2014年12月22日リサーチ ポートフォリオ・リバランス効果の

金融資本市場
2014 年 12 月 22 日 全 12 頁
ポートフォリオ・リバランス効果の発現か?
資金循環統計(2014 年 7-9 月期)
金融調査部 1
[要約]

日本銀行(以下、日銀)から 2014 年 7-9 月期の資金循環統計(速報)が公表された。
株価の上昇等を背景として金融資産残高を増加させた主体が多い。

家計の金融資産残高は、株高による金融資産残高増加に加え、投資信託などのリスク性
資産への資金流入が加速し、過去最高額となった。依然、現金・預金がポートフォリオ
の中心ではあるものの、NISA(少額投資非課税制度)などの影響もあり、リスク資産へ
の移行が生じ始めているように思われる。

年金や生命保険では国内債券を売却し、よりリスクの高い株式・出資金、外債等への投
資の動きが前期に引き続き見られる。

事業会社(民間非金融法人企業)では、フローベースでの借入(民間金融機関の貸出)
が+4.4 兆円と前期のマイナスからプラスに転じ、株式・出資金(負債側=資金調達)
は+0.7 兆円と 9 四半期連続の流入超となった。企業の資金調達需要が続いていると判
断される。また、対外直接投資の残高は 9 四半期連続で過去最高を更新している。
1. 主体別動向
(1)家計
株高による金融資産残高増加に加え、リスク性資産への資金流入が加速
家計の金融資産残高は 1,653.6 兆円(前期比+8.8 兆円)と 2 四半期連続で増加し、過去最大
を更新した(図表 1)
。残高が増加した主な項目は株式・出資金、投資信託、保険・年金準備金
である。
株式・出資金は 155.7 兆円と前期比+5.9 兆円となり、2 四半期連続で増加した。もっとも、
1
執筆者は、中里幸聖、島津洋隆、太田珠美。
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
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フローは▲0.9 兆円となっており、
残高の増加は株価の上昇 2によるものである。
投資信託は 85.9
兆円と前期比+3.6 兆円となり、2 四半期連続で増加した。フローは+2.0 兆円と 10 四半期連続
で流入超となった。なお、投資信託のフローが流入超となった背景として、2014 年 1 月から導
入された NISA(少額投資非課税制度)の影響もあると考えられる。保険・年金準備金は 443.7
兆円(同+2.4 兆円)となり、9 四半期連続で増加した。フローは+2.0 兆円と 13 四半期連続の
流入超となった。
一方、国債・財融債の残高は 19.3 兆円と前期比▲1.1 兆円となり、23 四半期連続で減少とな
った。フローにおいても▲1.0 兆円(売却超)となっている。また、現金・預金は 870.4 兆円と
前期比▲3.6 兆円となった。賞与後の夏季休暇期間という季節要因(収入が前期より減少する一
方で、消費機会が多い)が背景にあると考えられる。
なお、リスク資産(図表では投資計:債券、投資信託、株式・出資金、対外証券投資の合計)
へのフローは株式・出資金では▲0.9 兆円となったが、投資信託(+2.0 兆円)が拡大したこと
などから+1.0 兆円となった。
図表 1
家計の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-5
0
金融資産残高
10
8.8
-0.7
現金・預金 -3.6
-3.6
債券
-0.7
-0.7
投資信託
株式・出資金
(兆円)
5
2.0
3.6
5.9
-0.9
2.4
2.0
保険・年金準備金
0.8
0.5
対外証券投資
(参考)投資計
9.7
1.0
残高増減
フロー(資金純投入)
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
1,653.6
100.0
現金・預金
870.4
52.6
(▲0.5)
債券
25.7
1.6
(▲0.0)
投資信託
85.9
5.2
(0.2)
株式・出資金
155.7
9.4
(0.3)
保険・年金準備金
443.7
26.8
(0.0)
対外証券投資
12.6
0.8
(0.0)
その他
59.6
3.6
(▲0.0)
(参考)投資計
279.9
16.9
(0.5)
合計
(注)残高増減は前期比で価格変動を含めた数値(以降の図表において全て同じ)
。債券は国債・地方債・政府
関係機関債・金融債・事業債を含む。投資計は債券・投資信託・株式・出資金・対外証券投資の合計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(2)中央銀行(日銀)
金融資産残高、国債残高ともに過去最高を更新中
中央銀行の金融資産残高は、国債・財融債(前期比+13.6 兆円)、国庫短期証券(同+4.2
兆円)の増加を主因に、全体で+19.5 兆円増加し、290.4 兆円となった(図表 2)。2013 年 4
月 4 日の日本銀行(以下、日銀)の金融政策決定会合で決定された「量的・質的金融緩和」(い
2
2014 年 6 月末の日経平均株価は 15,162 円で、2014 年 9 月末は 16,174 円。
3 / 12
わゆる異次元緩和政策)に伴い、金融資産残高、国債残高ともに過去最高を更新した。
なお、2014 年 12 月 10 日時点における日銀の資産構成(日本銀行「営業毎旬報告」による)
は、長期国債 200.2 兆円、国庫短期証券 53.3 兆円、貸付金 28.7 兆円、信託財産指数連動型上
場投資信託(ETF)3.6 兆円、信託財産不動産投資信託(J-REIT)0.2 兆円、総資産 300.6 兆円
となっており、2014 年 10 月 31 日の追加緩和に伴い総資産の拡大のペースを上げている。
図表 2
中央銀行の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-5
0
5
10
15
(兆円)
20
19.5
18.0 金融資産残高
金融資産残高
4.2
4.2
国庫短期証券
13.6
12.8
国債・財融債
株式・出資金
0.1
0.1
0.2
0.0
対外証券投資
0.2
その他債券
前期差
(%)
(%pt)
100.0
貸出
31.3
10.8
(▲0.4)
国庫短期証券
49.5
17.0
(0.3)
国債・財融債
183.4
63.2
(0.5)
その他債券
5.3
1.8
(▲0.1)
株式・出資金
2.6
0.9
(0.0)
対外証券投資
4.6
1.6
(▲0.0)
その他
13.8
4.8
(▲0.3)
-0.1
残高増減
構成比
290.4
1.1
1.1
貸出
残高
(兆円)
フロー(資金純投入)
(注)その他債券は地方債・政府関係機関債・金融債・事業債・居住者発行外債・CP の合計(以降の図表におい
て全て同じ)
。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(3)預金取扱機関(銀行等)
貸出増加に加え、円安・株高により資産増加
預金取扱機関の金融資産残高は 1,781.3 兆円(前期比+37.8 兆円)となった(図表 3)
。増加
の主因としては、民間金融機関貸出(同+10.9 兆円)
、現金・預金(同+8.8 兆円)
、対外証券
投資(同+6.2 兆円)
、株式・出資金(同+3.0 兆円)、投資信託受益証券(同+1.6 兆円)の増
加が挙げられる。このうち、株式・出資金については、フローにおける増加が+1.2 兆円に留ま
っていることから、銀行の株式の買い増しに加え、株価上昇により時価評価が押し上げられる
形で残高が増加したものと考えられる。
異次元緩和政策における日銀の買い入れオペの影響により、国債残高(同 308.4 兆円)は 4
四半期連続で減少した。国債の売却代金は日銀の当座預金に積み上がっている(日銀預け金は
前期比+8.9 兆円増加で、10 四半期連続増加)
。
貸出残高は 697.5 兆円で、2 四半期ぶりに増加し、フローも+8.1 兆円と 2 四半期ぶりに流入
超になった。フローの内訳をみると、住宅貸付(+0.8 兆円)の流入超(貸出超)
、企業・政府
等向け(+8.2 兆円)の流入超(貸出超)となっている。
4 / 12
海外部門への貸出残高も増加している。海外部門における負債をみると、民間金融機関から
の借入残高は 66.3 兆円(同+3.9 兆円)と増加し、またフローでも+1.5 兆円(借入増加)と
なっている(図表 4)
。
図表 3
預金取扱機関の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-10
0
20
10
金融資産残高
8.8
8.6
9.9
8.1
現金・預金
貸出
国債
その他債券
株式・出資金
対外証券投資
30
(兆円)
40
18.0
-6.1
-6.6
-0.2
-1.3
3.0
1.2
0.7
残高増減
6.2
37.8
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
1,781.3
100.0
現金・預金
315.9
17.7
(0.1)
貸出
697.5
39.2
(▲0.3)
国債
308.4
17.3
(▲0.7)
その他債券
122.0
6.8
(▲0.2)
株式・出資金
57.3
3.2
(0.1)
対外証券投資
93.6
5.3
(0.2)
その他
186.6
10.5
(0.7)
項目
金融資産残高
フロー(資金純投入)
(注)国債は国債・財融債と国庫短期証券の合計値。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
図表4 海外部門の民間金融機関からの借入残高推移
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
5 / 12
(4)生命保険
運用を国債から外債運用へシフトしつつ、円安・株高による資産増加
生命保険の金融資産残高は、前期比+7.2 兆円増加の 344.9 兆円となり、2 四半期連続の増加
となった(図表 5)
。フロー全体では+2.9 兆円の資金純増となっている。
金融資産残高の増加に最も寄与したのは対外証券投資で、+4.4 兆円と 12 四半期連続の増加
となった。それに次いで、国債が+1.1 兆円の増加、株式・出資金は+0.9 兆円の増加となった。
フロー全体の増加に最も寄与したのが対外証券投資の+2.3 兆円で、6 四半期連続の流入超とな
った。
上記のことから、生命保険では、国内の低金利環境から資金運用を国債から外債へシフトす
る動きに加え、円安・株高により金融資産が増加している姿が垣間見える。
図表 5
生命保険の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-1
0
1
2
金融資産残高
現金・預金
3
4
5
6
7
(兆円)
8
7.2
2.9
0.6
0.6
-0.3
貸出-0.3
国債
その他債券
株式・出資金 -0.1
1.1
0.4
0.5
0.2
0.9
4.4
対外証券投資
2.3
残高増減
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
344.9
100.0
現金・預金
4.5
1.3
(0.1)
貸出
43.0
12.5
(▲0.4)
国債
154.1
44.7
(▲0.6)
その他債券
39.3
11.4
(▲0.1)
株式・出資金
18.4
5.3
(0.2)
対外証券投資
58.1
16.9
(1.0)
その他
27.4
7.9
(▲0.2)
金融資産残高
フロー(資金純投入)
(注)国債は国債・財融債と国庫短期証券の合計値。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(5)年金
債券以外の資産の増加・買い増しとリスク資産の価格上昇により残高は増加
年金基金と公的年金を合わせた年金計の金融資産残高は 340.2 兆円(前期比+9.0 兆円)と前
期比増となった(図表 6)
。フローでは+2.8 兆円であり、債券以外の資産買い増しに加えて、
株式や対外証券投資などのリスク資産の時価上昇が残高を押し上げた形となった。
残高ベースの増減に関しては、国債・財融債(同▲2.8 兆円)、その他債券(同▲0.4 兆円)
が減少したものの、対外証券投資(同+5.9 兆円)、株式・出資金(同+2.9 兆円)、財政融資資
金預託金(同+2.6 兆円)
、現金・預金(同+1.5 兆円)等が増加した。フローでは、国債・財
6 / 12
融債(▲2.8 兆円)
、その他債券(▲0.4 兆円)等がマイナスとなったが、財政融資資金預託金
(同+2.6 兆円)
、対外証券投資(同+2.3 兆円)、現金・預金(同+1.5 兆円)、株式・出資金(+
0.6 兆円)等がプラスとなった。
つまり、この間、債券を売却する一方で、現金等の増加と株式や対外証券などのリスク資産
の価格上昇と買い増しにより残高が増加している。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
の基本ポートフォリオ変更の影響も出ていると推測される 3。
図表 6
年金の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-5
0
金融資産残高
財政融資資金預託金
貸出
-2.8
-2.8
投資信託
その他債券
9.0
2.8
1.5
1.5
2.6
2.6
0.3
0.3
現金・預金
国債・財融債
(兆円)
10
5
-0.4
-0.4
株式・出資金
対外証券投資
0.3
0.1
0.6
2.9
2.3
残高増減
5.9
項目
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
金融資産残高
340.2
100.0
現金・預金
14.8
4.4
(0.3)
財政融資資金預託金
11.5
3.4
(0.7)
貸出
7.5
2.2
(0.0)
国債・財融債
96.7
28.4
(▲1.6)
投資信託
9.7
2.9
(0.0)
その他債券
33.8
9.9
(▲0.4)
株式・出資金
44.7
13.2
(0.5)
対外証券投資
80.3
23.6
(1.1)
その他
41.1
12.1
(▲0.7)
フロー(資金純投入)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(6)民間非金融法人企業(事業法人)
現金・預金と対外直接投資が過去最高を更新
民間非金融法人企業の金融資産残高は 972.0 兆円(前期比+29.2 兆円)となり、2 四半期ぶ
りの増加となった(図表 7)
。増加に転じた主な要因は、株式・出資金の増加(同+11.9 兆円)、
企業間・貿易信用の増加(同+8.9 兆円)、対外直接投資の増加(+4.5 兆円)、と現金・預金の
増加(同+4.2 兆円)である。現金・預金残高は 233.1 兆円で、過去最高となった。対外直接投
資の残高は 72.5 兆円であり、9 四半期連続で過去最高を更新している。為替が円安に動いてい
る影響もあるが、フローでみても+1.0 兆円の流入超(海外への投資増)となっており、企業の
海外展開への意欲は引き続き強いようだ。
他方で、金融負債残高のうち、注目されるフローベースの借入は+4.4 兆円、株式・出資金(負
債側=資金調達)は+0.7 兆円となった。株式・出資金のフローは 9 四半期連続のプラスとなっ
3
GPIF の基本ポートフォリオ変更は次の四半期(2014 年 10 月)であるが、その前から基本ポートフォリオから
の乖離許容幅の拡大が実施されていた。
7 / 12
ており、企業の資金調達需要が引き続き強いことが確認された。なお、借入れに関しては民間
金融機関からの借入は+2.9 兆円、非金融法人部門からの借入が+1.9 兆円、公的金融機関から
の借入が▲0.5 兆円となっている。非金融法人部門からの借入は、民間非金融法人企業と海外部
門(邦銀の在外支店を含む)が資金の出し手となっている。企業の海外展開が進むにつれて、
海外部門からの借入が増加しているものと推測される。
図表 7 民間非金融法人企業の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-5
0
5
10
15
16.1
4.2
4.2
現金・預金
-0.1
1.0
株式・出資金
0.1
対外証券投資
1.0
0.7
対外直接投資
25
30
(兆円)
35
29.2
金融資産残高
貸出
20
1.0
11.9
4.5
8.9
7.1
企業間・貿易信用
残高増減
項目
残高
構成比
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
金融資産残高
972.0
100.0
現金・預金
233.1
24.0
(▲0.3)
貸出
40.4
4.2
(▲0.1)
株式・出資金
262.1
27.0
(0.4)
対外証券投資
57.2
5.9
(▲0.1)
対外直接投資
72.5
7.5
(0.2)
企業間・貿易信用
210.6
21.7
(0.3)
その他
96.1
9.9
(▲0.4)
フロー(資金純投入)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(7)海外
貸出が過去最高を更新
海外の金融資産残高は 535.2 兆円(前期比+34.4 兆円)と 2 四半期連続の増加となった(図
表 8)
。増加の主な要因は株式・出資金(同+9.5 兆円)、貸出(同+6.6 兆円)、国債(同+3.4
兆円)である。貸出残高は 148.3 兆円と、2 四半期連続で過去最高を更新した。貸出残高のうち、
6 割が非金融部門貸出金、残り 4 割が現先・債券貸借取引である。今回貸出全体のフローは+3.0
兆円だが、この大半は非金融部門貸出金である(+3.1 兆円)。
株式・出資金は 170.9 兆円と前期比+9.5 兆円となった。フローは+1.1 兆円と 2 四半期連続
で買い越しであった。なお、10-12 月期に関して、株式市場の投資部門別売買状況(二市場一部・
二部等(東証と名証)出所:東京証券取引所)をみると、外国人投資家の 2014 年 10 月~12 月
1 週目までの買越額は+1.3 兆円となっており、投資意欲は引き続き高いようだ。
8 / 12
図表 8
海外部門の金融資産の状況(2014 年 7-9 月)
(左図:フロー等、右図:ストック)
-5
0
5
10
15
金融資産残高
現金・預金 -0.1
貸出
国債
その他債券
投資信託
0.0
株式・出資金
25
(兆円)
30 35
13.7
0.2
3.0
3.4
3.0
1.9
0.8
0.1
20
34.4
1.1
残高増減
9.5
フロー(資金純投入)
構成比
前期差
(%)
(%pt)
535.2
100.0
7.7
1.4
(▲0.1)
貸出
148.3
27.7
(▲0.6)
国債
89.8
16.8
(▲0.5)
その他債券
15.7
2.9
(0.2)
投資信託
1.9
0.4
(▲0.0)
株式・出資金
170.9
31.9
(▲0.3)
その他
100.9
18.8
(1.3)
金融資産残高
現金・預金
6.6
残高
(兆円)
(注)国債は国債・財融債と国庫短期証券の合計値。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
2. 金融資産別の動向
(1)国債・財融債
異次元緩和政策により引き続き中央銀行が 10 兆円台の買い増し、海外も保有残高増加
国債・財融債の残高は 860.7 兆円(前期比+8.2 兆円)となった(図表 9)。フローでは+6.0
兆円(発行増加)であり、価格上昇(金利は低下)の影響もあり、発行残高は 5 四半期連続で
増加した。保有主体別では、引き続き中央銀行が残高を大きく増加させた(同+13.6 兆円)
。中
央銀行の保有残高増加は 2010 年 3 月末から 19 四半期連続となる。また、中央銀行のフローで
は 2013 年 4-6 月期:+19.0 兆円、7-9 月期:+14.9 兆円、10-12 月期:+15.5 兆円、2014 年
1-3 月期:+12.1 兆円、4-6 月期:+12.5 兆円、7-9 月期:+12.8 兆円と 6 四半期連続で 10 兆
円台の買い増しをしている(それ以前でフローが 10 兆円を超えたのは、2001 年 4-6 月期の 11.0
兆円のみ)
。また、海外の残高が前期比+5.9 兆円(フローは+5.5 兆円)と増加している。一
方、年金計(年金基金と公的年金の合計)の保有残高は前期比▲2.8 兆円(フローも▲2.8 兆円)
と 4 四半期連続の減少となった他、家計の保有残高は同▲1.1 兆円(フローは▲1.0 兆円)と 23
四半期連続で減少した。最大の保有主体である預金取扱機関の保有残高は▲3.7 兆円と 4 四半期
連続の減少、
フローは▲4.2 兆円と 2013 年 4-6 月期から 6 四半期連続のマイナスとなっている。
9 / 12
図表 9
国債・財融債の主体別保有残高、フロー等、ストック(2014 年 7-9 月)
-5
0
5
国債・財融債計
10
6.0
8.2
中央銀行
-3.7
預金取扱機関
-4.2
保険
-2.8
年金計 -2.8
その他金融機関-3.8
-3.7
非金融法人企業 -1.8
-1.7
0.0
一般政府(除く公的年金)
0.0
-1.1
家計
-1.0
海外
残高増減
(兆円)
15
項目
残高
(兆円)
保有シェア
(%)
前期差
(%pt)
国債・財融債計
860.7
100.0
中央銀行
183.4
21.3
(1.4)
預金取扱機関
282.1
32.8
(▲0.7)
保険
194.4
22.6
(0.0)
年金計
96.7
11.2
(▲0.4)
その他金融機関
30.9
3.6
(▲0.5)
非金融法人企業
6.6
0.8
(▲0.2)
一般政府(除く公的年金)
2.4
0.3
(▲0.0)
家計
19.3
2.2
(▲0.1)
海外
41.1
4.8
(0.6)
その他
3.8
0.4
(0.0)
13.6
12.8
1.9
1.1
5.9
5.5
フロー(資金純投入)
(注)年金計は、年金基金と公的年金を含む。その他金融機関の数値は金融機関合計から中央銀行・預金取扱機
関・保険・年金基金を減じたもの。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(2)株式
家計部門が売り主体、海外部門と公的年金が買い主体に
株式(ここでは上場株式に限定し、出資金は含まず)の残高は 492.6 兆円(前期比+24.1 兆
円)となった(図表 10)
。各主体の増加額をみると、海外(同+8.2 兆円)
、民間非金融法人(同
+4.5 兆円)
、家計(同+3.1 兆円)
、年金計(同+2.9 兆円)となっている。
残高の増加は株価変動等によるものが大きいが、フローで見ると、海外(+0.9 兆円)や年金
計(+0.6 兆円)が買い手(流入超)に、家計が売り手(流出超:▲1.1 兆円)になっていたこ
とが読み取れる。なお、年金計の大半は公的年金によるものであり、年金積立金管理運用独立
行政法人(GPIF)が株式保有を増やしている可能性が示唆される 4。海外は 2 四半期連続、年金
計は 3 四半期連続の流入超、家計は 2 四半期連続の流出超である。
この傾向は 10-12 月期も継続しているとみられ、株式市場の投資部門別売買状況(二市場一
部・二部等(東証と名証)出所:東京証券取引所)によれば、10 月~12 月 1 週目までの間に外
国人投資家が 1.3 兆円の買い越し、個人が 2.1 兆円の売り越しとなっている。年金計は明らか
ではないものの、年金等から株式売買を受託している信託銀行の売買状況が 1.1 兆円の買い越
しとなっていることから、引き続き買い手になっているものと推測される。
4
公的年金は年金保険を運営する公的年金として、国の特別会計の一部等(年金特別会計・厚生年金勘定、同・
国民年金勘定、同・基礎年金勘定、年金積立金管理運用独立行政法人<総合勘定、承継資金運用勘定>)
、共済
年金(共済組合の長期計理)
、農業者年金基金(旧年金勘定)
、石炭鉱業年金基金が集計対象となっている。公
的年金部門が保有する株式は 2014 年 9 月末時点で 30.1 兆円だが、年金積立金管理運用独立行政法人の同時点
の国内株式運用資産額は 23.9 兆円であり、その大半を占めている。
10 / 12
図表 10 株式(上場)の主体別保有残高、フロー等、ストック(2014 年 7-9 月)
(兆円)
(10)
0
株式合計
国内銀行
-0.3
生命保険
-0.1
損害保険
-0.0
年金基金
公的年金
投資信託
-0.4
その他金融機関
民間非金融法人企業
家計
-1.1
海外
10
30
20
24.1
0.6
1.2
株式計
0.9
0.3
0.6
0.0
2.3
0.6
0.8
2.0
0.8
4.5
0.1
3.1
0.9
残高増減
残高
保有シェア
前期差
(兆円)
(%)
(%pt)
492.6
100.0
国内銀行
21.2
4.3
(0.0)
生命保険
17.2
3.5
(0.0)
損害保険
7.1
1.4
(▲0.0)
年金基金
13.0
2.6
(▲0.0)
公的年金
30.1
6.1
(0.2)
投資信託
24.1
4.9
(▲0.1)
その他金融機関
24.6
5.0
(0.2)
民間非金融法人企業
108.4
22.0
(▲0.2)
8.2
家計
89.1
18.1
(▲0.3)
フロー(資金純投入)
海外
153.5
31.2
(0.1)
(注)主要な主体を取り上げた。
「公的年金」は金融機関に含まれないが、便宜上、年金基金の次に表示した。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
図表 11
株式(上場)の主体別保有シェア推移
(%)
海外
35
30
民間非金融
法人企業
25
家計
20
年金
15
生保・損保
10
国内銀行
5
投資信託
0
2003/3
2005/3
2007/3
2009/3
2011/3
(注)年金は、年金基金と公的年金を含む。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
その他
2013/3
(年/月末)
(3)対外証券投資
保険、年金計の投資が堅調に推移
対外証券投資残高は 515.9 兆円(前期比+29.8 兆円)となり、2 四半期連続で過去最高を更
新した(図表 12)
。増加は為替等の影響によるところが多く、フローとしては+8.2 兆円である。
各主体別のフローは、保険(+2.6 兆円)、年金計(+2.3 兆円)
、証券投資信託(+1.7 兆円)、
家計(+0.5 兆円)となっている。なお、預金取扱機関(+0.7 兆円)に関しては、国内銀行は
大幅な流出超(▲2.3 兆円)であり、増加しているのは農林水産金融機関(+1.6 兆円)と中小
企業金融機関等 5(+1.5 兆円)によるものである。
5
中小企業金融機関等に計上されるのは信金中央金庫、信用金庫、全国信用協同組合連合会、信用組合、労働金
11 / 12
国際収支統計の対外証券投資で 2014 年 7-9 月期の資産別(株式・投資ファンド持分、中長期
債、短期債)の資金フローをみると、株式・投資ファンド持分が+3.0 兆円、中長期債が+4.8
兆円、短期債が+0.5 兆円となっている 6。投資家部門別にみると、保険会社(生命保険会社+
損害保険会社)は中長期債への投資が中心であり(株式・投資ファンド持分:+0.1 兆円、中長
期債:+2.5 兆円、短期債:▲0.0 兆円)、証券投資信託(投資信託委託会社等)は株式・投資
ファンド持分への投資が中心である(株式・投資ファンド持分:+1.8 兆円、中長期債:▲0.1
兆円、短期債:+0.0 兆円)
。国際収支統計からは年金の動向を直接知ることはできないが、信
託銀行の信託勘定(年金等から受託した資産の取引)から間接的に見てみると、株式・投資フ
ァンド持分(+1.0 兆円)と中長期債(+1.0 兆円)の双方に投資をしたものと推測される(短
期債:▲0.0 兆円)
。
図表 12 対外証券投資の主体別保有残高、フロー等、ストック(2014 年 7-9 月)
(兆円)
-5
0
5
合計
預金取扱機関
0.7
保険
年金基金
公的年金
証券投資信託
その他金融 -0.1
一般政府(除く公的年金)
家計
-0.0
残高増減
8.2
6.2
29.8
4.7
2.6
1.7
0.1
4.2
2.2
3.1
1.7
0.2
1.0
0.7
非金融法人企業
残高
(兆円)
10 15 20 25 30
7.9
0.8
0.5
フロー(資金純投入)
構成比
(%)
前期差
(%pt)
対外証券投資計
515.9
100.0
預金取扱機関
93.6
18.1
(0.2)
保険
64.8
12.6
(0.2)
年金基金
33.4
6.5
(▲0.1)
公的年金
46.9
9.1
(0.3)
証券投資信託
73.4
14.2
(▲0.2)
その他金融
8.0
1.5
(▲0.1)
非金融法人企業
57.5
11.1
(▲0.5)
一般政府(除く公的年金)
125.8
24.4
(0.1)
家計
12.6
2.4
(0.0)
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
庫連合会、労働金庫、商工組合中央金庫、ゆうちょ銀行の資産である。
6
資金循環統計と国際収支統計の数値は、集計方法の違いなどから一致しない。
12 / 12
<参考資料> 主体別金融資産残高
① 家計
②中央銀行
(兆円)
1,800
その他
1,600
1,400
1,200
1,000
対外証券投資
300
その他
株式・出資金
250
対外証券投資
投資信託
200
その他債券
150
国債
100
貸出
800
その他債券
600
国債
400
(兆円)
350
貸出
50
200
0
2000/03 2002/09 2005/03 2007/09 2010/03 2012/09
現金・預金
(年/月)
0
2000/03 2002/09 2005/03 2007/09 2010/03 2012/09
③ 預金取扱機関
④生命保険
(兆円)
(兆円)
2,000
350
1,800
1,600
1,400
(年/月)
その他
その他
300
対外証券投資
対外証券投資
250
株式・出資金
200
その他債券
1,200
株式・出資金
1,000
その他債券
800
国債
150
国債
600
貸出
100
貸出
400
現金・預金
200
0
2000/03 2002/09 2005/03 2007/09 2010/03 2012/09
⑤ 年金計
(年/月)
350
300
2005/03
株式・出資金
1,000
投資信託
200
2007/09
2010/03
2012/09
800
貸出
100
財政融資資金
預託金
現金・預金
50
2002/09
2005/03
2007/09
2010/03
2012/09
(年/月)
(年/月)
その他
企業間・貿易信用
対外直接投資
対外証券投資
600
国債
150
0
2000/03
2002/09
対外証券投資
その他債券
250
0
2000/03
⑥民間非金融法人企業
(兆円)
1,200
その他
(兆円)
400
現金・預金
50
株式・出資金
その他債券
400
200
0
2000/03 2002/09 2005/03 2007/09 2010/03 2012/09
国債
貸出
現金・預金
(年/月)
⑦ 海外
(兆円)
600
500
400
その他
株式・出資金
投資信託
300
その他債券
国債
200
100
0
2000/03 2002/09 2005/03 2007/09 2010/03 2012/09
貸出
現金・預金
(年/月)
(注)国債は国債・財融債と国庫短期証券の合計。その他は主体ごとに、金融資産残高の合計から各記載項目の
残高を減じた値となっている。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成