欧州市場向けクラウドTV用 MediaGuide Replay機能

一 般 論 文
FEATURE ARTICLES
欧州市場向けクラウド TV用
MediaGuide Replay 機能
"MediaGuide Replay" Recording Function for Cloud TVs Based on
Personalized Time-Shift Machine for European Market
雅史
■ TSUJI Masashi
東芝は,2014 年春に“MediaGuide Replay”をクラウド TV(テレビ)に搭載して欧州市場にリリースした。国内市場で
は,
“タイムシフトマシン”機能により,視聴者が好きな時間に見たい番組を見ることができるタイムシフト視聴を実現している
が,欧州ではチャンネル数が多く,全ての番組を録画する機能の提供は難しい。そこで MediaGuide Replayでは,クラウド
サービスによってユーザーの嗜好(しこう)に基づく自動録画機能と,シリーズ録画機能を提供することで,効果的な番組のタイ
ムシフト視聴を実現した。
自動録画機能は,国内のタイムシフトマシン機能で培った番組推薦技術を適用して,ユーザーの興味のある番組を自動で録画
する。シリーズ録画機能は,欧州での再放送の多いなかであっても,ユーザーの簡単な操作でシリーズ番組を追跡録画できる。
またGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)も,録画予約と録画済みの番組を1画面上に配置するなど,タイムシフト視聴
に適するよう利便性を高めた。
Toshiba released the "MediaGuide Replay" recording function for cloud TVs in the European market in the spring of 2014. We had already developed
the "time-shift machine," a recording function for the Japanese market, which allows users to watch programs of interest at any time by means of
multichannel recording. However, it was difficult to apply this recording function to cloud TVs for the European market because of the large number
of channels in Europe. MediaGuide Replay makes it possible to provide an automatic recording function using cloud services based on personalized
program preference information and a series program recording function while also taking effective time-shift viewing of programs into consideration.
In automatic recording, users’favorite programs can be automatically recorded by a personalized recommendation technology acquired through
the development of the time-shift machine. In series program recording, users can easily track and record all programs of interest in a series, even in
cases where a large number of rebroadcast programs exist. Furthermore, the graphical user interface (GUI) of MediaGuide Replay displays both the
programs scheduled for recording by timer and already recorded programs on one screen, to provide users with a superior time-shift viewing experience.
1 まえがき
くないシリーズ番組を一括して録画予約するシリーズ録画機能
を提供することで,タイムシフト視聴を実現した。また,これ
これまで東芝は,タイムシフトマシン機能を搭載したTVや
らの録画予約及び録画済みの番組を一覧するMediaGuide
レコーダを国内市場で商品化してきた。タイムシフトマシン機
Replayを2014 年春に欧州市場向けの TVに搭載してリリース
能とは,ユーザーが設定した録画チャンネルと時間帯で常時
した。
録画する機能であり,ユーザーは好きな時間に見たい番組を
見ることができる。そのため国内では,録画機能を利用した
ここでは,MediaGuide Replay のメインGUI,自動録画機
能,及びシリーズ録画機能について述べる。
タイムシフト視聴が普及しつつある。
一方,欧州ではこれまで,録画機能のあるTVやレコーダは
あまり普及していない。しかし,放送局のネットサービスにより
2 MediaGuide Replay メイン GUI
タイムシフト視聴を可能にするなど,タイムシフト視聴のニーズ
これまで多くの録画機器が録画予約と録画済みの番組を別
は増加しつつある。そこで,タイムシフト視聴により,当社の
の画面上に表示しているのに対し,MediaGuide Replayでは
強みである録画機能搭載 TVの普及を目指している。
1画面上に配置することで,ユーザーがそれらを少ない操作で
欧州向けタイムシフトマシン機能でも多くの番組をできるだ
確認できるようにした。これは,MediaGuide Replay が自動
け簡単に録画したいが,欧州ではチャンネル数が多く,国内の
録画やシリーズ録画を重視しているためである。これらは,
ように少ないチューナ数で常時録画する機能を実現すること
ユーザーが番組を直接個々に録画予約しないため,次に録画
はできない。そこで,ユーザーの興味のある番組の候補を当
される番 組を容易に確 認できるよう工夫したものである。
社が運用するクラウドサービス内で抽出し,録画可能な番組を
MediaGuide Replay のメインGUI 例を図1に示す。
自動的に録画予約する自動録画機能と,ユーザーが見逃した
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メインGUIの1行目に録画予約番組が表 示され,2 行目以
東芝レビュー Vol.69 No.12(2014)
MediaGuide Replay の録画種別には,ユーザーが設定する
録画,自動録画,及びシリーズ録画の3 種類がある。自動録
画の場合には,
“AUTO”のアイコンが表示され,シリーズ録
画の場合は,複数のシリーズ番組を行ごとに一つにまとめて
フォルダとして表示される。欧州では,同じシリーズの番組が
再放送でなく毎日放送されることも多く,また,同じ日に複数
回放送されるシリーズもある。MediaGuide Replayの画面上に
そのままシリーズ録画を表示すると,同じシリーズの番組のサム
ネイルが並んでしまい,一覧性を欠いてしまう。そのため,フォ
ルダとして複数の番組をまとめることで,視認性を良くした。
図1.MediaGuide Replay のメイン GUI 例 ̶ 録画予約と録画済み
の番組が一覧しやすい構成となっている。
Example of main GUI display of MediaGuide Replay
ユーザー設定録画や自動録画を選択すると,アクションポッ
。このポップアップから,番組再
プアップが表示される(図 3)
生(Play)のほか,出演者や詳細情報の表示(Details),番組
削除又は予約削除(Delete recording),自動削除の解除
降に録画済み番組が表示される。また,各録画予約と録画済
(Keep it)など,個別の番組に対するアクションができる。
一方,シリーズフォルダを選択すると,シリーズ全体の録画
はサムネイルを表示し,サムネイルがない場合にはジャンルを
予約や録画済みの番組を一覧することができるシリーズフォル
示す画像が表示される。
。このポップアップでは,
ダポップアップが表示される(図 4)
録画予約,録画中,及び録画済みの番組のタイル表 示を,
図 2に示す。録画予約番組は 1行目にだけ表示するが,ユー
ザーに更にわかりやすいように時計マーク付きのタイルとした。
録画済み番組は 2 行目以降に表示される。録画中の番組は,
再生が可能であるため録画済み番組といっしょに 2 行目の初
めに配置し,
“● REC”アイコンを表示することで,録画中で
あることを示している。また,
“NEW”アイコンを表示するこ
とで未視聴の番組であることを示した。
図 3.アクションポップアップの表示 例 ̶ 自動録画済み番組の例で,
ユーザーが番組を選択すると,個別の番組に対する異なるアクションが表
示される。
自動録画アイコン
Example of action popup display for automatically recorded program
録画中アイコン
未視聴アイコン
図 2.各タイルにおける録画種別及び録画状態の表示 ̶ ユーザーが各
番組の種別と状態を一目で区別できる。
図 4.シリーズフォルダポップアップの表示例 ̶ シリーズフォルダを選
択すると,シリーズ全体の録画予約や録画済みの番組が一覧表示され,シ
リーズ全体あるいは個別の番組に対するアクションを行える。
Overview of recording type and status monitoring shown in each tile
Example of series folder popup display arranged in order of episode titles
欧州市場向けクラウド TV 用 MediaGuide Replay 機能
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一
般
論
文
みの番組をタイル状に配置し,番組のサムネイルがある場合に
表示されているシリーズ全番組の削除(Delete all)やシリーズ
録画の解除(Stop recording)といった,シリーズ全体に対す
ユーザー録画番組 U1
(録画予約済)
その番組のアクションポップアップが表示される。
優先度
るアクションができる。更に,個別の番組を選択することで,
シリーズ録画番組 S1
(録画予約済)
自動録画番組候補 A1
(ユーザー嗜好)
自動録画番組候補 A2
(注目番組)
3 自動録画機能
自動録画番組候補 A3
(注目番組)
自動録画機能は,ユーザーの興味のある番組を自動的に録
時刻
画する機能である。ユーザーは HDD(ハードディスクドライ
ブ)を接続し,自動録画設定をONにするだけで簡単に利用
できる。
自動録画設定が有効になっていると,ユーザーに対する自
図 6.録画予約番組の優先度と放送時刻重複の例 ̶ ユーザーが視聴し
たい番組が録画されるように優先度付けされている。この例では,優先
度の高い自動録画番組候補 A1 だけが録画予約される。
Example of relationship between priority and time overlap in case of programs
scheduled for recording by timer
動録画番組候補を生成し,生成した候補の中から録画可能な
番組を自動的に録画予約する。また,録画予約設定後には,
他の録画予約との重複管理や,録画済み番組に対し自動削除
といった,自動録画番組の管理機能が動作する。それぞれの
3.2 自動録画番組の予約
自動録画番組候補のリストに従って録画予約を設定するが,
機能の概要について以下に述べる。
TVのチューナ数が限られるため,自動録画番組候補と他の
3.1 自動録画番組の候補生成
録画予約番組や自動録画番組候補と放送時刻が重複してい
自動録画番組候補は,ユーザーに関わらない注目番組と,
る場合,優先度に従って番組候補を録画予約するか否かを判
ユーザー嗜好に基づいた推薦番組を基に抽出される。自動録
画番組候補リスト生成のモジュール構成を図 5に示す。
定する。
優先度と放送時刻重複の例を図 6 に示す。この例では,
番組メタデータ管理モジュールは,各番組のメタデータや注
ユーザー録画番組 U1とシリーズ録画番組 S1はあらかじめ録
目番組のリストなどを管理し,それぞれをユーザー嗜好番組推
画予約されているものとし,録画用のチューナが 1チューナで
薦モジュールと自動録画番組候補生成モジュールに配信する。
あるとする。ここで,ユーザー録画番組とはユーザーが録画
ユーザー嗜好番組推薦モジュールは,ユーザーの視聴履歴
予約を個々に設定した番組である。
を基に推薦番組のリストを作成するモジュールであり,国内
シリーズ録画番組は,ユーザーが設定するとシステムが自動
TVレグザの“ざんまいプレイ”機能に搭載されている番組推薦
的に予約するが,ユーザー自身が明示的に録画予約を設定し
モジュール⑴を欧州向け機能に移植し,精度を向上させた⑵。
ているため,ユーザー録画番組とともに最高優先度としてい
自動録画番組候補生成モジュールは,番組メタデータ管理
る。次いで,ユーザー嗜好を基にした自動録画番組候補,注
モジュールから取得した注目番組と,ユーザー嗜好番組推薦
目番組を基にした自動録画番組候補の順に高い優先度として
モジュールから取得したユーザー嗜好推薦番組リストを結合
いる。注目番組を基にした自動録画番組候補 A2 は優先度の
し,自動録画番組候補のリストを作成する。
高いユーザー嗜好を基にした自動録画番組候補 A1と放送時
録画予約モジュールは,後述する優先度に従って録画予約
を設定する。
刻が重複しており,自動録画番組候補 A1だけが録画予約さ
れる。また,自動録画番組候補 A3 は優先度の高いユーザー
録画番組 U1及びシリーズ録画番組 S1と重複しているため,
録画予約されない。このようにして,ユーザーがより見たい番
番組メタデータ管理
モジュール
注目番組リスト
組を優先した録画予約を実現した。
3.3 自動録画番組の予約管理
番組メタデータ
ユーザー嗜好番組
推薦モジュール
視聴履歴
視聴履歴
データベース
推薦番組リスト
自動録画番組候補
生成モジュール
自動録画番組候補リスト
録画予約モジュール
自動録画番 組の予約はユーザーが意識していないため,
ユーザーがユーザー録画番組やシリーズ録画番組を設定しよ
うとした際,放送時刻が重複していることに気づきにくい。特
にシリーズ録画番組の場合,複数の番組が一度に録画予約さ
れるが,これらの重複を事前に確認することは煩わしく,ユー
図 5.自動録画番組候補リスト生成のモジュール構成 ̶ ユーザー嗜好
推薦番組と注目番組を自動的に録画予約できる。
Architecture of modules generating list of automatic recording candidates
ザビリティを大きく損なう。そのため,ユーザー録画番組やシ
リーズ録画番組の設定時に自動録画番組の予約と放送時刻
が重複している場合には,自動的に自動録画番組の予約を削
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除する。このようにして,自動録画番組の予約によるデメリッ
の再放送であっても,録画されていなければ,録画予約を設
トを解消した。
定し,見逃した番組もユーザーが視聴できる。
3.4 自動録画番組の自動削除と保護
シリーズ録画番組の予約は,ユーザー録画番組の予約と優
自動録画を続けると録画番組が HDD の記憶容量を圧迫し
先度が同じであるため,全ての番組の録画予約が設定できる
てしまうため,単純に録画を繰り返すと,自動録画できなく
とは限らない。MediaGuide Replayでは,シリーズ番組管理
なってしまい利便性を損なう。そのため,HDD の空き容量が
モジュールから取得したシリーズ番 組リストの範囲で,他の
少ない場合には,自動的に自動録画済みの番組を削除する。
ユーザー録画番組予約と放送時刻が重複する場合には,全て
しかし,ユーザーによっては自動録画であっても自動削除し
のシリーズ録画番組の予約ができないことをユーザーに通知
たくない番組もありえる。そこで自動録画の場合には,図 3 に
したうえで,シリーズ録画番組の予約を設定するかどうかを
示したアクションポップアップの中に“Keep it”ボタンを表示
ユーザーに問い合わせることにより,ユーザーが意識せずに
し,それを選択することで自動削除から保護できる。
録画漏れしてしまうことを防止できるようにした。
4 シリーズ録画機能
5 あとがき
クラウドサービスによりタイムシフト視聴を実現した欧州市
定することで,シリーズ全体を録画予約することができる。シ
場向けMediaGuide Replayについて,その核となるメイン
リーズ録画に関するモジュール構成と録画予約の仕組みを以
GUI,自動録画機能,及びシリーズ録画機能を述べた。
下に述べる。
自動録画機能とシリーズ録画機能では簡単かつ確実な録画
4.1 シリーズ番組の生成
予約が求められるが,簡単な録画設定だけで,自動的に録画
シリーズ番組の録画予約に関するモジュール構成を図 7に
予約し管理する仕組みを実現した。更に視聴ニーズも考慮し
示す。番組メタデータ管理モジュールは,自動録画機能のモ
て,よりユーザーが嗜好する番組を確実に自動録画できるよう
ジュールと同じものである。
に今後も改善していく。
シリーズ番 組管 理モジュールは,番 組メタデータ管 理モ
またメインGUI は,録画予約と録画済みの番組を一覧でき
ジュールから取得した番組メタデータを基に,あらかじめシ
る画面を実現したが,これで全てのユーザーニーズを満たすこ
リーズごとにグループ化する。欧州の放送では,異なるチャン
とは難しい。そのため,この画面だけにとらわれず,ユーザー
ネルや異なる時間に同じ番組を再放送していることが多いた
が簡単に番組を探せるように多様な視点から検討し,複数の
め,このモジュールによって再放送も含めて同一番組を識別し
画面を容易に切り換えられるように改善していく。
てグループ化している。
文 献
4.2 シリーズ録画番組の予約
録画予約モジュールは,ユーザーが EPG から選択した番組
を基に,シリーズ番組管理モジュールから該当するシリーズ番
組のリストを取得し,録画予約を設定する。その際,再放送に
⑴ 板 倉豊 和.タイムシフトマシンに適したパーソナル番 組 推 薦 技 術.東 芝
レビュー.68,7,2013,p.58 − 59.
⑵ 小川修太 他.テレビ番組推薦の精度を向上させる番組メタデータ補完技術.
東芝レビュー.69,7,2014,p.52 − 55.
よって既に録画予約又は録画済みの番組を識別して,同じ番
組の重複録画を回避している。逆に,過去に放送された番組
番組メタデータ管理
モジュール
①番組メタデータ
シリーズ番組管理
モジュール
③選択された番組が含まれる
シリーズの番組リスト要求
②シリーズ番組の作成
・シリーズ番組のグループ化
・再放送の識別
④該当シリーズ番組リスト
録画予約モジュール
雅史 TSUJI Masashi
図 7.シリーズ番組録画予約のモジュール構成 ̶ ユーザーが設定してい
るシリーズ録画について,あらかじめグループ化した番組リストを取得する。
Architecture of modules performing series recording
欧州市場向けクラウド TV 用 MediaGuide Replay 機能
パーソナル&クライアントソリューション社 ライフスタイルソリュー
ション開発センター クラウド技術開発部。クラウド TV用アプリ
ケーションの設計・開発に従事。電子情報通信学会会員。
Lifestyle Solutions Development Center
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一
般
論
文
ユーザーは EPG(電子番組表)からシリーズ録画番組を設