序論 グルタミン酸は,生体内におけるタンパク質合成に必要不可欠なアミノ 酸として生成や 分解 が繰り返し行わ れ,恒常性が維持されている 非必須アミノ 酸の一つである .また,脳 内では, 重要な神経伝達物質 として機能し ,様々な 情報伝達 に携わって いることが知られている .このグルタミン酸 作動性神経伝 達は ,終末部からシナプス間隙に放出されたグルタミン酸がポストシナプスの 受容体に結合することに よ って起こる.これらの グルタミン酸受容体は, 機能 の違いからイオンチャンネル型 [iontropic glutamate receptors (iGluRs)]と代謝 型[metabotropic glutamate receptors (mGluRs)]に分類されている [2].IGluRs は,グルタミン酸との結合により,Na + や K + または Ca 2+ などのカチオンに対す る透過性を増大させてニューロンやシ ナプスを脱分極させる速い興奮性シナプ ス伝達が主体となる受容体として知られ ている.一方,mGluRs は,グルタミン 酸との結合を介して,G タンパクと共役し,様々な細胞内シグナルを刺激する セカンドメッセンジャーを 活性化するといった,iGluRs とは対照的な遅いシナ プス伝達 が主体となる受容体であ る.このようなシナプス伝達は, 環境依存的 な多種多様な シグナリングを 刺激し ,脳の高次 機能を 発生させる起動装置のよ うな役割を持つことが知られている .これら 2 つのタイプのグルタミン酸受容 体を介した複雑な神経伝達は,長期増強(long-term potentiation: LTP)や長期抑制 (long-term depression: LTD)を誘発し,シナプス可塑性を発現 する.これらのグ ルタミン酸由来の特徴的な 活動は, 脳が高次機能 を獲得するために 重要な役割 を果たしている[2-4]. 本研究の標的である mGluR1 は 8 つのサブタイプからなる mGluRs の 中の 1 つである.MGluRs は,薬理作用,シグナル伝達産物,及び遺伝子ホモロ ジーから 3 つのグループに分類されている(表 1). 1 表 1.代謝型グルタミン酸受容体の分類表 サブタイプ グループ G タンパク シナプスの配置 脳内分布 参考文献 mGluR1 I Gq ポスト 小脳,視床や嗅球 [5] 線条体や海馬 [6] 小脳や嗅球 [7] 大脳皮質や線条体 [8] 小脳や嗅球 [8] mGluR6 全脳(海馬以外) [9] mGluR7 海馬や線条体 [10] mGluR8 嗅球や橋,延髄 [11] mGluR5 mGluR2 II Gi/o プレとポスト mGluR3 mGluR4 III プレ 中でも,グループ I 型の mGluRs (mGluR1 と mGluR5)は,グルタミン酸 との結合により活性化された後,Gq タンパクの α サブユニットと結合し,ホス ホリパーゼ C(PLC)を活性化させる.PLC の触媒作用により細胞膜のイノシトー ルリン酸(PIP 2 )が分解を受け,イノシトール 3 リン酸(IP 3 )とジアシルグリセロー ル(DAG)の 2 つのセカンドメッセンジャーが産生される [12].IP 3 は,シナプス 内に存在する滑面小胞体の膜上にある受容体と結合し,貯蔵 Ca 2+ を放出させる. このシナプス内の Ca 2+ の濃度上昇と DAG によってプロテインキナーゼ C(PKC) が活性化され,種々の基質タンパクがリン酸化をうけ,細胞機能や伝達機能は 増強される(図 1)[1].しかしながら,脳内環境に異常が生じ,グルタミン酸の過 剰放出が起こった場合,これらの mGluRs を介した細胞内シグナル分子の 過剰 なリン酸化はシナプス細胞死を誘発することが知られて おり[13],脳疾患などに おいて, これら 受容体が, 病態に深く関わっている ことが近年徐々に分かって きている[13]. 2 図 1.グループ I の代謝型グルタミン酸受容体のシグナルカスケード [1] PLC: ホ ス ホ リ パ ー ゼ C,PIP 2 : イ ノ シ ト ー ルリ ン脂 質 ,IP 3 : イ ノ シ ト ール 3 リ ン 酸 ,DAG: ジ ア シ ル グ リ セ ロー ル ,ER: 滑 面 小 胞 体 ,IP 3 R: IP 3 受 容 体 ,PKC: プ ロ テ イン キ ナ ー ゼ C,ERK: 分 裂 促 進 因 子 活性 化 タ ンパ ク 質 キ ナ ー ゼ,PI3K: ホ ス ホ イ ノ シ チド 3-キ ナ ー ゼ ,AKT: 生 存 活性因子 以下に,脳疾患とグループ I 型の mGluRs との関わりが示唆される具体 的な報告例をいくつか挙げることとする. 虚血性脳梗塞のモデル動物 において,mGluR1 の阻害剤投与は,脳の梗 塞領域と細胞死を減少させ ,その減少量は,阻害剤の投与量に依存した が[14, 15], 対照的に,mGluR5 の阻害剤投与では効果があまり見られなかった [16].これら の報告から,mGluR1 が脳虚血による神経細胞死のシグナル伝達に直接関与して い る こ と が 推 測 さ れ た . 一 方 で , ハ ン チ ン ト ン 病 モ デ ル マ ウ ス で は , mGluR5 ではなく,mGluR1 の発現量の減少が確認され[17],mGluR5 の活性化によって, AKT カスケードが誘導され,ハンチントンタンパクがリン酸化されることによ 3 り,凝集体形成の抑制が起こり,神経細胞死を防ぐと報告された[18, 19].また, ハンチントン病 と同様に , アミロイドタンパク 凝集が病因となる アルツハイマ ー病では,可溶性のベータアミロイド(Aβ)は mGluR1 の発現量を減少させ, 難 溶性の Aβ 1 - 40 は mGluR5 の発現量を増大させることが報告されている[20, 21]. このような mGluR1 と mGluR5 の異なった発現量の変化が,海馬における LTP や LTD をそれぞれ抑制したり強化したりするため,学習や記憶への障害がおこ ると示唆された.その他にも,てんかんにおける発作の誘発は主に mGluR5 が, 発作の持続性には mGluR1 が関わっているという報告[22]やパーキンソン病に おけるグループ I 型の mGluRs のシグナリングが病態に関わっているという 結果 も[23],近年報告され始めている.しかしながら,これら中枢神経疾患とグルー プ I 型の mGluRs の役割は未だ不明な点が多く,研究の余地が残されている.こ のような背景から,グループ I 型の mGluRs の分子イメージングによる生体モニ タリング は, 脳疾患 の病態機序解明や創薬研究 に飛躍的 な進歩をもたらす と期 待されている. 陽電子放射断層撮影法(Positron emission tomography: PET)は,陽電子 検出を利用したコンピュータ断層撮影技術で あり,先進の分子イメージングモ ダ リ テ ィ の 一 つ と し て 知 ら れ て い る . コ ン ピ ュ ー タ 断 層 撮 影 (Computed tomography: CT)や核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging: MRI)が主に 組織の形態を観察するためのツールであるのに対し, PET は生体の機能を生き たままの状態で観察することができる画像診断法である.表 2 に示す陽電子反 β 崩壊する核種で標識された PET トレーサ(PET リガンドや PET プローブとも呼 ばれる)は,生体内に投与することにより,標的とする分子の機能的情報を得る ことを可能にする.生体内に投与されたトレーサの陽電子放出核種は,体内で 崩壊し,1 個の陽電子を放出する.放出された陽電子は近くの原子の電子と対消 滅し,γ 線が 2 個放出される.このとき,2 個の γ 線は,正反対の運動量を持つ 4 ため,反対方向へ対に放出される. 表 2. 主なポジトロン核種の半減期及び生成反応 核種 半減期(分) 生成反応 原料物質 11 C 20.4 14 N(p, α) 11 C 14 N 2 ガス 13 N 9.97 16 O(p, α) 13 N 16 O水 15 N(p, n) 15 O 15 N 2 ガス 14 N(d, n) 15 O 14 N 2 ガス 18 O(p, n) 18 F 18 O 水又はガス 20 Ne(d, α) 18 F 20 Ne ガス 15 18 O F 2.03 110 PET 装置は,生体の周囲を取り巻くように配列された多数の γ 線検出 器と 2 個の光子の信号を組み合わせる同時計数回路からなる.検出器のいずれ か 2 つが同時に γ 線を検出した時,その 2 つを結ぶ直線から β 崩壊が起こった 位置情報が得られる.これらの累積した 位置 情報をコンピュータにより画像解 析することでトレーサの生体内分布を三次元画像で得ることが出来る. 単一光 子放射断層撮影法(Single photon emission computed tomography: SPECT )とは 異なり ,放射線の入射方向を限定する鉛コリメータを用いなくても同時計数に より原理的に飛来方向が判明するため検出器の前に遮蔽体を置く必要がない. それにより,PET は SPECT よりも高感度かつ定量的に画像情報を得ることが できる[24, 25].このように,PET を用いれば,標的とした分子の機能を高感度 かつ定量的に測定することが可能である.しかしながら, PET を用いた高感度 かつ 定量的な分子イメージングには, 標的とした分子との相互作用を正確に反 映することが出来る PET 用トレーサの開発が必要不可欠であ る. 一般的に理想的な PET 用トレーサの条件は,①標的臓器への高い移行 5 性, ②標的分子への高い親和性, ③ 標的分子への高い選択性, ④標的分子から の速い解離,⑤速い体内動態(短い血中半減期),⑥標的臓器における低い非特異 結合,⑦生体内での高い特異結合, ⑧生体内での代謝安定性等が挙げられる . 現在までに,グループ I 型の mGluRs を標的とした PET リガンドの開 発研 究は多く 行われてきて おり,いまも なお ,新規の化合物が続々と開発され ている.中でも,mGluR5 を標的とした PET リガンドは,以前から開発研究が 進んでおり,上記の理想的な PET 用トレーサの条件を満たしている[ 11 C]ABP688 が臨床応用され,脳疾患患者に対する機能評価などに利用されている[26, 27]. 一方で, mGluR1 に特異的かつ選択的な臨床応用が可能な PET リガンドは,本 研究を始めた当初,開発されていなかった.そこで,私は,mGluR1 を標的とし た新規 PET リガンドを開発し,その有用性を PET を用いたイメージングや定量 解析により評価することを目的とし,研究を行った. 6 第一章 代謝型グルタミン酸受容体 1(mGluR1)を標的とした新規 PET リガンド の開発と評価 1980 年代後半に,G たんぱく質と共役し機能する代謝型グルタミン酸受 容体が発見されて以来, 機能解析のための研究が多く 行われてきた. その甲斐 もあり,先述したように,近年,mGluR1 が脳疾患に深い関わりを持つことが 徐々 に明らかになってきた.これらの背景から mGluR1 を標的とした阻害剤は脳梗 塞やパーキンソン病などの脳 疾患治療薬として 多くの製薬会社や研究機関で 開 発が行われてきた[28]. これまで開発されてきた阻害剤には,二種類のタイプがある.一つは, 受容体の基質であるグルタミン酸と結合部位を競合する オルソステリック型で , もう一 つ は, グルタミン酸結合部位以外に結合部位を有するアロステリック型 である . オルソステリック型の薬剤は内因性のグルタミン酸濃度に 大きく 影響 を受けるため,薬効や投薬量の推定が 生理的な要因で 困難となってしまう場合 があった.そのため ,最近では, 代謝型グルタミン酸受容体に対する阻害剤開 図 2.代表的な mGluR1 アロステリック型アンタゴニスト 7 発の 90%以上はアロステリック型となっている [29]. これらアロステリック型の阻害剤は,mGluR1 に対する結合能及び選択 性の 高さ と内 在性 の グル タミ ン酸 の 結 合 によ る 影 響を 受け な いこ とか ら, PET リガンドの候補化合物としても注目された.2005 年に,JNJ16259685 に類似し た[ 11 C]JNJ-16567083 [30]が,mGluR1 を標的とした PET リガンドとして初めて報 告された.それ以降,図 2 に挙げるような阻害剤に似た化学構造の PET リガン ドが次々と報告された.代表的なものとしては ,[ 11 C]MMTP [31], [ 11 C]YM-202074 [32], [ 18 F]FTIDC [33], [ 18 F]MK-1312 [34], [ 18 F]FPTQ [35], [ 18 F]FPIT [36]等が挙げ られる(図 3). 図 3. これまでに開発された mGluR1 の PET リガンド しかしながら,これらの PET リガンドは表 3 に示すように,in vitro 実 験での mGluR1 に対する親和性と特異性は非常に優れてい たものの,いずれの PET リガンドも in vivo 条件下で期待されたほどの取り込みを得ることができな かった. これらの多くは, 脳移行性 の低さや生体内での 代謝安定性が好ましく ないなどの欠点があったため,mGluR1 の豊富な領域である小脳では,特異結合 が描出されるものの,中程度の mGluR1 の発現を有している視床,前頭葉,海 馬,線条体での特異結合の描出には至らなかった.そのため, 私が研究を始め 8 た当初,臨床応用まで発展している PET リガンドは存在していなかった. 表 3. mGluR1 を標的とした PET リガンドの特性 Compounds Development Affinity Selectivity In vivo In vivo stability uptakes Lipophilicity [ 11 C]JNJ-16567083 2005 ◎ ◎ — — △ [ 11 C]MMTP 2010 △ ◎ — — △ [ 11 C]YM-202074 2010 ○ ◎ 2.7 × × [ 18 F]FTIDC 2009 ○ ◎ 2.1 × × [ 18 F]FPTQ 2011 ◎ ◎ 3.1 × △ [ 18 F]MK-1312 2011 ◎ ◎ 2.3 — ○ [ 18 F]FPIT 2011 ○ ◎ 2.5 × ○ 2009 年,Satoh らによって mGluR1 のアロステリックアンタゴニストと して 4-フルオロ-N-[4-[6-(イソプロピルアミノ)ピリミジン-4-イル]-1,3-チアゾー ル-2-イル]-N-メチルベンゾアミド (FITM)が開発された(図 2) [37].この FITM は, in vitro における CHO 細胞を用いた阻害実験で 3 H 標識された mGluR1 リガンド に対する 50%阻害濃度(IC 50 )で 5.1 nM を示し,他のサブタイプのリガンドに対し ては,>7000 nM であった.このように FITM は,mGluR1 に対する特異性と選 択性に優れていた[37].さらに,構造的にも,ベンゼン環に存在する C-F 結合は, 生体内で比較的安定である ことが推測でき,18 F の導入も可能であると推測でき ることから,FITM は,PET リガンド候補化合物として ,有用であった.そこで 本章では,この FITM に 18 F で標識し,mGluR1 に対する PET リガンドとしての 可能性を評価した. 9 第一節 [ 18 F]FITM の標識合成 1. 方法 1-1. 機器及び試薬 1 H-NMR スペクトルは,日本電子社製 JNM-AL-300 スペクトロメーター (300MHz)にて測定した.マススペクトル(MS)は日本電子社製の NMS-SX102 に て測定した.試薬は市販品を精製せずに使用した. 次 に,高速液 体クロ マトグラフィ (HPLC)の分離 ・分析 条件を 以下に示 す. 系 A(分離) カラム:Fluofix 120N C 18 カラム(10 250 mm) 溶媒:CH 3 OH/50mM CH 3 CO 2 NH 4 = 50/50 (v/v) 流速:5.0 mL/min 系 B(分析) カラム:Capcell Pack C 18 カラム(4.6 250 mm) 溶媒:CH 3 CN/H 2 O/Et 3 N = 60/40/0.1 (v/v/v) 流速:1.0 mL/min 比放射能は,最終溶液における全放射能と,既知濃度の FITM の検量線 を用いて算出した. 1-2. [ 18 F]FITM の標識合成 初 め に , 1 当 量 の 4,6- ジ ク ロ ロ ピ リ ミ ジ ン と ビ ニ ル ス ズ 試 薬 (Sigma-Aldrich, St. Louis, MO. USA) をパラジウム触媒下で,80°C で 5 時間反応 10 させ た.その反応液を,ジクロロメタンで抽出し, エバポレーターで 溶媒を除 去した後,シリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 15/1) を用いて,4-クロロ-6-(1-エトキシビニル ) ピリミジンを精製した .この化合物 に NBS 試薬 (臭素化剤) を添加してブロモ化した後,メチルチオウレアとの反 応でチアゾール環形成反応を行った.反応終了後は,析出した結晶をろ過し, 再結晶化を行うことで目的の化合物である 4-ピリミジニル-2-メチルアミノチア ゾール (1) を得ることができた [1.11g, 39% (2 段階)]. 次に,前項により得られた化合物 1 から,4-ニトロベンゾイルクロライ ドとの反応を経由して化合物 2 を得た.ジオキサン中で,イソプロピルアミン を過剰量加え,化合物 2 が完全に消失するまで ,80°C で 8 時間撹拌した.化合 物 2 の消失は薄層液体クロマトグラフィ (TLC)により確認した.反応溶液に水を 加えた後 ,酢酸エチルで抽出し ,有機溶媒層を飽和食塩水で洗浄後 ,硫酸ナト リウムで脱水した. エバポレータ―で溶媒を 除去した 後,シリカゲル カラムク ロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)により,目的化合物である 4-ニトロ -N-[4-(6-(イ ソプ ロ ピ ルア ミ ノ )ピ リジ ン -4-イ ル )-1,3-チ アゾ ー ル -2-イル]-N-メチ ルベンゾアミド(3)を精製した(98 mg, 49%).化合物 3 の化学的純度は系 A の HPLC の分析条件によって確認した (>98%). [ 18 F]FITM は,自動合成装置[35]を用いて Kryptofix 222 存在下で,化合 物 3 と[ 18 F]KF を 180°C で 10 分間反応させた.図 5A に示すように,[ 18 F]FITM (t R = 18.5 min)は,分離(系 B)の保持時間を遅くする ことによって化合物 3 (t R = 14.2 min)と分離することが出来た. 11 図 4. [ 18 F]FITM の標識合成ルート 試 薬 と 反 応 条 件 : (a) p-nitrobenzoyl chloride, Et 3 N, toluene, 100°C, 2 時 間 , 65% ; (b) isopropylamine, K 2 CO 3 , 1,4-dioxane, 80°C, 8 時 間 , 49%; (c) [ 18 F]KF, Kryptofix 222, DMSO, 180°C, 10 分 , 18% (decay-corrected) based on total [ 18 F]F − . A) UV 3 RI [ 18 F]FITM B) 図 5. HPLC の分離チャート(A)と分析チャート(B) 20 UV 18 16 18 16 RI 14 14 12 12 10 10 mV mV 20 8 8 [ 18 F]FITM 6 Unknown 4 6 4 2 2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 min 図 5. HPLC の分離チャート(A)と分析チャート(B) 12 1-3. 脂溶性(LogD)の測定 試験管に,[ 18 F]FITM (1 MBq),n-オクタノール(3 g),PBS (3 mL)を混ぜ 合わせ,室温で 3 分間撹拌し,遠心機(KUBOTA, Tokyo, Japan)で 3500 rpm,5 分 間遠心分離した.水層とオクタノール層から,それぞれ 1 mL ずつ採取し,重さ を 測 定 し た 後 , ガ ン マ カ ウ ン タ ー (1480 WIZARD, PerkinElmer, Waltham, MA, USA)を用いて放射能を測定した.LogD 値は以下の式により算出した. LogD = Log[cpm/g (n-octanol)/cpm/g (PBS)] 2. 結果及び考察 [ 18 F]FITM は,放射化学的収率 14 ± 3% (n = 8),かつ放射化学的純度 99% 以上で得ることができた.比放射能は,204–559 MBq/mol で,合成終了後,少 なくとも 3 時間は構造的に安定であった .このように,[ 18 F]FITM は自動合成装 置を用いて安定的に合成 でき,かつ 動物を用いた評価に十分に適用可能な 品質 で得ることができた. 続いて,脂溶性(LogD)の測定結果では,[ 18 F]FITM の LogD 値は,1.5 で あった.一般的に,脳神経受容体を評価する PET リガンドのスムーズな脳移行 性を呈するための理想的な LogD 値は 2–3 とされている[38].この点で,[ 18 F]FITM の LogD 値は,適正値よりやや低く ,脳移行性の低さが懸念された.しかしなが ら,一方で,LogD 値が 1 以上であれば,血液脳関門(BBB)を通過することが可 能であるので,[ 18 F]FITM の脳移行性は,やや低いと予測されるが,脳への移行 自体 は可能であると考えられた.逆に,脂溶性が低い ことが,利点を生む場合 もある . 血漿タンパクや脳組織中への非特異結合 は, 脂溶性が高いほど多くな る傾向にあり,これらが PET シグナルのバックグラウンドに 上乗せを与えてし 13 まい ,特異結合が過小評価される 原因となる ことがある が, 脂溶性が低いこと で,これを避けることができる. このように,本節で,[ 18 F]FITM が十分に動物実験に適用可能である量 と品質で合成できることを示し ,脂溶性においても問題なかった .次節では, [ 18 F]FITM が mGluR1 を標的とした PET リガンドとして有用か評価するために, ラット脳切片を用いたオートラジオグラフィ を行った. 第二節 ラット脳切片を用いたオートラジオグラフィ 1993 年,Futuhi らによって mGluR1 に特異的な抗体が開発され, mGluR1 の生物学的な脳内分布が初めて明らかとなった[5].ラット脳で mGluR1 は,小 脳で最も発現が多く,次いで嗅球や 海馬(CA3),視床,線条体においても十分な 発現が確認された(図 6).一方で,外側視床や橋,延髄においては,殆ど発現を 有していないことが明らかとなった . 図 6.ラット脳における mGluR1 の免疫染色画像[4] OB:嗅 球 , Cx:大 脳 皮 質 , AO:前 嗅 核 , Tu:嗅 結 節 , CP:線 条 体 , LH:外 側 視 床 下 部 , T:視 床 , DG:歯 状 回 , SC:上 丘 , SN:黒 質 , Pn:橋 核 , Cb:小 脳 本節では,[ 18 F]FITM の脳切片上における放射能集積が mGluR1 の脳内 分布を反映しているか,オートラジオグラフィ を用いて評価した. 14 1. 方法 1-1. 動物及び試薬 動物は,日本エスエルシー株式会社 (Hamamatsu, Japan)より購入した雄 性 Sprague-Dawley (SD)ラット(7–10 週齢,230–330 g)を用いた.実験に用いるま で,ラットは 12 時間の明暗サイクル,25°C,自由に摂食及び摂水が可能な環境 下で飼育した .また ,本動物実験は独立行政法人 ,放射線医学総合研究所 ,動 物実験委員会の承認の下,実施した. JNJ16259685 及び MPEP は,Enzo Biochem, Inc. (Farmingdale, NY)から購 入した.FITM,JNJ16259685,及び MPEP は,エタノール/Tween80/生理食塩水 (20/10/80) に溶解し,使用した. [ 18 F]FITM は,前節に示したように,自動合成装置にて合成した.実験に 用 い た [ 18 F]FITM 及 び , mGluR1 に 対 す る 代 表 的 な ア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る JNJ16259685[39]と mGluR5 のアンタゴニストである MPEP[40]の構造を図 7 に示 した. 図 7. 実験に使用した主要化合物 1-2. In vitro オートラジオグラフィ SD ラットを,イソフルラン麻酔下にて断頭し ,速やかに全脳を摘出し, ドライアイスにて急速冷凍した.凍結脳から,クリオスタット(HM560; Carl Zeiss, Germany)を用いて,厚さ 20 m の矢状脳切片を作成した .作成した脳切片を 50 mM トリス-塩酸緩衝液中(pH 7.4)にて,室温下で 20 分浸した後,[ 18 F]FITM (1 MBq/mL)を含むバッファにて,室温下で 30 分間インキュベーション した.次に, 15 mGluR1 に対する選択性を確認するために,1 M の FITM,JNJ16259685, もし くは MPEP を同時にインキュベーションした.インキュベーション終了後,冷 却された新しいバッファにて,脳切片を洗浄し(5 分間, 3 回),最後に冷却して おいた蒸留水を用いて リンスした . 脳切片を ドライヤ ーにて乾燥後 ,イメージ ン グ プ レ ー ト (MAS-MA2025; FujiFilm, Tokyo, Japan) に 1 時 間 暴 露 し た 後 , BAS-5000 (FujiFilm) を 用 い て 読 み 取 り , 脳 切 片 の 各 領 域 に お け る 放 射 能 濃 度 (PSL/mm 2 )を測定した. 1-3. Ex vivo オートラジオグラフィ SD ラットに,尾静脈より 5 MBq の[ 18 F]FITM 注射液を投与し,30 分後 にイソフルラン麻酔下にて 断頭し , 速やかに 全脳を摘出した .特異結合性を確 認するために,対照のラットには,mGluR1 のアンタゴニストである JNJ16259685 (1 mg/kg)を[ 18 F]FITM 注射液と同時に投与した. 摘出された全脳を,ドライアイスにて急速冷凍し,クリオスタット (HM560)により脳切片を作成した.以降の手順は,前項の in vitro オートラジオ グラフィと同様に行った. 2. 結果及び考察 ラット脳切片を用いた in vitro オートラジオグラフィの結果を図 8 に示 す.コントロールの脳切片では,小脳及び視床に多くの放射能集積が描出され, 次いで海馬(CA3 領域),線条体,大脳皮質の順で確認された(図 8A,E).このよう な放射能の脳内分布は,ラット脳における mGluR1 の生物学的な分布と一致し ていた[5, 12].さらに,これらの放射能集積は,FITM 及び,mGluR1 のアンタ ゴニストである JNJ16259685 の添加によって,95%以上が消失した(図 8B,C,E). 一方で,mGluR5 のアンタゴニストである MPEP の添加では,放射能集積に影響 16 を与えなかった(図 8D).以上のことから,ラット脳切片上の[ 18 F]FITM の集積は, サブタイプの mGluR5 ではなく,mGluR1 に対する特異的な結合であることが示 唆された. 次に,in vivo の状態に近い ex vivo オートラジオグラフィの結果を図 9 に示す.Ex vivo でも,in vitro の結果と同じように,切片上の放射能集積は,小 脳及び視床で多く確認され ,次いで ,海馬,線条体, 大脳皮質で中程度の集積 が確認された(図 9A).さらに,JNJ16259685 の前投与により,放射能集積は, コントロールに比べ 70–80%減少した(図 9B). 本節の実験結果から,[ 18 F]FITM は,ラット脳切片で mGluR1 の生物学 的分布を反映した脳領域で結合を有し, その結合は薬理学的に mGluR1 に特異 的であることが示された.また,ex vivo においても同様の結果が示された.以 上のことから,[ 18 F]FITM は,mGluR1 イメージングのための PET リガンドとし て有望であると示された. 図 8. In vitro オートラジオグラフィ A): [ 18 F]FITM の み ; B): 1μM 非 標 識 FITM; C): 1μM JNJ16259685; D): 1μM MPEP; E): 放 射 能 分 布 (PSL/mm 2 ) 17 図 9. Ex vivo オートラジオグラフィ A): [ 18 F]FITM の み ; B): 1 mg/kg JNJ16259685 同 時 投 与 ; C): 放 射 能 の 脳 内 分 布 (PSL/mm 2 ) 第三節 小括 本章では,mGluR1 を標的とした新規の PET リガンドの候補化合物とし て,フルオロベンゼン環を持ち,mGluR1 に対する新規アロステリックアンタゴ ニストである FITM に着目し,[ 18 F]KF を用いて標識合成を試みた.その結果, 18 − F に対し放射化学的収率 14%,かつ放射化学純度 99%以上の品質で得ることが できた.次に,[ 18 F]FITM を用いたラット脳切片における in vitro オートラジオ グラフィを行った.その結果,[ 18 F]FITM は,mGluR1 の生物学的な脳内分布を 反映するように ,小脳>視床>線条体>海馬> 帯状回 で特異的結合 を示した. さらに,ex vivo 条件下においても,ラット脳切片上での放射能集積は in vitro 条 件下と同様の結果を示した. 以上のように,[ 18 F]FITM は,生体内投与においても mGluR1 に対する 特異的結合が確認されたことから,mGluR1 の PET リガンドとして有用である と期待できる.次章では,小動物 PET を用いて,PET リガンドとしての特性を イメージングや定量解析の両側面から評価した. 18 第二章 [ 18 F]FITM を用いた PET イメージング PET は,先述したように,生体内の分子や薬剤の動きを生きたままの状 態で評価することができる先進の分子イメージング技法 である.この PET によ って得られる分子の情報には,大きく分けて 2 つの側面がある.一つはイメー ジングという定性的な側面である.PET は分子の所在や薬剤の動きを,ラジオ リガンドが放出するエネルギーを捕捉し,処理することにより 画像情報を得る こと が で き る.このような定性的 な側面は,[ 18 F]フルオロデオキシグルコース や[ 11 C]メチオニンなどの生体内で不可逆的な集積を見せる PET リガンドの特徴 を利用した 腫瘍イメージングなどに多く利用されている [41-45].もう一つは, PET リガンドの生体内の動態から数学的解析により,リガンドと標的分子間の 動きを測定する定量的な側面である.1991 年,Koeppe らは,毛細血管及び組織間 のリガンド輸送が 2 組織間の濃度差に応じた拡散によってなされると仮定し,図 10 に示 すようなコンパートメントモデルを提 唱 した [46]. このモデル解 析 を用 いることにより, PET リガンドの組織への入力関数(K 1 )と出力関数(k 2 ),受容体と PET リガンドの結合(k 3 ) 及び解離(k 4 )の速度定数を PET より得られたリガンドの動態から数学的に解析すること が可能となった.これらの 4 つの速度定数を用いて PET リガンドの脳内関心領域におけ る分 布容 積 比 [volume of distribution: V T = K 1 /k 2 (1+k 3 /k 4 )]を求 めることができる[46, K1 Cp k3 C1 C2 k4 k 図 10. Two-tissue compartment model の概略図 C p : 血 漿 の リ ガ ン ド 体 積,C 1 : 組 織 中 の 遊 離 及 び 非 特 異 結 合 リ ガン ド 体 積 ,C 2 : 受 容 体 へ の 特 異 結 合 リ ガ ン ド 体積 , K 1 : 入 力 関 数 , k 2 : 出 力 関 数, k 3 : 受 容 体 結 合 速 度 , k 4 : 受 容 体 解 離 速 度 19 47].この V T 値は,標的とした分子の脳内密度を反映した定量値として,PET を用いた 基礎研 究や臨 床研 究 などで,標 的 分 子の脳 内密度 分布 を知 るための指標 として汎用 されている. 前章で,[ 18 F]FITM は, ex vivo オートラジオグラフィ画像で,in vitro 条件下と同等の特異結合を示した .さらに, 構造的に 安定な フルオロ ベンゼン 骨格を持ち,脱フッ素化が起こりにくいと推測 され,in vivo においても十分な 特異結合が期待できる. そこで,本章では,[ 18 F]FITM の PET リガンドとしての有用性を評価す るために,小動物における体内分布と脳の PET イメージングを行い,最後に, 臨床応用への展開を考慮し ,サルを用いた PET のイメージングと定量解析を行 った. 小動物を用いた[ 18 F]FITM の動態評価 第一節 1. 方法 1-1. 動物及び試薬 DdY マウス(7 週齢,29–32 g),C57BL/6j マウス(12 週齢,30 g),及び雄 性 SD ラット(7–9 週齢,210–290 g) は,日本エスエルシー株式会社より購入し た雄性を用いた.また,mGluR1 ノックアウトマウス(mGluR1-KO) (12 週齢,34 g) は,理研バイオリソースセンター (Tsukuba, Japan)より購入した雄性を用いた. 飼育条件は第一章,第二節に準ずる. [ 18 F]FITM は,第一章,第一節に示したように,自動合成装置にて合成 した. FITM,JNJ16259685,及び MPEP は,エタノール/Tween80/生理食塩水 (20/10/80)に溶解し,使用した. 20 1-2. マウスを用いた[ 18 F]FITM の体内分布評価 DdY マウスに,[ 18 F]FITM 注射液(0.8 MBq,3.3 pmol,0.1 mL)を尾静脈 より投与し,注射後 1,5,15,30,60,120,180 分に頚椎脱臼により屠殺した . 屠殺後 , 血液 ,心臓 ,肺, 肝臓,腎臓,小腸 ,脾臓, 膵臓,筋肉 ,骨,脳を, そ れ ぞ れ 摘 出 し , バ イ ア ル に 詰 め , 重 量 測 定 後 に ガ ン マ カ ウ ン タ ー (1480 WIZARD) で 放 射 能 を 測 定 し た . 放 射 能 の 測 定 値 は , 減 衰 補 正 さ れ , %ID/g (percentage of injection dose per gram tissue)で表された. 1-3. 小動物 PET イメージング 1-3-1. SD ラット SD ラットを 1.5% (v/v)のイソフルランで麻酔をかけ ,静脈注射用に 24 G のカテーテル付き留置針 (Termo Japan, Tokyo)を尾静脈に挿入した.ラットを麻 酔下にて PET 装置(Inveon: Siemens Medical Solutions, Knoxville, TN)に固定し,体 温は温水パット(T/Pump TP401: Gaymar Industries, Orchard Park, NY)用いて維持 された.尾静脈のカテーテルより,[ 18 F]FITM 注射液(17–18 MBq, 0.1 nmol, 0.1 mL) を投与し,3D リストモードにて 90 分間(1 分 4 枚, 2 分 8 枚, 5 分 14 枚) 撮像した.PET 画像は Hanning filter を用いて,再構成された.PET 画像は,ASIPro VM ™ (Seimens)を用いて,ラット脳の MRI テンプレートと合成された.関心領域 (Volume of interest: VOI)は,MRI テンプレートを参照して,小脳,視床,海馬, 線条体,帯状回,橋にそれぞれ置き,時間放射能曲線(Time-activity curve: TAC) を得た.放射能は,ラット体重で補正された Standardized uptake value (SUV) [48] で表された(以下に式を示す). SUV = (Radioactivity per milliliter tissue/injected radioactivity) gram body weight [ 18 F]FITM の in vivo 条件下における mGluR1 に対する特異性とサブタイ プ選択性を評価するために,阻害実験として FITM (1 mg/kg),JNJ16259685 (3 21 mg/kg),MPEP (1 mg/kg)をそれぞれ前投与し,同様に PET 実験を行った. 1-3-2. mGluR1 ノックアウトマウス C57BL/6j マウス(野生型)及び mGluR1 ノックアウトマウスに,1.5% (v/v) のイソフルラン麻酔下で, 29G 針付きのカテーテルを尾静脈から挿入し,PET 装置(Inveon)に固定した.PET 操作及び画像解析は,上記の SD ラットと同様の 方法で行った. [ 18 F]FITM は,それぞれ,3.7 MBq (12 pmol)/0.1 mL の濃度でカテーテル より投与した. 1-4. 代謝物分析 SD ラットの尾静脈より,[ 18 F]FITM 注射液(37 MBq, 0.1 nmol, 0.1 mL)を 投与し,15,30,60,120 分後にラットを頚椎脱臼により屠殺した .屠殺後,素 早く血液と脳を取り出した .採取した血液は,遠心分離(15,000 rpm,2 分,4 °C) により血漿を分離した.血漿(0.5 mL)にアセトニトリル(0.5 mL)を加え,十分に 撹拌した後,遠心分離(15,000 rpm,2 分,常温)した.摘出された脳は,3 倍容の アセトニトリル/水(50/50)を用いてホモジナイズし,遠心分離(15,000 rpm,2 分, 4 ºC)した.さらに,上清(0.5 mL)にアセトニトリル(0.5 mL)を加え,十分に撹拌 し,遠心分離(15,000 rpm,2 分,常温)した. 得られた血漿と脳のサンプル(0.1–0.3 mL)を,放射能測定機付き HPLC (radio-HPLC) [49]を用いて分析した.カラムは Capcell Pack C 18 (Siseido, Tokyo) を用い,溶媒は CH 3 CN/H 2 O/Et 3 N (6/4/0.1),流速は 1.5 mL/min で分析を行った. 未変化体の割合は,HPLC チャートから減衰補正した面積比によって算出された. 22 2. 結果及び考察 [ 18 F]FITM の主要 11 臓器における経時的な体内分布を図 11 に示す. [ 18 F]FITM 投与直後(1 分)の高い放射能集積(>7.5 %ID/g)は,肝臓と腎臓で見られ た.一方 ,小腸 と脳では, 経時的な 集積の増加を見せ ,骨への集積は 終始低い ままであ った .末梢器官 における集積は ,肝臓と小腸を除いて 血中濃度に依存 するように,経時的に減少した. 肝臓と小腸の放射能の推移から ,[ 18 F]FITM は,腸肝循環により排泄さ れると推測さ れる. さらに ,骨への集積が継時的に 増加していないことから , [ 18 F]FITM は,生体内で 18 − F が遊離していないことがわかる.本研究の標的部位 である脳では,投与後 15 分をピークに十分な集積が見られており ,小腸を除く 末梢器官 で継時的な 集積増加 を見せていないことから, 脳神経受容体を標的と した PET リガンドとして有効性が高いことが示唆される. 図 11. マウスにおける[ 18 F]FITM の体内分布 23 次に,[ 18 F]FITM が mGluR1 の PET イメージングに適しているか評価す るため,ラットを用いて PET 実験を行った.ラット脳の代表的な PET 積算画像 と各関心領域の TAC を図 12 に示す.コントロール(A)と 1 mg/kg の非標識 FITM C) D) E) F) 図 12. ラット脳の PET/MRI 画像と時間放射能曲線(tTAC) コ ン ト ロ ー ル (A)と 1 mg/kg の FITM 前 投 与 (B)ラ ッ ト 脳 の 矢 状 断面 及 び 水平 断 面 に お け る 代 表 的 な PET/MRI 画 像 を 示 す .コ ント ロ ー ル群 (C),FITM 投 与 群 (D),JNJ16259685 投 与 群 (E), MPEP 投与 群(F)に お け る 各 関 心 領 域に お け る 時 間 放射 能 曲 線を 示 す . 24 前投与群(B)の代表的なラット脳の PET/MRI 合成画像は,矢状断面と環状断面で 示された.図 12 の C–F は,コントロール群(C),1 mg/kg の FITM 前投与群(D), 3 mg/kg の JNJ16259685 前投与群(E),1 mg/kg の MPEP 前投与群(F)のラット脳の PET 画像から得られた小脳,視床,海馬,線条体 ,帯状回,橋における時間放 射能曲線(tTAC)を示した. コントロール群の PET/MRI 画像において,顕著な 放射能集積は小脳で 見られ,次いで視床,線条体,海馬, 大脳の帯状回で見られた(A).この集積分 布は,前章で示した in vitro オートラジオグラフィの結果と良く相関しており, mGluR1 の生物学的分布とも一致し ていた.さらに,これらの集積は, FITM の 前投与によって著しく減少した (B).また,各関心領域の tTAC の最大値は,コ ントロール群の小脳で 7.7 ± 0.2,視床で 5.3 ± 0.7,海馬で 4.1 ± 0.5,線条体で 4.6 ± 0.7,帯状回で 4.1 ± 0.8 SUV であった.これらの値は, FITM の前投与によっ て 0.3–0.5 SUV まで減少した.FITM と同様に,mGluR1 のアンタゴニストであ る JNJ16259685 (3 mg/kg)の前投与によっても,同等の減少が見られた .一方, mGluR5 のアンタゴニストである MPEP (1 mg/kg)の前投与では,脳内集積に影響 を与えることはなかった.以上の結果から,生体内における[ 18 F]FITM の脳内集 積は,mGluR1 に対する特異的結合を反映していることが 示された. 次に,[ 18 F]FITM の受容体への選択的結合性を調べるために,mGluR1 ノ ックアウト(KO)マウスを用いて PET 撮像した.図 13 に,野生型(A)と KO(B)マ ウスの PET 画像を示す. A B Hig %ID/m Thalamu Lo Cerebellu 図 13. 野生型(A)及び mGluR1-KO(B)マウスの 0–90 分積算 PET 画像 25 野生型のマウス脳では,ラット脳の PET イメージングの結果と同様に, 小脳や視床にて放射能の集積が 多く見られた.対照的に,KO マウスでは,脳全 域で放射能集積は見られなかった.この結果より,[ 18 F]FITM の mGluR1 に対す る特異 的 結合を,生物学的に 示すことができ た.よって,薬理学的選択性と併 せて,[ 18 F]FITM の脳内集積は mGluR1 との特異結合を正確に反映していること が証明された. 最後に,ラット脳における高い放射能集積が, [ 18 F]FITM の未変化体由 来であるか確かめるために,ラット脳における代謝物分析を行った. [ 18 F]FITM 投与後,30 分及び 120 分での血漿及び脳における Radio-HPLC チャートを図 13 に示す.表 4 に,[ 18 F]FITM 投与後 15,30,60,120 分での血漿及び脳における 代謝物の割合の変化を示す.血漿中の放射能は,体内 で代謝を受けた 影響によ り,投与後 15 分には約 60%が,30 分では約 70%が放射性代謝物へと変化してい た.一方で,脳の放射能は,放射性代謝物(Metabolite 2)が僅かに混入していたが (4–5%),経時的な増減は見られず, 投与後 120 分まで放射能の 95%以上が未変 化体であった.以上のことから, PET イメージングにおける脳の放射能集積は, 未変化体の[ 18 F]FITM と mGluR1 との結合そのものを反映していることが示され た.よって,[ 18 F]FITM を用いた PET イメージングは定性的な評価だけでなく, mGluR1 に対する結合の定量的な評価も可能であることが示唆された. A) 120 min 30 min 100 100 20 20 10 10 50 0 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 min 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 0 0 7.0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 min 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 100 100 mV 150 100 100 mV 200 mV 200 150 mV B) 50 50 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 min 4.0 7.0 120 min 30 min 0 0.0 mV 50 mV [ 18 F]FITM Metabolite2 mV mV Metabolite1 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 0 0.0 7.0 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 min 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 図 13. [ 18 F]FITM 投与後 30 分及び 120 分における血漿(A)及び脳内(B)の放 射能 Radio-HPLC チャート 26 表 4. [ 18 F]FITM 投与後,15,30,60,120 分における血漿及び脳内の放射能の割 合(%) Time after Plasma injection Metab 1 (min) Metab 2 Parent Metab 1 Metab 2 Parent 15 48.1 ± 5.7 10.1 ± 3.0 41.8 ± 2.8 n.d. 3.6 ± 0.7 96.4 ± 0.7 30 56.5 ± 12.6 13.0 ± 6.3 30.5 ± 6.2 n.d. 4.2 ± 0.2 95.8 ± 0.2 60 63.2 ± 7.0 12.0 ± 2.6 24.8 ± 6.1 n.d. 4.8 ± 0.5 95.2 ± 0.5 120 69.3 ± 3.1 5.0 25.7 ± 1.8 n.d. 3.9 ± 0.1 96.1 ± 0.1 Brain ± 2.7 Mean ± S.D. (n = 3). n.d.: not detected. 第二節 サルを用いた[ 18 F]FITM の動態評価 1. 方法 1-1. 動物及び試薬 動物は,実験動物中央研究所 (Kawasaki, Japan)より購入した雄性のサル (Macaca mulatta , 10 週齢,5 kg)を用いた.実験に用いるまで,サルは 12 時間 の明暗サイクル,25°C,自由に摂食及び摂水が可能な環境下で飼育した .また, 本動物実験は独立行政法人放射線医学総合研究所動物実験委員会の 承認の下, 実施した. [ 18 F]FITM は,第一章,第一節に示したように ,自動合成装置にて合成 した. FITM,JNJ16259685,及び MPEP は,エタノール/ Tween80/生理食塩水 (20/10/80)に溶解し,使用した. 1-2. In vitro オートラジオグラフィ 27 サルの凍結脳から,クリオスタット(HM560)を用いて,厚さ 20 m の矢 状脳切片を作成した . 以下は,第一章,第二節のラット脳切片を用いた in vitro オートラジオ グラフィに記したのと同様の方法で行った. 1-3. PET 実験 サルに 5 mg/kg のケタミンを筋肉注射し麻酔をかけ,PET 装置(SHR-7700: Hamamatsu Photonics, Hamamatsu)に固定した.PET 撮像の前に,画像の吸収補正 のため,74 MBq の 68 Ge- 68 Ga 線源を用いてトランスミッションスキャンを行っ た.サルの大腿静脈より,[ 18 F]FITM 注射液(148–175 MBq, 0.7–0.8 nmol, 1 mL) を投与し,90 分間(0.5 分 6 枚, 1 分 7 枚, 2 分 20 枚, 5 分 8 枚) 撮像した.PET 定量解析のために,サルの上腕動脈より,スキャン開始後 10, 20, 30, 40, 50 秒, 1, 2, 3, 4, 5, 10, 15, 30, 60, 90 分に採血し,全血と血漿中の放射能を ガンマカウンター(1480 Wizard)を用いてそれぞれカウントした. 4.0-mm Colsher filter を用いて再構成された PET 画像は,サル脳の MRI テンプレートを用いて PMOD (PMOD Technologies, Zurich, Switzerland)により, PET/MRI 画像に再構成された.関心領域(VOI)は,MRI テンプレートを参照に, 小脳,視床,海馬,線条体,帯状回,橋に置き,tTAC をそれぞれの VOI から得 た.放射能は,サルの体重で補正した SUV で表した. [ 18 F]FITM の mGluR1 に対する特異結合性を確認するために,阻害実験 として FITM (1 mg/kg)を前投与し,同様に PET 実験を行った 1-4. 代謝物分析 前項より得られた血漿の内 ,1,5,15,30,60,90 分のサンプルを 0.3 mL 分取し,同量のアセトニトリルを加え,十分に撹拌後,遠心分離し,上清をサ 28 ンプルとした. 以下は,前節の代謝物分析の項に示したのと同様の方法で 行った. 1-5. PET データの定量解析 PET 動態における,血液からの入力関数は,前項で得られた代謝物分析 の結果により補正された血漿中の時間放射能曲線(pTAC)から得た.PET データ の定量解析は,PMOD ソフトウェア(PMOD Technologies, Zurich, Switzerland)を用 いて ,小 脳, 視床 , 海馬 ,線条体 , 帯状 回 ,橋における 時間 放射能曲線 (tTAC) と pTAC を用いて行った.解析モデルは,χ 2 ,Akaike information criterion (AIC) [50], model selection criterion (MSC) [51]の結果をもとに,図 10 に示した,Two-tissue compartment model (2-TCM)を選択し,非線形回帰によるパラメータ解析 (K 1 , k 2 , k 3 , k 4 )を 行 っ た . さ ら に , 非 コ ン パ ー ト メ ン ト モ デ ル 解 析 で あ る Logan plot graphical analysis (Logan GA) [52]も行った. 2. 結果及び考察 サル脳切片を用いた in vitro オートラジオグラフィの結果を図 14 に示す. 第一章,第二節のラット脳切片を用いた in vitro オートラジオグラフィの結果と A) B) Control JNJ16259685 Thalamus Striatu Hippocampus Pon Cerebellum 図 14. サル脳切片における in vitro オートラジオグラフィ画像 A): [ 18 F]FITM の み , B): [ 18 F]FITM + 1 M JNJ16259685 29 同様に,サルの脳切片においても,[ 18 F]FITM は,小脳で最も多く集積が描出さ れ,次いで視床,海馬,線条体で確認された .これら放射能 集積 の分布パター ンは,これまでに報告されていたサルにおける mGluR1 の分布と相関を示した [34, 36] . さ ら に , こ れ ら の 放 射 能 集 積 は , mGluR1 の 選 択 的 阻 害 剤 で あ る JNJ16259685 の投与により,著しく減少した.以上のことか ら,[ 18 F]FITM は, サルにおいても mGluR1 に特異的結合を有しており,PET イメージングが可能 であることが示唆された. 次 に , PET イ メ ー ジ ン グ の 結 果 を 図 15 に 示 す . コ ン ト ロ ー ル (A)と JNJ16259685 前投与(B)されたサルの脳における PET/MRI 合成画像は,矢状断面 と視床及び小脳に焦点合わせた水平断面で 示した.さらに,コントロール(C)と JNJ16259685 前投与(D)されたサル脳の各関心領域の tTAC を示した.コントロー ルにおける放射能集積は,in vitro オートラジオグラフィ の結果と同じように, 小脳で最も高く ,次いで 大脳の帯状 回,視床 ,海馬, 線条体で確認さ れた .さ らに,これらの放射能の集積は ,mGluR1 の選択的阻害剤である JNJ16259685 の 投与によって,著しく減少した. [ 18 F]FITM の各関心領域における tTAC は, 前節の図 12 に示したラット脳の[ 18 F]FITM の動態とは異なり,サルでは,およ そ 30 分後に集積がピークに達し,その後,緩やかな 減少が見られた.各関心領 域のピーク時における SUV 値は,それぞれ,小脳で 3.3,視床で 2.0,海馬で 1.9, 帯状回で 2.3,線条体尾状核で 1.5,果核で 1.7 であった.これらの放射能集積は JNJ16259685 前投与によって,すべての関心領域で,SUV 値が 0.1–0.2 にまで減 少した.このサルとラットにおける[ 18 F]FITM の動態の違いは,種差による受容 体のリガンドに対する結合能の差であると予測 される.一方,表 5 に示すよう に,血漿中の代謝速度には種差は見られず,Radio-HPLC チャートにおいても, 2 種の放射性代謝物はラットと同様の保持時間 (t R = 2.1 及び 3.3 min)で得られた (図 16).これらの結果から,サルとラットの体内では,[ 18 F]FITM の代謝経路は 30 同じであることが示唆された. よって,ラットの脳における 代謝物分析の結果 から,これらの代謝物は脳に侵入しないことが分かっているため ,サルにおい ても同様の結果が期待される. 以上のことから,[ 18 F]FITM は,サルの mGluR1 に対しても高い特異結合 性を有しており,PET リガンドとして有効性が高く,臨床応用を 期待すること ができる. D) C) 図 15. サル脳の PET/MRI 画像と時間放射能曲線 コ ン ト ロ ー ル (A)と 3 mg/kg の JNJ16259685 前 投与 (B)サ ル 脳 の 矢状 断 面及 び 水 平 断 面 にお け る 代 表 的 な PET/MRI 画 像 を 示 す .コ ン トロ ー ル 群 (C),JNJ16259685 投 与 群 (D)に お け る 各 関 心領 域 に お け る 時 間 放 射能 曲 線 を示 す 31 表 5. [ 18 F]FITM 投与後,1,5,15,30,60,90 分における血漿の放射能の割合 (%) % of total radioactivity Time after injection (min) Metabolite 1 Metabolite 2 Parent 1 5.4 0.0 94.6 5 35.7 1.8 62.5 15 51.9 3.4 44.7 30 59.0 4.6 36.4 60 67.4 5.5 27.1 90 66.2 4.9 28.9 60 60 Metabolite1 [ 18 F]FITM 40 mV 40 mV Metabolite2 20 20 0 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 min 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 図 16. [ 18 F]FITM 投与後 30 分における血漿の Radio-HPLC チャート 32 次に,[ 18 F]FITM の動態を利用した定量解析を行った.図 17 に,血漿中 の放射能と,代謝物分析の結果から 補正された入力関数(input: pTAC)を示す.表 6 に,各関心領域における 2-TCM による定量解析結果を示す.2-TCM 解析の結 果,脳内の受容体密度の分布を反映しているとされる V T 値は,小脳で 11.5,次 いで,視床が 5.1,帯状回が 6.0,そして, mGluR1 の発現が極わずかである橋 では 2.4 であった.さらに,2-TCM の V T 値は,単純な線形の解析法である Logan GA の結果とほぼ一致していた(図 18).このように,本節では,2-TCM を用いて, サル脳の各関心領域における V T 値を高い精度で定量することができた. VT based 2-TCM 15 y = 1.17x – 0.59 2 R = 0.99 10 5 0 0 5 10 15 図 17. 血漿及び代謝物分析補正さ VT based Logan GA れた入力関数の時間放射能曲線 図 18. 2-TCM と Logan GA 間の V T 値の 相関 33 表 6. サル脳における[18F]FITM の PET 動態を用いたパラメータ解析結果 Cerebellum Thalamus Caudate Putamen Cingulate cortex Hippocampus Pons Parameters Mean %COV Mean %COV Mean %COV Mean %COV Mean %COV Mean %COV Mean %COV 2-TCM VB 0.04 26.0 0.04 30.0 0.04 5.1 0.04 5.1 0.05 18.8 0.04 27.2 0.04 7.8 K1 0.14 2.3 0.13 1.6 0.11 2.8 0.12 2.7 0.12 3.1 0.11 1.2 0.09 2.6 k2 0.06 8.8 0.17 3.3 0.19 9.9 0.21 8.6 0.17 8.1 0.14 2.5 0.16 10.9 k3 0.13 10.1 0.19 6.6 0.16 9.4 0.15 8.2 0.27 6.9 0.16 5.0 0.1 15.3 k4 0.03 7.3 0.03 5.5 0.03 4.2 0.03 4.1 0.04 4.6 0.03 5.3 0.03 9.7 VT 11.5 4.1 5.1 3.1 3.3 2.7 3.4 2.8 6.0 3.1 4.6 3.2 2.4 3.1 10.2 1.0 5.0 0.7 3.3 0.7 3.4 0.8 5.9 0.5 4.4 0.8 2.4 1.0 Logan GA VT 34 第三節 小括 本章では,げっ歯類及びサルを用いて[ 18 F]FITM の PET リガンドとして の有用性を評価した.マウス体内分布試験から,[ 18 F]FITM は,生体内において 末梢器官に特異的な集積を見せることなく体外へ排泄されることが推測された. さらに,PET イメージングから,ラット脳で,mGluR1 が高発現している小脳, 視床,帯状回で高い放射能集積が確認された.また,mGluR1 の低発現領域であ る橋との放射能比は,小脳で 11 に達した.この値は,[ 18 F]FITM の開発当初に 報告されていた mGluR1 の PET リガンドの中でも著しく高い値であり([ 18 F]FPIT: 4 [36]; [ 18 F]FPTQ: 3 [35]),[ 18 F]FITM は mGluR1 の PET リガンドとして非常に有 用であることが示唆された.しかし,最近になって,mGluR1 の新規 PET リガ ンドとしてトリアゾール環を含む[ 18 F]MK-1312 が開発され,PET リガンドとし て の 有 効 性がサルを用いた実験によって示された[34].ここで ,[ 18 F]MK-1312 の実験結果から[ 18 F]FITM の PET リガンドとしての特性を比較した. In vitro 条件下における FITM と MK-1312 の mGluR1 に対する IC 50 は, それぞれ 5.1 と 3.6 nM で,mGluR5 に対しては,7.0 と 2.8 M であった.親和性 に関しては両者間であまり差は見られなかったが,選択性の面で FITM のほう が わ ず か に 勝 っ て い た . サ ル 脳 に お け る PET イ メ ー ジ ン グ の 結 果 で は , [ 18 F]MK-1312 が mGluR1 の高密度領域である小脳と視床にしか特異的な集積が 見られなかったのに対し,[ 18 F]FITM は,小脳や視床をはじめ,低・中密度領域 である大脳皮質や帯状回においても高い集積が見られた.さらに,サル PET に おける 2-TCM 定量解析の結果では,脂溶性の違いのため(LogD: [ 18 F]FITM = 1.5; [ 18 F]MK-1312 = 2.3),入力関数(K 1 )は,[ 18 F]FITM よりも [ 18 F]MK-1312 のほうが スムーズであったが,k3 値(結合速度)は[ 18 F]FITM が 0.13 min -1 であったのに対し, [ 18 F]MK-1312 は 0.03 min -1 であった.これに対し k4 (解離速度)は,両者共 0.03 min -1 で あった . こ の結果から ,PET リ ガンドの結合 能の指 標である Binding 35 potential (BP ND : k3 /k4 ) [53] は,[ 18 F]FITM で 4.3,[ 18 F]MK-1312 で 1 となり,mGluR1 との結合能は[ 18 F]FITM の方が 4 倍以上高いことが解析の結果から定量的に明ら か と な っ た . こ の よ う に , in vivo 条 件 下 に お い て も 高 い 特 異 結 合 を 有 す る [ 18 F]FITM は,mGluR1 の高発現領域である小脳だけでなく,視床や,大脳皮質, 帯状回においても,PET を用いたイメージングおよび定量解析が十分に可能で あり,現在までに開発されている mGluR1 の PET リガンドの中で,最も有用で あることが示された. サル脳において,mGluR1 が小脳,視床,大脳の帯状回で多く発現して いることは本章の PET イメージングや定量解析からも明らかであった.解剖学 的に,小脳は協調運動制御のため,脳全域の神経経路の統合を行っている機関 であり,視床は小脳や線条体からの神経伝達を大脳皮質へと投射している機関 であり,帯状回は大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たしており,感情 の形成と処理,学習と記憶にかかわりを持つ機関であることが知られている. これらの解剖学的知見から mGluR1 を介したグルタミン酸系の神経伝達は,運 動の制御だけでなく情動や学習などにも重要に関わっていることが容易に推測 できる. 近年,アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患において, mGluR1 の発現量の変化は,大脳皮質や線条体で確認されており,病変時におけ る mGluR1 の機能亢進や脱落が病態と関連していることが報告されている [21, 54, 55].このような背景から,[ 18 F]FITM を用いた視床や大脳皮質における PET イメージングや定量解析は,これら中枢神経疾患の病態解明や治療薬開発に飛 躍的な進歩をもたらすツールとなることが期待される. 36 第三章 [18 F]FITM-PET を用いた mGluR1 の受容体密度及びリガンド親和性の 測定 前章では,[ 18 F]FITM の mGluR1 を標的とした PET リガンドとしての特 性をイメージングと定量解析の両側面から評価し,有効性を示した.本章では, mGluR1 に対して高い結合能を有する[ 18 F]FITM の特徴を利用し,in vivo 条件下 で薬理学的指標である受容体密度(B max )及びリガンド親和性(Kd )を推定すること を目的とした. PET リガンドを用いた応用研究として B max や Kd の推定は,多くの神経 受容体で行われており,創薬研究の指標として用いられている.例えば,パー キンソン病や多くの精神疾患の病巣部位となる線条体では,ドーパミン受容体, アセチルコリン受容体や mGluR5 などの B max が測定されており,これらの疾患 に対する治療薬開発の指標となっている[56-58]. B max や K d の推定には通常,in vitro 実験等で汎用されている図 19 に示す ようなスキャッチャード解析と呼ばれる線形回帰が用いられる.この線形回帰 から得られた直線の X 軸の切片から Bmax が,傾きの逆数からリガンドの Kd が 求められる.Mintun らにより,1984 年に PET による放射性リガンドの受容体結 合能([B]/[F])の定量値として binding potential (BP) [53]が紹介されて以降,この BP を利用し in vivo 条件下においても,スキャッチャード解析が汎用されるよう になった[59-61].しかしながら,in vivo 条件下ではフリーリガンドと非特異結 合が区別できないため,BP は,nondisplaceable BP (BP ND )として扱われた[47]. In vivo で B max や K d を測定するメリットとしては,PET を用いることで非侵襲的 かつ高感度で,関心領域における結合能を 3D で測定できることと,生きたまま の状態で測定できる点にある.そこで,本章では[ 18 F]FITM-PET を用いて,ラッ ト脳の関心領域における BP ND を測定し,その値を用いてスキャッチャード解析 を行い,脳の関心領域における mGluR1 の Bmax や[ 18 F]FITM の K d を算出した. 37 [B]/ [B] 図 19. スキャッチャード解析 [B]/[F]: リガンドの特異結合濃度とフリーリガンド濃度の比 ,[B]: リガンドの特異結合量 (pmol/mL). ラット脳を用いた[18 F]FITM-PET における BP ND の算出 第一節 1. 方法 1-1. 動物及び試薬 SD ラット(8 週齢,270–290 g)は,日本エスエルシー株式会社より購入 した雄性を用いた.飼育条件は第一章,第二節に準ずる. また,本動物実験は独立行政法人放射線医学総合研究所動物実験委員会 の承認の下,実施した. [ 18 F]FITM は,第一章,第一節に示したように前駆体から,自動合成装 置にて合成した. FITM は,エタノール/Tween80/生理食塩水(20/10/80)に溶解し,使用した. 1-2. 採血 PET 38 SD ラットに,1.5% (v/v) のイソフルラン麻酔下で,血液採取用に左下 肢大腿動脈にポリエチレンカテーテル(FR2, Imamura, Tokyo)を,静脈注射用に 24G のカテーテル付き留置針(Termo Japan, Tokyo)を尾静脈にそれぞれ挿入した. ラットを麻酔下にて PET 装置に固定し,体温は温水パット(T/Pump TP401)を用 いて維持した.尾静脈のカテーテルより,[ 18 F]FITM 注射液(17–18 MBq, 0.1 nmol, 0.1 mL)を投与し,3D リストモードにて 90 分間(10 秒 6, 15 秒 4, 1 分 5, 2 分 4, 5 分 15)撮像した.PET 画像は Hanning filter を用いて,再構成した. スキャン開始後 10, 20, 30, 40, 50 秒, 1, 2, 3, 4, 5, 10, 15, 30, 60, 90 分に採血し,ガ ンマカウンター(1480 Wizard)によって全血と血漿の放射能を,それぞれカウン トした. PET の画像解析は,第二章,第二節に示したのと同様の方法で行った. 阻害実験として FITM (1 mg/kg)を直前投与し,同様に採血 PET 実験を行 った. 1-3. 動態解析 PET 動態解析は,simplified reference tissue model (SRTM) [62]と Logan GA 解析を行った. 無採血定量解析法である SRTM は,mGluR1 が殆ど発現していないとさ れている脳幹に位置する橋を参照領域として用いた. ラット脳における各関心領域の V T は,Logan GA により,コントロール と阻害群で,それぞれ,血漿の pTAC と関心領域の tTAC を用いて算出した. すべてのモデル解析は,PMOD version 3.2 (PMOD Technologies)を用いて 行った. mGluR1 への結合に依存しない脳内における分布容積(VND )を得るため, Logan GA より算出したコントロール群と阻害群の V T 値を用いた Lassen plot 39 graphical analysis (Lassen GA) [63, 64]を行った.この線形回帰で,近似直線の傾 きから阻害剤の受容体占有率を,x 軸の切片から V ND を得ることができる.得ら れ た V ND 値 を 用 い て , 各 脳 領 域 の 非 コ ン パ ー ト メ ン ト モ デ ル に お け る BP ND [Distribution volume ratio (DVR)−1]を以下の式に従って得た. BPND ( DVR 1) 1-4. VT VND V S VND VND [1] 受容体飽和法(receptor-blocked approach: RBA)の検討 RBA は,参照領域が設定困難な受容体をターゲットとしたリガンドもし くは非特異結合が多いリガンドに対して,阻害実験から得られた tTAC を参照領 域の代わりに設定するという手法である[65, 66]. 図 20 に示すように,RBA は,過剰量の非標識リガンドにより受容体結 合をあらかじめ占有することにより,k3 を限りなく 0 に近づけ,入力関数(C p ) と C 1 コンパートメントを得ることが出来る.さらに,特異結合である C 2 コン パートメントはコントロールの tTAC から阻害実験で得られた tTAC を引くこと によって得ることが出来る. 図 20. RBA の概略図 C p : 血 漿中の リガ ンド 濃 度 , C 1 : 組織 中の 遊離 及 び 非特 異結 合の リガ ンド 濃度 , C 2 : 受 容体 に 結合してい るリガ ンド濃 度 , K 1 : 血 中からの 移行 速度 (入力 関数 ), k 2 : 血 中への移行 速度 (出 力 関数),k 3 : 受容体への結合速度,k 4 : 受容体からの解離速度 40 V S 値は,平衡状態にある特異結合の分布容積であり,さらに,V ND もそ の平衡時点における非特異結合の分布容積であることから,以下の式 2 と 3 が 成り立つ. Cb CT C ND BPND ( DVR 1) [2] VS C ( eq ) b( eq ) VND C ND [3] 平衡状態は,特異結合の tTAC (C b )から,式 4 に示す 3 エクスポネンシ ャルのフィッティングカーブを用いた Equilibrium analysis (EA) [67, 68]より得た. f (t ) C1e D1t C 2 e D 2t C3 e D 3t f (0) 0 [4] C 1 , C 2 , C 3 , そして D1 , D 2 , D3 はそれぞれ係数を示し,最少二乗法により フィッティングカーブを作成した. RBA と EA を組み合わせた EA-RBA 法によって得られた BP ND が正しい 値として測定されているか確かめるために,採血法である Logan GA によって得 られた BP ND 値との相関関係を確認した. 2. 結果及び考察 まず初めに,各関心領域における BP ND を非侵襲的に無採血で得ること のできる,最も一般的な方法として,mGuR1 の低発現領域である橋を参照領域 として用いた SRTM によって BP ND (DVR−1)を得ることとした.SRTM で得られ た各関心領域の BP ND 値の信憑性を確かめるために,採血を伴った Logan GA に 41 よって得られた BP ND 値と比較した. Logan GA による BP ND 値の推定には,特異結合を含まない領域の V T 値 (VND )が必要となる.そのため,図 21 に示した Lassen GA を行い,2.51 mL·cm −3 の V ND 値を得た.この V ND 値から算出した Logan GA の BP ND と SRTM 解析によ って簡便に得られた BP ND を表 7 に示す. 図 21. Lassen plot graphical analysis 近似直線の傾きはリガンドの受容体占有率を示し ,x 軸切片は V ND を示す. 表 7. Logan GA と SRTM による BP ND の算出 Logan GA Tissue SRTM Baseline Blocked VT VT BPND (DVR−1)a BPND (DVR−1)b Cerebellum 114.0 ± 14.4 2.7 ± 0.3 43.9 ± 5.7 8.9 ± 0.8 Thalamus 59.1 ± 5.8 2.5 ± 0.4 22.3 ± 2.3 6.0 ± 0.6 Hippocampus 47.9 ± 4.5 2.4 ± 0.4 17.9 ± 1.8 4.8 ± 0.5 Striatum 49.9 ± 5.5 2.6 ± 0.5 18.6 ± 2.2 5.2 ± 0.5 Cingulate cortex 42.0 ± 4.3 2.4 ± 0.3 15.5 ± 1.7 4.5 ± 0.5 Pons 6.2 ± 0.5 2.7 ± 0.4 1.5 ± 0.2 — BP ND was calculated by using V ND based on Lassen GA, which was 2.51 mL·cm −3 as shown in Fig 21. b Pons was used as reference region. a 42 橋を参照領域とした SRTM の BP ND は,すべての関心領域で,Logan GA の BP ND と比較して大きく過小評価されていた.図 22 に示すように,Logan GA と SRTM の BP ND の間には高い相関関係が見られた(R 2 = 0.99)が,SRTM による BP ND 解析結果の過小評価は,およそ 85%程度であった.この結果から,橋を参 照領域とした参照領域法は,[ 18 F]FITM の場合には,適さないことが示された. 実際に,橋において,Logan GA の BP ND は 1.5 を示し,リガンドの特異結合が 僅かながら存在していることを意味した.このため,橋の tTAC を用いた SRTM で大きく過小評価されたと考えられる.そこで本研究では,参照領域法の代わ りに,無採血で BP ND を得ることの出来る受容体飽和法(RBA)を検討することと した. 図 22. SRTM と Logan GA の BPND を用いた散布図による相関分析 RBA は,受容体の結合部位を予め占有することにより,得られた tTAC を入力関数として用いる方法であるが,この手法には考慮すべき点がいくつか 挙げられる.まず一つ目として,入力関数の変化が挙げられる.リガンドが末 梢組織において特異結合を持つ場合,非標識リガンドを投与することによって, 43 血中の放射性リガンド濃度が,コントロールと比較して,一次的に増大する. このような場合,入力関数である K 1 に差が生じてしまうため,C p -C 1 の代替と して適応することは難しい. 図 23. コントロール(Baseline)と 1 mg/kg の FITM を前投与された (Blocked)ラットにおける血漿中の入力関数の推移 図 23 に示すように,[ 18 F]FITM の入力関数は,非標識リガンドの投与後 でも,コントロールとほぼ同程度で推移した.第二章,第一節の[ 18 F]FITM のマ ウスを用いた体内分布試験でも示したように,末梢組織に特異的な集積が認め られなかったことから,非標識リガンドの投与は,C p -C 1 コンパートメント算出 に影響は無いと考えられた. もう一つの考慮すべき点として,非標識リガンドの受容体占有率が 100%となる投与量の設定が挙げられる.投与した非標識リガンドが,完全に受 容体を占有していない場合,特異結合(k3 )を無視できなくなるため,コントロー ルの C 2 を分離することができなくなる.本研究の場合,図 21 の Lassen GA に 示したように,非標識 FITM の 1 mg/kg の投与で,受容体の結合部位を 99%以 44 上占有することが示された.これらの結果から,1 mg/kg の非標識 FITM の投与 は,入力関数にほとんど影響を与えず,mGluR1 の結合部位を飽和させることが 明らかとなった.よって,非標識 FITM(1 mg/kg)投与群のラット脳の tTAC は, 理論上,C p -C 1 コンパートメントとして,代用することが可能であると示された. コントロール群のラットの各関心領域における tTAC から阻害剤投与群のラッ トの tTAC を差し引くことによって特異結合(C 2 )を得た.この特異結合の時間曲 線を図 24 に示す. Equilibrium analysis(EA)による,特異結合の平衡時間は,視 床で 85–90 分,海馬で 70–75 分,線条体で 73–78 分,帯状回で 65–70 分,橋で 55–60 分であった.一方,小脳では,90 分の PET スキャンでは特異結合のピー クが得られなかったため,EA による平衡時間の算出はできなかった(図 24). 45 図 24. 各関心領域における時間放射能曲線(tTAC) 特異結合は,baseline の TAC から blocked の TAC を差し引き,フィッティングカーブにより示した.矢印は,平衡時点を示す 46 次に,平衡時間における特異結合量から視床,海馬,線条体,帯状回, 橋の BP ND を算出した.BP ND は,それぞれ,視床で 18.4 ± 1.9,海馬で 13.6 ± 1.5, 線条体で 14.5 ± 1.5,帯状回で 13.0 ± 1.4,橋で 0.1 ± 0.0 であった.これらの BP ND 値が正確に測定された値か確かめるために,採血法の Logan GA によって得られ た BP ND との散布図を用いて相関分析を行った. 図 25. 散布図を用いた相関分析 図 25 に示すように,小脳を除く関心領域(視床,海馬,線条体,帯状回, 橋)で,EA-RBA によって推定された BP ND は,Logan GA によって推定された BP ND と非常に高い相関(R 2 = 0.99)を示した.さらに,過小評価も 13%と僅かに受ける ものの,SRTM (85%の過小評価)に比べると,大幅に改善された.この結果から, EA-RBA は,比較的高い精度で BP ND を算出できる非侵襲的な手法であることが 示唆された.次節では,濃度依存的リガンド負荷をラットに与えることによっ て受容体占有率を段階的に変え,値の異なった BP ND と特異結合量を求めた.そ の値でプロットを作成し,スキャッチャード解析を行い,mGluR1 の Bmax とリ 47 ガンドの K d を推定することとした. 第二節 スキャッチャード解析による in vivo 受容体密度測定 1. 方法 1-1. 動物及び試薬 SD ラット(7–10 週齢,220–310 g)は,日本エスエルシー株式会社より購 入した雄性を用いた.飼育条件は第一章,第二節に準ずる. また,本動物実験は独立行政法人放射線医学総合研究所動物実験委員会 の承認の下,実施した. [ 18 F]FITM は,第一章,第一節に示したように前駆体から,自動合成装 置にて合成した. FITM は,エタノール/Tween80/生理食塩水(20/10/80)に溶解し,使用した. 1-2. 小動物 PET 実験 SD ラットは,第二章,第一節の小動物 PET 実験の項に示したように, PET 装置に固定した. [ 18 F]FITM 注射液(17–18 MBq, 30–40 pmol, 0.1 mL)の投与直前に,非標識 FITM を各濃度(0, 1, 5, 30 μg/kg, or 1 mg/kg, n = 3)でそれぞれ,尾静脈より投与し た. PET 走査及びの画像の再構成と解析は,第二章,第二節に示したのと同 様の方法で行った. 1-3. スキャッチャード解析 スキャッチャード解析は, B max 及び K d を推定するために,視床,海馬, 線条体,帯状回の各関心領域にて,それぞれ行った. 48 プロットを得るため,特異結合量[B]と BP ND を前節の EA-RBA によって 以下の式より求めた. [ B] Cb [ L] [5] C ( eq ) [ B] f ND b( eq ) BPND ( DVR 1) [F ] C ND [6] C b は,特異結合(%ID/mL)を,[L]は,投与したリガンド濃度(pmol/mL)を表す. FND は,組織中のフリーリガンドの係数を示す.FND は,ほぼ 1 となるため[47], BP ND 算出において f ND での補正は,本研究では行わないこととする. 得られたプロットから線形回帰を行い,傾きの逆数から Kd を,X 軸の 切片から Bmax を求めた. 2. 結果及び考察 図 26 に,各濃度の非標識 FITM を投与されたラット頭部の PET 積算画 像を示す. A) B) C) D) E) ) ) 図 26. 各濃度の非標識 FITM 投与を受けたラット頭部の PET 冠状画像 VOI は,各関心領域 (Hi: 海馬,Th: 視床,St: 線条体, Ci: 帯状回)で設定した. 49 非標識 FITM の投与量に依存して,PET 画像における放射能集積は減少 した.各関心領域における tTAC から,RBA に従って,1 mg/kg の FITM 投与群 の tTAC を差し引いて時間特異結合曲線を得た.図 27 に,各関心領域における リガンド濃度毎の特異結合の経時的変化を示す. A) B) C) D) 図 27. 各関心領域(A: 視床,B: 海馬,C: 線条体,D: 帯状回)にお ける時間特異結合曲線 Fitting curve は three exponential で行い,それぞれ,ピーク時間を算出した 各濃度における特異結合の時間曲線から EA によって求められた一時的 な平衡状態は,視床で 45–70,海馬で 45–70,線条体で 30–60,帯状回で 25–55 分であった.これらの平衡状態において,各リガンド投与濃度における BP ND と [B]を算出した.得られた BP ND と[B]を用いたスキャッチャード解析の結果を図 50 28,及び表 8 に示す. A) B) C) D) 図 28. 各関心領域(A: 視床, B: 海馬, C: 線条体, D: 帯状回)におけるスキャッチャ ード解析 各プロットは各濃度投与群(0, 1, 5, 30 μg/kg)の BP ND と[B]から,それぞれ得た(mean ± SE, n = 3). 直線の傾きは,1/K d を,x 軸の切片は B max を示す. 表 8. スキャッチャード分析による in vivo 測定結果(Kd , B max, BP). Region Kd (nM) Bmax (pmol/mL) R2 BP Thalamus 2.1 36.3 0.91 17.3 Hippocampus 2.1 27.5 0.87 13.1 Striatum 1.5 22.2 0.96 14.8 Cingulate cortex 1.5 20.5 0.95 13.7 51 図 28,表 5 に示したように,スキャッチャード解析で得られた線形回帰 は,高い相関を示した(R 2 = 0.87–0.96).解析の結果,各関心領域の K d は,1.5–2.1 nM で,B max は,20–36 pmol/mL であった.FITM の in vitro 条件下における Kd は,1.9 nM であることが報告されており[69],PET によって測定されたこれら の K d 値は,in vitro 条件下に近い値を示したことから,比較的高い精度で求める ことができたといえる.同時に,1/K d の直線の切片から得られた B max もまた, 比較的高い精度で算出できたと考えられる. 第三節 小括 本章では,[ 18 F]FITM を用いた PET 実験を通じて,生きたままの状態で 初めて,脳の mGluR1 の受容体密度とリガンドの親和性を測定した. 第一節では,BP ND を無採血 PET で簡便に得るために,mGluR1 の低密度 領域である橋を参照領域とした SRTM 解析を検討した.しかしながら,橋にお いて見かけ上の特異結合が観測されてしまったため ,SRTM によって算出され た BP ND は大きく過小評価を受けてしまった.そこで,別の無採血法である受容 体飽和法(RBA)を検討することとした.RBA は,過剰量の非標識体を投与する ことで,受容体の結合部位を飽和し,特異結合を理論上無くすことで,得られ た tTAC を参照とする方法であるが,入力関数が変化したり,受容体結合部位が 飽和されていなかったりした場合には適応できない.そこで,これらの点につ いて検討した.非標識体を 1 mg/kg で投与したラットの血漿中の pTAC はコント ロールと比較して,殆ど変わらなかった.この結果から,このリガンドの末梢 組織における受容体飽和による血中濃度の増加は殆ど無かったと考えられる. 受容体結合部位の占有率については,Lassen GA による解析によって 99%以上で あったことから,非標識 FITM を 1 mg/kg で投与されたラットの tTAC は十分に リファレンスとして代用できることが示された. 52 続いて,このリファレンスを用いて,Equilibrium analysis (EA)により各 関心領域の BP ND を測定した.各関心領域における EA の BP ND は,採血-Logan GA の BP ND に比べ,およそ 10%程度過小評価を受けたが,橋を用いた参照領域法 (SRTM)に比べ,その過小評価は大幅に改善できた.しかしながら,小脳では EA による平衡点は,90 分間スキャンから得られた tTAC ではピークを得ることが できなかったため,算出できなかった.実際に,小脳における定量解析では, 以前に報告されている[ 18 F]MK-1312 の方が適しているかもしれない[34].しかし ながら,[ 18 F]MK-1312 は小脳においても BP が 1 程度であり,特異的結合量は少 なく,mGluR1 の中及び低密度領域においてはイメージングすらできていなかっ た.[ 18 F]FITM の最大の利点は,小脳での高集積ではなく,小脳以外の mGluR1 の低・中密度領域におけるイメージング及び定量解析が可能な点である.よっ て,本章では,多くの脳疾患に関わりの深い神経受容体が密に混在している脳 領域である,視床,海馬,線条体や大脳の帯状回において受容体密度及びリガ ンドの親和性を[ 18 F]FITM-PET を用いて測定した. 受容体密度及びリガンドの親和性の in vivo 測定値は,濃度依存的に非標 識体を負荷することによって得られる BP ND 値と特異結合量[B]を用いたスキャ ッチャード解析によって求めた.その結果,各参照領域での Kd 値は 1.5–2.1 nM で得られ,mGluR1 の受容体密度は,視床で 36,海馬で 27,帯状回で 20,線条 体で 22 pmol/mL であった. パーキンソン病や精神疾患などの病巣となっている 線条体 における神 経受容体の密度は,病変に最も関連の深いとされるドーパミン受容体(D2 )で,実 験系によって差はあるものの 20–70 pmol/mL と報告され[70, 71],mGluR1 のサ ブタイプである mGluR5 で 40 pmol/mL であると報告されている[58].よって, mGluR1 の線条体における受容体密度は,これらの神経受容体と比較しても高密 度に存在しており,線条体における神経伝達の異常に大いに関連性があると推 53 測される.本研究で示した脳の関心領域における受容体密度の測定値は, mGluR1 を標的とした創薬研究や,神経変性疾患の機序解明の新たな指標として 期待される. 54 総括 本 研 究 を 通 じ て , mGluR1 を 標 的 と し た 新 規 PET リ ガ ン ド で あ る [ 18 F]FITM を開発し,その有用性をイメージングや定量解析の両側面から検証し た. 第一章では,mGluR1 を標的とした PET リガンドの候補化合物の中か ら FITM を選択し, 18 F 標識を行った.これまでに開発されていた mGluR1 の PET リガンドは,in vitro 条件下では優れた特性を示したが,代謝安定性が乏し いものや,in vivo では,特異結合性が低いものが多かった.そこで,本研究で は,フルオロベンゼンを含み,18F が比較的導入しやすく,構造的に脱フッ素が 起こりにくいと推測される, FITM に着目した.期待どおり,FITM は,ニトロ 前駆体と[ 18 F]KF を反応させることで,比較的簡便に 18 F で標識することができ た. [ 18F]FITM は,自動合成装置で放射化学的収率約 14%,純度 99%以上で得 ることができ,ラット脳切片を用いたオートラジオグラフィ の結果,mGluR1 の生物学的分布に一致した放射能集積を示し,in vivo イメージングの可能性を 示すことに成功した. 第二章では,in vivo での評価として,げっ歯類を用いた体内分布試験や PET イメージングを行い,さらに,臨床応用への適性を検証するため,サルを 用いて PET 定量解析を行った.マウスを用いた体内分布試験で,[ 18 F]FITM は, 生体内で脱フッ素化を起こすことなく,体外へ排出されることがわかった.ラ ットを用いた PET イメージングでは,in vitro のオートラジオグラフィの結果を 反映するように小脳>>視床>海馬>線条体>帯状回>>橋の順位で放射能集 積を示した.これらの放射能集積は,阻害剤を用いた実験やノックアウトマウ スを用いた実験により, mGluR1 との特異的結合を反映していることが薬理学 的かつ生物学的に示すことができた.さらに代謝物分析から,脳内における放 射能集積は未変化体由来であることが示された.このように,[ 18F]FITM はげっ 55 歯類において,PET リガンドとして優れた特性を示した.よって次に,サルを 用いて臨床応用への適性を評価することとした.PET イメージングでは,げっ 歯類と同様に,小脳,視床,大脳の帯状回で特異的な放射能集積を示した.さ らに,動脈採血を伴った動態解析の結果では,精度よく各パラメータを得るこ とができ,脳の関心領域における分布容積比(V T )を測定することができた.以上 のことから,[ 18 F]FITM は,これまで開発されてきた mGluR1 を標的とした PET リガンドの中でも,最も優れた特性を持つことが示された. 第三章では,[ 18 F]FITM の高い特異結合性を利用して,ラット脳におけ る mGluR1 の受容体密度とリガンドの親和性を PET により in vivo で測定した. スキャッチャード解析を行うために,リガンドの結合能(BP ND )と結合量([B])を 受容体飽和法(RBA) により算出した.非標識 FITM の濃度依存的負荷によって 得られた値の異なった BP ND と[B]をそれぞれプロットし,スキャッチャード解 析を行った.その結果 ,受容体密度[B max (pmol/mL)]及びリガンドの親和性[K d (nM)]は,それぞれ,視床で 36 pmol/mL と 2.1 nM,海馬で 27 pmol/mL と 2.1 nM, 線条体で 22 pmol/mL と 1.9 nM,大脳帯状回で 20 pmol/mL と 1.9 nM で推定さ れた.これらの視床や,海馬,線条体,大脳帯状回における mGluR1 の受容体 密度の測定値は,病変における他の神経受容体との関わりを知るための新たな 指標となることが期待される. 以上のように,[ 18 F]FITM は mGluR1 に高い特異結合性を有し,イメー ジングや定量解析の両側面から PET リガンドとして非常に有用であることが本 研究によって示された.このことから,今後の臨床応用が期待される.また, [ 18 F]FITM を用いた PET 動態解析による mGluR1 の受容体密度測定は,今後の mGluR1 の機能解析や病態解明などの研究に役立つと考えられる. 56 今後の展望 本研究により[ 18 F]FITM は,mGluR1 の有効な PET リガンドであること が示された.しかしながら,理想的な特性ばかりを有しているわけではなく, 改善すべき点もある.[ 18 F]FITM の mGluR1 に対する高い結合能は,極わずかに しか mGluR1 が存在していない橋や延髄でさえも特異結合を描出させた.その ため,脳において参照領域を置くことができなくなってしまった.参照領域を 置くことができない PET リガンドの場合,その定量解析は動脈採血を伴い,被 検体への負担は避けられない.一方で,本研究で行った受容体飽和法を用いれ ば無採血で定量解析を行うことができるものの,この方法では,過剰量の非標 識体の投与が必要不可欠であり,臨床応用を考えた場合には,倫理的観点から 現実的に難しい.このように,[ 18 F]FITM を用いた PET 定量解析の場合,動物 への使用に限定されてしまうため,参照領域を置くことができるような新たな PET リガンドの開発が望ましい. 最近,我々の研究グループで FITM の基本骨格を維持したまま側鎖を変 え,親和性を変化させることで,橋を参照領域とした PET 定量解析が可能とな るような PET リガンドの開発を行ったので紹介する. 我々は,FITM のフルオロベンゼン環のフッ素の部分を[ 11 C]CH 3 で置換 し た N-[4-[6-( イ ソ プ ロ ピ ル ア ミ ノ ) ピ リ ミ ジ ン -4- イ ル ]-1,3- チ ア ゾ ー ル -2- イ ル]-N-メチル-4-[ 11C]メチルベンゾアミド ([ 11 C]ITDM)を,ブチル前駆体からヨウ 化メチル法にて合成した[72].[ 11C]ITDM の mGluR1 に対する親和性(Ki)は 13 nM で,脂溶性(cLogD)は 1.7 であった.[ 18 F]FITM と比較して,親和性は少し低く なったが,脂溶性は改善された.サルを用いた PET 実験で,[ 11 C]ITDM は, [ 18 F]FITM と比較して半分程度の放射能集積ではあったものの,視床や,大脳の 帯状回などの mGluR1 の低・中密度の脳領域で十分な放射能集積をみせた.一 方で,橋における放射能集積は,阻害実験の放射能集積と殆ど同じであり,特 57 異結合が描出されなかった.この結果から,[ 11 C]ITDM は,橋を用いた参照領域 法による PET 定量解析が可能であることが示された. 今後 は, [ 11C]ITDM 用い た定 量解 析に よ り脳 疾患 など の病 態 にお け る mGluR1 の変化を非侵襲的に測定し,他の神経受容体との関連性を明らかにし ていく予定である.また,臨床応用へ進展するために,いくつかある参照領域 法の中から適したものを検討するバリデーション試験も行う予定である. 58 謝辞 本稿を執筆するにあたり,終始ご指導賜りました東北大学大学院,薬学 研究科,分子イメージング薬学連携講座,分子イメージング薬学分野教授兼, 独立行政法人,放射線医学総合研究所,分子イメージング研究センター,分子 認識研究プログラム,プログラムリーダー,張 明栄先生に心より深くお礼申 しあげます.また,本研究の総括にあたり,懇切なるご指導を賜りました東北 大学大学院,薬学研究科,分子動態解析学講座,分子動態解析学分野教授 田 錬先生,及び機能分析薬学講座,薬理学分野教授,福永 岩 浩司先生に感謝 申し上げます. また,ご指導とご鞭撻を賜りました独立行政法人,放射線医学総合研究 所,分子イメージング研究センター,分子認識研究プログラムチームリーダー, 河村 和紀先生に感謝申し上げます. 最後に,本研究に関し,ご協力頂きました独立行政法人,放射線医学総 合研究所,分子イメージング研究センター,分子認識研究プログラムの藤永 之先生,由井 譲二先生,羽鳥 晶子先生,大矢 様方,先端生体計測プログラムの脇坂 純先生,徳永 正希先生,永井 雅 智幸先生及びプログラム皆 秀克先生,分子神経プログラムの前田 裕司先生,放射線医学総合研究所サイクロト ロン運転室の皆様方,並びに株式会社住重加速器サービスの皆様に感謝申し上 げます. 59 引用文献 1. 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