No.34~2015年は、日米同時に「ゴールデン・サイクル」

景気循環研究所
嶋中雄二の景気サイクル最前線
No.34 2015 年 2 月 16 日
2015 年は、日米同時に「ゴールデン・サイクル」へ
日経平均の「ゴールデン・クロス」と日本経済の「ゴールデン・サイクル」
株式相場などで広く用いられている、チャートによる楽観的なサインの点灯例としては、
「ゴ
ールデン・クロス」がある。日々線が 20 日移動平均線を下から上に切った後、20 日移動平均線
が 90 日移動平均線を下から上に切り、そしてその 90 日移動平均線が最も長い 200 日移動平均
線を下から上に切る。米国のチャート分析家のジョセフ・E・グランビルが開発したのが、相場
予測のために各種移動平均線の交差を点検する手法だ。移動平均線には、まだいろいろな長さ
のものがあるから一概にはいえないが、例えば現状の日経平均株価 225 種は、最長の 200 日移
動平均線を中期の 90 日移動平均線が、2012 年 12 月以降、一貫して上回って推移しており、
「ゴ
ールデン・クロス」を形成した状態にあるといえよう(図 1)。
図1. 日経平均株価 225 種の推移
23000
18215.35 18261.98
17563.37 (2/26)
(7/9)
(4/7)
19000
15000
11979.85
(5/23)
12163.89 11966.69
11161.71 (4/26)
(3/9)
(10/20)
11000 11819.70
(3/13)
9420.85
(2/6)
7000
5000
01
02
7607.88
(4/28)
03
16642.25
(3/5)
200日 移動平 均
16291.31
(12/30)
11787.51
(3/17)
05
06
9081.52 8824.06
8295.63
8605.15
7162.90
(11/27) (8/31)
8160.01 (6/4)
(10/27) 7054.98
(3/15)
(11/25)
(3/10)
07
08
09
10
11
12
13
18004.77
(+91.41)
20 日移動平均
15627.26
(5/22)
11339.30
10597.33
(4/5)
10857.53 10137.73 10255.15
(8/14)
(2/21) (7/8)
(3/27)
14218.60
(6/13)
10505.05 10825.39
9614.60 (5/17)
(5/17)
(11/19)
04
18004.77
(2/16)
90日移動 平均
14489.44
(6/6)
14529.41
(5/7)
13000
9000
日経平均株価
20日移動 平均
21000
17000
2/16
日 経平均 株価 225種
17620.47
13910.16
(4/14)
12445.38
(6/13)
16914.47
200 日移動平均
ゴールデン・クロス
12 年 12 月 25 日
14
90 日移動平均
15969.45
15
(注)終値。
このゴールデン・クロスという用語は、反対概念の「デッド・クロス」と共に、著名な証券
アナリストで、景気循環学会会員でもある吉見俊彦氏が考案したといわれている。一方、この
用語とよく混同されるのが、私の「ゴールデン・サイクル」論である。ゴールデン・クロスと
は異なり、景気循環のゴールデン・サイクルは、米国の経済学者ジョセフ・A・シュンペータ
ーやアルビン・H・ハンセンによる、いわゆる「複合循環」論を基礎にして、私が考案したも
のである。シュンペーターは、1930 年代米国の大恐慌を、キッチン、ジュグラー、コンドラチ
ェフの 3 つのサイクルがすべて下降していたために発生したと考えた。これは、いわば「デッ
ド・クロス」ならぬ「デッド・サイクル」ということになろう。私は、1875 年以降の日本経済
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
1
について、短期(キッチン、4.4 年周期)、中期(ジュグラー、9.4 年周期)、長期(クズネ
ッツ、25.5 年周期)、超長期(コンドラチェフ、56.5 年周期)の 4 つの景気循環がすべて上昇
で重なる状態になることをゴールデン・サイクルと名づけた。そして現在、2014 年、15 年の
日本経済がゴールデン・サイクルにあることは既にいろいろな場所で説いてきたところである
(図 2)。
(%)
6
図2.日本の名目設備投資/名目GDP比率の複合循環~ゴールデン・サイクル~
1940
5
周期3~8年の波
(短期循環=キッチン・サイクル:4.4年)
周期12~40年の波
(長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年)
4
1990
3
1918
2
1967
1893
1974
1
1916
0
1916
2014~15?
1960~61
1967
1957
-1
1946
1904~05
2001
1903
-2
-3
周期8~12年の波
(中期循環=ジュグラー・サイクル:9.4年)
-4
2010
1980
周期40~70年の波
(超長期循環=コンドラチェフ・サイクル:56.5年)
1930
1950
-5
(年)
1885
1900
1915
1930
1945
1960
1975
1990
2005
(注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~10-12 月期平均値。 3~8 年、8~12 年、12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。
(資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。
嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」東洋経済新報社、2013 年。
ところで、このように「短、中、長、超長期の 4 つの波が、すべて上昇で重なる」ゴールデ
ン・サイクルに比べ、
「中、長、超長期の 3 つの波が上昇で重なる」シルバー・サイクルや「長、
超長期の 2 つの波が上昇で重なる」ブロンズ・サイクル(いずれも嶋中が命名)が何か劣って
いるのかといえば、けっしてそういう訳ではない(図 3、図 4)。
図3. 日本の名目設備投資/名目GDP比率の複合循環~シルバー・サイクル~
(%)
6
1940
5
周期12~40年の波
(長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年)
4
1990
3
1918
2
1961
1908
1893
1967
1974
1916
1
2017?
0
-1
2012
1946
1903
-2
1913
-3
1956
周期8~12年の波
(中期循環=ジュグラー・サイクル:9.4年)
-4
1930
1900
1915
2010
1966
1980
周期40~70年の波
(超長期循環=コンドラチェフ・サイ クル:56.5年)
1950
-5
1885
2001
1930
1945
1960
1975
1990
2005
(年)
(注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~10-12 月期平均値。 8~12 年、12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。
(資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。
嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」東洋経済新報社、2013 年。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
2
図4. 日本の名目設備投資/名目 GDP 比率の複合循環~ブロンズ・サイクル~
(%)
6
1940
5
周期40~70年の波
(超長期循環=コンドラチェフ・サイ クル:56.5年)
周期12~40年の波
(長期循環=クズネッツ・サイクル:25.5年)
4
1990
3
「ALWAYS 三丁目
の夕日」の時代
1918
2
1967
1893
1916
1
2023?
1974
0
第3の
歴史的勃興期?
-1
1946
1903
-2
-3
「坂の上の雲」
の時代
1904-1916年
-4
1904年日露戦争
1951-1967年
1900
1915
1930
1930
1980
1950
1945
2010
2011-2023年?
2011年東日本大震災
2012年アベノミクス
2020年東京五輪
1951年サンフランシスコ講和条約
-5
1885
2001
「復興から
高度成長」の時代
1964年東京五輪
1960
1975
1990
2005
(年)
(注)暦年、直近は 14 年 1-3 月期~10-12 月期平均値。 12~40 年、40~70 年の波はバンドパス・フィルターにより抽出。
(資料)大川一司他『国民所得』(長期経済統計1)東洋経済新報社、1974 年、内閣府『国民経済計算』をもとに
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。
嶋中雄二「これから日本は 4 つの景気循環がすべて重なる。ゴールデン・サイクルⅡ」東洋経済新報社、2013 年。
橋本脩一『企業者精神と長期景気循環-「平成の坂の上の雲」は始まっている-』日本経済新聞出版社/日経事業出版センター、2014 年。
むしろ、チャート的な考え方に立てば、ブロンズ・サイクルこそが、景気循環のゴールデン・
クロスに近似した現象(ブロンズ・サイクルは長期と超長期の景気循環が「どちらも上昇して
いる」期間をいうので、2 つの曲線が「交差」した時点を、相場上昇の確認サインとするゴー
ルデン・クロスとは、正確には同じではない)であり、経済の長期的な先行きに明るいサイン
が点灯したという重大な転機であるといえるのだ。短期や中期の上昇局面はたかだか 2.2 年か
ら 4.7 年程度であるが、長期のクズネッツ・サイクルと超長期のコンドラチェフ・サイクルの
上昇局面が重なる場合は、基本的にクズネッツ・サイクルの上昇局面の長さである平均 13 年
間の上昇が保証されると考えられる、という意味で、はるかに根本的な変化であるからだ。つ
まり、ゴールデン・サイクルはキラキラとした装飾品の輝きを与えてくれるが、ブロンズ・サ
イクルあるいは近似的なものとしてのゴールデン・クロスは、重厚な赤銅の頑丈さを与えてく
れるものであると表現してもよい。
日本は 2011 年以降、
「ブロンズ・サイクル」へ
ここで、1885 年以降における日本のブロンズ・サイクルについて見てみると、第 1 回目が、
1904 年日露戦争勃発から 1916 年の第 1 次世界大戦の最中までの 13 年間であった。司馬遼太郎
の小説『坂の上の雲』の時代であり、日本人が皆、坂の上に浮かぶ神々しい未来を仰ぎ見てい
た頃である。第 2 回目のブロンズ・サイクルには、第 2 次世界大戦後、日本が 1951 年のサンフ
ランシスコ講和条約による独立から 1967 年の「いざなぎ景気」の最中までの、復興から高度
成長期への 17 年間であり、この時代も、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で見事に再現された、
坂本九歌唱の『上を向いて歩こう』(永六輔作詞・中村八大作曲)にも象徴されるような、日
本人が再び明るい未来を夢見た時代であった。もっとも、「上を向く」理由は「涙がこぼれな
いように」であるが、「幸せは雲の上に」とのくだりもあった。
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
3
そして、1990 年代のバブル崩壊以降の「失われた 20 年」を経た後、2011 年の東日本大震災
からの復興、2012 年末からのアベノミクスの実施、そして 2020 年の東京五輪へと向かい、2023
年までの 13 年間が、日本人にとって、第 3 回目の「上を仰ぎ見る」歴史的勃興期となること
ができるかが現状の課題となるのである。時あたかも、2013 年にはまるでクズネッツ・サイク
ルを体現しているような伊勢神宮の 20 年周期の「式年遷宮」と 60 年周期の「おかげ参り」、
さらには出雲大社の 60 年周期の「平成の大遷宮」が重なり、翌 2014 年には、前年に 2020 年
東京五輪誘致に尽力された高円宮妃久子様の次女・高円宮典子様が、何と出雲大社の宮司の千
家国麿氏と結婚されるという、大変おめでたい出来事があった。こうしたことは、日本人なら、
おそらく誰しも、日本神話の世界を想起しないではいられない慶事であったといえよう。
米国もゴールデン・サイクルへ
ここまで日本のことを説明してきたが、米国についてはどのようなことがいえるのだろうか。
1945 年から 2014 年までのデータで見ると、米国経済は 2014 年現在、シルバー・サイクルの
状況にある(図 5)。短期(4.4 年周期)、中期(8.5 年周期)、長期(14.9 年周期)、超長期(52.0
年周期)の各サイクルのうち、2012 年を山とする短期循環のみが 14 年まで下降したが、他の
3 つのサイクルはすべて上昇するシルバー・サイクルとなっている。短期循環の下降局面は平
均 2.2 年なので、15 年からは上昇局面に入る可能性が大きく、その場合は、米国経済もゴール
デン・サイクル入りすることになる。
(%)
図5 .米国の名目設備投資/名目 GDP 比率の複合循環
1.5
1982
周期8~12年の波
(中期循環=ジュグラー・サイクル:8.5年)
周期3~8年の波
(短期循環=キッチン・サイクル:4.4年)
1.0
2000
19831985
1957
1956
1960
0.5
1950
0.0
1966
1962
1952
1973
1968
1987
1992
1974
1985
1971
1957
‐1.0
1976
1980
1964 1968
1961
2012
2000
1989
1980
1970
1958
1955
‐0.5
1978
2007
1994
1981
1969
1955
1953
1952
1949
1950
1989
1973
1966
2007
1998
周期40~70年の波
(超長期循環=コンドラチェフ・サイクル:52.0年)
1976
1983
1998
1994
2003
2003
2009
2009
2012
2010
周期12~40年の波
(長期循環=クズネッツ・サイクル:14.9年)
1991
‐1.5
1945
1955
1965
1975
1985
1995
(注)直近は 14 年。1947 年以降のデータをもとにバンドパス・フィルターにより抽出。
(資料)米商務省資料などをもとに三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成。
2005
2015
(年)
しかし、それ以上に、長期循環と超長期循環がいずれも、リーマン・ショック後の 2009 年
に底入れして翌 2010 年から同時に上昇局面に入り、ブロンズ・サイクルとなっていることが
注目される。ゴールデン・クロスもほぼ同時に起こっている。米国のブロンズ・サイクルは、
過去にも 1963~66 年と 1975~82 年の 2 回起きているが、いずれも長期循環が小ぶりであった
巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
4
ため、今回の方がより本格的なものとなりそうだ。このように、2010 年ないし 11 年以降、日
米経済はほぼ同時に、長期のクズネッツ・サイクルと超長期循環のコンドラチェフ・サイクル
が上昇局面で重なるブロンズ・サイクルに入っており、しかも 2015 年は日米同時のゴールデ
ン・サイクルとなる。今後予想される日米経済の上昇が、どのような軌跡を描いて行くかが楽
しみになってくるのである。
(以上)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所
東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング
参与 景気循環研究所長
嶋中 雄二
03-6213-6571
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巻末に重要なお知らせを記載、ご参照下さい。
5
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