2014第10講 コミュニケーションと意思決定支援:要約

第10講 『コミュニケーションと意思決定支援』 要約
医療においてコミュニケーションの役割は次の4つと考えられる。情報共有のた
め、それ自体が心のケアとして、意思決定の支援、そして多職種協働のためであ
る。本講では、先の3つについて、特に意思決定支援を重点的に取り扱う。
コミュニケーションはすなわち相互影響であり、コミュニケーションを考える際に
は、相手の状況や性格を把握するだけではなく、自分自身が相手にとってどうい
う存在として映っているか、自分がどのような影響を与える存在なのかを常に意
識している必要がある。
コミュニケーションは上手くすれば患者の癒しとなるし、下手をすれば患者に心
理的デメリットを与えてしまう。コミュニケーションはそのまま心のケアであることを
認識し、良い影響を与えるコミュニケーションを図るほうがリーズナブルである。傾
聴、共感などが基本的なスキルになる。
がん医療において、患者の将来の見通しを根底から否定的に変えてしまう「悪
い知らせ」は避けて通れない。それは、診断・告知、再発・進行、抗がん治療の中
止、終末期の話し合いに代表される。患者権利の高まりとともに、真実を伝えて
患者自身が人生を選択していけるような医療の構築は既に倫理的慣習であると
思われ、世は悪い知らせを伝えるか否かではなく、いかに伝え分かち合うかの議
論に入っているといえる。しかし、伝える医療者にも心理的バリアがあり、実際に
はまだ困難を感じる行為であることには変わりがない。
医療における意思決定支援が如何にあるべきかを考えるのに、人生の最終段
階における意思決定のフレームワークを取り上げる。アドバンス・ディレクティブ、
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、またその中に位置づけられるリビングウィ
ル、DNARについての概念を整理する。ACPは状況変化が予想される将来につ
いて、患者・家族・医療者が今後の医療や療養、ケアについてあらかじめ話し合
いをするプロセスのことを言う。ゆえに、最期のことについて決めた事前指示書を
作ること自体が目的ではない。ただし、ACPは決定的な限界を持ち合わせている。
患者が意思決定能力のあるうちに自分のことを自分で決めていくという意味で、
基本的に自律=自己決定に依拠した概念ということである。
歪曲されたインフォームド・コンセントが広がり、患者は決定の権利と引き換えに、
1人で決めなければいけないという、ある種の孤独に追いやられている。よりよい
意思決定を目指すのであれば、無条件に自己決定することを良しとする「自律性
の尊重」という倫理原則をも見直す必要があるということである。つまり、最終決定
が患者本人であることよりも、決定に至る過程に本人の価値観や考え方がどれく
らい反映されているかのほうが重要と考えることである。このような話し合いのパラ
ダイムを変えて考えることができれば、決めたくないという人や、既に意思決定能
力が低下した人の意思決定をどうしたらいいかという難題にも解決の突破口が開
かれることになるであろう。
あさひかわ緩和ケア講座 2014