「経済調査レポート」 平成 27 年 2 月 20 日 「近畿地区の輸出動向」を検証する ― 数量増加のプラス効果により輸出をけん引 ― 近畿財務局 経済調査課 筒井 肇 (要旨) -近畿地区の輸出は金額だけでなく、数量 面でも増加している。- ○生産と輸出は堅調に推移しており、足下の水準は高い。 ○平成 22 年を基準に指数化したデータでみると、26 年の輸出の状況は前年同期比、金額並びに数 量とも増加し、近畿地区が全国の輸出のリード役となっている。 ○貿 易 統 計の輸 出 品 区 分 では、特 に「電 気 機 器」と「化 学 製 品」においてグローバル需 要をとらえて 輸出数量の増加が顕著である。 ○スマートフォンやカーエレクトロニクス分野は今後も堅調な需要が見込まれ、近畿地区の輸出は増 勢基調にあるとみられる。 1.はじめに -生産活動と輸出の状況推移- 平成 24 年 10 月以降、為替相場は円安方向へ反転を始めた。輸出 額は 26 年夏以降のドル円相 場の一段の円安方向進行とともに増加基調を辿っている。一方、生産は年初以降 の消費税率引上げ に係る主として内需要因や夏以降の外需要因により振れを伴いつつも 25 年と比較すると生産水準が 上昇している。 足下の状況は、短期間での円安進行の環境下、輸出 は増加基調を維持しているとみられる。 【図表 1-1】 近畿地区 鉱工業生産指数と輸出額の推移 (単位:指数 、円) (単位:億円) (月次・3 ヵ月移動平均) 平 成 22 年=100 輸出 額 推移 は J カーブ ← 効果 発 現か 円 安 円 高 → 24 年 10 月 、円 安 基調へ転 換 (注)1.生 産 、輸 出 額は 12 月 速 報値 にて作 成 (出所) 近 畿 経済 産 業局「鉱工 業指 数」 2.輸 出 額は 3 ヵ月移 動 平 均、直 近月 は、2 ヵ月 平均にて作 成 -1- 大阪 税 関「近 畿圏 貿 易統 計」 2.輸出品の構成 -電気機器、一般機械のウェイトが高い- 近畿地区の輸出品の構成は下記のとおりである。電気機器、一般機械で概ね、半分程度を占め、原 料別製 品、化学 製品がそれに次ぐ構成となっている。代表的な品 目をみると、電気機 器には半導 体等 電子部 品、IC等、一 般機 械には建設 用・鉱山用 機 械、半導 体等 製造 装置、原動機 等が含まれている。 また、原 料 別 製 品 には鉄 鋼 等 、化 学 製 品 にはプラスチック、有 機 化 合 物 等 、その他には液 晶 デバイス 等が含まれている。 全国と比較すると、近畿地区は電気機器の割合が高く、輸送用機器が低い構成となっている。 【図表 2-1】 近畿地区・全国 輸出品構成比(%) (近畿地区) (全国) (26 年通期ベース) (単位:%) 輸出 品 構成は電 気 機器が高 い (出所) 財 務 省「貿 易統 計」、大 阪税 関「近 畿 圏貿 易 統計」 3.実質輸出の推移 -実質ベースで 100 を上回る水準- 1 近畿地区の実質輸出(注 )の水準は 4 月以降、おおむね 100 を超え、全国を上回る水準で推移し ている。 【図表 3-1】 近畿地区・全国 実質輸出の推移 (単位:指数) 平 成 22 年=100 (出所) 日 本 銀行 大 阪支 店「実 質輸 出 入」 1 (注 ) 財の輸出 金額 を日本 銀 行 作成の輸 出物 価 指数 等 で割ることにより実質 化 し、指 数化 したもの。物価 変 動の影 響 を除 去することで作成 される実質 輸 出 は、実質 ベースの輸出 の動きを表 す。現 在、平 成 22 年が基 準となっている。 -2- 4.輸出状況の内容分析 近畿地区の実質輸出の状況は、前記 3.でみたとおり、全国を上回り、足下では基準年である 22 年 を超える水準が継続している。このように好調な推移をもたらしている要因は何であろうか。為替相場や 物 価の変 動を勘 案した輸 出 品 目の単価 が引き上がっているのであろうか。あるいは輸 出 数 量が増加 し ているのであろうか。それとも両者の要因が複合されたものであろうか。以下でその要因について分析を 試みることとする。 2 分 析にあたって、輸 出 金 額 や数 量などの推 移の指 標 として財 務 省「貿 易 統 計」貿 易 指 数 (注 )の中 に金額指数、価格指数、数量指数 が公表されており、これらを参考指標とした。ただし、これらの指数は 全国ベースの数値であるため、同指数を参照のうえ、近畿地区の指数を算出し、本分析に使用した。 (1)各指数による推移比較 -輸出関連指数はいずれも増加基調 - 近畿地区の輸出の状況について各指数(平成 22 年=100)の推移を示したものが下記のグラフであ る(図表 4-1)。 指数の推移によると、輸出金額指数は、振れを生じつつもドル円相場の動きに呼応するように増加基 調にある。 24 年 10 月以降、ドル円相場の円安方向への移動とともに輸出金額指数と価格指数は上昇基調に あったが、数量指数はおおむね横ばい傾向であった。しかし、26 年 9 月以降の一段の円安方向への動 きもあり、数量指数は一進一退からようやく増加の兆しがみられつつあるようである。 (単位:指数 、円) 【図表 4-1】 近畿地区 輸出関連指数の推移 平 成 22 年=100 (出所) 財 務 省「貿 易統 計」、大 阪税 関「近 畿 圏貿 易 統計」により筆者 作 成 2 (注 ) 貿易 指 数について 輸出 金 額指 数は、基 準 年の輸出 額に対する比較 時の輸 出額の比 率を示したものである。価 格指 数 は、輸出 額を数 量 で除 し、さらにフィッシャー式 により算 出 した指 標 である。また、数 量 指 数 は、金 額 指 数 を価 格 指 数 で除 した指 標 である。 現在 、いずれの指 標も平成 22 年 が基準 となっている。これらの指 数の関 係 を整 理すると、輸 出 金 額指 数=価格 指 数 × 数量 指 数となる。なお、近 畿地 区 の各指 数の算 出等において本レポートで採用 した方 法については、後 記(参考 事項) を参 照されたい。 -3- 前記(注 2)のとおり輸出金額指数は、価格指数と数量指数から構成されており、両指数の推移をみ ると、価格指数がドル円相場の変動と同様の推移を示すことはある程度、予想されることではあるが、 足 下で数量指数が輸出金額指数の変動と同じ傾向を示していることは注目されるべきものである。輸出金 額指数の変動に対して価格並びに数量の両指数が同様の傾向にあるということは、輸出金額の増減に 対して両指数間に程度の差はあるものの、寄与が認められるということである。 次にその増減状況の観点から実態の把握を行うこととする。 (2)増減状況 -近畿地区は輸出金額・数量ともに全国を上回る伸び- ①近畿地区と全国の状況 近畿地区の輸出の状況 (26/1~12)について指数(平成 22 年=100)を基準に前年同期と比較 すると、輸出 金 額指 数の増 減は+7.0%の増 加となっており、その構 成 内容 をみると価 格 指数 同+ 4.2%、数量指 数同+2.8%と試算される。一方、全 国の状況 をみると輸出金 額 指数は、同+4.8% で、価 格 指 数 同 +4.2%、数 量 指 数 同 +0.6%となっている。近 畿 地 区 、全 国 とも為 替 相 場 の変 動 による輸出金額の増加だけでなく、増加の程度に差はあるものの数量面でも増加しているとみられる (図表 4-2)。 ただし、数量 指 数の増 加については、米 国、中 国、アジアを中 心とした海外 需 要 の増加を背 景と して近畿地区が全国を 2.2%ポイント上回っており、数量効果に占める近畿地区のウェイトは大きい ものと想定される。 近畿 地 区には、例えば東 海地 区 等にみられるような輸送 用 機器 等の突 出した産業 は存 在しない が、むしろ産業ポートフォリオが適度 に分散していることが、現下の輸出金 額並びに数量をけん引し ている要因の一つであるともみられる。 【図表 4-2】 近畿地区・全国 輸出増加の内容 (単位:%) 平 成 22 年=100 近畿 地 区の数 量 指数 は全国 を上回る (出所) 財 務 省「貿 易統 計」、大 阪税 関「近 畿 圏貿 易 統計」により筆者 作 成 ②主要輸出品別の状況 貿易統 計の輸出品 分類にしたがって近畿地区の主 要 輸出 品について増加の内 容を区分すると、 図表 4-3 の状況となる。 -4- 電気機 器、化学 製品 をみると数量指数 は、前期 比 4~6%のプラスとなっており、価格指 数の上 昇もあり、いわゆる数量 効 果並 びに価 格 効 果により近畿 地 区の輸出を けん引 している品目 であると いえるであろう。なお、増加寄与度は、電気機器が化学製品を上回っている。 一方、輸送用機器、 原 料 別製 品 、一 般 機 械 の輸 出 金額 は増 加しているものの、その内 容 をみると数 量 指 数の増減 は、 おおむねゼロ近傍にあり、主に価格指数の上昇による効果であるとみられる。 【図表 4-3】 近畿地区 輸出品別増加の内容 (単位:%) 平 成 22 年=100 (出所) 財 務 省「貿 易統 計」、大 阪税 関「近 畿 圏貿 易 統計」により筆者 作 成 ③品目別の状況 上記の輸出品別の状況からはおおむね産業区分での傾向値が現れているが、 数量指数の伸び が高い電気機器と化学製品についてより詳細に個別品目をみることとする。これらのうち、輸出金額 ベースで増加寄与度の高い品目をみると図表 4-4 のものがあげられる。 【図表 4-4】 近畿地区 品目別増加の内容 (単位:%) 平 成 22 年=100 主な詳細品目 ・半導体等電子部品 数 量 指 数 半導体デバイス、集積回路 ・科学光学機器 電子部品・デバイス 液晶デバイス、偏光材料シート ・プラスチック 化学製品 プラスチック製シート・フィルム ・有機化合物 (注) 円の大きさは輸出 額の規 模を示す。 プロピレン、スチレン 近畿地区の平均値の位置 (単位:%) 価格指数 (出所) 財 務 省「貿 易統 計」、大 阪税 関「近 畿 圏貿 易 統計」により筆者 作 成 -5- (電気機器) 半導体等電子部品 と科学光学機器 は、スマートフォン、タブレット、車載向け電子部品の需要増 加により数量増 加が顕著である。価格指数をみると液 晶デバイス等を含む科 学 光学機 器が近畿地 区の平 均 程 度 上 昇 しているのに対して半 導 体 等 電 子 部 品 は+ 1.5%に止 まっており、各 企 業 の価 格 戦 略 によるものか、グローバルマーケットでの価 格 圧 力によるものかは判 然 とはしないが、いずれ にしても数量を優先して輸出金額の増加を進めた結果であろうとみられる。 (化学製品) アクリル重 合体(紙 おむつの吸収 体)を含むプラスチック並びに主に合 成 樹脂 等の原 材 料となる 有機化合物は、アジアだけでなく欧米での増加もあり、価格効果と数量効果をミックスさせた輸出行 動となっているとみられる。 生産動向と輸出金額の推移をみると特に電子部品・デバイスにおいて両 数値の伸びが顕著であり、 生産、輸出への波及がみられる。 上記産業の生産・輸出の状況 【図表 4-5】 電子部品・デバイス 【図表 4-6】 プラスチック 平 成 22 年=100 平 成 22 年=100 (注) 生産 、輸出 は 12 月 速 報値 にて作成 (出所) 大 阪 税関「近畿 圏 貿易 統計」、近畿 経済 産 業局 「鉱工 業指 数」により筆 者作 成 -6- (参考事項) 近畿地区の各指数の算出等において本レポートで採用した方法について (前提条件) ・基準年は平成 22 年=100 ・価格裁定効果を勘案し、全国ベースの価格指数を使用 ・「輸出金額 指数増減率=価格 指数増減率+数量 指数増減率」の関係から価格指数と数量指数増 減率をその効果とした。 1.各指数の算出 ①輸出金額指数 22 年の輸出金額を 100 とし、上記期間の月別輸出金額の指数を算出 ②価格指数 「貿易統計」貿易指数表の価格指数を使用 ③数量指数 上記①の輸出金額指数を②価格指数で除し算出 2.効果の算定 ①比較対象期間 26 年 1~12 月と前年同期を比較 ②輸出額の増加率 上記 1.①を用い期間平均を比較し増減率を算出 ③価格効果の算出 上記 1.②を用い期間平均を比較し増減率を算出 (前提条件により全国の価格指数を採用) ④数量効果の算出 上記 1.③を用い期間平均を比較し増減率を算出 3.輸出品別等の効果算定 上記 1~2 の算出方法に同じ -7-
© Copyright 2024 ExpyDoc