「65 歳問題」に関する厚労省

(コメンTOMO
2015 年 2 月 20 日)
【No.116】
生きるために不可欠の支援を選べない実態は明らかになったか
~「65 歳問題」に関する厚労省調査結果より~
【
「65 歳問題」について厚労省が初めての調査】
障害のある人が障害のない人と同じように生きるには、ホームヘルプや移動の支援、働く場や暮らし
の場など多様な支援が必要だ。これらの多くは障害者総合支援法という法律に基づいて提供され、原則
1割の利用料については住民税非課税の人は無料とするなどの減免措置が講じられている。
ところが、65 歳になるとこうした支援の出所となる法律が障害者総合支援法から介護保険法に変わる
ことになっている。介護保険では要介護区分ごとに支給量の上限が決められているので、長時間のホー
ムヘルプなどで命をつないできた人が 65 歳を境に十分な支援が受けられなくなるといった事態が表面化
したのだ。また、介護保険では利用料は減免されないので一気に一割の負担を課せられるようになり、
必要な支援を断念せざるを得ない人も出てきた。このように、障害福祉から介護保険に強制的に移され
ることで支援の量が減ったり利用料が大幅に増えたりするのが「65 歳問題」で、このため障害のある人
は生きるために不可欠の支援を自分で決めることができないでいる。
厚労省は市町村に対して、介護保険への移行を機械的に行なわないよう通知を出しているが、昨年8
月、その運用状況に関する抽出調査を行ない、2月 18 日に結果を公表した。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000074274.html
けれども、この調査結果を読んだだけではどうもモヤモヤした気分が晴れない。そこで、当会が昨年
9 月 に 発 表 し た 「 介 護 保 険 優 先 原 則 に よ る 利 用 者 へ の 影 響 調 査 の 結 果 」
(http://www.kyosaren.com/aboutKyosaren/cat3/)から見えてきたことなどを踏まえて、今回の厚労省
の調査結果では見えてこない重要な視点について考えてみたいと思う。
【自治体の抽出による調査でよいのだろうか】
まずは調査対象の自治体の抽出方法はよかったのだろうか。今回は全指定都市(20、
うち回答数は 20)、
全中核市(43、うち回答数は 34)と以下の方法で抽出された市町村(222、うち回答数は 205)の計 285
(うち回答数は 259、回答率 90.9%)だった。
・都道府県内の市(特別区含む)から人口の多い順に2市
・都道府県内の街から人口の多い順に2町
・都道府県内の村から人口の多い順に1村
つまり比較的規模の大きな自治体の傾向をつかんだということのようだが、人口によって財政規模も
違うから、障害福祉分野に投じるヒトとカネも変わってくる。だとすると、人口規模の小さな市町村も
調査対象として、規模によって利用状況が異なるのかどうかなどについても把握する必要があるだろう。
さらに言えば障害施策についても市町村格差が広がっていることから、今回のような抽出調査をもっ
て全体傾向を推しはかることが難しくなっている。この問題の深刻さを考えれば、あらためて全自治体
調査を行なう必要があるのではないだろうか。
【利用者負担が発生したことの影響の把握を】
今回の調査では介護保険に移行したことで利用者負担が発生したことの影響については把握されてい
ない。最後に「自治体意見」として 33 の市町村から「介護保険移行に伴う利用者負担の発生及び増大が
理解を得にくい」との回答があったことが示されているだけだ。
この調査結果だけをみれば利用者負担についてのインパクトは小さいように思えるが、当会の調査に
よると、65 歳を超えた訪問系支援利用者の約 86%、日中活動支援利用者の約 23%に介護保険の1割負
担が発生している。この人たちの多くが 64 歳までは無料で支援を受けていたことを考えれば、そのこと
によるマイナスの影響は決して小さくない。この点についても、ぜひとも実態を把握する必要があるの
ではないだろうか。
【支援を打ち切られた人はいなかったのだろうか】
今回の調査ではサービスを打ち切られた人がいるのか、いないのかもはっきりしない。
「調査内容」に
は「65 歳以上で介護保険サービスと障害福祉サービスの併給をしている者、障害福祉サービスのみを利
用している者の割合」とあるから、65 歳になって支援を打ち切られた人はそもそも調査の対象外のよう
だ。これではこの問題の本質には迫れない。
また、
「障害福祉サービス利用人数(65 歳以上)
」全体が 34,400 人で、その内訳は「併給人数」12,198
人(35.7%)と「障害福祉サービスのみ利用人数」21,953 人(64.3%)で内訳の合計は 34,151 人となっ
ている。その差、249 人(約 0.7%)については「内訳について不明としている自治体があるから、内訳
の合計と全体数は一致しない」といった趣旨が注釈に書かれているが、それだけだろうか。当会の調査
では有効回答を寄せた人のうち 1.7%が支援を打ち切られていることを考えれば、この 0.7%を単なる誤
差とする前に、その内容を精査する必要があるように思う。
【
「障害福祉サービス利用人数(65 歳以上)」に隠れている実態の深掘りを】
また、先ほどの「障害福祉サービス利用人数(65 歳以上)」とその内訳からは、大まかに言って「併給」
が約三分の一で、
「障害福祉サービスのみ利用」が約三分の二となり、これでほとんどの人が支援を受け
ているようにも見えるが、ここはよく考えないといけないように思う。
当会の調査では、日中活動支援分野では 65 歳以上の人の内訳について同様の傾向が見られたが、訪問
支援分野では逆に「介護保険併用者」が三分の二強を占め、「障害福祉打切者」が 21.5%、「障害福祉単
独利用」が 8.6%とまったく異なる結果が浮かびあがっている。だとすると、厚労省調査で約三分の二と
された「障害福祉サービスのみ利用」の人たちの、ホームヘルプ等訪問支援分野の利用状況の変化など
も深掘りして見る必要があるのではないだろうか。
具体的には「障害福祉サービスのみ利用人数」21,953 人のうち、
「障害福祉サービス固有のものである
ため」という人が 6,514 人いるが、この人たちの多くは日中活動系の支援を利用していると推測される。
そしてこの人たちは 65 歳になって、仮にそれまで利用していたホームヘルプを打ち切られて生活上の困
難が増えたとしても、日中活動系の支援を受けていれば同じ枠組みにカウントされる。このように今回
の調査結果には表れてこない厳しい実態にこそ、目を向ける必要がある。
【障害者総合支援法3年後見直しは正確な実態をもとに権利条約実現の観点から】
おりしも、障害者総合支援法の3年後見直し作業が本格化している。来週2月 23 日には「障害福祉サ
ービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ『高齢の障害者に対する支援の在り方
に関する論点整理のための作業チーム』
」の第1回会合が開催され、65 歳問題についても論点が整理され
る見込みだ。
その際に、今回の厚労省の調査結果も資料として提供されるだろう。これを読んでモヤモヤした気分
が晴れないのは、多分、障害のある人が生きるための支援を自分で決められないという苦しい現実が見
えてこないからだと思う。作業チームでの議論では、ぜひ、示された数字だけでは見えてこない本当の
実態に目を向け、
「自ら選択する自由」を原則に掲げる障害者権利条約の批准国にふさわしい見直しにつ
なげていただきたい。
最後に、全国の障害のあるみなさんや支援を提供する事業所などのみなさんは、今回の調査結果をど
う読まれただろうか。ご自身の実感とは乖離している場合には、市町村を通じて厚労省に意見を届けて
はどうだろうか。また、きょうされん事務局にもぜひともご一報いただきたい。
(英 TOMO)