7. GNSS (Global Navigation Satellite System)

7. GNSS (Global Navigation Satellite System)
7.0 GNSS とは何か?
GNSS (Global Navigation Satellite System)
GPS (Global Positioning System, USA):最も popular. 事実上の標準.
GLONASS (Russia):最近は地理院の GEONET でも受信している.
Galileo (EU)
Compass (Beidou 北斗, China)
QZSS (Quasi Zenith Satellite System) 「みちびき」
「自分がどこにいるのか」・・・海上では問題
昔は星の観測が頼り
→人工衛星からの電波を利用しよう
1970 年代から開発→1990 年代から民間利用
7.1 GPS 衛星の構成
6 つの軌道面、60°毎のΩがあり、それぞれの軌道面に 4~5 機以上飛んでいる。
全部で 2~30 機。離心率 e=0.003(ほぼ円軌道)、周回周期 0.5 恒星日、高度
20183km である。GPS 衛星はマイクロ波の信号を発信しながら飛ぶ。
7.2 単独測位の原理
全ての GPS 衛星には Cs/Rb の原子時計が搭載されている。S1 が t=ts に信号を
発信して、t=t1 に R で受信するとする。
ρ!! = c t! − t !
同様に S2、S3 からの信号を受信したとすると、
ρ!! = c t ! − t ! 、ρ!! = c t ! − t !
ただし、受信機側には精密な時計はなく、GPS 衛星と受信機で時刻は同期して
いない。このズレδ! も未知数である。
X!! − X! = c t! − t ! + δ!
X!! − X! = c t ! − t ! + δ!
X!! − X! = c t ! − t ! + δ!
X!! − X! = c t ! − t ! + δ!
未知数 4 つなので、最低 4 つの衛星観測が必要。
7.3 GPS 衛星からの信号の実際
マイクロ波を用いる GPS に限らず、ラジオテレビ等各種の放送の電波でも正
弦波のままでは「情報」を運ぶことはできない。なんらかの「変調」(modulation)
が必要で,受信機側でその情報を取り出すために「復調」している。(例. AM:
Amplitude Modulation, FM: Frequency Modulation)
「搬送波」=正弦波のこと. Carrier wave(単に Carrier(キャリア))と呼ぶ.
GPS ではこの波長が L1(1.5GHz, λ=19cm)と L2(1.2GHz,λ=24cm)の二種類が
ある.
「コード(測位符号)」: +1と-1 のように一見ランダムに見える「疑似ランダム
ノイズ(Pseudo Random Noise/PRN)」で搬送波が「位相変調」される.この PRN
が各衛星によって決まっているので,受信機は衛星を識別できる.PRN は 1023
チップからなり,これを 1ms(ミリ秒)つまり距離にして 300km 分ずつ繰り返す.
「航法データ」
:衛星軌道データや衛星自身の状態などの各種情報のことで、こ
れが常に 20000km 上空から「放送」されている.一定時間毎に更新される.
コードと航法データが二重に搬送波に載せられている.
7.4 相対測位(干渉測位)
衛星受信機間の距離を「搬送波」の位相(サイクル数. 2πをかければ radian
単位の角度になる)で測る。
搬送波位相
Φ1A (t) = φ1 (t) − φ A (t) + N1A (単位はサイクル)
(1)
φ1 (t) : 時刻 t での受信機 1 での発信器の位相,
φ A (t) : 時刻 t で受信した A 衛星からの位相.
時刻 t の瞬間の衛星 A と受信機 1 との間の距離を ρ1A とすると, 時刻 t での 衛星 A そのものでの発信器の位相 φ SA (t) と φ A (t) の関係は以下のようになる.
ρ1A
φ (t) = φ (t − )
c
dφ A ρ A
= φ SA (t) − S 1
dt c
ρA
= φ SA (t) − f 1
c
A
A
S
よって Φ1A (t) = φ1 (t) − φ SA (t) +
ρ1A
+ N1A
λ
.
右辺の最初の二項は受信機と衛星の時刻 t での位相の差を表す.受信機と衛
星に時刻同期の誤差がまったく無く,また搬送波周波数も厳密に同じであれ
ば,この二項は無視できる.実際にはそうはいかない.搬送波周波数 f のズ
レは時計の同期誤差(ズレ)に含めて, φ1 (t) = f (t − δ t1 ), φ SA (t) = f (t − δ t A ) とす
ると Φ1A (t) =
ρ1A
+ N1A + f δ t A − f δ t1
λ
(1)’
と書ける.実際のデータには後述の電離層の効果,対流圏の効果も含まれる.
一つの観測点で,このようなデータを各衛星について 1 秒から 30 秒おきに
取得している.
上の式(1)’の右辺は,未知量が多いため,これだけでは観測点の座標を求
めることはできない:衛星の位置座標を既知としても.上の時刻同期の誤差
の未知量を減らすために,衛星 A と受信機 2 の位相データ Φ 2A (t) との差(「一
重差」とよぶ)と取って,δtA を cancel させる.衛星 B についても,受信機 1
と受信 2 の位相データを用いて,一重差をつくれば δtB は cancel できる.一
重差どうしをさらに引き算すると
A,B
Δ(Φ1A − Φ 2A ) − Δ(Φ1B − Φ 2B ) ≡ ΔΦ1,2
δt1 も δt2 も cancel させることができる.具体的な表式は
A,B
ΔΦ1,2
=
! !
! !
! !
1 !A !
1
( x − x1 − x A − x2 − x B − x1 + x B − x2 ) + (N1A − N 2A − N1B + N 2B ) λ
λ
となる.右辺の最後の項はまとめて一つの整数 NA,B1,2 と見なせる.左辺の二
重差を観測量として,受信機の座標(どこかは固定して,相対値とする)と整
数値 NA,B1,2 を求める.衛星 A, B…の座標値は軌道データ(「暦(れき)」とよぶ)
として与えられる.一つの左辺の位相データに対して,同位相の面は整数値
NA,B1,2 に応じて無数にあるが(配布資料の図参照),ある程度長時間の観測デ
ータがあれば,真の点座標だけは時間的に動かないので,一つに定めること
ができる.
最近では,二重差によらない「精密単独測位」とよばれる手法で,座標の
絶対値を求めることもある. 7.5 GPS で測れるもの
地面/物体の動き:広範な周波数帯域.
・電離層の電子数/対流圏の水蒸気量(可降水量)⇒屈折率 n(=c/v)の分布
c:光速、v:伝播速度
n=1+
N! q!!
2ε! m! ω!! − ω!
ε! :誘電率、m! :電子質量、q! : 電子の電荷
ω! :媒質中で束縛される電子の共鳴角振動数(ω = 2πf)
ω:外から媒質に入る電磁波の角振動数
N! :単位体積あたりの電子数(1/m! )
ω! マイクロ波のω
対流圏 10!" ~10!" Hz(紫外線領域) 10! ~10!" Hz ->事実上ωに依存しない
電離層 0 (“自由電子”) -> ω の逆二乗に依存(分散)
n ≠ 1なので真空に比べて、
∆S =
!
!∆!
n − 1 ds だけ見かけの距離変化を起こす。
電離層では、
a
N! q!!
n! = 1 − ! a = !
f
8π q! m!
a は正の量であり,屈折率は1より小さくなり,位相速度は光速よりも速い.
(群速度は光速よりも遅くなる)
∆S = −
!
!!
!
ds ∝ − !! N! ds 全電子数(TEC: Total Electric Content)
二つの周波数 f1 と f2 を用いた観測を行えば,TEC を測定することができる(い
わゆる「電離層補正」)
.実際に,GNSS の精密観測では L1=1.5GHz, L2=1.2GHz
が用いられているし,VLBI 測地においても S バンド, X バンドの二周波観測
が行われている.
一方,対流圏では、周波数f ω への依存性なしで, 2 周波観測は対流圏に対し
ては無効.以下のような半経験的な式がある:
P
e
e
N! = n − 1 ×10! = 77.6 − 5.6 + 373×10! !
T
T
T
但し、P: 気圧、T:温度、e:水蒸気分圧
P(hPa)、T(K)、e(hPa)は変動しやすい⇒補正が難しい
∆S! =
n − 1 ds = 10!!
GPS の他の応用例⇒積雪計、テポドン追跡
N! ds