● 表紙写真 左:イチゴ栽培中のベッドでメロンを間作している現地圃場(館山市) 右:収穫適期の「レノン」果実 1.はじめに イチゴの促成栽培では、5月に収穫が終わった後、9月の定植まで圃場が空いた状 態となります。この期間に、イチゴ栽培中のベッドを利用したメロンの間作を行うこ とで、商品性の高いメロンを生産することができます。3月下旬から4月中旬にイチ ゴの一部を間引いてメロンを定植し、6月下旬から7月中旬に収穫する作型が可能で す(図1) 。ここでは、メロン栽培のポイントについて紹介します。 月旬 上 2月 中 下 3月 4月 上 中 下 上 中 下 ○ メロン栽培 イチゴ栽培 ○ ● ● 誘 引 ・ 整 枝 病 害 虫 防 除 交 配 ( 定 植 ・ 置 肥 メロン栽培 ミ ツ バ チ ) 収 穫 イチゴ栽培 8月 9月 上 中 下 上 中 下 △ 播 種 主 な 作 業 ● 5月 6月 7月 上 中 下 上 中 下 上 中 下 病 害 虫 防 除 親 株 植 付 け 玉 選 び ・ 玉 吊 り 病 害 虫 防 除 収 片 穫 づ 終 け 了 収 穫 片 づ け ・ 耕 う ん 土 壌 消 毒 育 苗 開 始 土 壌 消 毒 終 了 苗 増 殖 終 了 畦 定 立 植 て 図1 イチゴ栽培ベッドを利用したメロンの間作体系 注)○:播種、●:定植、□:収穫、△:イチゴ親株植付け、■:イチゴ育苗 2.栽培のポイント (1)品種 TL タカミ 肥後グリーン レノン 「TL タカミ」 ( (公財)園芸植物 育種研究所) 、 「肥後グリーン」 (松 井農園(株) ) 、 「レノン」 (タキイ 種苗(株) )など、つる割病とうど んこ病に抵抗性を持ち、耐暑性が 強く、大果で高糖度の品種が適し ています(写真1) 。 写真1 イチゴ後地に適する品種の果実外観と果肉色 (2)播種・育苗 3月上旬~中旬に、 30cm 四方の5×5連結 ポットに育苗培土 (げんきくん果菜 200 など) を入れ、メロンを1粒ずつ1cm の深さに播種 します。播種後はたっぷりかん水し、温室内 で暖房または電熱温床を利用して、発芽まで 地温を 25~30℃に保ちます。発芽後は光をた っぷり当て、日中の気温は 28~32℃、夜間は 18~20℃で育苗します。本葉1枚展開後、曇 天日にかん水を控えて培土表面を軽く乾かす ことで、根張りを良好にできます。播種後 20 写真2 定植適期の苗(播種後 23 日目) ~25 日で本葉2枚の定植苗が得られます(写 真2) 。 (3)定植 土耕ベッドに2条植えで栽培中のイ チゴのうち、片側1条の株を 60~100cm 間隔(3~5株に1株の割合)で間引き ます。間引いた場所に植え穴を作り、メ ロンの苗を定植します(写真3) 。栽植株 数は 10a当たり 700~1,300 株(収穫果 数 1,400~2,600 個)とします。定植後は たっぷりかん水し、基肥として粒状化成 肥料(くみあいエコ化成 888 など)を株 当たり窒素成分量で 0.1gずつ株元に置 写真3 イチゴを間引いた場所に定植した苗 肥します。 (4)定植後の管理 イチゴ用のかん水チューブを利用して定期的にかん水します。子葉は病害が発生し やすいので、活着後直ちに清潔なカミソリで切り落とします。イチゴ栽培を優先した 温度管理とし、日中の気温は 22~25℃、最低気温は7~8℃とします。 (5)誘引・整枝 メロンの親づるは、支柱または誘 引ひもを利用して上方に誘引します。 支柱より誘引ひもの方が低コストで す。仕立て方は、親づる1本仕立て の2果収穫が適します。子づるは 11 節目まで摘除し、12~15 節目の子づ るのうち、雌花(両性花)が着生し ている子づるを3~4本選んで残し ます(図2) 。親づるは、着果節位か ら上位 10~12 枚の葉を残し、25 節 前後で摘心します。 図2 メロンの整枝方法 (6)交配 注)葉上の数字は親づるの節位を示す イチゴ交配用のミツバチを流用して、5月上旬~中旬にメロンを交配します。天気 の悪い日はミツバチが飛びませんので、午前中に手で交配を行います。交配日をラベ ルに書き、果実ごとに交配後日数が分かるように管理します。 (7)交配後の管理 図2に示したとおり、着果した4果のうち、 やや縦長で肥大が良い果実を2果選んで残し、 子づるは2節目で摘心します。果実が鶏卵玉の 大きさになったら、誘引ひもで玉吊りを行いま す。 最上位節の子づるを1本だけ残して放任し、 長くなったら1芽残しながら切り戻すことで、 収穫期まで草勢を強く保つことができます。株 間のイチゴは収穫が終わり次第、ベッドを崩さ ないよう地上部を刈り取って処分します。 栽培後半のメロンは、土耕ベッド内の残肥を 吸収するため、 基本的に追肥は必要ありません。 葉色が淡い場合には、水溶性肥料(OK-F-1 など) の液肥を、 1回につき株当たり窒素成分量で1g 写真4 交配後 35 日頃のメロン 分をかん注します。写真4のとおり、ネット形成が終了する交配後 35 日頃まではかん 水量をやや多めとし、その後は徐々に減らして果実の糖度を高めます。ハウス内の気 温は、35℃を超えないように管理します。 (8)病害虫防除 本作型における病害虫の発生は軽微ですが、 アブラムシ、ハダニ、うどんこ病が発生し、メ ロンへ被害を及ぼす場合があります。特にハダ ニの被害(写真5)は、イチゴからメロンへ拡 がる場合があるため、メロンの定植前に集中し て防除することが重要です。イチゴの栽培で硫 黄くん蒸器を使用している場合は、メロンの栽 培にも引き続き使用することで、ハダニやうど んこ病の発生を抑制することができます。薬剤 写真5 ハダニの吸汁害により黄化した葉 散布による防除の場合、イチゴとメロンを同時に栽培している間は、両作物に登録・ 適用のある農薬のみが使用でき、収穫前日数に留意する必要があります。 (9)収穫 交配後 53~58 日で収穫となります。 結果枝先端の葉の黄化(写真6)と、果 梗部の離層形成も収穫適期の目安となり ます。 館山市のイチゴ圃場で栽培した「TL タカミ」 、 「肥後グリーン」 、 「レノン」の 果実特性を表1に示します。糖度は 14~ 18 度と高く、果重は2kg 前後の大果で、 写真6 収穫適期の「TL タカミ」果実 注)矢印は結果枝先端の葉の黄化 商品性の高い果実が収穫できます。 表1 館山市のイチゴ土耕ベッドで間作したメロンの果実特性 品種名 販売元 TLタカミ (公財)園芸植物育種研究所 肥後グリーン 松井農園(株) レノン タキイ種苗(株) 果肉色 淡緑 淡緑 橙赤 果重 (kg) 1.5~2.5 1.7~2.5 1.8~2.5 糖度 (Brix) 14~17 15~18 14~16 収穫の目安 (交配後日数) 53~55日 55~58日 55~58日 (10)収穫後の管理 収穫終了後は速やかにメロンの株を片づけ、秋のイチゴ栽培に向けて土壌消毒を行 います。期間は太陽熱消毒で1か月間、土壌消毒剤(クロルピクリンなど)による消 毒で2週間が必要です。 (11)経営上の留意点 3月下旬~4月中旬にメロンを定植する際、イチゴの株を一部間引くことでイチゴ 生産の収益がわずかに減少しますが、メロン生産による増収分が大きく上回ります。 メロンの玉選び・玉吊りと収穫は短期間に作業が集中する上、これらの時期はイチゴ の育苗が重なることから、状況に応じて雇用労力を活用することが必要です。 3.終わりに イチゴ栽培中のベッドを利用したメロンの間作では、市場出荷や直売向けの生産に 加え、観光メロン狩りも可能です(写真7) 。早春のイチゴ狩りに加えて、夏季の観光・ 直売用にメロンを生産することで、 新たな観光需要の創出に寄与することができます。 本作型のメリットとして、 (1)大果・高糖度で商品性の高いメロンが得られる、 (2) イチゴ栽培用の資材(マルチ、かん水チューブ、ミツバチ、硫黄くん蒸器など)を流 用できる、 (3)土壌消毒期間を確保できるため秋のイチゴ栽培に支障が出ない、 (4) 慣行のメロン栽培よりも減肥できる、 (5)病害虫の発生が少ない点が挙げられます。 今後、 イチゴ圃場の利用効率が高まるとともに、 メロン生産量の増加が期待されます。 写真7 イチゴ栽培ベッドを利用したメロン狩り実施圃場(館山市)
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