答申第716号

別紙
諮問第902号
答
1
申
審査会の結論
「学校法人○○要請概要」ほか6件を一部開示とした決定は、妥当である。
2
異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下
「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「学校法人○○ないし○○会議と
東京都生活文化局私学部との2009年から2010年における話合いに使用した資料、話合
いの記録文書及び話合いに関する都での検討文書並びにそれらの資料、記録文書及び
検討文書に関連する文書(ただし、学校法人○○から提出されたものを除く。)」の開
示請求に対し、東京都知事が平成26年5月16日付けで行った一部開示決定について、
その取消しを求めるというものである。
(2)異議申立ての理由
異議申立書及び意見書における異議申立人の主張を要約すると、以下のとおりであ
る。
ア
条例7条2号には該当しない。
実施機関は、学校法人関係者の氏名は公表されていないため、個人に関する情報
で特定の個人を識別できるものであり、条例7条2号に該当すると主張する。
しかし、それ以外の学校法人関係者は、異議申立人の関係者であり、異議申立人
に識別されても何ら不便はない。よって、
「個人の権利利益を害するおそれがある」
とは言えないので、条例7条2号には該当しない(「個人の権利利益を害するおそ
れがある」は、明文としては同号後段の要件だが、同号前段「個人の特定」につい
ても、当然、個人の権利利益を害するおそれがある類型であるために開示しないと
- 1 -
の趣旨である。)。なお、学校法人関係者については、現在、情報公開についての同
意書を取り寄せ中である。
また、出席者氏名欄以外の非開示部分に記載された学校法人関係者氏名及び記録
内容についても、同じ理由で、条例7条2号には該当しない。
イ
条例7条3号には該当しない。
実施機関は「当該法人の名誉、社会的評価等の社会的地位が損なわれると認めら
れ得る」などとしている。
しかし、「対応記録」を開示するとどうして「名誉、社会的評価等の社会的地位
が損なわれる」のか、全く不可解である。そうだとしても、真実の内容であれば、
実施機関は「社会的地位が損なわれる」ことを甘受すべきというのが、民事・刑事
を問わず、名誉棄損についての法理である。実施機関は、自ら作成した記録に虚偽
の記載をしたとでも言うのであろうか。
しかも、本件は、「当該法人」たる異議申立人が申し立てているのであるから、
およそ条例7条3号には該当しない。
ウ
条例7条5号には該当しない。
現在係属中の訴訟事件は、2013年に提訴されたものであるのに対して、「対応記
録」は2010年のものであり、現在係属中の訴訟事件に係る(言及した)情報が記載
されているはずがない。また、「特定の者に不当に利益を与え、若しくは不利益を
及ぼすおそれがある」としているが、特定の者が誰なのかは特定されておらず、ど
のような利益や不利益を与えるのか、それがどうして不当なのか、何ら明らかにさ
れていない。不当であると言えない以上、開示することによって実施機関が不利益
を受けても、それは実施機関が甘受すべきであり、実施機関は自らに都合が悪いた
め開示したくないと言っているものにすぎない。
本来、「文書の記載内容からみて、そのおそれの存在することが具体的に認めら
れることが必要である。」というのが、民事訴訟における文書提出命令不許可の要
件に関する最高裁判決であるが、その理は、知る権利に淵源することから、情報開
示請求にも当てはまると言える。よって、具体的な「おそれ」がなければ、条例7
条5号該当性は認められないが、実施機関の主張は、何ら「おそれ」の具体性の根
- 2 -
拠とならないのであるから、実施機関の主張はおよそ認められない。
エ
条例7条6号には該当しない。
実施機関は、「訴訟に関する事務に関し、被告たる東京都の当事者としての地位
を不当に害するおそれがあるとともに、今後の当該法人に対する適正な監督に支障
を及ぼすおそれがある」などとしているが、どうして「東京都の当事者としての地
位を不当に害するおそれがある」のか、どうして「今後の当該法人に対する適正な
監督に支障を及ぼすおそれがある」のか、全く明らかにされていない。要するに、
実施機関は、単に根拠なく結論を述べているのみである。
さらに、実施機関は、「対応記録」を「開示することにより、今後の指導事務に
おいて指導すべき法人が具体的な情報の提供等に消極的になることが想定され、そ
のことで正確な事実の把握が困難となり、法人に対する適正・的確な指導が遂行で
きなくなる」とする。
実施機関は、本件が先例となって全ての「対応記録」が開示されることになると
心配しているようだが、本件は単なる法人に対する指導でなく、特別な例であり、
しかも、自らの交渉に関する内容であるから実質的には自己情報であり、一般的な
先例とはならない。その点で、実施機関の心配は杞憂に過ぎない。
条例7条5号について述べたところと同様、本来、具体的・現実的な「おそれ」
がなければ、条例7条6号該当性は認められないが、実施機関の主張は、何ら「お
それ」の具体性の根拠とならないのであるから、実施機関の主張はおよそ認められ
ない。
以上から、本件対象文書を全面的に開示されたい。
3
異議申立てに対する実施機関の説明要旨
理由説明書及び口頭による説明における実施機関の主張を要約すると、以下のとおり
である。
私立学校法(昭和24年法律第270号)4条において、専修学校及び専修学校を設置す
る学校法人の所轄庁は都道府県知事とされ、本件対象公文書には、実施機関である東京
都生活文化局私学部が、学校法人の所轄庁として学校法人○○に対応した内容が記録さ
- 3 -
れている。
第一に、本件対象公文書中、「出席者名」部分に記載された当該学校法人関係者氏名
のうち、理事長名については登記事項として公表されているが、それ以外の学校法人関
係者の氏名は公表されていないため、個人に関する情報で特定の個人を識別できるもの
であり、条例7条2号に該当する。
また、「出席者名」部分以外の非開示部分(以下「『対応記録』部分」という。)に記
載された学校法人関係者氏名及び記録内容についても、個人に関する情報で特定の個人
を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にするこ
とにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものであることから、審査会への
諮問に当たって、条例7条2号を非開示理由として追加する。
第二に、本件対象公文書中、「対応記録」部分には、係属中の訴訟事件に係る情報が
記載されており、公にすることにより、特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を
及ぼすおそれがあり、裁判審理の中立性が不当に損なわれるおそれがあるため、審査会
への諮問に当たって、条例7条5号を非開示理由として追加する。
また、「対応記録」部分は、東京都を被告とする訴訟事件に係る情報であり、公にす
ることにより、訴訟に関する事務に関し、被告たる東京都の当事者としての地位を不当
に害するおそれがあるとともに、今後の当該法人に対する適正な指導監督に支障を及ぼ
すおそれがあるため、条例7条6号に該当する。
さらに、「対応記録」部分には、一般的に公にすることを前提としていない任意の指
導における東京都と法人とのやり取りに関する情報が記載されており、開示することに
より、今後の指導事務において指導すべき法人が具体的な情報の提供等に消極的になる
ことが想定され、そのことで、正確な事実の把握が困難となり、法人に対する適正・的
確な指導等が遂行できなくなるため、条例7条6号に該当する。
加えて、「対応記録」部分は、公にすることにより、当該法人の名誉、社会的評価等
の社会的地位が損なわれると認められ、条例7条3号に該当する。
以上のことから、本件対象公文書を一部開示とすることは妥当であると考える。
4
審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
- 4 -
年
月
日
審
議
経
過
平成26年
7月17日
諮問
平成26年
9月25日
新規概要説明(第152回第二部会)
平成26年10月22日
実施機関から理由説明書収受
平成26年10月23日
実施機関から説明聴取(第153回第二部会)
平成26年11月14日
異議申立人から意見書収受
平成26年11月27日
審議(第154回第二部会)
平成26年12月18日
審議(第155回第二部会)
(2)審査会の判断
審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張
を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア
本件対象公文書について
本件異議申立てに係る開示請求は、「学校法人○○ないし○○会議と東京都生活
文化局私学部との2009年から2010年における話合いに使用した資料、話合いの記録
文書及び話合いに関する都での検討文書並びにそれらの資料、記録文書及び検討文
書に関連する文書(ただし、学校法人○○から提出されたものを除く。)」である。
実施機関は本件開示請求に対し、別表1に掲げる本件対象公文書1から7を対象
公文書として特定し、このうち別表2に掲げる本件非開示情報1については、条例
7条2号に該当するとし、本件非開示情報2の概要等については条例7条3号及び
6号に、対応の趣旨及び状況等については、条例7条2号、3号及び6号にそれぞ
れ該当するとして非開示とする一部開示決定を行った。
さらに、実施機関は理由説明書において、本件非開示情報2の概要等に記載され
- 5 -
た学校法人関係者氏名及び記録内容について、条例7条2号に該当するとし、本件
非開示情報2の全てについても、条例7条5号に該当するとして、非開示理由の追
加を行っている。
イ
条例の定めについて
条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する
情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合するこ
とにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定
の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を
害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。また、同号ただし書
において、「イ
法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすること
が予定されている情報」、
「ロ
人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公
にすることが必要であると認められる情報」、
「ハ
当該個人が公務員等…である場
合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、
当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報
については、同号本文に該当するものであっても、開示しなければならない旨規定
している。
条例7条3号本文は、「法人(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立
行政法人を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業
を営む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又
は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位その他社会的な地位が損な
われると認められるもの」を非開示情報として規定している。また、同号ただし書
において、「イ
事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生
命又は健康を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、
「ロ
違法若しくは不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の
生活を保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」、
「ハ
事業
活動によって生じ、又は生ずるおそれがある侵害から消費生活その他都民の生活を
保護するために、公にすることが必要であると認められる情報」のいずれかに該当
する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない
旨規定している。
- 6 -
条例7条5号は、「都の機関並びに国、独立行政法人等、他の地方公共団体及び
地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報で
あって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当
に損なわれるおそれ、不当に都民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不
当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」を非開示情報として規
定している。
条例7条6号は、「都の機関又は国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しく
は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることによ
り、…当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす
おそれがあるもの」を非開示情報として規定している。
ウ
本件非開示情報の非開示の妥当性について
(ア)本件非開示情報1について
審査会が見分したところ、本件非開示情報1は、学校法人○○の関係者である
特定個人の氏名であり、個人に関する情報で特定の個人を識別することができる
ものであると認められるため、条例7条2号本文に該当する。また、その内容及
び性質から、同号ただし書のいずれにも該当しない。
したがって、本件非開示情報1は、条例7条2号に該当し、非開示が妥当であ
る。
(イ)本件非開示情報2について
審査会が見分したところ、本件非開示情報2は、東京都が特定の学校法人に対
して行った指導等のやり取りに関する情報が詳細に記載されているものである
ことが認められた。
このような指導・監督における詳細な過程を公にすることにより、今後、東京
都の学校法人に対する指導・監督業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある
と認められる。
したがって、本件非開示情報2は、条例7条6号に該当し、同条2号、3号及
び5号該当性を判断するまでもなく、非開示が妥当である。
- 7 -
エ
異議申立人の主張について
異議申立人は、学校法人関係者は異議申立人の関係者であり、特定の個人が識別
されても何ら支障はないため条例7条2号に該当せず、また、対応記録についても、
当事者たる異議申立人が申し立てているのであるから、条例7条3号には該当しな
い旨主張し、対象公文書の全面的な開示を求めている。
しかし、条例に基づく情報公開制度は、広く何人に対しても開示請求を認めるも
のであり、開示・非開示の判断に当たっては、開示請求者が誰であるかによって結
論を異にすべきものではなく、何人でも等しく同様に扱うことになるので、異議申
立人の主張は採用できない。
なお、異議申立人は、その他種々主張しているが、いずれも審査会の判断を左右
するものではない。
よって、「1
審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
横山
別表1
洋吉、中村
晶子、乳井
昌史、山田
洋
本件対象公文書
本件対象公文書名
1
平成22年2月○日付「学校法人○○要請概要」
2
平成22年4月○日付「○○関係者の来庁記録」
3
平成22年4月○日付「私学部が学校法人○○に対する対応記録」
4
平成22年5月○日付「私学部が学校法人○○に対する対応記録」
5
平成22年6月○日付「学校法人○○申入れ内容」
6
平成22年11月○日付「対応記録(○○関係)」
平成22年11月○日付「学校法人○○からの電話対応メモ」
7
(平成22年11月○日(○))
- 8 -
別表2
本件非開示情報
本件
本件対象
非開示
公文書
情報
(別表1)
1~6
1
開示しない
本件非開示内容
こととする
根拠規定
事務長名
条例7条2号
2、3、
事務長以外の法人側の出席者
5及び6
「2
都側伝達内容」部分及び
「3
要請概要」部分
1
2
3
6行目から最後まで
「5
対応の趣旨」部分及び
「6
当日の対応状況」部分
条例7条2号、
4枚目(日付及び職員の職氏名を除く。)
2
4
「5
対応の趣旨」部分及び「6
対応状況」部分
「3
要請日時等」部分の2行目以降及び
「4
詳細内容」部分
6
「5
概要」部分及び「6
7
「電話の概要」部分
5
- 9 -
備考」部分
3号、5号
及び6号