深海ケミカルカメラによる岩石・堆積物の現場化学成分分析 ○髙橋朋子・ブレア・ソーントン・佐藤匠・大木俊彦(東京大学) , 野崎達生・鈴木勝彦(海洋研究開発機構),作花哲夫(京都大学) 深海の岩石や堆積物の化学分析は、現状ではサンプリングを行い船上・陸上にて分析を行っている。 様々な高精度分析手法を適用できる一方、海底その場でデータを取得することができないため、デー タをもとにしたリアルタイムの判断はできない。近年、海水中の特定物質を計測する現場型化学分析 センサが研究運用されていて、新たな熱水活動を発見する例もあり[Provin et al. 2013]、実用化が 期待されている。一方で、固体については、熱水性鉱物や堆積物に適用できる現場型化学分析技術が 未だに確立されていない。そこで、本研究では海底その場で複数の元素を同時に計測できる、レーザ 誘起破壊分光法(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy: LIBS)を海洋調査での現場計測に応用す ることを目的とし、岩石・堆積物を海底その場で化学分析するセンサの開発を行っている。 LIBS では、高出力のレーザパルスを試料に照射して、試料に含まれる元素を蒸発・励起させてプラ ズマを発生させ、そのプラズマの発光を分光分析することによって、試料中の複数の元素を一度に検 出できる。2012 年に実施した NT12-07 では、LIBS センサのプロトタイプを開発し、ROV ハイパードル フィンに装着して鹿児島湾にて水深 200 m の海底でテスト試料の測定に成功した。しかし、より高い 水圧がかかる状況では、プラズマが高密度で発光することで、信号の激しい劣化が見られて測定感度・ 精度に悪影響を及ぼす。そこで、さらなる深海での計測に LIBS を応用するために、水中でのプラズマ 密度を低減でき、さらに発光を強くするロングパルス手法(レーザ照射時間を通常の LIBS 計測で用い る 10 ns より数 10 倍長い 200 ns 程度にして照射する手法)を海中での測定に応用した。2013 年の NT13 -23 では、ロングパルスを実装した LIBS センサ“ChemiCam”を開発し(図 1)、伊平屋北海丘にある 人工熱水孔(C0013E)の内側に析出した沈殿物を計測した(図 2) 。孔内の沈殿物から、銅・亜鉛・鉛 を豊富に含むことを示す信号を取得し、水深 1000 m 超の深海において初めて岩石中の複数元素を同 時・リアルタイムに分析することに成功した(図 3) 。また、信号の解析により周辺の天然熱水鉱床に 比べ、孔内の沈殿物が銅を多く含むことを示した。2014 年の NT14-21 では、天然の岩石をより効率的 に計測するためのフォーカス機能及びグラインダー等を用いて海底表面下を計測できるシステムを用 いて、伊平屋北海丘の NBC マウンド周辺にて天然の岩石計測を行い(図 4)、NBC マウンドの根元及び 頂上付近の複数地点において元素分析に成功した。今後の課題として、装置のより効率的な運用を目 指し、海底面の加工やレーザのフォーカス高速化、また、信号解析によるリアルタイムでの定量分析 を実装する予定である。 参考文献: [Provin et al. 2013]: C. Provin, T. Fukuba, K. Okamura, T. Fujii, IEEE. Journal of Ocean Engineering 38 (2013), 178-185. 図 1.深海リアルタイム元素分析装置 ChemiCam (左)堆積物計測用、 (右)海水計測用 図 3.計測スペクトル 図 2.人工熱水鉱床(C0013E)孔内での計測 (NT13-23) 図 4.岩石計測の様子(NT14-21)
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