5(PDF:1051KB)

平成 22 年度
5.
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
日中韓の産業構造と貿易における農林
水産業
日中韓の農林水産物貿易構造は、三か国の間で初めて FTA について共同研究が始まった 1999
年から、大きく変化を遂げてきた。依然として、日本は中・韓にとって最大の輸出相手であるが、
中・韓の農林水産物貿易、特に域外貿易が大きく拡大したことによって、日本の相対的な地位は
低くなりつつある。本章では 5.1 節において日中韓の産業構造と貿易を、5.2 節において日中韓
の農林水産物貿易についてとりまとめる。
5.1. 日中韓の産業構造と貿易
5.1.1.
産業構造 102
日本経済は自動車や電気・電子製品を中心とする製造業に支えられてきており、GDP に占め
る工業の割合は 28%となっている。また、農業や製造業における就業者数の減少を吸収してき
たサービス業も日本経済の 71%を占める重要な産業である。一方、
農業の GDP への貢献度は1%
程度と非常に低い。近年は日本経済の牽引役となってきた製造業の国際競争力低下が課題となっ
ており、日本政府は原子力や鉄道等のインフラ/システム輸出、次世代自動車等の環境エネルギ
ー分野、福祉サービス、文化産業、ロボット等の先端分野を産業発展の戦略分野に定め、今後こ
れらの主要分野に力を入れていく方針である。
中国では製造業を中心とする輸出産業の発展が経済成長を牽引してきており、工業が GDP の
47%を占める産業の柱である。一方、1980 年代以降サービス業が大きく拡大し、2008 年には GDP
に占める割合が 42%と工業と並ぶ主要な産業となっている。中国経済に占める農業の割合は 80
年代以降一貫して減少しており、現在は1割程度を占めるに過ぎない。2008 年のリーマン・シ
ョックをきっかけとした世界的な景気後退が輸出志向型の経済成長のデメリットを露呈し、中国
政府はより安定的な経済成長を目指してサービス産業を拡大していく方向である。
韓国経済は 1990 年代後半までに急速な工業化を遂げ、電気・電子機器、造船、鉄鋼、機械等
の製造業を牽引役として成長してきたが、新興国の台頭による世界市場でのシェアの停滞を背景
として、更なる高付加価値化が課題となっている。現在、韓国経済に占める工業の割合は 36%
102
(Deutsche Bank Research 2011), (Economy Watch), (経済産業省 2010), ERINA ウェブサイト等参照
96
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
となっている。その一方で農業セクターは縮小しており、GDP に占める農業の割合は 3%に過ぎ
ない。サービス産業は経済の 6 割を占めるが、他のアジア諸国と比較すると遅れを取っており、
今後さらなる育成が課題となっている。
図 37 日中韓の GDP に占める各産業の割合(2008 年)
日本 1%
28%
71%
農業
中国
11%
47%
42%
工業
サービス業
韓国 3%
36%
0%
20%
61%
40%
60%
80%
100%
出所)(World Bank 2010)
5.1.2.
貿易
日本、中国、韓国の貿易額は世界的な景気後退の影響でいずれも 2009 年には前年の 1〜3 割減
となったが、2010 年には回復し、特に中国は輸出入共に 2009 年の 3〜4 割増と大きく伸びてい
る。
日本の貿易額は 2003 年までは三国中トップであったが、2004 年には中国に追い抜かれ、2010
年の貿易額は輸入が 6,925 億米ドル、輸出が 7,697 億米ドルと中国の約半分になっている。主要
な輸入相手国は中国、米国、豪州、サウジアラビア、アラブ首長国連邦等で、主に原油、液化天
然ガス、衣類、電子部品、石炭、医薬品等を輸入している。輸出については長年アメリカが最大
の輸出相手国であったが、2009 年に中国がアメリカを追い越し、2009 年の実績では金額が大き
い順に中国、アメリカ、韓国、台湾、香港が主要な輸出先となっており、主に自動車、電子部品、
鉄鋼、船舶、プラスチック等を輸出している。
中国の貿易額は 2000 年代を通じて大幅に拡大し、2010 年は輸入が 1 兆 3,943 億米ドル、輸出
が 1 兆 5,783 億米ドルと 2001 年の 5 倍以上となり、
貿易収支は約 1,840 億米ドルの黒字であった。
主要な貿易相手国・地域は輸出が EU、米国、香港、ASEAN、日本、輸入が日本、EU、ASEAN、
韓国、台湾となっており、主な貿易品は機械電気製品やハイテク製品、繊維製品、原油等となっ
ている。
韓国の貿易額は 2009 年を除いて順調に拡大しており、2010 年の貿易額は輸入が 4,251 億米ド
ル、輸出が 4,678 億米ドルと約 426 億米ドルの貿易黒字となっている。韓国の最大の貿易相手国
97
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
は輸出入ともに中国で、これに米国、日本、香港、シンガポールが続く。また、近年輸出先が多
角化しており、アジアや中東、中南米向けの輸出が拡大傾向にある。主要な貿易品は、機械類、
電気電子製品、鉱産物、鉄鋼金属製品、化学工業製品等となっている。
図 38 日中韓の貿易額推移
1,800,000
1,600,000
中国輸出
百万ドル
1,400,000
1,200,000
中国輸入
1,000,000
日本輸出
800,000
日本輸入
600,000
400,000
韓国輸出
200,000
韓国輸入
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
出所)ITC 貿易統計
5.2. 日中韓の農林水産物貿易
日本、中国、韓国それぞれの農林水産物貿易とその推移
日本の農林水産物の輸入額は、2009 年実績では 713 億ドルで、過去 10 年間では緩やかな上昇
傾向にある。ただし総輸入額に占める割合は、2000 年の 16.9%から、2009 年の 12.9%へと減少
した。農林水産物の輸出額は 48 億ドルと限られており、総輸出額の 0.8%に留まる。
中国の農林水産物輸入は同じ 10 年間にほぼ 4 倍に増加するという急速な進展を見せた。農林
水産物輸出も増加したが、輸入に比べると拡大スピードが遅く、伸びは 2.7 倍に留まり、その結
果、中国は 2008 年以降、農林水産物の純輸入国へと変貌した。2009 年実績では輸入額は 571 億
ドルに達し、早晩日本に迫る勢いである。総輸入額に占める農林水産物のシェアは 2000 年前半
にかけて減少したものの、2007 年から再び上昇に転じており、2009 年は 5.7%となった。一方、
農林水産物の輸出は 2009 年に 527 億ドルと、こちらも上昇傾向にあるものの、総輸出額に占め
るシェアは減少傾向にあって、2000 年の 7.7%から、2009 年に 4.4%となって、輸出においては
農林水産物の重要性は年々縮小している。
韓国においても、農林水産物の輸入はこの 10 年間で 2 倍以上増加し、2009 年実績は 212 億ド
ル、総輸入額に占めるシェアは 6.6%となった。一方で輸出額も上昇傾向とはいえ、小幅な伸び
に留まったため、農林水産物貿易における貿易赤字は年々拡大している。農林水産物輸出の 2009
年実績は日本とほぼ同じ 48 億ドルで、総輸出額の 1.3%となる。
98
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
図 39 日中韓の農林水産物貿易と、貿易全体に占める農林水産物シェアの推移
日本
18.00%
16.00%
14.00%
12.00%
10.00%
8.00%
6.00%
4.00%
2.00%
0.00%
90,000
80,000
70,000
60,000
50,000
百万ドル
40,000
30,000
20,000
10,000
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
輸出額
輸入額
輸出シェア
輸入シェア
2009
中国
70,000
9.00%
8.00%
7.00%
6.00%
5.00%
4.00%
3.00%
2.00%
1.00%
0.00%
60,000
50,000
百万ドル
40,000
30,000
20,000
10,000
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
輸入額
輸出額
輸入シェア
輸出シェア
2009
韓国
25,000
8.00%
7.00%
20,000
6.00%
15,000
5.00%
輸入額
10,000
4.00%
輸出額
3.00%
輸入シェア
百万ドル
2.00%
5,000
1.00%
0
0.00%
2000
出所)
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
日本:農林水産省 農林水産物輸出入概況 各年版; 財務省 貿易統計
中国:ITC 貿易統計
韓国:aT Kati (農水産物流通公社) 農林水産物貿易統計
99
輸出シェア
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
表 61 日本の農林水産物及び総貿易額の推移
単位:百万ドル
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
36,991
11,258
16,151
64,401
7,672
11.9%
1,929
3.0%
316,919
381,319
16.9%
35,545
9,831
14,252
59,628
7,641
12.8%
1,595
2.7%
291,058
350,687
17.0%
34,245
9,118
14,030
57,393
7,564
13.2%
1,444
2.5%
278,814
336,206
17.1%
37,523
9,795
13,480
60,798
7,995
13.2%
1,406
2.3%
320,286
381,084
16.0%
42,242
11,494
15,118
68,853
9,610
14.0%
1,563
2.3%
385,678
454,531
15.1%
43,708
10,913
15,220
69,841
10,224
14.6%
1,483
2.1%
449,580
519,422
13.4%
43,046
11,827
14,682
69,556
10,523
15.1%
1,314
1.9%
509,749
579,306
12.0%
46,896
11,791
13,877
72,564
10,233
14.1%
1,247
1.7%
547,600
620,164
11.7%
57,393
11,096
15,059
83,547
9,375
11.2%
1,453
1.7%
673,958
757,505
11.0%
48,769
8,646
13,865
71,280
9,074
12.7%
1,576
2.2%
479,398
550,678
12.9%
1,570
2,497
1,643
1,682
74
58
64
77
1,290
1,118
1,087
1,163
2,933
3,673
2,793
2,923
177
230
236
296
6.0%
6.3%
8.4%
10.1%
326
317
334
329
11.1%
8.6%
12.0%
11.3%
478,197
401,282
412,087
465,665
481,131
404,954
414,880
468,588
0.6%
0.9%
0.7%
0.6%
出所)農林水産省 農林水産物輸出入概況 各年版; 財務省 貿易統計
1,882
82
1,369
3,333
388
11.6%
386
11.6%
561,591
564,924
0.6%
1,978
84
1,595
3,656
440
12.0%
371
10.1%
595,182
598,838
0.6%
2,029
78
1,755
3,862
512
13.3%
444
11.5%
643,417
647,279
0.6%
2,270
88
2,016
4,375
484
11.1%
522
11.9%
707,330
711,706
0.6%
2,766
114
1,993
4,872
432
8.9%
507
10.4%
772,429
777,301
0.6%
2,820
100
1,844
4,763
498
10.5%
490
10.3%
574,478
579,241
0.8%
輸入
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち中国
シェア
うち韓国
シェア
その他
計
農林水産シェア
輸出
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち中国
シェア
うち韓国
シェア
その他
計
農林水産シェア
100
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
表 62 中国の農林水産物及び総貿易額の推移
単位:百万ドル
輸入
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち日本
シェア
うち韓国
シェア
その他
計
農林水産シェア
輸出
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち日本
シェア
うち韓国
シェア
その他
計
農林水産シェア
出所)ITC 貿易統計
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
9,406
3,716
1,212
14,334
177
1.2%
202
1.4%
210,759
225,094
6.37%
9,763
3,468
1,331
14,562
230
1.6%
164
1.1%
228,991
243,553
5.98%
10,332
4,143
1,565
16,039
236
1.5%
178
1.1%
279,131
295,170
5.43%
15,511
4,643
1,865
22,019
296
1.3%
237
1.1%
390,741
412,760
5.33%
21,785
5,204
2,340
29,329
388
1.3%
338
1.2%
531,900
561,229
5.23%
22,188
5,713
2,879
30,780
440
1.4%
340
1.1%
629,173
659,953
4.66%
23,629
6,460
3,155
33,244
512
1.5%
336
1.0%
758,216
791,461
4.20%
33,199
7,980
3,443
44,622
484
1.1%
452
1.0%
911,494
956,115
4.67%
50,410
8,023
3,648
62,082
432
0.7%
539
0.9%
1,070,480
1,132,562
5.48%
46,275
7,255
3,605
57,135
498
0.9%
565
1.0%
948,420
1,005,555
5.68%
14,849
2,102
2,270
19,221
7,672
39.9%
1,868
9.7%
229,981
249,203
7.71%
15,449
2,305
2,591
20,344
7,641
37.6%
1,720
8.5%
245,754
266,098
7.65%
17,400
20,641
22,478
26,463
30,212
2,830
3,466
5,015
6,409
8,573
2,873
3,335
4,056
4,350
4,745
23,104
27,442
31,548
37,221
43,530
7,564
7,995
9,610
10,224
10,523
32.7%
29.1%
30.5%
27.5%
24.2%
2,321
2,776
2,422
3,155
3,236
10.0%
10.1%
7.7%
8.5%
7.4%
302,492
410,785
561,778
724,732
925,406
325,596
438,228
593,326
761,953
968,936
7.10%
6.26%
5.32%
4.88%
4.49%
ただし、日本と韓国のシェアは農林水産省 農林水産物輸出入概況 aT Kati 農林水産物貿易統計
35,465
9,777
4,752
49,994
10,233
20.5%
4,173
8.3%
1,170,066
1,220,060
4.10%
38,830
9,335
5,181
53,345
9,375
17.6%
3,627
6.8%
1,377,348
1,430,693
3.73%
38,217
7,713
6,814
52,744
9,074
17.2%
3,676
7.0%
1,148,903
1,201,647
4.39%
101
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
表 63 韓国の農林水産物及び総貿易額の推移
単位:百万ドル
輸入
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち日本
シェア
うち中国
シェア
その他
計
農林水産シェア
輸出
農産物
林産物
水産物
農林水産物計
うち日本
シェア
うち中国
シェア
その他
計
農林水産シェア
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
6,781
1,653
1,385
9,818
394
4.0%
1,868
19.0%
150,666
160,484
6.12%
6,792
1,657
1,631
10,079
347
3.4%
1,720
17.1%
131,012
141,091
7.14%
7,650
1,934
1,887
11,472
350
3.1%
2,321
20.2%
140,657
152,129
7.54%
8,328
1,893
1,964
12,185
363
3.0%
2,776
22.8%
166,642
178,827
6.81%
9,200
2,020
2,264
13,484
400
3.0%
2,422
18.0%
210,975
224,459
6.01%
9,758
2,131
2,387
14,276
374
2.6%
3,155
22.1%
246,960
261,236
5.46%
10,866
2,462
2,774
16,101
437
2.7%
3,236
20.1%
293,286
309,387
5.20%
13,324
2,858
3,060
19,242
530
2.8%
4,173
21.7%
337,603
356,845
5.39%
17,257
2,864
3,078
23,199
532
2.3%
3,627
15.6%
412,073
435,272
5.33%
14,239
4,108
2,894
21,241
536
2.5%
3,676
17.3%
301,841
323,082
6.57%
1,255
255
1,503
3,012
1,822
60.5%
202
6.7%
169,260
172,272
1.75%
1,370
210
1,272
2,852
1,563
54.8%
164
5.8%
147,589
150,441
1.90%
1,473
167
1,161
2,801
1,414
50.5%
178
6.4%
159,668
162,469
1.72%
1,683
177
1,131
2,991
1,398
46.7%
237
7.9%
190,833
193,824
1.54%
1,921
164
1,280
3,365
1,564
46.5%
338
10.0%
250,473
253,838
1.33%
2,072
150
1,194
3,416
1,455
42.6%
340
10.0%
281,004
284,420
1.20%
2,180
124
1,090
3,395
1,311
38.6%
336
9.9%
322,066
325,461
1.04%
2,403
128
1,228
3,759
1,220
32.5%
452
12.0%
367,731
371,490
1.01%
2,930
118
1,448
4,496
1,438
32.0%
539
12.0%
417,512
422,008
1.07%
3,130
168
1,511
4,809
1,580
32.9%
565
11.7%
358,719
363,528
1.32%
出所)aT Kati 農林水産物貿易統計
102
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
農産物、水産物、林産物の比較
日本の農林水産物貿易の中では、農産物が 68%、水産物が 21%、林産物が 12%である。いず
れも継続して大幅な輸入超過となっている。
中国の農林水産貿易の中では、農産物が 77%、水産物が 9%、林産物が 14%を占め、水産物の
シェアが低い。農産物については、既述の通り 2008 年以降、純輸入国となった。水産物につい
ては、中国が水産物の一大加工貿易拠点であることを反映して、輸入と輸出が過去 10 年間ほぼ
同じペースで増加し、輸出超過の状態が維持されている。林産物については、かつては林産物の
純輸入国であったが、輸出の伸びが輸入の伸びを上回り、2005 年からは輸出超過となった。
韓国の農林水産物貿易の中では、農産物が 67%、水産物が 17%、林産物が 16%である。いず
れも大幅な輸入超過ではあるが、農産物では輸入額に対して 2 割程度の輸出があり、水産物では
輸入額に対して 5 割程度の輸出がある。
5.2.1.
日中韓域内の農林水産物貿易
日中韓域内の農林水産物貿易フロー
次に、日中韓の域内農林水産物貿易の流れを次頁図に示した。
この中では、当然のことながら中国からの輸出が最も大きく、日本向けが 2009 年実績では
8,201 億円、韓国向けが 2,729 億円となっている。中国にとって農林水産物の輸出相手国として
は、日本は第 1 位、韓国は第 6 位である。次いで、韓国から日本への輸出が 1,462 億円ある。韓
国にとっても、やはり日本が第 1 位の輸出相手先である。ただし、次頁図に見るように、韓国か
ら日本向けの輸出は実額でも縮小傾向にある。
その他の日本から中韓両国への輸出と、韓国から中国への輸出はいずれも 400 億円前後の貿易
額に留まっている。ただし、輸出促進政策を進めている日韓両政府にとっては、中韓の重要性(日
本にとって輸出相手国として中国は第 4 位、韓国は第 5 位。韓国にとって輸出相手国として中国
は第 3 位。
)は決して低くない。
日中韓の地域内農林水産物貿易は、全体的には緩やかな拡大傾向にあり、2000~2009 年の 10
年間において、ドルベースで 30.4%増加した。次頁図に見るように、中国からの輸出入の拡大が
この拡大の牽引力となっている。ただし、三か国の総農林水産物貿易は、同じ期間に 86.3%の伸
びを示しており、相対的に地域内の貿易の比重が下がっていることが分かる。特に、図 41 に見
るように、日本のシェアが過去 10 年間で大きく減少している点が注目される。もちろん中韓の
農林水産物輸出において日本が依然として両国双方にとって最大の相手国であるという点は変
103
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
わっていないものの、日本のシェアは中韓の農林水産物輸出において、2000 年にはそれぞれ
39.9%、60.5%であったが、2009 年には 17.2%、32.9%となった。両国にとって、日本の農林水産
物輸出相手国としての重要性は年々低くなってきているといえる。
図 40 日中韓の地域間農林水産物貿易の推移
単位:百万ドル
2000 年
2009 年
565
202
1,868
3,676
1,929
1,576
7,672
9,074
326
177
総計
出所)
490
498
12,174 百万ドル
(約 1 兆 3,070 億円)
総計
15,879 百万ドル
(約 1 兆 4,850 億円)
日中・日韓の貿易額は:農林水産省 農林水産物輸出入概況
韓中の貿易額は:aT Kati 農林水産物貿易統計
図 41 中韓の農林水産物貿易において、域内が占める割合の推移
中国
韓国
45%
70%
40%
60%
35%
50%
30%
25%
日本(輸入)
20%
韓国(輸入)
15%
日本(輸出)
10%
韓国(輸出)
40%
日本(輸入)
中国(輸入)
30%
日本(輸出)
20%
0%
0%
中国(輸出)
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
5%
10%
出所) 中国:ITC 貿易統計 韓国:aT Kati 農林水産物貿易統計
日中間の農林水産物貿易の推移
中→日:日本の中国からの農林水産物輸入は、2006 年に 1 兆 2,233 億円でピークを迎えた後、
食品安全性問題の影響等により鶏肉やウナギの調製品が減少し、2009 年は 8,486 億円となった。
104
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
日本の中国からの農林水産物輸入においては、農産物が 59.6%、水産物が 26.1%、林産物が 14.3%
を占める。
日→中:日本の中国への農林水産物輸出も、2006 年に 595 億円でピークを迎えた後は水産物
輸出が減少し、2009 年は 465 億円となった。最大の品目は冷凍の秋鮭やサバ等の加工原料で、
これらは中国で加工されたのち、日本や欧米等へ再輸出されている割合が大きいと考えられる。
日本の中国への農林水産物輸出においては、農産物が 44.8%、水産物が 49.3%、林産物が 5.8%
を占める。
図 42 日中農林水産物貿易の推移
日本の中国からの農林水産物輸入
10億円
日本の中国への農林水産物輸出の推移
1400
70
1200
60
1000
50
800
40
600
30
400
20
200
10
0
0
林産物
水産物
農産物
2000 2002 2004 2006 2008
2000 2002 2004 2006 2008
出所)農林水産省 農林水産物輸出入概況 各年版
日韓間の農林水産物貿易の推移
韓→日:日本の韓国からの農林水産物輸入は減少傾向で、2009 年は 1,474 億円となった。水産
物の輸入が 2000 年代の初めに大きく減少したためである。
(ただし為替の影響で、ドルベースの
韓国側貿易統計では、2008 年、2009 年と増加している。)日本の韓国からの農林水産物輸入にお
いては、農産物と水産物がおよそ半分ずつで、林産物は 1%に満たない。
日→韓:日本の韓国への農林水産物輸出は 2007 年にピークの 615 億円となった。2006 年、2007
年と水産物の輸出が大きく増加した。しかし、円高の影響下で、2008 年、2009 年は水産物輸出
が減少し、2009 年の輸出額は 458 億円となっている。日本の韓国からの農林水産物輸入におい
ては、2009 年では農産物が 56.5%、水産物が 41.0%、林産物は 2.6%となっている。
105
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
図 43 日韓農林水産物貿易の推移
日本の韓国からの農林水産物輸入
日本の韓国への農林水産物輸出の推移
250
70
200
60
50
150
40
100
30
10億円
林産物
水産物
農産物
20
50
10
0
0
2000
2000 2002 2004 2006 2008
2002
2004
2006
2008
出所)農林水産省 農林水産物輸出入概況 各年版
韓中間の農林水産物貿易の推移
中→韓:韓国の中国からの農林水産物輸入は 2000 年代に大きく上昇し、2007 年に 41 億 7,300
万ドルでピークとなった。2008 年以降は中国からの飼料用トウモロコシや飼料用小麦の輸入が
ストップしたために農産物輸入が減少した。一方で、合板等林産物の輸入が増え、2009 年は農
林水産物合計で 1,474 億円となった。
韓国の中国からの農林水産物輸入においては、
農産物が 70%、
林産物が 29%、水産物は 1%のみとなっている。
韓→中:韓国の中国への農林水産物輸入は増加傾向にあり、2009 年は 5 億 6,500 万ドルとなっ
た。最大の輸出品目は精製糖である。韓国は、精製糖輸出は国際市場価格で行っているため(国
内価格は政策的に高い水準) 103、中国では国内需給に応じて韓国産精製糖を輸入しているもの
と考えられる。韓国の中国向け農林水産物輸出においては、農畜産物が 84%と過半を占める。
林産物が 2009 年大きく増加し、13%となったが、これは中国で剥き加工されて、日本へ甘露煮
原料として再輸出されるものが増えているためと考えられる。
図 44 韓中農林水産物貿易の推移
韓国の中国からの農林水産物輸入
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
百万ドル
2,000
1,500
1,000
500
0
韓国の中国への農林水産物輸出
600
500
400
林産物
300
水産物
200
農畜産物
100
0
2000
2000 2002 2004 2006 2008
出所)aT Kati 農林水産物貿易統計
103
(ALIC 調査情報部 2005)
106
2002
2004
2006
2008
平成 22 年度
日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
農林水産物貿易が日中韓域内貿易に占める割合
日中韓の貿易において農林水産物の占める割合は減少傾向にある。特にかつて農林水産物の割
合が 10%を大きく超えていた日本の中国からの輸入(下図中オレンジ線)、韓国の中国からの輸
入(下図中黄緑線)は、それぞれ 2009 年実績で 7.4%、6.8%にまで減少した。日本の韓国からの
輸入(下図中紫線)も、同年実績 7.2%となっている。
また、日本の韓国、中国への輸出、韓国の中国への輸出では、農林水産物はいずれも 1%程度
あるいは 1%以下である。
図 45 日中韓の貿易において農林水産物の占める割合の推移
16.0%
14.0%
12.0%
10.0%
中国→日本
8.0%
韓国→日本
6.0%
中国→韓国
4.0%
日本→韓国
2.0%
韓国→中国
0.0%
日本→中国
2000
出所)
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
農林水産省 農林水産物輸出入概況 各年版; 財務省 貿易統計
aT Kati 農林水産物貿易統計; KITA 貿易統計
5.3. 日中韓の産業構造と貿易における農林水産物
に係るまとめ

日中韓の農林水産物貿易構造は、三か国の間で初めて FTA について共同研究が始まった
1999 年から現在までに、大きく変化を遂げた。中国は旺盛な国内需要を満たすため、2008
年以降、農林水産物分野で輸入超過となった。韓国も輸入の伸びが輸出を大きく上回り、
農林水産物分野での貿易赤字が拡大している。

依然として、日本は中・韓にとって最大の輸出相手であるが、中・韓の農林水産物貿易、
特に日中韓以外の域外貿易が大きく拡大したことによって、日本の相対的な地位は急速に
低くなりつつある。
107
平成 22 年度

日中韓の自由貿易協定の調査・分析
農林水産省委託事業 自由貿易協定等情報調査分析検討事業
プロマーコンサルティング 2011 年 3 月
日本の農林水産物輸出にとっては、中・韓の重要性は高いが、中・韓の農林水産物輸入に
おいて日本は主要な相手国ではない。

日中韓の域内貿易における農林水産物の割合は、中→日・韓、韓→日ではかつては比較的
割合が高かったが、2009 年にはいずれも 10%以下へ減少した。日→中・韓、韓→中では農
林水産物の割合は 1%前後にすぎない。
108