建設機械による無人化・自律施工 1 大成建設株式会社 技術センター 土木技術開発部 先端技術開発室 青木 浩章 ○大成建設株式会社 技術センター 土木技術開発部 先端技術開発室 片山 三郎 はじめに 無人化施工は,人間が立ち入ることが出来ない作業現場等において,作業箇所周辺のカメラ映像を 見ながら,ラジコン化した建設機械を安全な場所から遠隔操作して施工を行うものである。適用は, 雲仙普賢岳・有珠山等の火山環境下や,豪雨による土砂・洪水等の二次災害が懸念される箇所,福島 第一原子力発電所近傍の放射線環境下といった酷所環境下における災害復旧等の作業が殆どである。 よって,頻繁に適用される工法ではない上, 1 回の工事期間が短期で終了する事例が殆どであること から,無人化施工が可能な技術者および操作者は年々減少しており,緊急時の人材の確保が困難にな ることが懸念されている。また,無人化施工は,操作者がカメラ映像を見ながら絶えず操縦桿を操作 するモニタ依存型であるため,熟練度が起因する施工速度,出来栄えのばらつきや,カメラ映像取得 のための設備機器と通信環境を要するという問題がある。 一方,年々発展する MEMS1)・ ICT2)技術は,計測機器や制御機器等として, GPS 測位衛星を使用 した情報化施工ツールや,CIM3)等の建設生産システムに寄与するもの等,建設業の中でも広く活用 されている。我々は,それらの技術を駆使し,無人化施工を行う操作者を支援するツールとして,作 業場所や状況を自ら判断し自律的に作業することができるような,高度なロボット技術を建設機械に 適用できないかと考えて研究開発を進めている。 本論はこれまでの無人化施工技術の紹介と,次世代の無人化施工技術として期待される自律型建設 機械研究開発についての報告である。なお本論の自律型建設機械開発は,国土交通省建設技術研究開 発助成制度の課題採択を受けて,平成 24 年度から実施している。 2 無人化施工 2.1 概要 無人化施工技術には主に三つの技術で構成されている。建設機械を動かすための『遠隔操作技術』, 作業に必要な現場周辺のカメラ画像を伝送す るための『映像伝送技術』および離れた場所 から出来上がった構造物を測定する『施工管 理技術』である。雲仙普賢岳に導入当初は, どの技術も確立されたものではなかったため, 復旧工事を進めると共に様々な技術を考案し, 問題を解決しながら,無人化施工技術として 確立してきた。図 -1 に無人化施工の概要図を 示す。 図 -1 無人化施工概要図 1)MEMS:半導体デバイス, 2)ICT :情報通信技術, 3)CIM: Construction Information Modeling 2.2 構成技術 2.2.1 遠隔操作技術および映像伝送技術 無人化施工当初は操作者が目視で操作できる距離( 50m 程度) での遠隔操作であったが,情報通信技術の発展に伴い目視+画 像での操作( 100m 程度)まで距離が離せるようになり,近年 では中継器を設けることで超遠隔操作( 2 キロ程度)が可能で, 更にはインターネット回線利用で数十 km の遠隔操作の実例も 紹介されている。また,電波の種類としても雲仙普賢岳の全盛 期には特定小電力無線を用いていたが,電波干渉などの問題か 図 -2 移動式操作室 ら現在は 1 波で複数台操作可能な無線 LAN が主流となっている。図 -2 に移動式操作室を示す。 2.2.2 施工管理技術 施工位置や地盤高さの確認が容易でない無人化施工において,GPS 測位技術が施工管理に有効であ ることが雲仙普賢岳工事で実証されている。施工管理の手段としては構造物のコンクリート敷均し高 さや転圧回数,バックホウガイダンスによる丁張レスなどが挙げられる。現在ではこれらのシステム は土工事や道路工事等に広く展開・適用され一般化され普及し始めている。図 -3 に転圧管理システム とバックホウガイダンスシステムを示す。 GPS :センサ ※ガイダンス時のモニタと重機 図 -3 無人化施工における施工管理実施例(左:転圧回数管理,右:バックホウガイダンス) 3 自律型建設機械の開発 3.1 開発目的 無人化施工技術は雲仙普賢岳で進化し活躍し てきたが,現在でもいくつか問題点を抱えてい 無線通信 作業機 画像伝送 る。その一つとして技術継承が挙げられる。無 る現場が極端に少ない。そのため技術を継承す る場も少なく,操作者の育成が進んでいない。 TV モニタ カメラ車 人化施工は通常の有人施工と異なり,採用され 操作者 重機制御 現場 操作室 図 -4 現行無人化施工イメージ さらにモニタ依存型であるため,動画伝送のための高速大容量通信網の設置や多くのカメラ支援機器 が必要になる。これら現行の無人化施工が抱える問題点を解決するため,次世代の無人化施工システ ムとなる自律型建設機械の開発を行った。今回対象とした建設機械は無人化施工適応の砂防ダム工事 における RCC コンクリート転圧作業に使用される 11t 級振動ローラ( SD451)とした。図 -4 に現行 無人化施工イメージ図を示す。 3.2 開発概要 従来無人化施工技術で抱える問題を解決するため,作業機械に人間の五感に代わるセンサ類を搭載 し,作業開始命令を与えれば建設機械自らが周辺状況を判断して作業を行う「自律型建設機械」の開 発である次世代無人化施工システムの開発を行った。図 -5 に次世代無人化施工システムイメージを示 す。 図 -5 次世代無人化施工システム 3.3 振動ローラによる自律型施工システム 3.3.1 システム概要 (1)システム構成 システム構成を図 -6 に示す。本システムは自動追尾型トータルステーション(以下 TS と記),振動 ローラ内の自律制御用 CPU,ホスト PC で構成されており,機器間は Wi-Fi で通信を行う。ホスト PC では転圧回数や幅などの作業計画の入力を行う。また TS はジャイロ補正情報取得のため,常時測距を行い,ホ スト PC を介して振動ローラ内の自律制御用 CPU に位置 情報を転送している。一方,振動ローラでは自律制御用 CPU で,取得したセンサ情報をもとに周辺状況や機体姿勢 の把握, 「慣性航法」による自己位置推定をしており,この センシングに基づき駆動部を制御して自律走行および転圧 図 -6 システム構成 作業を行っている。 (2)搭載センサ 今回実証に使った振動ローラに搭載したセンサ一覧を表 -1,センサ搭載状況を図 -7 に示す。搭載し たセンサは,機体状態と周囲状況の把握の用途に大きく分類される。また,センサ選定に当たっては 振動ローラの作業時振動に耐えられることを考慮して耐振動・衝撃性能の高い仕様のものを選んだ。 表 -1 搭載センサ一覧 分類 項 目 機体状態 姿勢検出 適用センサ MEMS3軸ジャイロ 速度検出 回転センサ ステアリング角検出 変位センサ 位置検出 自動追尾型トータルステーション 周辺状況 前方探査センサ 車載カメラ 2Dスキャナ ネットワーク型カメラ 図 -7 センサ搭載状況 3.3.2 自律施工の実証 前述のシステムを搭載した振動ローラを用いて試験フィールド内での自律転圧作業実証実験を行っ た。これによりこのシステムにおける転圧作業精度や耐振動性を検証した。実験結果を以下に示す。 ・自律作業は有 /無振動における走行精度には大差がなく,搭載センサ類の耐振動性は十分であった。 ・車体中央を屈曲させ方向転換する方式であるアーティキュレート機構の機械制御において,車体中 央が屈曲する際に前後輪間で発生する不規則な挙動は,演算を工夫し制御することができた。 ・重複幅に影響ある隣り合う二レーン間の最大離れは 400mm であった。図 -9 に走行軌跡を示す。 25m ~実験条件 ~ 転圧回数:2 回/レーン 転圧路: 3 レーン レーン長: 25m 施工重複幅: 0mm 走行速度: 1km/hr 最大離れ約 400mm 1レ ーン 2レ ーン 3レ ーン 図 -8 実証実験状況 図 -9 走行軌跡 図 -10 施工効率向上イメージ 通常の転圧作業では,走行精度による転圧残しが無いよう隣り合う二レーン間で施工重複幅を設定 する。現在,無人化施工の施工重複幅の基準は 500mm4)である。一方,今回の実験では施工重複幅を 0mm で設定し走行させた時に最大 400mm 離れた。この結果は,施工重複幅を 400mm で設定した時, 転圧残しゼロが可能であることを示している。この結果から現状 500mm である施工重複幅を減じ, これに伴う走行レーン数の減少による施工効率向上が期待できる(図 -10 参照)。 4 まとめ 無人化施工技術は,雲仙普賢岳等で行ってきた除石工・砂防堰堤構築等の土木工事の施工技術だけ ではなく,あらゆる酷所環境下における作業技術として多用され,改良・発展してゆくことが期待さ れている。しかしながら,適用工事は一般工事と比べて格段に少ないため,熟練者不足対応や対応建 設機械・設備の所有のあり方等について,施工者側が躊躇せざるを得ない状況もある。近年,国土交 通省は各地方整備局に油圧ショベル等の遠隔操作式重機を配置し,災害発生時における活用を行うよ うになっている。 2014 年 6 月弊社が施工した,和歌山県伊都郡かつらぎ町にて発生した土砂崩れに よる国道復旧工事において,発注者の和歌山県は,早期復旧のため半崩落斜面下における作業に無人 化施工を適用し,近畿地方整備局から機械貸与を受け無人化施 工を無事成功させた。こういった課題に一石を投じるもので施 工者としては,大変有難い事例である。また,本論で述べた自 律型無人化施工も,これらの課題に対応する技術の一つであり, 今後も無人化施工技術が適正に維持され国土の安全・安心に寄 与していくことを期待したい。 4) 雲仙普賢岳周辺砂防ダム等特記仕様書に記載 図 -11 近畿地方整備局貸与機械 を活用した無人化施工状況
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