容 を含 む論文 を 1894年 7月 7日 付 けで発表 す るとい うので公 表
す ることに した 旨が書 か れて い る。 フロペニ ウ ス もその い きさつ を,こ の我 々 の
小論 の焦 点であ る Fr3]の 序文 で証言 してい る。デデキ ン トの 1878年 の IDe2〕 では
,
「 フ ロベ ニ ウス 自己同型 写像」 はまった く表 にはあ らわ れて い ないが ,有 理素 数
が代 数体 で どの ように分 解 ・分 岐す るか が説明 されてあ る ;ま た理想 数 に関す る
「 プ ロ タ レフの 理論」 につい ての 1874年 と 1877年 のゾ ロ タ レフの報告 へ の コ メ
ン トが序 文 と二 箇所 の脚 注 にあ る。ただ しゾ ロ タレフが この理論 の全体像 を公 表
した もの は 1880年 の z2]で あ るよ うであ る ;彼 の この理 論 へ の 動機 は楕 円積分
の計算 (IZ l])と そ の一般化 を図 るところか ら来てい るとあ る。
4。
もう少 し数学 に立 ち入 ってチ ェボタレフの密度定理 を紹介す る必要 が あ る。
これはフロベニ ウスが 1880年 に着想 を得 たあ と 1896年 の論文 Fr3]に よって よ う
や くその定式化 を与 え,特 殊 な場合 を示 して一般 の場合 を予想 した もので あ る。
上記 §3の 記号 に もどる。体 ■の素 イデアル Pか ら見 る場合 ,も し最初 に取 つた
かわ りに他 の
TE・
="σ ,
‐
σ∈ G,を 取 ったな ら,ζ り は σ kり σ で置 き
"の
換 え られる ;従 って Kノ ■で分岐 しない pに た い しては,そ の上 にある Kの 各素 イ
-34-―
デアルの フ ロペニ ウス 自己同型写像全体 が
Gの ひとつ の 共役類 とな って確定 し
,
それが対応す る。 (特 に K′ なが アーベ ル拡大,す なわち Gが ア ーベ ル群であれば
,
これ らの フロベニ ウス 自己同型写像 はすべ て一 致 し,pに た い してただひとつ確定
す る。 こ れ ら両 者 の対応 が アルテ ィンの 相互法 則 の要 で あ つた 。)こ の よ うに
,
基礎 の数 体 ■の 数論 的な要素で あ る素 イデアルが ガ ロア群 として与 え られた有 限
群
Cの 代 数 的な構造 の みで決 まって しまう共役類 と対応 づ け られ る。ここでは こ
れ をフ ロベニ ウス対応 と言 うこ とに しよ う。
数論 的 な要 員 をさらに整備 しよ う。体 ■の素 イデ アルの集 合 Mに た い して次 の
べM)=s‰
もちろん 一般 の
Mに つ い て密度
(ク
辻囁
極 限値 △(め が存在 す る場合 にこれ を Mの
ロネ ッカー式 )密 度 とい う
:
△(■の が存在す るはず もな いが ,特 に よのすべ て
の素 イデアルの集合 S(め につい ては Δ(■ ●)=1と なる。
定理
(チ
す る。群
ェボ タレフ)有 限次代数的数体 のガ ロア拡大 Kノ 女のガ ロア群 を Cと
Cの 共役類 Cに たい し,そ れにフロベ ニ ウス対応す る ■の素 イデアル全
体 の集 合 を Mの とす る と,そ の密度 は必 ず存在 して △(琢 0)=ICIノ IGIで 与 え
られ る。
すなわち数論的 な密度 Δ(Mo)が 完全 に代数的に,い わば共役類 Cの 群 G内 での
「密度」 として確定す る。
この定理は実 に強力である ;例 えば Gの 要素 σ を与えたとき,Cの 巡回部分群
くσ )に 対応する Kの 部分体をFと し,κ ′よに代えて Kノ Fに 定理 を適用すれば
,
-35-―
σ そ の ものをフ ロペニ ウス 同型写像 に もつ Kの 素 イデ アルの存在 ばか りか ,そ れ
らの
(Kで の)密 度 もわか る
.
始 めに 触 れた よ うに ,チ ェボ タ レフに よる この定 理 の証明 法 が ,シ ユ ライ ヤ ー
lSc]に よる分析 の助 け を も得 て ,ア ルテ イ ンの相互法則 の証明 (IA21)に 大 き く寄
アルテ イ ンの類体論 は直接 この 定 理 には拠 らず に証明 で き
与 した。 しか し高水 ‐
,
さらに類 体論 (に よるア ーベ ル 拡大 の存 在 とそ の特徴 づ け)の 簡単 な応 用 として
この定 理 を証 明 す る ことがで きる。ただ しこの と き,チ ェボ タ レフの方法 か ら抽
出された ものが形 をかえて類体論 の証明 のなかに折 り込みず みで あ るとも言 える。
5.我 々は上で素 イデアルの集合の密度 を,高 木 F]に 倣 って「
(ク
ロネ ッカー
式 )密 度 」 と呼 んだ。これは,上 の形 に 定 理 を定式化 した フ ロベニ ウス のそ もそ
もの出発 点 に起 因す る。フロベ ニ ウスは 1880年 のク ロ ネ ッカー
n41の 問題提 起
に よって 着想 を得 て以来 ,こ の定 式化 を 1896年 の Fr3]に よつて公表す るまで に
エボ タレフ s]に よつて証明 が得 られ るまで になん とさら
『
に 30年 が 必要 であつた。)歴 史 を見 る場合 の常道 ではあ るが ,こ れ を理解す る に
16年 を費 や した。
(チ
当 たつて ,我 々 は当時 の 数学界 の状況 を想像 を過 しくして捉 えておかなけれ ば な
かろ う。 た とえ ガ ロアの理論が す でに当 時十分 の認知 を得 るに至 つてい た として
も,有 限 群論 は まだまだ幼 なか った ;た とえば体論抜 きで ガ ロ アの理論 を書 き上
げ たジ ョルダンの「置換 論」
(〔
J])の 出版 は 1870年 の ことで あ り,シ ロー の定 理
(ISyl)が 出た のは よ うや く 1872年 で あ つた。はた して当時 の誰 が ,深 い数学 的
現象 を記 述す る に際 して有 限群 が 本質 的 に有効 であ ると考 え得 たろ う。 ガ ロア の
理論 か ら さらに 数論 的な現象 の 深部 にまで踏み込 んだ ところにあ る事象 が ,ガ ロ
ア群 の代 数的構 造 を用 い ればい とも簡明 に記述 されて しまうな どと誰 が予期 して
い たろ う。
フロベニ ウスの出発点 に立 ってみ よ う。
36-
ク ロ ネ ッカ ー の論文
n41の
契機 にな っ た と思 われ る 件
なかで 特 に フ ロベニ ウス が群 論 へ と引 き込 れ てい く
(Fr31)は ,次 の よ う で あ る :ま ず フ ロベ ニ ウ ス は
Fr3]の 冒頭 で その主 定 理 を引用 して い る。
定理
(ク
ロ ネ ッカ ー )
る合 同式 F(⇒
整 数係 数 の多項 式 F(→ にた い して ,素 数 Pを 法 に す
=O modPの
(重 複度 を こめた )根 の個 数 を vpと す る とき,す べ
ての 素 数 pに わた る級 数
Σvp・ P-1-W
の和 の wの 値が正で無限に小 さくなるときの極限値は rag(1′ シ)の 値 と比例 し
,
ちょぅど rag(1ノ w)に F(⇒ の既約因子 の個数を掛 けた ものと一致す る。
さて各整数 ■,0≦ よ≦口=deg月 にたい して F(→
=O mOdPが ちょうど ■個
の根 を持つ素数をp.と 表 わす ことにすれば,上 の級数は
Σ■・ΣP.-lTW
となる。そこで次の極限が存在すると仮定する
D.=″
:
銑+饒矯用[=″ 銑+♯
ここで最後の項 の分母はすべての素数にわたる和である。この とき,も し定理 を
認 めるとす れば,等 式
Σ■・Dょ =1
が得 られる。この等式 こそがフロベニウスを捉えてしまった ものであった。
37-‐
現代 の学生 ,あ るい は数学者 で さえ,果 た して何 人が ここに群論 に踏み込 む着想
を得 るだろ うか ?
またク ロネッカー は 堰 の「存在を仮定 したにす ぎなか ったが,こ こでも『 ヤ マJ
が当た って,」 pょ 「 の存在 は mめ eniusの 部分 的成功 の 後 を継 いで TEhebotareff
に至 って確定 したのであ る」 (高 水 口1).
フ ロベニ ウス はこのあ と,上 で述 べ た よ うに 1882年 にデデキ ン トか らイデア ル
の分解法貝1に 関 しての群論的な分析 のノウ ト (IDal)を 得 たあ と,1887年 には
,
副産物 (?!)シ ロー の 定理 の 別証明 Frllと ともに ,ま ず群論的 な部分 Fr2]を 公
表す る。 これ に つい て も,さ らにフ ロペ ニ ウス が群 指標 の理論 を独創す るに至 つ
た背景 にあ るデ ィリク レ pil,2,3]に 発 す る数論 的な問題意識 につい て も,す で に
Ⅳ l]で 述べ た ;群 指標 の理 論 の独創 に 関 して のデ デキ ン トの 影響 につい てはホ ウ
キ ンス 〔
Hkl,21が興味深 い。
補 記 。 す ぐ上 で ク ロネ ッカー の 仕事 に つい ての 高木 の コメ ン トを引 い た。誤 解
が あ るや も知れ ない ので ,少 し言 葉 を補 つてお く。数学 にお け る「定理 」 は厳 密
な証明が付け られて始めて「定理」であ り,そ こで始めて「数学的な言明」,あ
るい は端 的に,「 数学」 になる,と す る観点か ら見れば,こ の コメン トは,ま さ
に見事 に,的 確 にクロネ ッカー の仕事 の本質 を衝 いてい る。高木 は,必 ず しもガ
ウス流を唯一尊 んだ訳で はない だろ うが ,数 学者 としての自分 自身をこの意味 で
非常 に厳密 に律 していた ものと思われる。 しか も,例 の彼の「 高木節」 とで も言
うような語 り回 の背景に,今 日の並 の「 数学者」 には想像 もつ かないほ どの深 く
広 い数学的教養 を身に付 けてい た。すなわち,常 識が我 々とまった く異 なって い
るのだ。そ う単純 に「ヤマ」 な どとい う言葉づ かいに乗 つて しまうわけには行 か
ない
.
また数学史か らの観点からすれば,そ のように端的に切 り捨 てるわけには行 かな
-38-
い。例 えば「厳密な証明」にしても,そ れは当然その時点での数学界 の レヴェル
と相対的で しかあ りえない。高木 も「 この予言者 の名を冠 して 『 クロネ ッケル』
式密度 の称呼を用 いたのであ る」 .ク ロ ネッカーは彼 に とって も単に「 数学」 の
観点か らアッサ リと切 り捨て られる者ではない。
とはいえ,ク ロネッカーの論文の多 くは,特 に彼 がその構築 をライフワー クとし
た代数的数論 に関す るものについては,「 数学的」 に書 かれて い ると言 えるもの
ではない ;恐 ら く当時の常識か らして も。 しか し,例 えば現代 の物理学者達 の論
文 と対比 して見れば,わ か りやすい。ク ロネッカーは,い まだ定義 も,概 念す ら
はつきりとは しない,し か し彼 にとつて現代 の物理学者達 の見 るものよ りも遥 か
に厳然,確 固 として存在 する「数学的な事実」 を発見 し,そ 4を 報告 しようと し
た。彼 が見 た もの 自身は,例 えば「 一般的な関数」,「 一般的な無限級数」 と言 つ
たあやふやな,捉 え所 の ない新参者 とは異な り,新 しい とはい えどこか ら見 て も
伝統的で歴 とした数学で あ った。彼 はそ こに新 しく驚嘆すべ きものを発見 し,そ
れを,書 き方 としては「数学的」ではなっかたにせ よ,な んとか報告 したのであっ
た。そ こに自身の数学者 としての全身を賭けて
.
例 えば,有 理数体上 のアーベ ル多項式 の根が 1の 幕乗根 の有理整数係数 の有理式
として表 わされることを「発見」 して ,躊 躇 わず にそれを「定理」 くSatz)と して
報告 した (IKrl]).有 限体 の扱 い方を例 にとれば,彼 は決 してガロア流を採 らず
,
あ くまで もガウス流にこだわ り続けたろ う。それは,彼 の代数体 におけ る因子論
(IK司 ;高本 国 ,附 録
(3)も 参照)か らも想像がつ く。例えば彼は,師 で もあっ
たクムマーの理想数 の与え方 (IKu2,3])に 満足せず,そ のよ うに本質的なものは
「明確 な数学的なもの」 によって表示す べ きであるとした ;(そ してその嗅覚 は
確 かであ つた);ま ず虚 二次体 について ,そ れを虚数乗法 として持 つ精 円関数 の
特異 モデュ ライが本物 の数 として虚二次体 の理想数を具現すること,お よび,そ
-39-
れ らの数 による虚二次体 の拡大が不分 岐であるこ と,を 発見 した (ド 2,3]);さ
らに「単項化定 理」 に基 づ く「類体」 の存在 を信 じて彼 の代数 的数論構築 ひとつ
の大 きな指針 と しF一 般 の代数的数体 にたい して「単項化定理」 を彼の流儀で定
式化 した (区司 )。 ヒルベ ル トがそこから出発 して彼の類体論の構想 へ と進 んだ
ことは明 らかである (Ⅳ 21)。 また,例 えばフライは,彼 の数学史の論文 同 で
,
虚二次体 の絶対類体を「 クロネッカーの類体」 と呼 んでい る。
文
献
IAl]E.Adin.Ober eine neuc Art von L‐ Rethen,Abh.ntho sem.Univ.Hmbur8 3
(1"o,89‐ 108=Collctod Papes,10,124.
′
dS des au8-inen Rci"餞 sESe"“ ,Abho Maal.San.univ.
IA21._.B釧
Hmbur8 5(1"η ,3"‐ 38=Collttd Papes,131‐ 141.・
臓
1]R.Dedekindo Surla n6oHe des Nombぃ mtiers」 gaD」 qucs,Pa五 。,Gau面 er‐
VnlaFS:16′ ′,1‐ 121,Bulletin des Sci.matho astron.,ler s6ie,to XI,2e“ de,t.I,1876,
16′
′← Wtt Ш ,262‐ 296D.
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と
『
den加 珈 耐 叫
zwischen ttnooFie d“ Idale ud dern00FiC
ld口m Kon『 鴨 mm,Abh.k81・ Ceso Wiss.G● ttingen,Bd。 23(187o,1‐ 23=Werke
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Bd.29(18823,1‐ 56=WncI,351‐ 396.
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IDi31_.L血
刺艤
-40-
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Uber die Congnrerz nrch einem
tFr2l
aus
arci
Doppelmodul, Jour. reineangcw. ldattr. Bd.lOl (188i/),
330.
-.
Ubcr Bezidrungen
[Fr3]
cndlichen Gruppen gebildeten
273-299--
avischen P]imzatrlen eines atgebraistren Korpers und
den $rbsdutionen seiner Gruppe, sitzungsb. kgl. prcuss.
689- 703
=
Ges.
= Ges. Abh.II,3O4-
Alod. wiss. Bertin (18!b),
Abh.II,719-733.
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Krl] L
Kronecker. Uber die algebraisch aufbsbaren Gleichungen, Monatsb€r. K6nig.
Preuss. Acad. Wiss. Berlin (1853),369374= We*'c
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Uber die elliptishe Funcionen, fUr welche omplex Multiplirarion *an-
findet, Monabb. K6nig. heuss. Acad- Wiss. Bertin
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Wiss.田 in(1880D,1■ ■162=WneH,諄 93.
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Colicted Papes I,193‐ 202.
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(184o,87‐ 96=Jour relne angew.ndl.Bd35(184o,319‐ 326=Collcted Papes I,
203-210.
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H diCZrlegung deraus Wualn der Dttdtgebildm∞ mplex Zhlen
in ihrc Priratoren,JoL Feine angew.M山 .Bd.35(184o,327‐ 367=Condod Papers
I,211‐ 251.
Ⅳ l]Ko Mttka A not on ttE arimmetic Lkground to Frobeniust hoory of rup
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]_.The mblimment oftheTmgi_Artin CIs Field Thoory,PrTrint smes
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History of uth_tic Symposium 1990.
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デ キ ン トの 数論 に つ い て ,津 田塾 大 学
数 学 ・ 計算 機 科 学研 究 所
報 1(1991), 22-31.
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ル テ ィ ンの 相 互 法 則 つ い て ,津 田塾 大 学
数 学 。計 算 機 科 学研 究
所 報 4(1992),44‐ 53.
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Bd.32(184o,93-105.
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