時事速報 (第36回)独禁法における 制裁金の「売上高

23 December 2014
BEIJING HUABEI
JIJI News Bulletin
時 事速報
(第36回)独禁法における
制裁金の「売上高」とは
北京市大地律師事務所 / 日本部
パートナー弁護士 法学博士 熊 琳
中国における独占禁止法第46条、第47条は、事業者が本法の規定に違反し、独占協定を取り
決め、かつ実施した場合、または市場における支配的地位を濫用した場合、独占禁止法取り締まり
機関は違法行為を停止するよう命じ、違法所得を没収し、さらに前年度売上高の1%から10%の制
裁金を課すと規定しています(以下「処分事件」という)
。
ここから分かる通り、制裁金の割合が同じ場合、前年度の売上高が、独禁法処分における制裁金額を
決定付けることになります。そこで今回は、この「売上高」について、ポイントをご説明したいと思います。
◇「売上高」が個別案件に与える影響
A社は、同業他社間での横のカルテルを行ったとして、取り締まり機関により中国独占禁止法に違
反すると認定されました。ただし、A社が調査に協力的であったことから、取り締まり機関は最終的
にA社に対し、前年度売上高の2%の制裁金を課すとの決定を下しました。
ここで、A社の前年度売上高をどのように確定すればよいか、との問題が生じました。取り締まり
機関の考えによれば、A社が支配する子会社の売上高も、A社における前年度売上高に算入すべき
だということになります。実際A社には、中国国内において国有企業B社と合弁で設立したC社があり、
このC社の持分の60%はA社に属し、主にA社が経営権を掌握しています。
取り締まり機関は、C社の売上高の全額を、A社の売上高に算入すべきであるとしましたが、A社
が保有するのはC社の権利の60%であり、合弁相手であるB社は独占禁止法違反事件に関与してい
ないことから、C社の売上高のうち60%のみをA社の売上高として算入すべきではないか、と主張
しました。
幾度にも渡る交渉の結果、最終的に取り締まり機関はA社の主張を認めました。
◇「売上高」を確認する際のポイント
上記のような問題が生じた原因は、現行の中国独占禁止法が、制裁金における売上高をどのよう
に計算するかに関し、具体的な規定を欠いているためです。この点、同じく独占禁止法で規制される
経営者集中事件は、事情が異なります。経営者集中事件では、中国商務部が公布した『経営者集中
届出弁法』において、経営者集中事件における営業額(処分事件における「売上高」に類似)の計
算について、さらに具体的な規定が設けられています。
独占禁止法処分における売上高の計算方法について、これを直接規定する法律の規定がないのに
対し、商務部における『経営者集中届出弁法』が規定する「営業額」の計算方法は合理的であるため、
処分事件において参考とすべき価値が高いと考えられます。
◇企業における留意点
処分事件において、制裁金の売上高に関する具体的な規定を欠くということは、取り締まり機関お
よび案件担当者が、幅広い自由裁量権を有していることを意味し、この点が売上高の確定について、
決定的な役割を果たすことになります。
ただし、幅広い自由裁量権を有しているといっても、取り締まり機関がこの問題を思い通りにでき
るということではなく、あくまで行政処分法4条が規定する裁量権の一般原則、すなわち「行政処分
は、違法行為の事実、性質、情状および社会的法益の侵害程度に相当するものでなければならない」
との原則に従うことになります。このため交渉を通じて、いかにできるだけ低く、かつ説得力があり、
取り締まり機関が認め得る売上高の計算方法を提示できるかが、非常に重要な作業となってきます。
また、いったん独占禁止に関する調査に遭い、行政処分に及ぶ恐れが生じた際には、まず調査対
象となった企業およびこれと直接・間接に資本関係がある全ての企業の個々の売上高をご確認の上、
企業間の資本関係に基づき、取り締まり機関に対し、どのように合理的な売上高の計算方式を主張
するのか、確定していただくことをお勧めいたします。
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