2015年2月19日 神奈川新聞 掲載 「日銀 支店長の目」 [テーマ]もっと大事なものも<お金> 日銀に本部事務局がある金融広報中央委員会では、毎年、中学生と高校生向けに「お金」に 関する作文・小論文コンクールを行っている。本年度は藤沢市立片瀬中学校の生徒が見事日本 銀行総裁賞を受賞され、先日その表彰式のため同校にお邪魔した。 「お金の大切さとためる楽しさ」と題されたその作文を読んだとき私は強い感銘を受け、文字通 り涙した。皆さんにもぜひお読みいただきたい。金融広報中央委員会の「知るぽると」というウェブ サイトに掲載されている。 もともと、この「お金の作文コンクール」は現実の社会で生きていくために必要な金融・経済など の知識や、お金を適切に取り扱う態度を身につけることを目標とする金融教育の一環として行わ れている。しかし、今回受賞されたその作文は、そうしたお金の問題にとどまらず、まさに「人の生 き方」として読者を感動させるものである。 私なりにその理由を考えた。まず、この作文には、他人や環境を責める言葉の代わりに感謝の 気持ちがある。今の世の中、何かというと「人のせい」にする風潮が強いが、この文章にはそれが 全くない。逆に周りの人々や社会に対する感謝の気持ちにあふれている。 さらに、「お金の大切さ」についての自分の考え・工夫を他者や後輩に伝えていこうという気持ち がある。それは、他人への押し付け的な独りよがりの考えでなく、他の人のためになりたいという 思いやりの気持ちから生まれている。感謝と思いやりというと、ありきたりの言葉の組み合わせの ようだが、それが実践されているところに感動を覚えるのではないかと思う。 私は、本紙面にも登場される内田樹さんの著作の愛読者であり、読み返すたびに強い知的刺 激を受けている。そこでは、例えば、「日本では、お金は汚いもの、そしてお金の話をすることは卑 しいこととされていた」、従って「子どもには触らせない方が良いとの知恵があった」との認識が示 されている。 金銭教育を行う立場からすると、決して、「お金が一番大切」(うちの商品だし)といった価値観を 押し付けるつもりはない。しかし、既に子どもたちをマーケットに取り込んだ消費社会が生じてしま っている以上、その社会におけるサバイバル・スキルを身につけてもらうことは重要、ということに なる。このような立場からすると、「お金の作文」において、「お金の問題」を超えた、一次元高いと ころで感動を与える文章に巡り合ったことに幸せを感じるのである。 日銀横浜支店長 岩 崎 淳
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