第34回 企業会計審議会・第一回会計部会 の開催

Law, Accounting & Tax
不動産ファンドに関する国際財務報告基準
第34回
企業会計審議会・第一回会計部会
の開催について
清水 毅
太田 英男
プライスウォーターハウスクーパース
株式会社
パートナー
公認会計士
(ARES マスター M0600830)
あらた監査法人
パートナー
公認会計士
な見解です。
はじめに
本連載は、不動産ファンドに関係する国際財務報
告基準
(
「 IFRS 」
)
の動向および IFRSの基本的な考
え方を解説することを目的として連載しています。
2014 年10月28日、企業会計審議会総会が開催さ
企業会計審議会は、2013 年 6月に、
「 国際会計基
れ 、企業会計審議会に「会計部会」を設置し企画調
準
(
「 IFRS 」
)への対応のあり方に関する当面の方
整部会を廃止することが決定されました。その後、
針」
(
「 当面の方針」
)を公表しています
( 当シリーズ
2014 年12月15日に企業会計審議会第1回会計部会
第 27回参照)
。
「 当面の方針」における基本的な考
が開催されました。今回は、金融庁、株式会社日本
え方は、以下の3つです。
取引所グループ、企業会計基
準委員会から 、
「 国際会計基
図表 1 会計に関連する機関
準の任意適用の拡大促進」
と
「 国際会計基準の内容につい
企業会計審議会
ての我が国としての意見発信
の強化 」に向けた取り組み状
況について報告がなされまし
た。今回は、金融庁から「 会
計部会」に報告された「 国際
況 」について、解説したいと
思います。なお、文中意見に
関する記載は、筆者の個人的
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.23
金融庁長官の諮問に応じ、
企業会計の基準および監査基準の設定、
原価
計算の統一、
その他企業会計制度の整備改善について調査審議し、
その
結果を内閣総理大臣、
金融庁長官または関係各行政機関に対して報告し、
または建議する機関
金融庁
総務企画局
企業開示課
企業内容等に係る開示制度及び公認会計士制度の企画・立案、
企業会計
基準及び監査基準の設定、
有価証券報告書等の審査・処分等、
電子開示シ
ステム
(EDINET)
の整備、
公認会計士等の監督 等を行う
財務会計基準
機構
一般に公正妥当と認められる会計基準の調査研究・開発、
国際的な会計基
準の開発への貢献並びにディスクロージャー及び会計に関する諸制度の
調査研究を行う公益財団法人
(下記企業会計基準の運営を行う)
会計基準をめぐる最近の状
92
1.
「 国際会計基準への対応
のあり方に関する当面の
方針 」
上記財務会計基準機構が運営する、
会計基準等の審議、
開発を行う委員会
企業会計基準
委員会
(注)
従来、
わが国の企業会計基準は
「企業会計審議会」
が作ってきた。
しかし、
2001年
に国際会計基準審議会
(IASB)
に改組された際に、
加盟国の基準設定主体は民間
団体でなければならないとされた。そこで、
財務会計基準機構が新設され、
併せて
会計基準設定主体が民間の「企業会計基準委員会」
に移された。
金融調査会および企業会計に関する小委員会より、
1)IFRSは今後とも世界の関係者が参加して
「国際会計基準への対応についての提言」が公表さ
改善されていくべきものであることから、
れています。その中の4.具体的な対応
[任意適用
IFRS策定への日本の発言権を確保していく
の拡大]において、
「IFRS適用拡大に向けた実効性
ことがとりわけ重要である。
のあるインセンティブの検 討を進めるべきであ
2)まずは、IFRSの任意適用の積み上げを図
ることが重要である。
3)IFRSの強制適用の是非等については、未
だその判断をすべき状況にない
( 当面、判断
見送り)
。
る。・・・取引所において、IFRSの導入、独立社外取
締役の採用など、経営の革新性等の面で国際標準と
して評価される企業から構成される「新指数 」の創
設を早期に実現すべきである。
」と記載されています。
これを受けて、東京証券取引所は、2014 年1月よ
り、
「JPX日経インデックス400 」の算定を開始しまし
また、
「当面の方針」の中で以下の3つの方針が示
た。当該インデックスに含まれる銘柄の選定基準の
され 、その後法令の改正、基準等の公表がされてい
中に、
「定性的な要素による加点」が規定されてお
ます。
り、その一つとして「IFRSを採用していることが含
。
まれています
(<図表3>参照)
1)任意適用要件の緩和⇒IFRS 任意適用の
対象企業の範囲を拡大
( < 図表2>参照)
図表 2 IFRS 任意適用要件の緩和
2)IFRSの適用の方法
(
「 修正国際基準」の作
成 )⇒ピュアなIFRSに加え、日本が考える
「 あるべきIFRS 」を国際的に示す等の観点
から、修正国際基準を作成
( 当シリーズ第 32
回参照)
3)単体開示の簡素化
( 開示負担の軽減 )→金
商法の単体開示は、できるかぎり会社法の単
体開示に揃える
(注 )企業会計審議会・第1回会計部会・金融庁資料より
2.日本再興戦略
図表 3 JPX 日経インデックス400の概要
2013 年 6月に内閣府より「日本再興戦略」が公表
されています。その中の、第Ⅱ一日本産業再興プラ
ン、1緊急構造改革プログラムの④事業再編・事業
組換の促進、コーポレートガバナンスの強化におい
て、
「国内の証券取引所に対し、上場基準における
社外取締役の位置付けや、収益性や経営面での評
価が高い銘柄のインデックスの設定など、コーポレー
トガバナンスの強化につながる取組を働きかける。
」
と閣議決定されています。
さらに、2013 年 6月に、自由民主党政務調査会、
(注 )企業会計審議会・第1回会計部会・金融庁資料より
January-February 2015
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比較すると一年で2倍以上に増えました
(<図表4>
3.日本再興戦略改定 2014
参照)
。業種別で見ると、医薬品が 9 社、商社を含
む卸売り業者およびサービス業者がそれぞれ7社、
内閣府は、2014 年 6月に「
「日本再興戦略」改訂
情報通信業者および電気機器がそれぞれ 6 社となっ
2014 」を公表しました。その中の5-2 金融・資本市場
。今現在、国際的に活動
ています
(<図表5>参照)
の活性化、
( 3)
新たに講ずべき具体的施策、ⅰ)
金
している会社、比較的M&Aの機会が多い会社の適
融・資本市場の活性化、④IFRSの任意適用企業の
用が多いように思えます。
拡大促進 において、以下の事項を閣議決定してい
ます。
不動産業者で、IFRSを適用している会社は1社と
なっていますが、不動産開発に参加、あるいはリート
等不動産ファンドの運用に携わることが多い、商社
2008 年のG20首脳宣言において示
の多くが IFRSを適用しています。
された、会計における「単一で高品
質な国際基準を策定する」との目
図表 4 日本における IFRS 適用状況
標の実現に向け、IFRSの任意適
用企業の拡大促進に努めるものと
。
する
(<図表4>参照)
また、従来進めてきた施策に加え、
IFRSの任意適用企業が IFRS 移
行時の課題をどのように乗り越えた
のか、また、移行によるメリットに
どのようなものがあったのか、等に
ついて、実態調査・ヒアリングを行
い、IFRSへの移行を検討している
企業の参考とするため、
「 IFRS 適
(注 )企業会計審議会・第1回会計部会・金融庁資料より
用レポート
( 仮称)
」として公表する
などの対応を進める。
上場企業に対し、会計基準の選択
図表 5 IFRS 任意適用会社(適用予定会社を含む)
(2014 年 12 月15日時点:計 53 社)
に関する基本的な考え方
( 例えば、
IFRSの適用を検討しているかな
ど)
について、投資家に説明するよ
う東京証券取引所から促すことと
する。
4.IFRS 任意適用
IFRS 任意適用会社は、適用予定会社を
入れると、2014 年12月15日現在で、53 社
となっています。2013 年12月末の25 社に
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.23
(注 )企業会計審議会・第1回会計部会・金融庁資料より
5.最後に
図表 6 IFRS の国際的な適用の進捗状況評価
ー 138 法域の概要(IFRS 財団作成 Jurisdiction Profile より)ー
IFRSの国際的な進捗状況
(<図表6
>参照)
を見ると、米国を除く主要な先
進国では、IFRSを強制適用しています
( 108 法地域)
。日本と同様にIFRSの
任意適用を認めている国は12 法地域
で、自国の基準を使用している主な国
は米国や中国でわずか 8 法地域になっ
ています。
(注 )企業会計審議会・第1回会計部会・金融庁資料より
しみず たけし
公認会計士、日本証券アナリスト協会検定会員、不動産証券化協会
認定マスター あらた監査法人・プライスウォーターハウスクーパー
ス株式会社パートナー 資産運用インダストリーリーダー 不動産
ファンドおよび運用会社に対して、監査およびアドバイス業務を提
供。
主たる著書として、
「投資信託の計理と決算」
(中央経済社・共著)、
「不動産投信の経理と税務」(中央経済社・共著)、「集団投資スキー
ムの会計と税務」
(中央経済社・共著)等。あらた監査法人の不動
産業・IFRS チャンピオン、および PwC・Global の IFRS・業種
別委員会・不動産部会の委員を務める。
おおた ひでお
公認会計士、あらた監査法人 第3金融部(資産運用)パートナー
不動産運用インダストリー全般、J リートおよび私募不動産ファン
ドなどに対して、監査およびアドバイス業務を提供。主たる著書と
して、
「ファンド投資のモニタリング手法」(中央経済社・共著)、
「不
動産投資法人 (J リート ) 設立と上場の手引き」
(不動産証券化協会・
共著)、「集団投資スキームの会計と税務」(中央経済社・共著)、「投
資信託の計理と決算」(中央経済社・共著)等。不動産証券化協会
IFRS コンバージェンスグループ委員及び日本公認会計協会 投資
信託等専門部会 専門委員。
January-February 2015
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